3 on 1
「来るよ」
レヴィの前方に、天井から梯子が下りていた。そしてそこから、魔緒がゆっくり降りてくる。魔緒はレヴィに気づくと、顔を強張らせたような気がした。「気がした」なのは、暗くて表情まで見えないからだ。
「わざわざ出迎えてくれたのか?」
魔緒は梯子を降りると、不愉快そうに言った。対してレヴィは、余裕そうな笑みを浮かべて答えた。
「まあね。こっちから呼び出したわけだし」
魔緒の表情はよく分からないが、恐らく苛立っているだろう。そのくらいの殺気が、こちらにまで漂ってくる。
「ま、こんな暗い場所で立ち話もなんだし、ちょっと明かりをつけるね」
レヴィは壁に手を伸ばすと、取り付けられたスイッチを押す。すると、辺りが急に明るくなった。
「……っ!」
突然の光に、魔緒は腕で目を塞ぐ。しかし徐々に慣れてくると、それほど強い光でもないことが分かった。寧ろ、地上よりも薄暗いくらいだ。それでも、前にいる相手の顔くらいは認識できる。魔緒はレヴィの姿を確認すると、その赤い瞳を鋭くして彼に向けた。
「楠川はどこだ?」
「まあまあ。そんなに慌てなくても、彼女は無事だよ。「君が楠川仁奈と呼んでいる少女」は、間違いなく無事さ」
レヴィの言い回しに、魔緒は少し不審に思ったようだが、それには言及せず続ける。
「さっさと楠川を返せ。お前らには用はない」
「残念。こっちにはあるのさ」
レヴィは笑いながら、両手を広げて、こう問いかけた。
「ねえ君、僕らと一緒に来ないか?」
「……は?」
魔緒は、質問の意味が分からないという顔をしている。当たり前だ。こっちも分からん。それを察してか、補足するようにレヴィは続けた。
「僕らと一緒に、世界征服でもしようと言ってるんだ。君の魔術と僕らの技能があれは、人間社会くらいは容易に落とせる。どうだい? 一緒に、世界を手中に収めようじゃないか」
「―――ふざけるな」
魔緒は、抑揚のない声でそう返す。
「ふざけてないよ。寧ろ、それが一番正しいとさえ思う」
対するレヴィは肩を竦めながら答えた。
「だって僕らは、そのために生まれてきたんだから」
続く言葉に、魔緒は目を見張った。その反応が可笑しいのか、レヴィはニヤニヤしながら続ける。
「教えてあげるよ。君の、僕らの、生まれた意味を」
ゆっくりと、ゆったりと。鈍重な口調で、語りだしたのだ。
「昔々、あるところに一人の男がいました。その男は天才的な科学者でしたが、人と関わるのが苦手でした。そのため彼は常に一人でした。また、その男は野心家でもありました。世界征服というありがちな夢を、少年の時分から持ち続けていました。……ある時、男は考えました。もし、とてつもなく強力な生命を作れたなら、それを家族にして自分の寂しさを紛らわし、更には世界征服も成し遂げることが出来て、まさに一石二鳥ではないかと。早速、男はその考えを実行に移しました。自分の研究成果を最大限利用して、人型の生命を作りました。彼はそれを、生まれた順に、「レヴィ」、「ベルフェ」、「ルシフル」、「サタン」、「ベルゼ」、「アスモ」と名づけました。しかし、彼は最後の一人を作る途中で、この世を去ってしまいました、とさ」
長々と語り、それから一息吐くと、魔緒に人差し指を突きつけ、
「そしてその、最後の一人、「マモン」の試作品が、君達だよ」
その真実を、魔緒に告げた。
「そしてここは、僕らが作られ、生まれ育った研究施設。表向きは病院だったから、実験にも色々と都合が良かったみたいだ。けど、彼自身は不摂生な生活を送っていてね。僕が物心ついた辺りでリタイヤさ。……だから、僕は決めたんだよ。最後の一人である君が仲間になってくれるなら、彼の目的を果たそうと。でも、君が僕らと共にいられないというなら―――いっそ、君に僕らを破滅させてもらおう、ともね。さあ、選んでよ。君は、野望と、破滅、どっちを選ぶ?」
自分の生い立ちと、彼らの目的。それを聞かされた魔緒は、レヴィの問いかけに対して、暫く沈黙していた。
「……よく分かった」
けれどやがて、重く閉ざされていた口を徐に開くと、魔道書を取り出し、身構えた。
「お前たちの性根が腐りきってるってことは、よく分かったさ」
「……どうやら、君は破滅をお望みらしいね」
「知るか。俺はそんな世迷言に興味はない。とっととくたばりやがれ」
魔術解放、と魔緒が呟くと、魔道書が独りでにページを開いていく。
「おっと、僕をどうする気だい? 殺しちゃったら、あの子の居場所が聞き出せないよ」
「どうせここのどこかだろ? お前らを全員始末してから、ゆっくり探させてもらうさ」
「ふーん。あの子は、それを望まないと思うけど」
確かに、魔緒が「また」人を殺せば、仁奈は悲しむに違いない。勿論、七海も。
「……そう言えば、俺が止めると思ったか?」
「いや。例えあの子を盾にしても、君は僕らを皆殺しにした上で、あの子を奪還するだろうね」
「なら、無駄話は止めろ」
魔緒の周囲で火花が散り、紫電が迸る。その焦げ臭い匂いを嗅ぎながら、レヴィは続けた。
「君がサタンにしたこと、聞いたよ」
「傍観者の瞳、その姿掻き消え、瞬くことすら叶わん」
しかし、魔緒はそれに構わず詠唱を開始した。レヴィは更に続ける。
「話で気を惹いて、時間稼ぎをしたんだって? それなら、さっきの話も、時間稼ぎだって気づくよね?」
魔緒は目を大きく見開き、その一瞬の隙を突くように、背後から二人の少年―――ルシフルとサタンが姿を現す。
「やれ」
その一言で、魔緒の頭上に、二つの刃が振り下ろされた。魔緒は避けるどころか、振り向く間さえなく、それらに両断される―――
「―――走れ雷光」
―――はずだった。しかし、二つの凶器は空を切り裂くだけであった。
「……分かってるさ、そんなこと」
三人が振り返れば、そこには、仄かに発光する魔緒が立っていた。ほんの一瞬で、彼らの死角まで移動したのだ。
「レヴィにルシフル、サタン、だったか? 一人が気を惹いている間に他の二人で不意打ちする。作戦としてはまあまあだな。―――けど、俺がそんな手に引っ掛かると思ってんのか? 自分の使った作戦くらい、自分で対処できるに決まってるだろ」
魔緒は魔道書を開き、新たな魔術の詠唱を始めた。
「雷光の将を名乗りし、星屑の使者」
魔緒の魔術を妨害しようと、レヴィが腰に差したサーベルを抜くが、またも魔緒の姿が掻き消える。―――魔緒が先程使った魔術は、移動速度を極端に引き上げるものだったのだろう。
「雷の舞う夜に、火花を散らせ」
しかし、纏った雷が放つ僅かな光が、この薄暗い空間では目印となってしまう。サタンが即座に超振動を発生、手にした大剣を媒体にして、魔術の阻害をしようとする。だが、それさえも既に無駄な抵抗だった。
「砕け散れ雷光」
またも魔緒の姿が消え、三人の男たちを、いくつかの小さい光が包んだ。
「雷光の」
そしてそれらが、数、輝きを増して、炸裂する。
「星屑ッ!」
眩い雷が爆発して、彼らの身に降り注いた。それはもう、避けようがなくて―――
「ぐっ……!」
「がっ……!」
「……っ!」
三人はただ、無慈悲な雷撃を浴び続けるしかなかった。
「ちっ……!」
なのだが、ルシフルは右手の日本刀を、魔緒の方へ放り投げた。無論、軽く避けられたが。
「炎の踊り……っ!」
ルシフルが叫ぶと同時に、刀から火花が散り、爆ぜるように燃え上がる。
「……っ!」
突然の炎に、魔緒は焦った。火を恐れたわけではない。その熱が、彼の魔術を邪魔してしまうのだ。
「へへっ……!」
迸る雷の量が徐々に減って行き、それにつれてルシフルが勝ち誇ったような笑みを浮かべる。―――閃光にしろ雷光にしろ、魔緒の魔術は熱に弱い。エネルギーを扱う魔術なので、大気の熱量を狂わされると、維持が困難になるのだ。
電流が弱まって、小さくスパークするだけにまでなったところで、ルシフルは腰に差したもう一本の刀を抜いた。それを魔緒に向けると、不適に笑い、
「ったく、驚かせやがって……」
刃先を彼に向けたまま、先程投げた方の刀の場所まで歩いていく。地面に刺さった刃を回収し、話を続けた。
「だが、俺の読み通り、お前の魔術は俺とサタンの能力に弱いらしいな。これで丸腰相手の三対一だ。さっさと降参して仲間になれよ。それがお前にとっても、最高だと思うぜ」
「……黙れ」
魔緒はルシフルの言葉を一蹴した。自分の魔術を破られ、成す術もなくなったというのに。それでも、諦めた様子を見せずに、突っぱねる。
「丸腰? 三対一? ふざけるな。俺にはこの魔道書と魔術がある。丸腰なんかじゃない。……それに俺は、一人でもない」
魔緒は魔道書を開くと、詠唱ではなく、相棒の―――もう一人の自分の名前を呼んだ。
「後は任せたぜ、魔似耶」
刹那、魔緒の体を光が包んだ。矢や剣の形ではなく、ただ溢れる輝き。それはほんの一瞬で、輝きが失せた後に残ったのは―――
「後は、任せるのにゃ……魔緒」
赤いチェック(所謂タータンチェック)のハーフスカートに白のシャツ、黒のネクタイに、特徴的な白の猫耳。愛らしい赤の瞳を細め、真剣な表情で現れたのは、魔緒の内に眠るもう一つの人格、猫田魔似耶だった。
「へぇ、君が噂の魔似耶か。ほんとに二重人格だとは思わなかったよ」
レヴィが感心したような声を漏らすが、魔似耶は無視して魔道書を開く。
「猛獣の鬣の如く靡く風、空を覆い、大地に木霊する」
魔術の発動に対して、サタンもレヴィも何もしない。唯一ルシフルだけが、両手の刀から火花を散らせた。刀身がぼおっと燃え上がり、周囲に熱を撒いていく。しかし魔似耶は気にした風もなく、詠唱を締め括った。
「迸れ雷光」
直後、魔似耶の眼前から紫電が瞬き、バチッという音を立てながら、三人の元へ駆けていく。三人は避けようとしない。いや、避けられない。何故なら、ルシフルの発生させた炎で、魔似耶の魔術は封殺されたと思っていたからだ。それ故、実際にその雷を受けるまでは、魔術が無事に発動したとさえ思わなかった。
「「「……っ!」」」
通電は一瞬。しかしそれは、人間の体を完膚なきまでに叩きのめすのには、十分すぎだ。とはいえ、火花が大袈裟なだけなのか、電流が高いだけで電圧は低いのか、はたまた通電した場所が良かったのか、三人はまだ辛うじて立ち続けられている。
「油断しすぎなのにゃ」
ここで初めて、魔似耶が三人に言葉を掛ける。
「これは威力を犠牲に分散効率を高めた魔術で、複数の相手を同時に攻撃するのに特化してるのにゃ。多少の熱量が変化しても影響はほぼなし。あなたの炎程度では妨害されないのにゃ」
ここで種明かしをしてしまうのは、彼らはもう戦えないと判断したからだろうか。魔似耶は三人に背を向け、奥へ進もうとする。
「……待ちなよ」
しかし、背後からの声に、その足を止める。首から先だけを後ろに向け、声の主を見やった。
「その先の扉は、僕ら三人が、生きている限り、開かないよ」
レヴィが、サーベルを杖代わりにして、よろよろと歩いてくる。魔似耶は体の向きを彼の方へ直し、問いかけた。
「どういう、意味なのにゃ……?」
対してレヴィは、とても面白そうに答えた。
「簡単だよ。ここより奥へ進むには、僕ら三人の心臓を止めるか、僕らの指で暗証番号を入力するしかない。番号は十二桁だから、解析は困難。―――つまり、僕らを殺すしか、進む方法はないんだよ」
暗に殺してくれとでも言わんばかりに、言葉を投げかけてくる。だが魔似耶は、首を横に振った。
「別に、扉くらい、破壊すればいいのにゃ」
「生憎と、あの扉は核シェルター並みの強度があるのさ。それに、そもそも―――」
レヴィはサーベルを振り上げ、ふらふらと構えを取る。
「僕はまだ、倒れてないよ」
それから、先程までのダメージをまったく感じさせないくらいに高らかと、そう宣言したのだった。
「……にゃ。でも、他の二人はそうでもないみたいにゃ」
レヴィの背後に立つ二人は、それぞれの得物を地面に刺した状態で、ゆっくりとへたり込んでいく。やがて武器からも手を離し、音もなく倒れた。
「……二人とも、ゆっくり眠っていてくれ。そして、僕は君を殺す」
立っているのがやっとの筈なのに、それでもまだ、レヴィは戦おうとしている。一体、どこからそんな気力が沸くのか……。
「そんなに、死にたいのにゃ?」
「死にたい……そうかもね。僕らは、死に場所を探しているのかもしれない」
レヴィの言葉に、魔似耶は眉間に皺を寄せる。
「それなら、大人しく一人で死ねばいいのにゃ」
詠唱も、予備動作もなく、一陣の雷を放ってレヴィを攻撃した。紫電がレヴィに襲い掛かり、彼の命を今すぐにでも焼き払おうとする。しかし直後、レヴィの姿が闇に掻き消えてしまった。
「生憎と、僕は寂しがり屋なんだ」
声は、後ろから聞こえてきた。振り返る間もなく、背中に激痛。それに遅れる形で、皮膚が裂ける感触。続いて、熱い何か―――言うまでもなく血―――が、肌を伝っていく。
「にゃっ……!」
魔似耶は倒れそうになるのを堪え、左手の魔道書を鈍器にして、背後に腕を振り回す。―――が。
「遅いよ」
そこにはもう誰もおらず、代わりに聞こえてきたのは、頭上からの声。
魔似耶は咄嗟に、足の力を抜いた。体の重みを支えなくなり、足がもつれて、体勢が前方へ傾く。そして体を、細い刃が貫いた。
「にゃぁっ……!」
貫かれたのは右脇腹。急所は外れているものの、痛みは先程の比ではない。しかも、刺さった刃が地面に縫い付けられてしまったので、倒れたまま身動きが取れなくなってしまった。
「……まさか、自分から倒れて、頭への直撃を回避するとはね」
そんな彼女を踏みつけるように、レヴィはサーベルの柄から、魔似耶の背中へと足を下ろした。魔似耶は呻き声を上げるが、顔を上げる余裕はない。
「でも、それでこの様だからね。所詮は無駄な抵抗だったって訳さ」
どうやら彼は、一瞬で魔似耶の頭上に飛び上がり、全身の重力を利用して彼女の頭をかち割る算段だったようだ。しかし魔似耶が急所を外してきたので、止めを刺し損ねてしまった。
「さてと、これなら放っておいても出血多量で死ぬだろうけど……。折角だから、しっかりと殺してあげないとね」
なのでちゃんと止めを刺そうと、魔似耶の体からサーベルを引き抜き、振り上げた。
「せめて、安らかに地獄へ落ちろ」
続いて、ざしゅっ、という軽快な音が聞こえてきた。つまりは、肉を断ち切る音。皮膚を裂き、血管を千切り、皮下脂肪をばらす音。ただしそれは―――
「がっ……!」
魔似耶からではなく、レヴィの体から聞こえてきた。更に、その身を染める血飛沫が周囲に飛び散って、ぴちゃぴちゃと嫌な音を立てる。
「そん、な……」
全身を紅に染めて、力なく倒れるレヴィ。それと入れ替わりに立ち上がったのは、魔似耶であった。
「……油断、大敵なのにゃ」
レヴィの体には、光の矢が刺さっていた。恐らく、彼がサーベルを振り被った隙に放ったのだろう。最大の隙が生まれる、止めの直前。そこを狙って撃った、逆転の一発。
「射抜け、閃光」
更に続けて、四本もの矢が放たれる。それらはさっきと同じく嫌な音を立てて、レヴィの四肢を貫いた。
「くっ……!」
レヴィが呻きながら苦悶の表情を浮かべる。そこへ追い討ちをかけるように、更なる矢が彼の胴に突き刺さった。これで、ついさっきまでの魔似耶と同じく、地面に縫い留められた状態になった。
「これで、もう動けないのにゃ」
魔似耶は、地面に縫い付けられたレヴィを見下ろしながら言った。
「あなたの能力は、気配を消して素早く動くもの。動きそのものを封じれば怖くないのにゃ」
なるほど、彼の姿が度々消えていたのはそのためか。魔似耶はそれを見抜き、一番の好機を使ってそれを封じたのだ。ついでに言うと、サーベルを態々抜いてもらい、自由に動けるようになってから。
「さてと。もし、本当にあなた達を殺さないと先に進めないなら、ここで止めを刺すにゃ。だから―――」
魔似耶が、魔道書を高く掲げて、魔術を起動。全身に雷を纏った。
「嘘を吐いていたり、隠してたことがあるなら、今すぐ吐くのにゃ」
そうして、言わねば殺す、とでも言いたげに宣告した。しかしレヴィは、それを聞いて寧ろ、大きな笑い声を上げる。かなりのダメージを負って、殆ど瀕死であるにも係わらず。死にかけて頭がおかしくなったのだろうか?
「何がおかしいのにゃ?」
訝って、尋ねてみる魔似耶だったが、レヴィはそれも無視して笑い続ける。やがてそれが収まると、彼は静かに答えた。
「何がおかしいって、そりゃ、君が僕に「殺すぞ」って脅してるとこだよ」
それを指摘されて、魔似耶はハッとなった。彼は先程、まるで自分を殺してくれという趣旨の発言をしている。つまりは―――
「つまり、あなたは本当に、死にたいのかにゃ……?」
「ああ、そうさ」
当然だとでも言わんばかりに、頷くレヴィ。直後に血反吐を吐いて、それでも続ける。
「言ってみれば、今回の件はそれが動機だ。―――兄弟諸共、君に、僕を殺してもらうためのね」
そんな青年の言葉に、魔似耶は寒気を覚えた。―――狂っていると。単なる自殺願望が、ここまで人を狂わせるのかと。尤も、自殺願望の時点で既に正気の沙汰ではないが。
「どうだい、良く出来ているだろ? ちゃんと、君らが僕たちを殺す理由まで用意したんだ。そして最後に、君らが僕たちを皆殺しにする。ま、本当は君らにも、僕たちの仲間になって欲しかったんだけどね」
というところまで喋り、咳き込むレヴィ。体を貫かれているから、そろそろ限界なのかもしれない。
「……どうやら、そろそろタイムリミットみたいだ。さっさと僕を殺して、先へ進むといいよ」
覚悟を決めたように、目を閉じるレヴィ。しかし魔似耶は、彼に背を向けた。
「―――矢は維持しておくから、死にたければ勝手にどうぞなのにゃ」
そして吐き捨てるように言うと、そのまま奥の方へ進んでいく。