アジト強襲
◇
……時刻は午後八時。魔緒は、とある病院の跡地に来ていた。跡地といっても、建物自体はまだ残っている。倒産した私立病院であり、彼らのアジトだ。
「……ったく、不気味な場所に呼び出しやがって」
まだ暖かい季節とはいえ、この時刻なら辺りは真っ暗闇で薄ら寒い。まして廃屋なんて、余程の怖いもの知らずくらいしか寄り付かないだろう。
「んで、どこに行けばいいんだか」
メールにはこの病院の場所しか指定されていなかった。そこからどうするのかは分からない。
「っと」
と思ったら、またしてもメール。
「「入り口から入れ」、か」
正面玄関に行くと、扉は半開きになっていた。誰かが入ったのだろうか。だとすれば、恐らく彼ら。
「……またか」
更にメールが着信。計ったようなタイミングで来るな。監視カメラでもあるのだろうか?
「「一階の用具室の床を剥いである。そこから地下へ向かえ」……地下か」
地下だと携帯は使えない。メールで連絡できないから、つまりはそこに彼らがいるのだろう。
「えーと、用具室は……ここか」
魔緒は案内板を頼りに、用具室へ向かった。
「来たみたいだね」
レヴィは、ディスプレイに映し出された魔緒の姿を見て呟く。どうやら、設置されていた防犯カメラが生きているらしい。
「兄貴……行くのか?」
「ああ」
ルシフルは腰に刀を二振り携え、緊張した面持ちでレヴィを見つめる。
「お客さんは僕とルシフル、サタンでもてなすよ。女の子たちは後ろで待ってて。―――万が一、彼が破滅を選んだなら、君たちも後を追ってくれよ。僕らはいつも一緒なんだから」
振り返る先には、サタン、ベルフェ、アスモ、ベルゼ、そしてもう一人の少女―――マモンツーがいた。
「了解した」
サタンは大剣を手に、無表情で頷く。
「……」
ベルフェは無言で、手にした弓を弄っている。
「……絶対、一緒だから」
アスモは腰に取り付けたホルスターに、二丁の拳銃を収めながら呟く。
「でも、大丈夫かな……?」
ベルゼは何故か、菓子をボリボリ食っていた。緊張感のない奴。
「……」
マモンツーは、手にしたレイピアを、眺めているだけであった。
それぞれ違った反応に、レヴィはただ頷いて、こう告げた。
「よし。それじゃあ、仕上げと行くかな」
そして、サーベルを握り締め、部屋の外へ歩き出した。
「うっ……」
用具室に辿り着いた魔緒。用具室は埃っぽく、どこかカビ臭かった。思ったより広いそこには、段ボール箱が山積みになっていて、まるで迷路を構成するように置かれていた。地震でも起これば忽ち崩れて、押し潰されてしまいそうな状態だ。
「とにかく、進むか」
幸いダンボールの迷路は一本道で、迷うことはなかった。というか、傍から見ると迷路っぽいだけで、実際はそうでもないのだ。かなり奥のほうまで進むと、広い空間に出た。その中央部には人一人が通れそうな穴が開いており、その奥は闇に覆われて見えなかった。
「……ここだな」
魔緒は持って来た懐中電灯で穴を照らすが、やはり何も見えない。仕方がないので、近くにあった梯子を下ろし、それを使って降りることにした。
「……無事でいろよ、楠川」
魔緒は慎重に、敵陣へと乗り込んで行った。




