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地獄への旅立ち

「……ふぅ」

 魔緒は納戸(彼がこの家で寝起きしている部屋)に横になって、ぼんやりと天井を眺めていた。

(……いかん、とにかく眠い)

 ここ数日の間、七海たちを守るために寝ずの番をしていた。昼間はひとみの世話をしていたので、睡眠時間はほぼゼロであった。

(とはいえ、ここで寝ないと絶対持たないのだが)

 疲労困憊の状態で、仁奈を取り戻せるとは思えない。折角七海に気遣ってもらったのだから、ここは大人しく休むべきだろう。

(一応結界も、強度優先で張っといたし、壊れればすぐに目覚められるから問題ないはずだが)

 というか、そんなに魔術ばかり使ってるから疲れるのだろう。脳を疲弊させるとか言ってたし。

(ひとみの世話も清田に任せたし、仮眠だけでもとらないと)

 だが、眠いときほど思考は止まらなくなるもの。魔緒はぼんやりと、仁奈を攫った連中のことを考えていた。

(にしても、奴らの目的は何なんだ?)

 それは、今まで何度も思ったことである。何の前触れもなく接触し、突然仁奈を拉致し、それを利用して魔緒を翻弄する。かと思えば、ひとみを送り込んでみたりと、何がしたいのか、今一よく分からない。

(そういえば、あいつら、変なこと言ってたな)

 魔緒は、彼らの台詞を心の中で再生する。

 ―――折角、久しぶりに会えたんだから。

 ―――あの時は私もまだ小さかったし、あなたなんか赤ん坊だったから。

 ―――私達の髪と目の色。これは「普通」でない証であり、「近い者」の証でもある。

 ―――折角の再会だったけど、すぐに終わっちゃったわね。

 ―――またね、マイブラザー。

 ―――俺の名はルシフル。一応、久しぶりってことになるのか?

 ―――俺の名はサタン。これでも一応、お前の兄みたいなものだ。

 特に決定的なのは、アスモとサタンの言葉。これを信じるなら、魔緒は彼らの弟ということになる。

(けど、それなら何で、こんなことを?)

 もし彼らが魔緒の兄弟であれば、それを言えばいいだけの話だ。何も襲い掛かったり、仁奈を連れ去る必要はない。それ故に、何か他の目的があると見るべきだろう。

(楠川を拉致って、俺を従わせるつもりか?)

 だとしても、まともなコンタクトがまったくと言っていいほどないのはおかしい。おちょくったり、赤子を送りつける意図が不明だ。

(うっ……いい加減、限界かもしれん)

 さすがに限界が来て、思考を保てなくなってくる。沈んでいく意識の中で、魔緒は、思った。いや、誓った。

(とにかく、楠川は、絶対に、助ける……)

 と。



  ◇



 ……数時間後。


「あら、もう起きたの?」

「ああ」

 目覚めた魔緒は、七海とひとみの様子を見に来た。ひとみは、七海に抱かれて眠っていた。

「ちゃんとやっていたようだな」

「当然よ。馬鹿にしないで頂戴」

 その割には、テーブルに零れたミルクの跡とか、散乱したおむつの切れ端とか、色々あるのだが……突込み禁止なのだろうか?

「ま、とりあえず気になる注意事項はメモしておいたから置いてくな」

「……もう行くの?」

「ああ」

 先程、彼らのメールを受信した。内容は、魔緒に対する呼び出し。場所は言葉ではなく、添付した地図によって指定されていた。

「安心しろ。必ず連れて帰る」

「……本当に?」

 不安げな七海に対して、魔緒は静かに頷いた。

「その間、ひとみのことを頼んだぞ」

「ええ、命がけで守って見せるわ」

 それは頼もしい。魔緒はそう呟くと、七海に背を向ける。

「一応、朝まで結界を張っておく。それ以降はフォローできないからな」

「分かってるわよ。……さっさと行きなさいよ。仁奈を、連れ戻すんでしょ?」

 七海に後押しされて、魔緒は、家を出た。

「……絶対、戻ってきて」

 彼が出て行く間際、七海の残した呟きは、果たして魔緒に届いていただろうか。

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