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Lost Story -ロストストーリー-  作者: kii
第9章 日常(12月)
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第90話 もっとガツガツと

 12月3日、火曜日。

 放課後、学校近くのいつものファミレスには、リュウとレイタ、ショウ、リョウの男4人が華も無く机を囲んで肘を付いていた。


「で、あれから進展は?」


 飲み物を頼み、少しの間を置いてからリュウが口を開く。その目は、真剣そのものだ。

 それに、リョウは少しの沈黙の後、目線を下向きに言葉を発する。


「いや……まだ」

「なあ、このノリいつまでやるんだ?」


 レイタの一言に、その場の緊張の糸がポツンと千切れる。


「ったくわかってねえ。こういう時は、こういうノリだろ」

「どういう時だよ」

「お待たせしましたー」


 その後もブツブツ言いながら、リュウは運ばれてきたオレンジジュースを受け取る。

 各々も、頼んだ飲み物を前に置いた。


「さて、じゃあ気を取り直して……リョウ、レナちゃんとはどんな感じだ?」

「いや……それが、まだ、そこまで進展してないというか、なんというか」

「あれから、話は?」

「それはした。それに、文化祭でも勇気だして誘ったんだぜ」


 それくらいだけどさ、とリョウは付け足す。

 今回、"あの"勉強会からリョウがレナというほど間柄が進展してないとの事で、その平行線の関係の打開策を話し合う、ということでここに集まったのだ。


「つまり、文化祭を除けばデートは無しと」


 レイタの言葉に、力無く「はい」と答えるリョウ。

 

「言い換えると、マトモなデートは無しか……」


 マトモなってなんだよ、というリョウによるツッコミを無視し、リュウは「それなら」と意見を言う。

 

「取り敢えず、デートに誘ってみようか」

「いや、また、あっさりと言うなぁ」

「っても、もうすぐクリスマスだし。上手く行けば、そのままなし崩しにできるんじゃね」

「クリスマスだからこそ、そういう警戒も高まるわけで」

「なら、後20日の間にそういうのを解けばいい」


 ああ言えばこう言う。

 とはいえ、リュウの言うことも別に無茶苦茶はことではない、とリョウも思っていた。

 が、思っているだけで、それを行動に移せるかどうかはまた別の話である。

 そんな、2人の話を聞きつつ砂糖なりクリームなり入れていたレイタが口を挟む。


「まあ、クリスマスってのは使えるよな」

「だろ? ちなみに、レイタはクリスマスの予定は?」

「今の所は特に」

「とかなんとか言って、どうせヤヨイちゃんとイチャイチャだろー」


 その発言に「えっ!」と驚いたようにリョウが反応する。


「なになに、それはヤヨイちゃんと付き合ってる的なあれですか」

「一応は」

「んだよー、だったらレイタから色々アドバイス聞きたいわー」

「あれ? 俺は?」

「恋愛経験の無いリュウはいいっす」

「何を、俺だって、クラスの女子を好きになったことくらいな」

「で? そこから、進展は?」

「……片想いで終了っす」

「ほらー、そこで終了なら求めてないっすわ」


 リョウの戦力外通告発言にしょんぼりするリュウを、隣に座るショウはめんどくさそうに慰める。


「でも、俺だってそんなに経験とかあるわけじゃねえし」

「っても、この中じゃ一番頼りになるだろ」

「…………」


 「おう、なんだその間は」と、ジュースを一口飲みリュウが復活する。


「俺だってなあ……あれ?」


 と、得意の虚実の経験談を語ろうとするリュウだったが、ふと何かに気づいたように言葉を止めた。

 他の者も疑問に思い、リュウが見ている方向を目にする。すると、そこには机に座って話を弾ませているマドカ、ルミナス、ショウイチの姿があった。


「あのメンツは珍しいな」


 いや、珍しくは無いだろうよ、とリュウの言葉にリョウが答える。

 ショウイチとマドカは友人なので、その光景はそこまで違和感のあるものではない。だが、リュウはそんな交友関係など知らないので違和感を感じていた。


「にしても、何話してんだろ」


 そう言って、リュウは席を立ちマドカたちの方へと向かった。


「そういや、ショウイチとルミナスは付き合ってんのかな?」

「そういう話は聞いたことないけどな」


 リョウの疑問にレイタが答える。

 レイタ自身も、人の恋愛関係に関してはそこまで情報を持ってはいないが、少なくとも噂レベルで2人が付き合っているということは聞いたことがなかった。


「別に付き合ってても不思議じゃないんだけどなあ」

「まあ、そういう関係とはまた違うんだろ」


 目の前のコーヒーを一口飲み、レイタは言う。

 彼の言うとおり、ショウイチとルミナスの間にそういった感情は無い。

 男女の友情は成立しない。

 しかし、彼らの場合、そもそもお互い友情というものすら感じていない。だが、その間柄を敢えて言葉で表現するなら『腐れ縁』と言ったところだろう。


「ふーん、恋愛じゃない関係もあるんだな」

「そりゃあるだろ。つか、異性間の仲をなんでもかんでも恋愛に結びつけんのもどうかと思うけどな」


 そう言い、ふとレイタはトーナメント前のリュウの言葉を思い出した。


 "俺もさ、ハーレム漫画みたいに可愛い女の子達と学園生活を過ごしたいと思うわけだよ"


 ハーレムは無理でも、レイタはリュウに誰か親しい異性はできると思っていた。

 だが、今のリュウはどうだろう。

 誰か、親しい間柄の異性はいるだろうか。

 今更ではある。だが、そういった大切な存在がリュウの持つ過去を変えると、彼は、本当に今更ながら思ったのだ。


――まあ、余計なお世話ではあるけどな。


 そう思いながら、彼は戻ってくるリュウに目を移した。


「なんか、"マドカの恋愛を成就させようの会"の集まりなんだってさ」

「マドカの!?」


 目に見えて驚いたのはリョウだが、その発言にはレイタとショウも驚かずにはいられなかった。いや、先ず"の会"の部分に反応してからだが。


「あれ? 知らねえの? マドカに好きな人がいるって」

「初耳だよ! つか、えっマジで」

「まあ、俺もマドカに好きな人がいるってだけで、そこまで詳しくないんだけどな」


 リュウが、マドカに好きな人がいることを知ったのは、あの『氷結魔事件』の時である。

 といっても、その時もそういう話になっただけで、しっかりとその挙げられた人物を好きな人だとはマドカも言わなかったのだが。

 ともかく、リュウはそのことをしっかりと憶えていた。


「なら、俺と似たような目的なんだな」

「どうする? 折角だし、ここは一緒に作戦を考えるってのは」


 女子もいるし、とリュウは付け足す。

 異性の考えもあった方が、よりプラスにはなるだろう。


「じゃあ、折角だし」


 と、リョウは立ち上がる。

 こうして、ルミナス、ショウイチ、マドカを加え7人で『クリスマスには彼女と一緒にいるぞー』作戦会議がスタートした。


「さて、先ずお聞きしたいんですが」


 早速、話し始めようとするリョウを遮り、ルミナスが言う。


「この中で、恋人がいない人は私を含めて誰ですか?」


 リョウさんとマドカさんは除きますよ、と付け加えた後、即座に手を挙げるのはリュウだった。続けて、ショウイチ、ショウも手を挙げる。


「じゃあ、その3人には帰ってもらって」

「まてまてまて」


 リュウ、ショウイチが同時にツッコむ。


「えっ? あれ、俺今日マドカの為に来たのに、まだ役に立つような発言してないんだけど!?」

「俺も俺も! 今回、リョウのために」

「ですから、役立たずはグッバイですね」


 あんまりだー、とリュウ、ショウイチの両名は机に伏せる。


「まあ、ただ居るだけなら居ていいですけど」

「じゃあ、居よう。なっ! リュウ」

「おう、……ん? てことは、話に参加しちゃダメなの?」

「当然ですよ。喋ったら、その時点でジュース代奢らせます」


 地味にダメージだな、と少しの間輝かせた目をショウイチは暗くした。

 と、どうでもよい掛け合いを終え、早速、先ずはマドカの好きな相手について話すことになった。


「まあ、好きかどうか、まだイマイチ自分の中でもはっきりしないんだけどな」

「女々しいやつだなあ。好きなら好きって断言しちゃえよ」

「リュウさん喋ったんでアウト」

「えっ!? あれ、マジだったの!?」

「マジマジですよ。まあ、さすがに一発アウトはキツイんで一言につき一人分にしますね」

「さっすが、ルミナスさん」


 すみません話が逸れました、と表情変えずにルミナスは話を元に戻す。

 

「まあ、取り敢えず気にはなるんだろ?」


 レイタの問いに、静かにマドカは頷く。

 気にはなる。しかし、それが好きという気持ちなのかは、本人も分かりかねていた。


「なら、とにかく一度会ってみろ。本人を前にすれば、おのずと自分の気持ちもわかるだろうから」

「経験者は語る、か」

「リュウさんツーアウト目」


 やってしまった、とリュウは頭を抱える。


「まあ、私もレイタさんの意見に賛成ですね。どうです? これから会いに行ってみては」

「今から!?」

「時刻は5時前。……やっぱり、明日にしましょうか」


 いや、今から行こう。そう言って立ち上がったのはリョウだ。


「善は急げ。こういうのは、思い立ったが吉日だ!」

「リョウ、なんで善は急げはいらない」


 レイタからの冷静なツッコミに、一つ咳払いをし彼は続ける。


「俺も、今日レナちゃんに電話するぞ!」

「おういいですね。で、何用で電話かけるんです?」


 えっ、それは、と口ごもるリョウ。勢いで言ったこともあり、その冷静なツッコミその2により熱が冷め始める。


「やっぱ、明日にしようかな」

「思い立ったが吉日、でしたよね」


 変わらず無表情を貫くルミナスの言葉に、リョウはまたもや口ごもる。


「お、も、い、たっ、た、が」

「分かったよ、やるよ! 俺、頑張っちゃうよ!」


 流石リョウさん、とルミナスは再びマドカの方を見る。


「アドレス、また電話番号は?」

「知らない」

「じゃあ、週末なんとかちゃんに会いに行きましょうか」


 こうして、リョウは今からレナに電話をかけ、マドカは週末好きな人"だろう"山神(やまかみ)リタに会いに行くことになったのだった。






 時刻は19時。

 ファミレス近くの公園にて、リュウ、レイタ、ルミナスを前にしてリョウはレナへの電話を鳴らしていた。

 なお、ショウは用事でショウイチはねここの世話のために、そしてマドカはなんだか疲れたので先に帰ったのだった。


「なあ、恥ずかしいからどっか行っててくれない」

「ダメですよ。いざって時にアドバイスする人がいないと」


 それはありがたいんだけどさ、と言ってる中、数回のコールの後にレナが電話に出た。


「(はいもしもし)」


 彼女の声が聞こえた瞬間、リョウの鼓動が一気に高まる。


「も、もしもし、レナ?」

「(珍しいわね。あんたから電話かけてくるなんて)」

「ああ、ちょっと用があって……」


 早くも混乱しかけているリョウを見兼ねて、ルミナスは通学鞄の中から紙とペンを取り出し大きく文字を書き出す。


「(ふーん、で用ってなに?)」

「ああ、えっと……」


 リョウ、と小声でルミナスは紙に書いた文字を見せる。


「えっと、今月の24日の夜空いてる?」

「(24日?)」


 ちょっと待ってて、と電話の向こうでレナはゴソゴソと何かを探し始める。


「敢えてクリスマスと直接言わない高等テクニックです」

「さっすが、ルミナスさん」

「あと、リョウさんも無理って即答されなかった所をみると安心していいと思いますよ」

「まあ、レナちゃんは嫌なら嫌ってはっきり言いそうだしな」


 そんな2人のやり取りに反応する余裕も無いくらいに、彼の脳内は真っ白に染まっていた。

 緊張の面持ち。

 次に聞こえる言葉に、リョウは全神経を集中していた。


「(……いいわよ)」

「……えっ?」

「(だから、24日空いてるって)」


 ふるふると震える携帯を持つ手。リョウは、一つ間を置いて次の言葉を発した。


「じゃ、じゃあ、また予定とかは後で連絡するから!」

「(はあ? まだ、決めてなかったのに誘ったの?)」

「いやー、一応大丈夫かどうか訊いてからにしようかと思って」

「(……まあ、いいけどね)」


 じゃあ、楽しみにしてるから。

 ボソッと早口で言われた言葉をもって電話は切られた。


 よっっっっしゃー!!

 暗い静かな公園に響く男の歓喜の声が響く。

 

「成功みたいですね」

「いやー、ルミナスのおかげだよ!」


 先ほどのガチガチに固まった顔はどこへやら、今のリョウの表情はゆるゆるだった。


「まあ、でも大事なのはこれから。今回ので、ようやくスタートラインに立ったってのは憶えておいてください」


 そんな、ルミナスの言葉など聞こえない程にリョウはリュウを巻き込み、まるで全てが大成功に終わったといわんばかりにはしゃいでいた。


「大丈夫ですかね」

「まあ、こういう奴だからな。取り敢えず、今だけはいいんじゃないか」


 公園の真ん中。光に照らされ、リョウはいつまでもお祭り騒ぎだった。

次回予告


「この子は自慢しに来たんだろうか」

 レイタと付き合い出したヤヨイは、とある不安を抱え図書室にて本を読む文学少女アイに恋愛相談を持ちかける。


次回「空想家の恋愛相談 弐」

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