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Lost Story -ロストストーリー-  作者: kii
第9章 日常(12月)
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第89話 子どもっぽい?

 12月2日、月曜日。

 A組の教室にて、大きな欠伸を一つし、リュウイチは机に腕枕し暖かい日差しが射す昼のひとときを過ごしていた。


「しっかし、いい天気だなー」


 気の抜けるような声で、彼は隣で参考書と睨めっこしているアカネに言った。

 だが、アカネは目をぐるぐる回し、それどころでは無いようだ。


 静かで優雅なひととき。

 天国があるとするなら、こういう所なのだろう。そう思いながら、リュウイチは瞼をゆっくりと閉じた。

 そして、意識が遠のいていき……。


 が、その瞬間、後ろから柔らかい圧力が彼にのしかかる。


「やっほー、いい天気だねー」


 ガバッと置き、その聞き慣れた声の方向に彼は怠そうに目を向ける。

 そこには、彼の友人であるカズハが笑顔で立っていた。


「あのなー、いきなり男の背に胸押し付けてくる女子が何処にいるよ」

「ここにいるじゃん」

「…………」


 いつも通りの光景。

 しかし、1年前には無かった光景。

 リュウイチは、ため息をつき瞼をこすりながら何故来たのかを彼女に訊いた。


「暇だったから……というのは嘘であって」

「そんな簡単に嘘つくんじゃありません」

「りょーかーい。で、理由ってのが……」


 依頼です。

 という彼女の言葉に、先ほどから横目に2人のやり取りを伺っていたアカネが反応する。


「まあ、大した依頼じゃないんだけどね」


 そう言って、カズハはブレザーのポケットから1枚の紙を取り出す。

 そして、そこにメモ書きしてある事を音読し始めようとするが、リュウイチがそれを静止させる。


「依頼は4人でな」


 彼の言葉に、「そうだったね」とメモを再びポケットに入れ「じゃあ、呼んでくるよ」とカズハは教室を出て行った。

 このように、問題解決屋にて依頼を解決する時は必ず(風邪だとか用事だとかの場合は別)4人全員で事にあたる。

 これは、問題解決屋を結成した際にリュウイチが決めた約束だった。






「依頼主は、C組の牧田(まきた)流美(るみ)さん」


 小学生と間違われそうな風貌のマリアスを加え、改めてカズハはメモ用紙を音読し始める。


「要件は、好きな男子の情報を知りたい。以上」


 それに、「うーん、なんか普通だな」という感想をこぼしたのはリュウイチだった。

 というのも、先日のショウ絡みの依頼に比べると、どうしても楽そうなかんじが内容からにじみ出ているからだろう。


「恋愛系の依頼は久々だな」


 机に広げられた参考書を片付けながら、アカネが言う。


「で、その意中の相手は誰なんだ?」

「えっと、それが……」


 もったいづけるカズハ。というよりも、難有りというかんじか。


「ユーリ・クライム」


 ああ、とその場の3人はカズハが間を開けた意味を理解する。

 ユーリ・クライム。SCMチームB所属であり、少年のような純粋そうな見た目の男子だ。

 この通り、外側だけ見ればなんの問題も無いように見えるが問題は中身、つまり彼は性格に難があった。いや、難があるというと少し違うだろうか。

 つかみどころのないキャラ。

 とにかく、4人はSCMである彼とは何回かコンタクトがあるが、その度に苦手意識を植え付けられていた。


 そう考えると、今回の依頼は場合によっては先日のショウ絡みの依頼よりも難易度の高いものとなるだろう。


「まあ、依頼は依頼だしな」

「それに、何も直接ユーリに訊かなくてもいいからね」


 カズハの言葉に、他の3人も強く頷く。

 問題解決屋は、依頼は最後まで全力で遂行する。

 4人は、先ずユーリの双子の姉であるアイリス・クライムがいるB組に向かった。






「あれ? 問題解決屋さんだ」


 B組に入った彼らを迎えたのは、アイリスでは無く同じSCMチームBの『何処か抜けている天然系癒しキャラ』として人気のある湧流(わくなが)(すず)だった。


「どうしたの? あっ、もしかして依頼?」

「まあな。で、アイリスいる?」

「アイリスちゃんは、今は用事でいないよ」

「そうか、なら放課後なら空いてるか?」

「えっ、私?」

「いや、アイリスが」

「なんだ、そっちか……アイリスちゃんは、多分、時間かからないなら大丈夫だよ」


 そうか、と帰ろうとしたリュウイチらだったが、折角なので仮にも同じSCMのスズに、ユーリについて訊くことにした。

 今回、得たい情報は依頼者からは3つ。

 1つ目は、好きな人のタイプ。

 2つ目は、好きな食べ物、また嫌いな食べ物。

 3つ目は、趣味、または今ハマってるもの。


「ユーリ君の好きな人のタイプ?」

「ああ、知ってたらでいいんだけど」

「それって、もしかしてリュウイチ君は」


 残念そうにスズが言い終える前に「それはねえ」と、即答するリュウイチ。

 

「じゃあ、ユーリ君に片想いしてる人がいるってこと?」

「まあ、あんま大きな声じゃ言えねえんだけども」


 そうなんだ、とスズは小声で答える。

 と、ここで、リュウイチは誰かが立ち聞きしてないかと周りを見ると、他の女性陣3人が消えていることに気づいた。

 あれ? と教室内を見渡してみると、なんと各々がそれぞれの友人らと談笑していた。


「あーいーつーらー」


 と、3人を引っ叩きに行こうとするリュウイチをスズが制する。


「まあまあ、抑えて抑えて。質問なら1人でもできるから」

「まあ、そりゃそうだけども」


 依頼は4人で。とは、何だったのか。

 だが、昼休みも残りそう長くは無いので、ひとまず彼はスズの言うとおりにし、ポケットから日頃から持ち歩いているメモ帳を取り出した。


「で、どうだろ? 好きなタイプとか」

「私は正義感溢れる人が好き、かな」

「いや、スズの好みじゃなくて」

「あっ、そうだったね。でも、ユーリ君ってそういうの聞いたこと無いような」


 これに、敢えて「そうなのか」という反応を取ったが、リュウイチもユーリにそういう恋愛絡みの話があるとは思っていなかった。というより、想像できなかった。


「じゃあ、"ユーリが"好きな食べ物とか嫌いな食べ物とかは?」

「好きな食べ物は分からないけど。学食とかで、特に炒めてある野菜はよく残してるかな」


 これで好きな食べ物ハンバーグとかだったら完璧だったのに、などと思いつつ彼はそれをサッとメモする。


「じゃあ、"ユーリの"趣味とか、今ハマってるものとかは?」

「趣味かあ……テレビゲームかな」

「そういや、前にもゲームの発売日だからって早く帰ってたっけ」

「そういえば、ユーリ君が用事で早く帰る時ってゲーム以外ないかも」

「そうか……他には?」

「うーん……ゲーム以外聞いたこと無いかも」


 ゲームだけね、とリュウイチはまとめる。


「これぐらいかな……ありがと」

「あんまりしっかり答えられた気がしないけど、力になれた?」

「ああ、十分には」


 よかった、と嬉しそうにするスズ。

 それを見て、もう一度礼を言い他の3人を無視してB組に戻ろうとするリュウイチ。そして、それに気づき慌てて彼の後をついて行こうとする他3名だったが、ここでスズがふと何かを思い出したようにマリアスとカズハの手を掴み「ちょっと待って」と2人を呼び止めた。


「最近どう? 調子悪くない?」


 その彼女の言葉に、2人は笑顔で返す。


「大丈夫だよ」


 そっか、と安心したように2人から手を放し彼女は言った。


「じゃあ、アイリスちゃんに放課後待ってるように言っとくね」

「ああ、ありがとう」


 そう言って、今度こそ4人はD組を出て行った。


「さてさて、本当に大丈夫なのかねえ」


 4人が出て行った後で、先ほどまで机に突っ伏し爆睡していた赤い髪のアイリスが疑い深そうに言った。

 数ヶ月前に、連続して起きた2つの事件。

 それを知ってるからこそ、彼女たちが悪魔を抱えてるからこそ、アイリスは常に2人の様子を気にかけていた。


「大丈夫です。リュウイチさんもいるし、何より本人が大丈夫って言ってるんだから」


 そんなアイリスに比べて、全く不安の欠片も持ち合わせて無いように、スズは真っ直ぐな瞳を持って言った。

 何の根拠も無い発言だが、何故だかスズが言うとそうなんだろうと思ってしまう。

 それだけ、説得力のある言葉。

 それが、スズだった。


「まあ、近い内にこれがただの気のせいかどうか分かるだろうけどね」


 含みを持たせた言葉だが、スズは特に言葉を返さなかった。






 そして、放課後。

 一旦、A組に集まった4人は早速D組へと足を運んだ。


 既に終礼が終わっているD組は、疎らだが生徒たちが帰り始めている。


「来たねー」


 唐突な背後からの声に4人が振り返ると、そこにはハンカチを片手に持ったユーリが立っていた。


「で、用って何?」

「ああ、えっと……つか、なんでお前が」

「盗み聞き」

「…………」


 彼の言葉に、唖然とする4人だったが、ばれてしまったのは仕方ないという事で計画を変更し、ノリ気はしないがユーリから直接話を訊く事にした。


「じゃあ、ここじゃなんだし、取り敢えず屋上にでも移動するか」


 彼の提案に、「了解」と鞄を取りに一旦ユーリはD組へと入って行く。

 それを見送りながら、カズハが口を開いた。


「なんか、独特の空気を纏ってるよね」

「俺、やっぱあいつ苦手だわ」


 リュウイチも、早くも疲れの色を見せていた。

 言葉だけなら、それに雰囲気も別にここまではおかしな点はない。

 それでも、彼らがそういう感想を持つのは、それだけ今までユーリに苦手意識を植え付けられたからだろう。


 そんな、早くもげんなりとしたムードが漂う彼らなどいざ知らず、いつも通りの普通の表情を持ってして、鞄を背負ったユーリが教室から出てきた。


「さて、行こうか」






「ふーん、僕に対するインタビューね」


 アイリスに一言いれてから、屋上にてユーリを含めた5人は落下防止のフェンスを背に各々、秋の冷たい風を感じていた。

 好きな人がお前の事を知りたがっている、などと直接言ってはこの場合意味が無い。

 なので、今回リュウイチはSCMに対するインタビューと称した質問に例の質問に混ぜて聞き出すことにした。

 幸い、ユーリが盗み聞きしたのは問題解決屋がユーリについて何か訊いていた程度なので、上手く誤魔化すことができた。

 あくまで、今のところは。


「つまり、次は姉さんに訊く予定だったと」


 それは、悪いことしたね。とユーリはニヤニヤと全く気にしてないような素振りで答えた。


「……じゃあ、質問してくから出来るだけ答えろよ」


 りょうかーい、と子どもらしく彼は返した。






「じゃあ、最後の質問。SCMになった経緯は?」

「暇つぶしかな。まあ、姉さんがなるっていうから、それに引っ張られてって所が大きいけどね」


 約20の質問を終え、リュウイチはふーと息を漏らす。

 10分程度の緊張感溢れた時間。

 だが、リュウイチは今回のインタビューが彼の予想以上に何事もなく終わったことに違和感を覚えていた。


「さて、この情報だけど何に使うのかな?」

「えっ、いや、最初に言ったろ。SCMに対するインタビューだって」

「うん。だけど、そういうのは新聞部の仕事だ。そして、彼らの性格から考えてインタビューを人に任せるとは思えない」


 やけに素直に事が進んでるな、とは心の何処かで問題解決屋の4人も思っていた。

 だから、インタビューが終わってホッとしたのだが、まさかこのタイミングで深く追求してくるとは完全に予想外だった。


「ま、まあ、問題解決屋は基本的に依頼内容を外部に漏らさないから、これ以上は何も言えねえよ」

「なら、SCMの権限を発動しよう。SCMは、一般生徒の持つ情報を公開させる権利を持つ」

「なっ、そんなの初耳だぞ!」

「そりゃそうだよ。今作ったんだもん」


 ケラケラと子どものように笑うユーリに対して、悪戯を受けた子どものようにリュウイチは余裕ない表情をしていた。


「こらこらー、いくらSCMでもリュウイチをいじめるなら許さないよー」

「はいはーい、ごめんなさーい」


 腕を組むカズハに対しても、やはり軽い声でユーリは答える。


「さて、まあカズハ"先生"に免じて、これ以上は追求しないでおこうか」


 そう言って、「じゃーね」とユーリは鞄を背負い軽い足取りで屋上を出て行った。

 ユーリが去り、屋上はまるで嵐が過ぎ去ったような静けさを得ていた。


「やっぱ、俺あいつ嫌いだ」


 青い空を仰ぎ、リュウイチはボソッと呟いた。

次回予告


「クリスマスには彼女と一緒にいるぞー作戦」

 片想い相手のレナと全く関係を進展させられないリョウのため、リュウたちはクリスマスデートのための作戦を考えることになり……。


次回「もっとガツガツと」

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