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Lost Story -ロストストーリー-  作者: kii
第9章 日常(12月)
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第88話 大切な人には、笑っていて欲しいから

 12月1日、日曜日。時刻は18時。

 ねここの捜索が秘密裏に打ち止めになったため、朝からずっと捜索していたルナ、レイジはようやく帰路につけていた。


――結局、まともに話せなかったな……。


 冬の到来を予感させる風が時折吹く中、レイジとルナはゆったりとした速度で暗い沈黙の道を歩いていた。

 例の事件から、既に6日が経過していたが。いまだに、レイジはその心に後悔の念を抱いていた。

 素振りだけは、出来るだけいつも通りに。

 それでも、彼の傷が癒えてないことは誰も目からも明らかだった。


――自分は何がしたいんだろう。


 そして、また彼のことを前々から想っていたルナも彼の状態に心を痛めていた。

 大切な人だからこそ、俯いて欲しくない。

 大切な人だからこそ、笑っていて欲しい。

 なら、どうすればいい?

 彼女の紫の長髪は、うっとおしく風になびいき続けている。


 もう、いっそ想いを吐き出したら楽になるんだろうか。

 これじゃあ、本末転倒だ。


「ねえ」


 沈黙を割くように言葉が彼女から発せられる。

 勢いに任した声に、一瞬の後悔を覚えるもそのまま彼女は次の言葉を発した。


「ちょっと、そこで話さない?」


 そう言って、彼女は公園を示す。

 その、いつも通りのツンツンとした言葉に何故か彼女自身が安心していた。






 既に日が落ちているため、公園の電灯には光が入っている。

 それでも、そこは人が2人以外いないためか暗く、そして寂しい雰囲気を持っていた。

 

「…………」


 そんな、暗い場所の端のベンチに座った2人。

 少し間を開けたせいか、ルナは次の言葉を見失っていた。


「あのさ」


 1つ間を空けた隣に座るルナに、切り出したのはレイジだ。


「ずっと、謝ろうと思ってたんだ」

「…………」

「心配かけたから」


 今もでしょ。

 だが、それを寸前で彼女は飲み込んだ。


「だから……ごめん」


 謝罪の言葉はいらない。

 欲しいのは、そんな言葉じゃない。

 何故、頼ってくれないのか。

 今のあなたに、人に謝る余裕があるのか。


 時折吹く風に、ルナはうっとおしさを感じ始めていた。


「冷えてきたな」


 沈黙を嫌うように、彼が呟く。


 違う。

 そうじゃない。

 私は、そんなことを話しにここにいるんじゃない。


「なんで」


 ぐちゃぐちゃにかき混ぜられた感情を抑えながら、彼女が口を開く。


「なんで、強がるの」


 感情を抑えるように。


「弱い所を見せても、誰も責めない」


 それでも、彼のことを想うと、言いたいことは溢れるほど奥底から湧いて出て。


「少なくとも、私は何も言わない」


 今が暗くてよかった。

 涙を隠せるから、弱さを隠せるから。


 それは、レイジも同じ。

 でも、弱さを見せるのはかっこ悪いから。

 今が暗くてよかった。


 自分のミスで人が1人死に、人が1人悲しみにくれる。

 1人の時を止めた。

 なら、自分も止まるべきか。

 思考を停止させ、目を背けているのは誰か。


――俺だよ。


 レイジは、柄にもなくルナを抱き寄せる。

 今は、他者の存在が欲しかった。

 今は、人の温もりが欲しかった。

 

 その行動に、多少の驚きを見せるも、ルナは何も言わずに身を任せた。

 何も言わない。

 やっと、想いを吐き出してくれたのに、これ以上何を言えばいいのか。




 何時の間にか風は止み、空には満天の星空が広がっていた。

次回予告


「やっぱ、苦手だ……」

 ある日、問題解決屋に舞い込んだ一つの依頼とは……。


次回「子どもっぽい?」

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