第9話 戦う理由
「そういや、なんでカナエちゃんはトーナメントに出たんだ?」
「えっ?」
8月1日。
リュウとカナエは、トレーニングの為、学校の近くにある能力トレーニング施設を訪れていた。
「大した理由じゃないですよ」
リュウからの唐突な質問に、カナエは言葉を濁す。
「そうか。ちなみに、俺は異性からモテたい為だけどな」
「なんで、誇らしげなんですか……」
誇らしげな表情のリュウに、はあ、とため息をつくと同時にカナエは腕時計に目をやった。
時刻は10時過ぎ。約束の時間はとっくに過ぎていた。
「遅いですね、キョウ先輩」
「そうだな……まあ、あいつは時間通りに来るような奴じゃないとは思ってたけどさ」
今回、2人は基礎能力『速』の『5』を持つキョウと共に実戦演習をする為にここに来ていたのだった。
だが、約束の時間である10時を超えても、キョウの姿は現れない。
時間だけが過ぎていく中、何か思いついたように「よしっ」とリュウが声を出す。
「じゃあ、その間この前のお互いをよく知るっていうのの続きしようぜ」
「そうですね。待ってる間、やる事ないですし」
先にトレーニングを始めていてもよかったのだが、カナエはこちらの方を選択した。
それほど、リュウとの会話が楽しかったのだ。
「じゃあ、俺から。なんで、トーナメントに参加したんだ?」
「あれ? その話題続いてたんですか」
「だって気になるじゃん」
「うーん、でもほんと大した理由じゃないですよ」
「でも、まあ絆を深めるって意味じゃ知っといた方がいいかなって」
「……まあ、それもそうですね」
「という事で、今回俺がカナエちゃんの参加理由を当てたいと思います」
「また、えらく唐突に来ましたね」
「まあ、暇つぶしも兼ねてるからな。じゃあ、早速、一発目で当てちゃいますよー」
「多分、当たらないと思いますけどね」
「うーん……暇つぶしに参加した?」
「そこまで、暇を持て余してないですよ」
「じゃあ、実力を計るために参加した」
「近いですね。というか、半分正解です」
「これは、幸先いいな」
だが、この後リュウは10以上の回答を出したのにもかかわらず、正解する事はおろか正解にかすることすらなかった。
「ハズレです。てか、異性にモテたいってリュウ先輩じゃないんだから」
「なんだよ、カナエだってモテだろ?」
「私は今はいいです」
「また、そんな事言って。学生生活は一度しかないんだぜ」
「厳密には6年、3年、3年、4年ありますけどね」
「16度もあったのか……」
ここで、腕時計に目をやり「時間切れですね」とカナエは呟いた。
「では、答えです。」
「ゴクリ」
「擬音を口で言わないでください……私がトーナメントに参加した理由は」
「何話してんの?」
カナエが次の言葉を言おうとした瞬間、前から少年のような声がした。
「やあ、少し遅れちゃったよ」
「お前は狙って、この時間に来ただろ」
ため息をつくリュウを横目に、カナエは次の言葉を言わずに立ち上がる。
「あれ? 参加理由は?」
「キョウ先輩が来たので、また今度です」
ええ、と酷く落胆するリュウをよそに、カナエは準備運動を始めた。
ここでは、カナエのトーナメント参加理由は明かされなかった。そして、トーナメントが終わった後でもそれは同じなのだろう。
大した事がない。
リュウも、そこまで意固地に聞き出そうとはしないし、今回も途中から何か話したくない理由があるのだろうか、と話題を止めようとしていたくらいだ。
故に、彼女の大したことのないトーナメント参加理由は誰にも知られず彼女の中に留まり続けるのだろう。
では、その彼女曰く大したことのない理由とは何か。
答えは、兄であるマモルが、2年の時にトーナメント優勝を果たしているから。
先日、シングルトーナメント3回戦前にカナエが思った通り、彼女には兄の後を追う義務は無い。
しかし、最強の兄を持つ妹は自然と周りからのプレッシャーにやられていた。
シングルトーナメント優勝が出来なかった時点で、ある程度は吹っ切れた部分もあるのだが、やはりまだ優勝に拘る彼女がいた。
「そういえば、君は何の為に戦っているんだい?」
休憩中、不意のキョウからの言葉に彼女は返す言葉を見つけられなかった。
次回予告
「予想外の組み合わせだろ?」
ついに始まるタッグトーナメント。リュウ&カナエチームの初戦の相手は!?
次回「タッグトーナメント ①」




