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Lost Story -ロストストーリー-  作者: kii
第8章 のかかかか
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第83話 けらけけ のかか

「恐らく、敵は貴方達ですね」


 そう呟いて、ルミナスが腕を前に出した瞬間、2人は跳躍せんと足に力を込める。しかし、地を蹴り上げるより前に彼女の袖の中から出現した鉄の鎖が彼らに巻き付いた。


「誓いは3つ」


 ルミナスの能力『誓い』は、自分または対象に誓いの鎖を巻きつけ能力などを強化する能力である。また、誓いが破られれば何らかの『罰(発動者が決められるデメリット)』が発動する。

 今回、ルミナスが2人にかけた誓いは3つ。そして、今回その誓いを1つ破る毎に加重される、という罰が付けられた。

 巻き付いた、しかし実体を持たない鎖に違和感を感じている2人を飛び越し、ルミナスはショウイチらの元へと降り立った。


「さあ、逃げますよ」


 逃げるってどうっ!? ショウイチが言い終わるまでに、ルミナスは彼と彼女の手を掴み隣のアパートの屋上目掛けて飛び上がった。

 屋上から屋上に飛び移る事は、一般人の跳躍力では不可能。しかし、能力者である彼女らにとってはそこまで難しい事では、否、『誓い』により基礎能力を強化しているルミナスだからこそ出来る芸当だった。

 足元から股の辺りにかけてヒュンとする感覚に襲われた後、ショウイチらは隣の屋上へと飛び移る事に成功した。


「お、お前! 落ちたらどうすんだよ!」

「この程度の距離なら落ちませんよ」


 フルフルと子猫の様に震える少女の横で、ショウイチは顔を青ざめ言うも、当のルミナスは何事もなかったかの様にさっぱりとした表情だ。

 いやでもさ、と続けるショウイチを制し、ルミナスは彼に誓いの鎖を巻きつけた。


「飛ばします。誓いは何にしますか?」

「……何でもいいよ」


 彼女のマイペースっぷりに、ため息をついて彼は返した。


「じゃあ、『声を出さない』で」


 指を口に当て、ルミナスは彼に誓いをかけた。


「(じゃあ、そちらの子は頼みましたよ)」


 手振りで伝えられた命令に、ショウイチは少女をおぶった。


「(そういや、2回目だな)」


 ショウイチの感覚では重くない彼女をおぶり、2人は階段から一旦地上へと向かった。






「さて、先ずその子について話してもらいましょうか」


 ルミナスの住む部屋に入るなり、彼女は少女を降ろしたショウイチに問いかけた。なお、喋る前に能力は解除してある。


「まあ、大方コスプレプレイ中に変な人に襲われたって所でしょうけどね」

「えっ!? いや、ちげえよ。断じてちげえ」

「じゃあ、この猫耳は何なんですか? 全く、メイド好きなのは知ってましたけど、まさか猫耳にも興味があったとは」

「いや、だからこれはそういうんじゃなくて」

「猫耳という文化は私には理解しかねますね」

「だーかーらー、違うって! こいつは、マジでネコなの!」

「ショウイチ。私は真面目な話をしてるんです」

「いや、だから。うーん、そうだ! 触ったら分かってくれるはず」


 そう言って、彼はルミナスの手を掴み少女の猫耳に触れさせた。


「おお、これは……」

「なっ? ネコだろ?」

「よく出来てますね」

「…………なあ、尻尾見せてくれ」


 手で目を隠し、彼は少女に言う。それに、彼女は後ろを向きズボンを下げた。


「なっ? ネコだろ?」

「こういうプレイですか?」

「……あれ? 俺の評価ガタ落ち?」

「うなぎ下がりです」

「ですよね……」


 目に見えて凹む彼を見て、「まあ、からかうのはこれくらいにして」とルミナスはそのフラフラと揺れる尻尾に触れた。


「お尻の穴に突っ込む尻尾は知ってますが、本物はお尻の上なんですね」

「そうだな……って、なんでケツに刺すの知ってんだよ!」

「あれ? 以前、ショウイチの部屋にそんな事が描いてある本が」

「俺はそんな如何わしい本は持ってねえ!」

「じゃあ、ネットの受け売りですね」

「そんな事、普通に調べても出てこねえだろ」

「うーん、どうしてそこに行き着いたんでしょうか」


 顔色一つ変えずに、ルミナスは腕を掴み考える。

 こういった事でも、特に恥ずかしげもなく言えるのがルミナスである。

 

「で、ショウイチは何で指の隙間から見てるんですか?」

「なっ!? べ、別に見てねえよ!」

「またそんな事言って。見たいなら、じっくりと見たらいいじゃないですか」


 別に見たくなんてないんだからね! と言動がおかしくなるショウイチを横目に、ルミナスはさっと彼女のズボンを上げた。


「あっ」

「あっ?」

「いや、なんでもないです」


 先ほどと同じ様に凹む彼を無視し、ルミナスは少女を居間へと案内した。

 それに、フラフラとショウイチもついて行く。


「さて、じゃあもっと具体的に話を聞かせてもらいましょうか」


 2人をテーブルの前に座らせ、ルミナスは飲み物を用意しに台所へと向かった。






「それは、まためんどくさい事に巻き込まれましたねー」

「……別にいいけど、なんか他人事だ」


 ショウイチから今回の事件の概要を聞き、ルミナスはなんとも軽い返事を持って返した。


「そういえば、SCMには連絡しないんですか?」

「SCMは……ほら、研究員らが公式に捜索依頼を出してる可能性があるだろ?」


 なるほど、と納得したルミナスだったが、ここで今は特に関係ない事柄に気付いた。


「そういえば、ネコちゃんに名前は無いんですか?」


 脈絡も何も無い質問に、ショウイチは思わず聞き返す。


「名前ですよ。ほら、呼ぶ時不便でしょ?」

「いや、そういう事じゃなくてさ。唐突にきたなって」

「何となく思っただけですよ。特に深い意味は無いです」


 そうか、とショウイチは返す。この様に、ルミナスが唐突に話題を出す事はそこまで珍しくもないので、彼は特にこれ以上何も言わなかった。


「名前な、さっきも色々候補出してたんだけどな」

「センスが無く却下されたと」

「失礼な、そこまでセンスねえわけじゃねえ」

「じゃあ、私がちゃちゃっと決めますよ」


 ここで少し間を溜め、彼女は渾身の名を告げた。


「ねここ!!」

「ねここ!?」

「いい名前ですね」

「ねこ子? ちょっと、安置じゃないですかね」

「シンプルイズザベスト、という言葉があります」

「知ってます」

「今回、覚えやすさ、親しみやすさ、単純さに比重を置いてみました」

「比重置くとこ多いな」


 と、この後も色々、「名前には意味があるべきだ」や「彼女の意見も参考に」など2人は自分の意見を言い合うが、結局、最終的に彼女の名前は「ねここ」に決まったのだった。


「さて、名前が決まった所で次に私たちが取るべき行動ですが」


 と、ルミナスは本題に話を戻した。

 現在、3名が置かれている状況から呑気に名前を決めている余裕など全く無い。


「私は、SCM内の誰かとコンタクトを取って、どうにか"ねここ"を安全な場所に移す様、説得するのがいいと思いますね」

「まあ、それしかねえか」


 一般生徒であり、何の力を持ち合わせていない彼らに彼女を守り抜き、かつ安全を確保するなど到底無理な話だった。


「でも、俺SCMに知り合い居ねえよ」

「私も無いですね……」


 と、2人して暫く思考を巡らせた後に「そうだ」と何か思い付いた様にショウイチが呟いた。


「レイタ辺りに電話番号教えて貰えばいいじゃん」


 言って、彼はポケットから携帯を取り出す。


「ショウイチにしては名案ですね」

「……今回は褒め言葉として受け取っておくよ」


 そう答えた彼は、ぱぱっと携帯を操作し添木レイタに電話かけた。






 一方、堂巳サヤ、風神レイジ、ルナ・セシリアが所属するSCMチームDは『猫耳を生やした人』の捜索に当たっていた。


「レイジ、大丈夫かな」


 学生たちで賑わう街中を歩きながら、ふとサヤは呟く。

 アリス事件から、早いものでおよそ1週間が経過したが、まだレイジの心は回復していない。

 表面上はいつも通りなのだが、いざ話してみると明らかにおかしい。それを具体的に説明する事は、サヤもルナも出来ないが、確実に何かがおかしいのだ。

 だが、いつまでも引きずっているわけにはいかない。それは、レイジ自身もよく分かっているようで、今回のアリス捜索を思い起こさせる少女の捜索も、彼は二つ返事で参加を決めたのだった。


「ルナちゃんも付いてるし、大丈夫だよね」


 サヤは、自分に言い聞かせる様に呟く。

 現在、別れて捜した方が効率が良いという事でルナ、レイジチームと、サヤ単独とに分かれている状況だった。

 レイジの事を誰よりも心配しているルナだとはいえ、心配がついて回る中、不意に彼女のポケットの中の携帯が鳴った。

 サヤは壁を背にし携帯を取り出した。


「もしもし?」

「(ああ、サヤさん? えっと、ああ、わかってるって)」

「もしもし? 誰ですか?」

「(ああ、ごめん。えっと、E組の海堂ショウイチです)」

「ショウイチ君? ……ああ、タッグトーナメントに出てた」

「(そうそれ、って、あ、いや、俺がはな)」

「ねえ、大丈夫?」


 「(大丈夫ですよ)」と、電話の相手がショウイチから女子に変わった。


「貴方は?」

「(同じくタッグトーナメントに出ていたルミナスです)」

「ああ、金髪の」

「(はい。で、早速本題に入りますね)」

「えっ? あっ、うん、どうぞ」


 彼女の言葉を受け、受話器の向こう側のルミナスは今自分たちが直面している状況について簡潔にサヤに話した。


「(……というかんじです)」

「うーん、またそういうパターンなのか」

「(えっ?)」

「こっちの話」


 さて、とサヤは自分たちの立ち位置と先ほど聞いた状況を丁寧に頭の中で整理する。

 なお、サヤはルミナスの説明に全く疑惑の目を向けなかった。特にこれといった理由は無いが、先日のアリス関連の事もあり彼女の言葉を素直に信じたのだろう。


「ねえ、今何処に居るの」

「(私のアパートです。場所は…………ですね)」

「わかった。じゃあ、今から研究員たちのいないルートを捜すから、電話切らないでね」


 分かりました。彼女の声が聞こえた直後、受話器からプープーと電話が切れた音が聞こえた。


「…………」


 その音に、サヤも暫く何が起こったのか理解出来なかった。






「すみません、いつもの感覚で電話切っちゃいました」

「お前、人の話とか真面目に聞かないタイプだろ」


 ルミナスの予想外の行動に、ため息をつきながら、ショウイチは彼女から携帯を受け取り再度サヤに電話をかけ直した。

次回予告


「さて、困難な道のりになりそうですね」

 サヤの手助けを借りSCMに向かう3人。だが、やはり簡単には辿り着けそうになく……。


次回「だりだり のかか」

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