第80話 勝利へのコダワリ
翌日。放課後、問題解決屋からの呼び出しでショウとリョウはD地区第一公園に来ていた。
「そんなに簡単にいくかねえ」
リュウイチから"勝つため"の方法を聞き、リョウはボヤく。
確かに、リョウはショウの負け運の高さが、その能力に起因していると思っていた。だが、だからといってその方法が『勝つというイメージを持つ』という、今までもショウが何度となく自然と脳内で描いてきた方法で解決出来るとは思わなかった。
それでも、モノは試し。今までは、戦いの最中だから上手くいかなかった可能性もある。
「じゃあ、準備出来たら言ってくれ」
公園の唯一のベンチにカズハとマリアスと共に座りリュウイチは言った。なお、例によってリョウはその横で立っている。
その言葉に、ショウはゆっくりと目を瞑った。
彼は脳内に勝ちのイメージを周し始める。
――自分が勝つイメージ。
戦闘において彼は勝った事はない。故に、一見簡単そうに見える『勝ち』のイメージは、彼にとっては酷く困難に感じられた。
それでも、ショウはどうにか漫画を参考に勝ちのイメージを作り出した。
「いいよ」
その一言に、ショウから数歩離れて事を見守っていたアカネが腕を組み外した。
「じゃあ、始めるか」
そう言い、彼女は昨日の様に能力で刀を作り出す。そして、彼が頷いたのを確認し刀を鞘に納めているかの様に片手で持ち構えた。
「この前と同様、全力で行くぞ」
その言に黙って首を縦に振ったのを見て、アカネは一気にその間合いを詰めるため地を強く蹴り上げた。
およそ、1分間のアカネの刀とショウの片手剣の打ち合いの後に、先にショウの剣が地面に突き刺さった。
「ありゃ? 負けちゃった」
アカネの刀の先が地に膝付くショウの面前に向けられるという予想外の光景に、カズハは思わず言葉を漏らした。
「寧ろ、弱くなってねえか」
続けてリョウが口を開く。少なくとも、眼前で繰り広げられた戦いは先日のものに比べると早く、かつ単調に決着が付いていた。
「『勝ち』に拘り過ぎたのが原因?」
その酷い有様を見て、マリアスは呟く。その考えは、リュウイチも、そしてカズハも少なからず思っていた。
「2人共、一旦こっちに来て」というカズハの声に、呆然とその場に居たショウとアカネは我に帰り、ベンチの方へと向かった。
「ズバリ、敗因は何だと思う?」
ベンチに着いてそうそうのカズハの質問に、ショウは視線を落とし考える。
「私は、彼の集中力が前回に比べて散漫になってる気がしたな」
「それは、どういう所でだ?」
「ワンアクション毎に少しの隙が生まれてるんだよ。前回はそれが無かった」
らしいが、とリュウイチはショウの方を見る。
「戦いの最中でも『勝ち』をイメージしてたか?」
「いや、戦ってる最中は何も考えてなかったよ」
「何も考えずに戦ってたのか? ……つまり、目で見て動くタイプか」
意外だな、とアカネは付け加える。
「まあ、兎に角。この方法はショウ君には使えない訳だね」
「振り出しに戻ったか……」
うーん、と唸る面々を見て、ショウは申し訳なさそうに口を開いた。
「あのさ、多分ここまできたらよっぽど、例えば負ければ死ぬかもしれない様な戦いでもなきゃ勝てないのかもしれない」
悔しいけど、と彼は続ける。
「そういうもんなんだと思う。それが、俺の能力であって、それが俺なんだと思う」
その言葉に暫くの間、その場の皆は黙っていたが、やがてリュウイチが口を開いた。
「お前はそれでいいのか?」
その問いに、彼は静かに頷いた。その目は、多少の悔しさを滲んでいる様に見えたが、本人がそう言うならとリュウイチは敢えてそれ以上は言わなかった。
もし、その時に勝てなかったら? 敢えて、彼は続けなかった。
「悪い。ここまでしてくれて、当の本人が諦める様な事言って」
「本当だよ。全く、無駄足もいい所だよね」
だから、とカズハは続ける。
「私さ、想像具現を使ってやってみたかった事があるんだよね」
笑顔での彼女の言葉に「えっ」と彼は訊く。
「それで、今回の事はチャラ。それで、いいでしょ?」
彼女の言葉に他の3人も頷いた。
「でも、何をするんだ?」
腕を組み訊いたリュウイチの言葉に、カズハは答える。
「そりゃ、何か美味しいものを作ってもらうんだよ」
「食べ物は……いや、出来るか」
即座にリョウが呟くも勝手に自己解決した。
ショウの能力である『想像具現』は、文字通り脳内に描いたものを具現するものである。だが、例えばケーキを具現したいとして、その見た目だけを脳内に描き具現しても作り出されたものは外側だけケーキの中身スカスカのモノになってしまう。しかし、ケーキに使われる材料をある程度細かく脳内に描けば本物のケーキを具現する事が出来た。
ちなみに、戦闘時に使用する剣など、よく使うモノに関しては何度も想像具現する事で、作り出す毎に脳内に剣の形や成分などを描かずとも具現する事が出来る。つまり、何度も具現すれば、脳内にイメージだけ浮かばせれば作り出す事が可能になるということである。
というわけで、とカズハはベンチから立ち上がる。
「早速、移動開始!」
時刻は17時。星々が見え出す空の下、6人はショウの住むアパートに向かって歩き出した。
次回予告
「触ってみます?」
ある日、いつもの様に散歩を楽しんでいたショウイチの前に現れた謎の美少女。素性も何も分からない彼女は、現在何者かに追われているらしく……。
次回「みのみのく のかか」




