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Lost Story -ロストストーリー-  作者: kii
第7章 key and three doors(four fragments)
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第78話 少年と少女とアブレタモノタチ

 北D地区から南地区までは、およそバスで1時間半程度かかる。といっても、これは平均的な時間でありD地区の何処から南地区の何処を目指すかによっては1時間増したり、減ったりする。






 時刻は16時。

 曇り空の下、南E地区へとバスから降り立った問題解決屋の4人は、その"広過ぎる"情報網から"もう1人の想像具現使い"の居場所を割り出す事に成功していた。

 この世代において想像具現使いは2人しか居ないので、その存在を見つける事は難しくはなかった。とはいえ、居場所を見つける事は簡単では無かったが、それでも4人はその情報網を駆使し彼の居場所を見つけ出したのだ。


「志比未来君だっけ?」


 初めて見る、しかし見慣れた街並みを見渡しながらカズハは誰に訊くでもなく訊いた。

 それに、彼の居場所がメモしてある紙と、スマホ(スマートフォン)の画面上に映し出されている地図を交互に睨めっこするリュウイチはぶっきらぼうに「そうだよ」と答える。

 志比(しくら)未来(みらい)。南E地区の学校に通う高校3年生。ちなみに、未来という名前だが男子である。


「うーん、折角南地区に来たのだから何処か観光に行きたいな」


 カズハと同じ様に辺りを見渡しながら、唐突にアカネが切り出す。


「それいいね。でも、南地区ならではって所あるのかな?」

「そういう時こそ『すまほ』だろ」

「お前ら……俺たちは観光に来たわけじゃねえんだぞ」


 すっかり観光気分の2人に、リュウイチは汚い文字で書かれたメモを見ながら言った。

 そんな2人とは対象的に、初めての場所にマリアスは緊張からアカネにくっ付いて離れない。


「なら、さっさとミライに会わないとな」

「そうそう、問題を片付けてからだったら文句無いでしょ?」

「……俺はもう疲れたよ」


 カズハの言葉に、ようやく、ぐちゃぐちゃに書き殴られた地図を解読したリュウイチがため息混じりに言った。

 しかし、そんな疲れ顏の少年などお構いなしにカズハは南E地区のオススメスポットを探す為スマホを取り出した。


「で、場所は分かったのか?」

「ああ……つか、お前ももう少し上手く字書いてくれないかな」

「仕方ないだろ。車内だったし」

「にしてもさ、これはひでえよ」


 そう言って、リュウイチは手に持っていたメモを示す。そこに書いてあるのは、おおよそ地図とは思えない、というより幼児の描いたラクガキの様なものが描かれていた。


「これは……読めないね」


 背伸びしそれを見たマリアスが呟く。これには、アカネも閉口せざるを得なかった。


「まあ、急いでたからな。仕方ない」

「でも、前にもこんな」


 ふぐ、と言葉を続けようとするマリアスの口をアカネは塞ぐ。


「ま、まあ兎に角、場所はわかったんだろ? だったら、さっさと行こう」


 何時もの凛とした表情を崩し、わざとらしい笑顔で彼女は言った。彼女自身も文字の汚さは十分自覚済みである。

 そんな2人の会話を聞き、「分かったの!?」とスマホ片手にカズハが声を上げた。

 瞬間、リュウイチの背後、3人の前に立つ短髪で無表情の男が彼らに声をかけた。


「藍森カズハに、マリアス・クルレイド、だな」


 その低い声に、リュウイチは振り返り、マリアスはアカネの背後に隠れた。


「"危険者"が何故外を出歩いている」


 そのワードに、4人はピクッと眉を動かす。

 込み上げる苛立ちを隠しリュウイチは、眉一つ動かさない男に訊く。


「誰だ?」

「俺は南地区SCMチームE、真木野だ」


 彼は真木野(まきの)一久(かずひさ)。SCMチームEに所属する学生である。

 ちなみに、南地区でも北地区と同じ様にSCMというシステムがある。


「へえ、南地区のねえ。で、何の様だ?」


 その挑発混じりの声にも、カズヒサの表情は銅像の様に動かない。


「先ほども言っただろう? 何故、危険者がこんな所をうろついている」

「危険者がうろついてて、何か問題でもあるのかよ?」


 その問いに、カズヒサは低い感情のこもっていない声で続ける。


「大有りだ。危険者は、本来学校以外では自宅に居るのが普通だ」

「初めて聞いたな、そんな事」


 当然、その事をリュウイチは知っていたがあえてここでは初耳の振りをした。


「でも、かれこれこうなって1年ぐらい経つが、注意されたのはお前が初めてだぜ?」


 これも初めてでは無い。だが、今回の様に指摘されたのは最初の頃だけであり、それ以降は全く何も言われていない。そもそも、何か言われていれば、こうやって問題解決屋など出来ない。

 だが、そんな初耳という言葉を耳にしても、カズヒサは全く引き下がる素振りを見せない。


「そんな言い訳はどうでもいい。危険者は危険者らしく家に篭っていろ」


 冷淡な口調で彼はそう言い捨てた。言っている内容こそ、"危険者"と呼ばれる者から一般学生を守る為の発言であるが、その口調からそういった意図は全く感じられない。

 悪く言えば、今の彼はルールを読み上げる機械だった。

 しかし、そうこう言われても4人は引き下がる訳にはいかなかった。

 一度受けた依頼は何がなんでも完遂する。

 彼ら4人が問題解決屋を結成した際に掲げた誓いだ。


「……なら、知り合いのSCMに聞いてみるよ。それで、ダメなら潔く家に帰る」


 ここでの知り合いとは、北地区のSCMチームBのことを指す。チームBは当然、彼らの事を知っているし、彼らの中に危険者が居る事を知ってなお問題解決屋の存在を認めている。

 しかし、この方法にカズヒサは異議を唱える。


「その知り合いとは北地区のSCMのことか? ならば、北地区のSCMが何と言っても俺は考えを改めない」


 「なぜだ?」と、ここでアカネが口を開く。


「何故なら、ここは南地区だからだ」

「それは屁理屈だろ。ここも同じ学園都市だ」

「いや、ここは学園都市南地区だ」


 駄目だ話が通じねえ、とリュウイチは息を吐く。

 なお、学園都市が北地区と南地区に別れている理由はSCMの管理が行き届く範囲として北南を合わせると広すぎる、という理由からである。

 故に、この場合ではカズヒサの言い分が正解である。


「無駄話が過ぎたな。さあ、さっさとここから立ち退け」

「……もう、話し合いではどうこう出来ないようだな」


 そう言い、怒りを含んだ目で前に出ようとしたアカネをリュウイチが制した。

 そして、彼はカズヒサに向かって深々と頭を下げた。


「頼む、信用できる材料なんて何も無いけど……それでも、こいつらは大丈夫だ。何かあったら、俺が責任を取るから」


 時間切れだ。


 深々と頭を下げるリュウイチを下目に、彼はそう吐き捨てた。

 瞬間、手を前に出そうとしたカズヒサの喉元に金属版が添えられる。


「駄目だろ、一般学生にそんな殺気出しちゃ」


 カズヒサの横、首を挟む様に開いている巨大な鋏を持ち立っている男が笑顔で言う。

 その突然現れた男に、下を向いていたリュウイチは勿論のこと、他の3人も驚きを隠せなかった。

 彼の声を聞き、やはり無表情のカズヒサは少なくとも問題解決屋の4人は気付けていない殺気を引っ込める。それを見て、男もその手に持つ鋏を消してみせた。


「悪いね、えっと……問題解決屋だったかな」


 男は変わらず笑顔で危険者の2人を見て、しかし半分はカズヒサに意識を向けながら言う。

 その、話の分かりそうな男の登場に一先ずリュウイチは胸を撫で下ろした。


「うちの真木野はルール絶対主義だからさ、まあ今回は大目に見てくれよ」


 そう言い、男はその仏頂面を崩さない、しかし何処か納得のいかない顔のカズヒサを強引に引きずって行った。


「…………」


 まるで嵐が過ぎ去った後の様な場に、4人は暫く動けずにいた。






 およそ10分後。問題解決屋の4人は、近くの公園に立ち寄っていた。


「はい」


 4人分の缶を持ったリュウイチがその中の1つの缶コーヒーを、ベンチに座り灰色の天を仰ぎ見ているアカネに手渡す。

 続けて、その横で俯き座っているマリアスにオレンジジュースを手渡した。


「あんま気にすんなよ」


 残りの2本のうちのお茶を笑顔が隠れているカズハに渡し、リュウイチは2人に向かって言った。

 その沈んでいる2人の姿は、およそ1年前に彼自身もよく見たものだった。


「わかってるんだけどさ……久々だったからか結構くるね」


 彼から缶を受け取り、依然として暗い表情でカズハは答える。

 その脳裏に映るは過去の情景。危険者となった彼女を見つめるクラスメイト達。

 カズヒサの表情はそういったものとは違っていた。しかし、その内に秘める感情は当時の彼らに近いと彼女は感じていた。

 この感情はマリアスも同じであり、寧ろ彼女の方が強くその排他的な想いを感じていた。

 数分前までの笑顔は何処へ行ったのか、3人の表情はその真逆、暗い雲がかかっているかの様だ。


「…………とりゃ!」


 パチン! 乾いた音が彼ら以外人のいない静かな公園に響く。


「さっさと用事すまして、観光しよう!!」


 両手を頬に合わせたまま、立ち上がったカズハの透き通った声が突き抜ける。

 これが、藍森カズハである。凹んでも、直ぐに立ち直る。このグループにおいて、ムードメーカー的な役割を担っている彼女だからこその前向きなキャラである。

 そんな彼女に、リュウイチも頭が上がらない。本来、この場面に置いて皆を励ますのはリーダーであるリュウイチの役目だろう。しかし、彼に彼女らにかける言葉を見つける事はできない。かといって、カズハの様に自分の元気さを周りに伝染させる力は持ち合わせていない。

 最近は滅多に無い事だったとはいえ、この状況を迎えてリュウイチは再度、元気にマリアスにE地区の人気スポットを語る彼女を横目に自身のそういった力の無さを感じていた。

 そんな、彼の少し暗い表情を見てアカネがリュウイチに語りかけた。

 

「お前にはお前の"役割"がある。あまり、全部を背負い込むなよ」


 その凛々しい声に「ああ」とリュウイチは生返事をした。


「さて、じゃあ志比君の所に行きますか」


 マリアスの顔にかかっていた暗い雲を取っ払い、アカネは彼女の手を引っ張り立たせる。


「で、どうやって行くの?」


 公園の外から再び視線を戻し言ったカズハに、リュウイチは「えっと……」とポケットからスマホを取り出した。


「そんなに遠くないんだよな……」


 「ほら」と、リュウイチは画面上に映し出された志比が住んでいるアパートまでのルートを3人に見せる。

 画面上に映し出されている地図によれば、アパートまでは今4人が居る公園から徒歩10分程度で行ける距離だった。


「へえ、降りた所が運よく近くだったってかんじ?」

「いや、そんな事は無い」


 カズハの言葉にきっぱりと彼は返す。そもそも、この場所でバスを降りたのも車内にて、リュウイチがアカネから手渡されたメモを何とか大雑把に解読した結果だからだ。


「じゃ、行きますか」


 カズハの声に、他の3人は頷き目的地に向かって歩き出した。

次回予告


「またまた、難しい質問を……」

 もう1人の想像具現使いである志比ミライに会う為、彼の住むアパートを訪れた問題解決屋の4人。後は話を聞くだけ、だった筈が事態はそう上手くはいかず……。


次回「もう1人のノウリョクシャ」

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