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Lost Story -ロストストーリー-  作者: kii
第6章 能力創り -skill creator-
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第70話 脱出 -happy end?-

「大丈夫? リュウ」


 黒い炎が消え、うつ伏せに倒れたまま動かないリュウをキョウは指でつつくも、特にリュウは反応を返さない。


「意識飛んでるみたいだね」


 アルビナを縛り終え、様子を見に来たリリアにキョウは答えた。


「リリアさんは大丈夫? ボロボロだけど」


 それに「うん、大丈夫」と、息が荒く今にも倒れそうなリリアは答える。


「それより、ここは私が見てるから早くアリスの所に行ってあげて」


 わかった、とリリアの言葉にキョウは立ち上がり扉の前へと向かい、扉に手を掛けようとする。


「キョウ!!」


 リリアの叫び声に、即座にキョウは身体を捻り視線を背後に移す。と同時に、胸の辺りに刺すような痛みを感じると共に何者かに強く押され、扉を突き破り部屋内へと押し倒された。


「なんで……」


 痛みに耐え、キョウは目の前で馬乗りになり自身の胸にナイフを突き立てるアルビナの腕に触れる。

 直後、この空間を割くような高い叫び声が両名の耳に突き刺された。


「ああ、そうだった」


 視線を上にやり、キョウはその声の主であるアリスを確認した。

 ぐふっ。

 キョウが血を吐くと同時に、アルビナの身体がリリアの拳によって吹き飛ばされた。


「キョウ! キョウ!!!!」


 涙声で悲痛な叫びを上げ、その赤い髪を揺らしアリスがキョウの元に駆け寄る。


「いや! いやああああぁぁぁ!!!」


 少女の叫び声が、部屋内の空気を酷く振動させる。

 そんな、キョウの頭のすぐ上で泣き叫ぶアリスの両頬をリリアむにゅっと抑えた。


「アリス!!!」


 リリアの呼び声に、アリスは涙ながらに彼女の方を向く。


「落ち着いて、大丈夫。あなたの能力ならキョウを助けてあげられるでしょ」

「……私が」


 精一杯の笑顔でリリアは言った。

 その言葉に、アリスは涙を拭いキョウの血で赤く染まっている胸の辺りに手をかざした。


――キョウを治す能力を。


 アリスの能力『能力創り(スキルクリエーター)』は、彼女の想いに呼応する。

 彼女のかざした手から暖かい光が流れ始める。そして、光はキョウの胸の傷の辺りを覆い始めた。

 本来、医療能力はある程度の医療知識がないと存分にその力を発揮する事は難しい。しかし、スキルクリエーターは一時的にその知識すら創り上げていた。


「ア……リス」

「キョウ?」


 手をかざしたまま、アリスはキョウの顔を覗き込む。


「ありがとう」

「…………」


 間を置き、アリスは笑顔で返した。


 リュウ!? 廊下側から男の驚きの声が不意に聞こえる。ようやく、マドカ、ユイの両名が到着したのだ。


「キョウ……」


 部屋に入ってきたマドカが呟く。


「大丈夫よ」


 と心配そうに見つめるマドカに答え、フラつきながらリリアは立ち上がった。


「あなたは?」

「私はリリア。アリスの元、世話役ね」


 敵じゃないわ、とリリアは付け加える。


「で、そちらの状況を聞きたいんだけど」


 ああはい、とマドカは研究所に来ている面子などを説明し始めた。






 一方、研究所地下1階。

 ラウリの圧倒的な力に4人はなす術もなく倒れていた。


「つまらない」


 地に伏せる4人を見下ろし、彼女は呟く。

 チッ、チッ、チッ……。

 そして、白い触手を4人の頭の上に構えた。


「ゴミは処理しないと……」


 チッ、チッ、チッ……。

 

「……??」


 遠くから聞こえる乾いた音に、ラウリは顔を上げる。静かな廊下において、それははっきりと耳にする事ができた。

 チッ、チッ、チッ……。


「あれ?」


 ふと、下を見ると先ほどまで地に倒れていた4人が跡形もなく消えていた。


「何処に……」


 辺りを見渡すも人一人いない。

 そして、気付けば音も聞こえなくなっていた。


「はあ」


 脱力したように息を吐き、ラウリはその場にぺたりと座り込んだ。




 作戦成功! 怪我を治したサヤと共に、アラタはクライム姉弟を担ぎながら廊下を走っていた。

 アラタの能力『音』は、対象の脳内に音を響かせ意識を散漫にさせる事もできる。その間に、サヤの能力を使い4人を安全な場所まで運んだのだった。


「にしても、クライム姉弟でも歯が立たないなんてね」

「まあ、そんな気はしてたけどな」


 ラウリと初めて対面した時の感覚を思い出しながら、アラタは答えた。






「ふう……おわったよ」


 かざしていた手を戻し、額の汗を拭ってアリスは言った。


「ありがとう」


 ゆっくりと上体を起こし、アリスの方を向いてキョウが言う。


「そして、迎えに来たよ」


 その言葉に、アリスは涙を浮かべ勢いよくキョウに抱きついた。


「ごめんなさいぃ、わたしのせいでぇ!」


 キョウの中で泣きじゃくり、アリスは治療中我慢していた想いをぶちまける。


「いいよ。これは、僕が弱かったせいだから」


 アリスの背をさすり、キョウは優しく言った。

 そして、暫く少女の泣き声が静かに部屋に響いた後に「そろそろ行こうか」と、マドカから話を聞き終えたリリアが2人に言った。


「そうですね」


 キョウは、そう返してふらふらと立ち上がる。


「じゃあ、リュウは俺がおぶってくんで」


 えっとリリアさんは、とマドカは彼女の左脚に目を移す。先ほどからの動きから、リリアが脚に怪我を負っているのは容易に読み取ることができた。


「私は大丈夫」


 と、皆に心配をかけまいとリリアは言うも、彼女自身はとても例え歩くのさえ困難な状態だった。


「大丈夫じゃないでしょ」


 と、先ほどまでリュウの所にいたユイが部屋に入ってくる。そして、その手でリリアの左脚に触れた。


「何を」

「じっとしててよ」


 ユイが行っているのは、彼女が人造能力者戦にて使用した痛みを拒絶する力である。彼女は、その力を他者に対しても使えないかとあれから色々と試行錯誤をしていたのだ。


「痛みがひいていく……」

「動かしづらいでしょうけど、まあこれで何とかなるでしょ」


 完全に痛みがひき、リリアは不思議そうに脚を動かす。


「ありがとう」


 リリアの面と向かってのストレートな言葉に、思わずユイは顔を逸らした。


「じゃあ、行くか」


 廊下から、リュウをおぶったマドカが言った。






 一方、地上ではアラタとサヤによって運ばれて来た4人をルナが汗を流し治療していた。


「さて、もう一回行くか」


 腕を伸ばし、アラタはユーリが作った穴に入って行こうとする。


「待って、私も」


 息を切らして付いて行こうとするサヤを、アラタは制止する。


「今回は俺一人で行く。つか、お前ボロボロなんだから休んでろよ」


 でも、と反論するサヤを無視しアラタは手を降りながら穴の中へと入って行った。


「ボロボロなのは、あんたの方でしょ」


 そんなアラタに、前を向いたままルナはボソッと呟いた。






 どうやって上に上るの? 多分、上りもミリアの能力でも使うんじゃね。などの言葉を交わしながら、キョウ達は地下1階に辿り着いていた。


「取り敢えず、人がいないのは助かったね」


 治療に体力を使い果たしたアリスをおぶりながら、キョウが言う。地下5階から階段で地下1階に辿り着くまでの間、人一人出会う事はなかった。


「"今まで"はね」


 そう言ったマドカの視線の先には、十数人程の研究員達が待ち受けていた。


「キョウ、ここは俺が何とかするから、あっちの道から進んでくれ」


 そう言って、マドカは研究員達のいない方の道を示した。


「私も戦う」

「いや、この先にも研究員が居るだろうから、ユイも先に行ってくれ」


 でも、とユイは反論しそうになるもぐっと堪え「分かったわよ」とマドカからリュウを受け背におぶった。


「大丈夫なの? あなた1人で」

「一応、アビリティマスターなんで。なんとか」


 マドカの答えに、リリアは驚き納得し「頼んだわ」とユイの後にキョウと共に走っていった。

 

 別の道を走っていったユイ達を追う為、襲いかかって来た研究員の1人をあっさりと倒し、「さて」とマドカは全身に電気を帯びた。


「急いでるから、容赦はしないんで」


 そして、十数人の研究員に単身突っ込んでいった。




 ……暫く走った所で、ようやくユイ達は最初に研究所に侵入した部屋に到着した。


「これって」


 部屋の中央部には、ユイ達が研究所内に移動する為に使用したミリアの能力『次元通路』により作られた光の入り口ができていた。


「これは?」

「ここに入れば、地上に出れるわ」


 そう言って、ユイはリュウをリリアに預けた。


「私は見張ってるんで、お先にどうぞ」


 ユイの言葉に甘え、リュウをおぶったリリア、そしてアリスをおぶったキョウが順に光の入り口へと入って行った。

 キョウが入った所を確認し、ユイはマドカの元に戻ろうとする。


「おっ、いたいた」


 と、ここでマドカとアラタが部屋に入ってきた。


「早かったわね」

「まあな」


 腕を組むユイに、マドカは少し顔を背けて言った。


「じゃあ、行くか」


 そして、アラタ、マドカ、ユイは順に光の入り口へと入って行った。











 翌日。SCM本部にて。

 平日にも関わらず、マモルは報告の為の資料を作成していた。


「しかし、悪くなったなあ」


 キーボードをカタカタと打ち鳴らすマモルを横目に、ソファーにどっしりと構えたカズオが言う。


「あなたもでしょ」

「俺は元々悪だよ」


 微笑をこぼしカズオは答えた。

 今回、アラタが持ち帰った資料を元にし、カズオは上層部にアリスの人権を無視した人体実験を繰り返していた研究所を摘発させていた。


「で、今回怪我人は誰が出た?」

「そうですね」


 ふう、とマモルは一旦キーボードを叩く手を止める。


「病院には、アリスを逃がしたリリアさんとリュウ君。ミリアも一応入院しなきゃだけど、本人が拒否してましたね」

「ほう、うちの息子は頑張ったか」

「人造能力者、氷結魔、そして今回の事件。リュウ君、よく事件に巻き込まれてますね」

「俺のせいじゃないぞ。たまたまだ」

「誰も慶島さんの事は言ってませんよ」


 そう言って、マモルは再びキーボードを叩き始めた。


「じゃあ、俺はそろそろ行こうかね」

「リュウ君のお見舞いですか?」

「いやいや、それはリュウの友人達に任せるよ」


 そう言い、カズオは立ち上がり軽く伸びをしてから部屋を出て行った。


「そろそろ、お昼か」


 画面上の時計を見て、ふとマモルは呟いた。

次回予告


「怪我が治ったら、皆で遊びに行こうか」

 リュウとリリアのお見舞いの為、アリスを含めレイタ達は病院に来ていた。


次回「現実と悪夢の境界」

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