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Lost Story -ロストストーリー-  作者: kii
第6章 能力創り -skill creator-
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第68話 危機 -unknown-

 恐怖の枷からいち早く抜け出したのはサヤだった。彼女は、数メートル先のラウリを視界に捉えたまま即座に撤退を選択し、能力『超能力』により視線を敵に向けたままのミオとユミを動かす。

 それに、ようやく我に帰ったカナエも前を向いたまま後退を開始した。


「逃げないで」


 ラウリが手を前に出した瞬間、サヤ達の後方を炎の壁が遮る。


――逃げられない……。


 相対するだけで、ここまで圧倒されてしまう敵を相手に勝てる確率は低い。まして、今はSCMでないミオとユミを守る事を最優先にする必要がある。この状態で、低過ぎる確率を持ってして敵に挑んで行くのは馬鹿のやることだった。だが、逃げるといっても隣の壁を破壊したり、炎の壁を突破してもラウリから逃げ切ることは恐らく困難である。

 そんな、重大な選択を迫られている彼女達をあざ笑うかの様に、ラウリはその所々外側に跳ねた銀髪を揺らしながら不気味な笑みを浮かべゆっくりとサヤ達の方へと歩き始める。

 少しずつ狭まっていく距離。サヤは脳みそをフル回転させ最も正しい選択を導き出そうとしていた。


「サヤ先輩」


 そんな、冷や汗をびっしょりとかき青ざめているサヤを心配しカナエが声をかける。私もいます、1人じゃないです。そういったカナエの思いが、気持ちとして確かにサヤに届いていた。


「ありがとう」


 灼熱の壁を背に、サヤはようやく1つの決断をした。


 戦おう。それで負けたら、もう仕方無い。


 逃げれぬなら、潔く戦おう。サヤは、ラウリに目線を向けたままユミとミオに話し掛けた。


「勝つよ」


 戦う以上、負けるつもりは無い。サヤの力強い言葉に、ミオとユミはようやくちゃんと敵の方を向いた。


「スキルバースト!!」


 サヤとカナエは、同時にスキルバーストを発動した。






「本当にこっちであってんの??」


 マドカとユイは、その後階段を見つけ一旦地下2階で降り、そのまま地下2階を捜索していた。


「多分」

「多分!?」


 先頭を走るマドカの適当な答えに、ユイは思わず声を高める。

 マドカ自身も、かなり適当に当てずっぽうで廊下を曲がり進んでいた。とにかく、さっさとリュウ達を見つけミリアの所へ戻らなければならない。数刻前に聞こえた爆発音の事もあり、それが余計にマドカの焦りに拍車をかけた。


「ねえ、一旦上に戻らない?」


 ユイの言葉に、マドカは一旦足を止め振り返った。


「なんで?」

「さっきのあれ、何か嫌な感じがするから……」


 その爆発音の後に感じた、異様な感覚。階段を降りる際にそれを感じたからこそ、2人は地下2階で降りたのだ。


「それは、上の人に任せよう。とにかく、今はリュウ達を見つけて、それから上に早く戻ればいい」


 マドカの言葉にユイは渋々納得が、依然としてその顔からは不安が伺えた。


「大丈夫。みんな強いから」


 強い。マドカ自身も、今はその自分で言った言葉だけを信じるしかなかった。


「そうだよね、みんな強いもんね」


 その顔から、まだ完全に不安は取れてはいない。だが、ユイはミリアを信じたように、今は仲間を信じる事にした。


「大丈夫」


 小さく呟き、不安を押し込みマドカは再び前を向いた。






 それでも、強い彼女らでもラウリの敵ではなかった。


「はあ、はあ、はあ、はあ……」


 ラウリの能力は『五属性』と『分身』。前者は、カナエの能力である火、土、水、風を操る『四属性』に雷を足した能力であり、後者は文字通り力を割りラウリ自身を増やす能力である。更に、これらに加えてラウリはもう2つ程能力を持っていた。


「弱い」


 地に倒れ伏すサヤ、カナエ、ユミの3名をまるで飽きたおもちゃの様にラウリは見下げる。

 戦闘中は、その固まった表情を崩しひたすらに楽しんでいたが、1人また1人と倒れていくにつれその顔から笑顔は消えていき、最後の一人が倒れた際にはその顔は失望の色で染まっていた。

 そんな彼女を視界に捉え、ただ1人立ち上がったミオは身体中を襲う震えを抑え息を切らしていた。


「アビリティマスター?」


 彼女の何でもない一言が、更にミオに恐怖を与える。

 殺される。死ぬ。助けて。助けて。

 考えてはいけない言葉が、彼女の心の奥から次々と止めどなく溢れて出す。


「私の質問に答えてよ」


 震えるのミオの元に近づき、ラウリは彼女の頭を片手で掴み上げた。


「あなた達が弱過ぎるのが悪いんだよ?」


 ドン、ドン、ドン、とラウリはミオの頭をそのまま壁に何度も打ち付ける。


「なんで、そんなに弱いの? 教えてよ。なんで、そんなに弱いの?」


 ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドンドンドンドンドンドンドンドンドン……。

 怒りをぶつける様に、ミオは背から壁に何度も何度も打ち付けられる。

 そして、何度目かの激突の後、飽きた為にラウリはミオを頭から床へと、子どもが怒りからおもちゃを床に叩きつける様にぶつけた。

 血塗れの頭。ううぅ……という呻き声だけがミオの口から漏れ、それがラウリの苛立ちを更に高めた。


「もういいや」


 ラウリの手に電撃が走る。そして、その手を倒れ動かないミオの方へと向けた。


「じゃあ、ね?」


 突如痛みと共に反転する視界。次の瞬間、ラウリの身体はは横に向きに床に激突した。


「危ねえな」

「ギリギリセーフだね」


 その声に、サヤは意識を取り戻しその声の方へと顔を向けた。


「ユーリ、アラタ……」


 そこには、ユーリとボロボロのアラタ、そして……。


「私もいるよん」


 赤髪の少女、SCMチームBアイリス・クライムが立っていた。


「なんで、ここに……」


 驚きの表情のサヤに、「いたた」と頭をさするラウリを視界に捉えたままアイリスが答える。


「マモル君が頑張ってくれたおかげで来れたんだよ」


 後、ルナちゃんとマヒロも居るよ、とユーリは付け加える。なお、ミリアは外で待機しているルナに治療してもらっており、SCMチームEである新谷マヒロはその護衛をしている。


「にしても、酷いやられ様だね」

「まあ、強そうではあるけどな」


 アラタは、ようやく立ち上がったラウリを見て、再び視界をサヤに戻した。


「じゃあ、俺が連れてくわ」


 と、ここで「私はまだ戦えます」と先ほどまで気を失っていたカナエが立ち上がった。


「無理しなくていいよ、カナエちゃん」

「大丈夫です!」


 アイリスの言葉を吹き飛ばす様に、カナエは答えた。


「じゃあ、3人?」

「私も、まだいける」


 拳を突きたて、ユミも立ち上がる。


「サヤは?」

「いける、って言いたいけどね」


 そう言って、サヤは垂れ下がった腕を目で示した。


 「じゃあ、2人だな!?」と、ここでラウリがアラタに一瞬で間を詰め殴りかかるも、それをアラタは寸前で避けて見せた。


「じゃあ、後は頼む」


 直様、ミオとサヤを抱きかかえアラタは炎の壁があった所に向かって走り出すが、「逃がさないよ」とラウリも電気を走らす右手を前に出す。


「君はこっち」


 しかし、アイリスの蹴りがそれを阻止しラウリに間を取らせた。


「さてさて、我が弟君。腕はなまってないかね」

「いやいや、姉さん。寧ろ、あったまってるよ」


 クライム姉弟。2人は血の繋がった姉弟であり、双子である。そして、2対1ならSCMに2人を倒せる者はいなかった。そう、あの一二三マモルでさえも。

 そんな2人のコンビネーションを知っているからこそ、カナエはユミと共に後方支援に回った。当然、まだ痛みが引いてないのも理由の1つではある。


「君たちは強いの?」


 ラウリの問いに「どうかな?」と2人は同時に答えた。


「そう。じゃあ、今度は失望させないでね」


 落ち着いた声で言い終え、ラウリはその背から先端が丸くかつ何も付いてない、タコの足のような白い触手を幾つも出現させた。

 これこそが、ラウリのメイン能力『白キ触手』。その名の通り、真っ白の筒の様に丸く、柔らかい触手を自身の身体(主に背)から発生させる能力。そして、それは自由に硬質化させる事ができた。


「何あれキショ」


 ラウリの背後でうねうねと不規則に動く白き触手。それは、4人の目にはとても柔らかそうに見えていた。その白さもあって、まるでマシュマロのような柔らかさを持っていると感じられた。


「ただの触手じゃないだろうけどね」


 そんな共通の考えを払拭させるように、ユーリが呟く。

 油断大敵。ある程度は慣れたが、まだまだラウリから発せられるプレッシャーはその場の空気を痺れさせていた。


「じゃあ、いくよ」


 アイリスの合図と共にユーリ、アイリスの両名が、同時にスキルバーストを発動しお互いにある程度の間を開けてラウリに向かって走り出す。


――劣化共鳴!!


 そして、ユーリ、アイリス共に銃を精製した。

 『劣化共鳴』。それは、ユーリとアイリスの持つ第3の能力であり、それぞれ互いの持つ能力を互いに使用可能にさせる能力である。つまり、今ユーリの能力『武器作成』をアイリスも発動した、という状況だった。本来、武器具現化系能力で作り出した武器は発動者以外が触れれば崩れてしまう。だが、劣化共鳴によってアイリスも武器作成を使えるようになり、彼女も武器を作り扱う事が可能になった。なお、この能力の共有のおかげでユーリはアイリスの能力『衝撃』も扱えるようになっている。

 そして、劣化共鳴は"能力の共有"の他にも"思考の共有"も可能にしていた。


――先ずは、壁で退路を絶つ!


 アイリスの指示に、ユーリは壁を触りラウリの直ぐ後ろに土の壁を作り出す。しかし、それにラウリは全く動揺しない。


――そして、遠距離攻撃で様子見!


 ユミ!! アイリスとユーリの合図に、ユミは衝撃を固めた玉、衝撃弾を作り出し2人の間から見えるラウリに向かって構えた。

 ヒュン。

 空気を裂く音と共に、衝撃弾がユミのその右手から放たれる。それは、プロ野球選手の投げる豪速球のように真っ直ぐ、動じず立ったままのラウリへと向かって行った。


――さあ、どうする?


 ドカン! 耳を裂く爆発音と共に、ラウリの眼前で衝撃弾が弾け飛んだ。

 ……煙が止み、白い触手で前方全てをガードしたラウリが現れる。白い触手には、傷一つついてはいなかった。


「うーん、硬いね」


 白い触手が再び彼女の背後に下がり、無傷のラウリが姿を現れる。なお、ラウリはアイリス達がくる前にもユミから衝撃弾を受けているが、その時は素直に避けていた。


「キツイな」


 アイリスは、廊下の中央に立つラウリを見て呟く。廊下の縦横の広さは一般的な学校の廊下とほぼ同じ。恐らく攻撃にも使えるであろう触手を避け、かつ敵に攻撃を与えるのは至難の技だった。


「あれは、伸縮するね」


 ユーリの言葉に、アイリスも頷く。


 上手く外に誘導するべきか。少なくとも、この場で彼女に勝つ事は不可能に近いと、アイリスは算段した。


――取り敢えず、できる限りやってみますか。


 そうだね、とユーリも呟き再びラウリに向かうべく脚に力を入れた。






 タッ、タッ、タッ……。

 研究所地下5階。リュウ、キョウ、リリアの3人は特に苦戦する事なく研究員達を倒し、アリスの居るであろう部屋へと向かって走っていた。


「さっきの音も気になるし、さっさとアリスと一緒に上行かねえとな」

「そうだね」


 戦闘中に上の方から聞こえた物が崩れる音。ガルマが床を叩き壊した音だが、リュウとキョウは自然と自分達を助けにきたであろうレイタ達の事を頭に浮かべていた。


「だったら、急がないとね」


 既に、リュウ達の仲間が助けに来てくれるかもしれないと聞いていたリリアも頷く。と、ここでようやくその部屋が見えてきた。

 「あの部屋」と、リリアが言ったと同時にその部屋の扉が開いた。


「……アルビナ」


 部屋から出てきた人物に思わず足を止め、リリアは呟く。それに、続いて後ろからついて来ていたリュウとキョウも止まった。


「もう会う事は無いと思っていたよ。リリア」


 黒く長い髪をそよがし、スーツ姿のアルビナ・アウリアスは笑みを浮かべて言った。

次回予告


「本当、何やってんだかね」

 あと一歩の所で立ち塞がる、監視役アルビナ。彼女の圧倒的力を前に、一人また一人と倒れていき……。一方、クライム姉弟はラウリを相手に予想以上に善戦するが……。


次回「再開 -flying bird-」

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