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Lost Story -ロストストーリー-  作者: kii
第6章 能力創り -skill creator-
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第64話 異界 -another world-

 11月24日、日曜日。時刻は8時。

 レイタ達は、SCM隊長室にてマモルに昨夜の出来事を話していた。


「そうか……それが真実か」


 来客用のソファに座るレイタ達を前に、マモルは腕を組んで考え込む。

 マモルが、友人であるレイタの言葉を信用しない理由はない。加えて、最初からこの事件は不可解な事ばかりだったこともあるだろう。彼は、直ぐにレイタの言葉を信じた。


「それで、今すぐにでも助けに行きたいんだが」

「異界にか?」


 レイタは頷く。

 アリスを誘拐したのは、恐らく研究所の者達。なら、助けに行くなら異界だった。当然、レイタも100%そうとは言い切れないのだが、どこか焦りが彼の決断を急がせていた。


「分かった。俺たちも出来る限り手を貸そう」

「あれ? SCMって動けないんじゃ」


 ミオが不思議そうに言う。アリス失踪事件が表向きにはまだ解決していない為、SCMはそれ以外の非公式の事件に手を貸す事が本来ならできない。


「まあ、俺たちは信用があるからな」

「どういう事だ?」


 マモルの言葉に、レイタは首を傾げた。


「俺たちを監視してる奴は少ないって事だよ。つまり、チーム単位では無理だが、個人単位ならある程度こちらも人を出せる」

「大丈夫なのか?」

「ああ。結局のところ、一番監視されてるのは俺だから、俺さえ変に動かなきゃ問題はない」


 少し悔しそうにマモルの言った。彼の言うとおり、上層部の監視はいい加減である。今回、研究所側が上層部を通してSCMに協力を仰いだのは当然SCMを縛る目的だが、頼んだ研究所自体もそこまで期待はしてなかった程だ。

 と、ここで「さて」とマモルは切り返す。


「この中で、異界に行くメンバーは誰だ?」


 その言葉に、間髪いれずにミオが手を上げた。


「全員です!」

「うーん、そういう訳にもいかない」


 なんで!? というミオの言葉にマモルはため息をつく。


「異界は危険な所だ。それに、あちらの本場の能力者は想像以上に強い」


 それに、敵は大人だ、とマモルは付け加えた。

 でも、と反論しようとするミオを制し、レイタが立ち上がる。


「……俺は行かない。行っても、足でまといになるだけだろうからな」


 皆の方を向きレイタは言った。その表情からは、ほんの少し悔しさがにじみ出ている。

 いくら、人造能力者戦を通して異界の者と戦った経験があるにしても、それは自分であって自分ではない。もし、またあの状態になったら、と考えるとレイタは仲間と共に戦う事は出来なかった。


「分かった。他には?」


 マモルは皆を見渡す。それに、少しの間を置いてからショウイチが手を上げた。


「俺も……悪いけど」


 ショウイチは弱々しく続ける。


「怖かったんだ。あいつらを見て、離れてたのにな」

「それが普通だよ」


 マモルがフォローする。


「怖くて当然だ。その上で、自分が奴らと戦えないと思ったら、今ここで名乗り出て欲しい」


 その言葉に、少し考えた後「私も」とヤヨイは手を上げた。


「私も行けない……あの人たちと戦うって思っただけで震えるから……」


 ヤヨイの言葉に、レイタは少し安堵した表情を見せた。本当は、そう考えてはいけない。しかし、心の何処かでそれを歓迎する自分がいた。


「他の皆はどうする?」


 マモルの言葉に、残りのミオ、ユミは「大丈夫」と強く頷いた。


「そうか、じゃあ後は」

「マドカとユイだな」


 レイタは立ち上がり言った。


「じゃあ、今から1時間後に出るから。それまでに、聞いといてくれ」


 そう言い、マモルは携帯を取り出し「それまで、ここに居ていいから」と隊長室を出て行った。


「……先ずはマドカ」


 レイタは携帯に耳を当てた。






 約束の1時間後。時刻は9時過ぎ。

 隊長室には、先ほどまで居た5名と今回の奪還作戦に参加する事を決意したマドカ、ユイ。

 そして、SCM側から参加するチームAに所属する音有アラタ。チームBに所属する、幼い顔立ちの少年ユーリ・クライム。チームCに所属する、剣を背中に背負っているミリア・ラドルフ。そして、チームDに所属する堂巳サヤの4人に加え、マモルの妹であるカナエ。以上が各々楽にしていた。


「いいのかよ、隊長の妹が参加して」


 カナエを横目に、レイタがマモルに耳打ちする。


「何とかするさ。それに、本人の強い希望だからな……それに、そろそろ実践経験もさせたいと思ってたし」

「……まあ、大丈夫ならいいんだけどな」


 しかし、とレイタは周りを見渡す。SCMだけで5人。人数もそうだが、チームAから人が出せる事がレイタにとっては驚きだった。


「よく、チームAから出せたな」

「言ったろ? いい加減だって。それに、半日程度なら大した事ないさ」


 それに上層部には"こちら側"も居るしな、とマモルは頬を緩める。


「マモル」


 アラタの低い声に、マモルは皆を自分の方に向かせた。


「今回の作戦は至って単純だ。攫われた者を救出する。それ以外は、基本的にはしなくていい」


 マモルはSCM組、アラタの方を向く。


「お前らはSCMとして、他の皆を守る事を優先しろ。怪我1つ負わせない気持ちでな」


 そう言って、マモルは次に一般生徒組、レイタ達の方を向いた。


「お前らは、戦闘はSCMに任せて3人の奪回に集中してくれ。特にアビリティマスターの2人以外な」


 そして最後に、とマモルは改めてここに居る皆全員を見渡す。


「このチームのリーダーはアラタ、副リーダーはサヤに任せる。基本は、この2人の命に従って欲しい」


 ここで、マモルは一呼吸置いた。


「最後に……絶対に3人を奪回してくれ。そして、今回満足に手を貸せない俺たちSCMを許してくれ」


 マモルは深々とレイタ達に頭を下げる。そして、「無茶はするなよ」と最後に皆に言った。






 異界。何処かの研究所内の牢屋にて。

 リュウとキョウは、眠たそうに瞼を閉じたり、開けたりしていた。


「お〜い、ここから出せえ〜」


 覇気のない声でリュウは牢屋前にいる白衣の男に言うも、男は全く反応しない。


「くそぉぉ……能力さえ使えれば」


 リュウは、背後に回された両手首に巻かれた手錠を地に擦り付けカチャカチャ鳴らす。

 能力封じの石。それは、異界でのみ取れる鉱石で触れた者の能力を封じる力を持っていた。それゆえに、SCM地下刑務所や学生が一時的に学園都市から外に出る場合などに、手首輪などの形に加工され使用される。なお、その頑丈さも売りの1つで一度加工すれば基本的には破壊出来ない。


「まあまあ、今はぼやかず寝ちゃおうぜ」


 目に見えて焦りの色が見えるリュウに対して、キョウは逆にその表情に余裕すら伺える。


「お前はなあ……まあ、焦ってもしゃあねえけど」

「そのうちレイタ達が助けにくるだろう? だったら、その時まで体力回復しとかなきゃね」


 お休み、とキョウは腕を組み壁に背を預け目を閉じた。


「……俺も、お前みたいに余裕が欲しいよ」


 といっても人間睡魔には勝てず、リュウも何時の間にか眠っていた。






 こちら、つまり地球側から異界に行く方法は証明書すら取得できれば後は専用の"道"を通るだけで簡単に行く事ができた。その"道"とは、物質移動能力を自動的に24時間365日発動し続ける土の集合体である。

 先ほど上げた『能力封じの石』もそうだが、能力は本来人の中に発現するが、稀にこういった物質に発現する事もある。能力封じの石なら強い"能力封じの能力"を鉱石の集合体が発動している事になる。

 そんな異界への道が、この世界には幾つも存在していた。それが見つかったのは異界との交流が始まった後、今から数10年前と最近の事である。そして、その道は世界各地、少なくとも大きな国には1つ以上存在していた。ちなみに、日本には学園都市近くと1つ、九州に1つの計2つの道がある。




 そんな、2つある内の学園都市に近い方から奪回チーム9名はレイタ達に見送られ異界へと入った。


「ここが……異界」


 異界については授業で習う、それに写真もネットなどで簡単に見れる為、異界がどういう世界か彼らは十分に理解していた。しかし、頭の中で思い浮かべる異界と実際に肌で感じる異界は大きく、主に雰囲気が剥離していた。

 厚く暗い雲が、見渡す限りに空を覆い尽くし今が昼か夜かを分からなくする。そして、見渡す限り地面が枯れ果て緑一つ見受けることは出来なかった。


「例えるなら、世紀末」


 サヤの例えは間違っていない。現に、この世界は終わっている。もう、再生することはない。そう、この世界に調査に来た学者は皆口を揃えて言ったのだ。


「さっさと行くぞ。俺たちの目的はアリス達の奪回だ」


 そう言い、アラタは呆気に取られる皆を先導する。

 本来、敵の居場所が分からない場合は探知能力が使える能力者を連れて行くのだが、今回それが使えない為にユーリの能力「土」による地面探知により地下にある研究所を見つけ出す方法を彼らは取った。


「にしても……何というか、空気が重いというか」


 歩を進めながら、周りの景観を見てミオが呟く。


「ここは、元戦地だからな……幽霊でもウヨウヨしてんだろ」

「えっ!? そうなの??」


 アラタの言葉に、ミオはその目をキラキラとさせる。逆に、ユイはビクッと身体を震わせ辺りをそわそわと見渡した。


「ミオは幽霊とかは大丈夫なタイプ?」

「寧ろ、お話とかしたいと思ってるくらいだよ」


 サヤの問いに、ミオは興味深そうに辺りを見渡しながら答えた。


「そういや腹減ったな」

「朝食抜いたのか?」


 その後、この雰囲気に、この殺風景に慣れたのか、たわいも無い話をしながら彼らはひたすら前に向かって歩き続けた。

 そして、その光景をアリスらを攫った研究所の者たちは画面越しにしっかりと見ていた。そして、その事を知りながらもアラタはあえて何も言わなかった。




 歩き続けること数10分。そろそろ話題も尽きて来た矢先、奴は現れた。白衣に身を纏った巨漢。おおよそ、見た目が白衣でもなければゴロツキのようにも見える悪い顔つきの彼は、アラタ達を視界に捉えるなりニヤリと頬を緩めた。


「サヤ、こいつは俺がやる」


 他の皆が、一瞬の緊張に包まれた中ただ1人、アラタは男を見たままそう言った。


「いけるの?」

「ああ。さっさと倒して直ぐに追いつく」


 約1年の付き合いから、サヤはアラタが敵の強さを感覚的に判別出来る事を知っていた。だからこそ、今回も素直にサヤは彼の言葉を信じた。


「皆、走るよ」


 当然、それはカナエを含めた他のSCMも同じだが、それ以外のミオ達は違う。しかし、サヤの声やアラタの敵を見る目つきから、反論しそうになった者は言葉を抑えサヤの言葉通りに行動する事にした。


「今から5秒後、あいつを大きく避けるように動いて」


 早口に言ったサヤに、各々静かに頷き足に力を込める。


「1、2、3、4」


 ゴッ! サヤの言葉と同時に皆が、そしてその1秒後にアラタが、それぞれ動いた。


「!?」


 その行動に、相手はただのガキだと聞かされていた巨漢は驚き行動が遅れてしまう。

 それぞれ、左右に散って行く者の中ただ1人自分に向かってくる。この場合、自分はどう動くべきか……彼の場合、決まっていた。


「!!!!!!!!」


 この上ない笑みを浮かべ、肉体派の巨漢バジル・リガレスは真っ直ぐ迷うことなくアラタに向かって突進した。

 バジルのその行動に、アラタも笑みを浮かべる。もし、彼が左右に別れた内のどちらかを追ったとしても止められる自身はあったが、自分に向かってくるならそれに越したことはないからだ。

 しかし、アラタの笑みのわけは上記の理由以外にも『久々の容赦しなくてもいい戦い』というのもあった。強者の悩み。強過ぎて敵がいない。しかし、今回は何も調節しなくていい。相手に怪我を負わせても大丈夫。

 マモル譲りの弱い戦闘狂が、今の彼からクールさを取り除いていた。






 ドゴン!! 重い低い音が後方から聞こえ、ようやくミリアは足を止める。その音の大きさから、アラタとの距離が大分空いた事を物語った。


「はあ、はあ、大丈夫なの? おいてきて」

「大丈夫。あいつは敵の強さが分からない奴じゃないから」


 息を切らしユイが訊くも、全く息を切らしていないミリアは即答する。


「ミリア、はあ、げふっ、はあ、飛ばし、すぎ、げほっ」


 遅れて着いた、肩で息をする少年のような顔つきのユーリが顔を紅潮させ言った。


「……今考えると、少し飛ばし過ぎたかもしれない」


 ミリアは、後方から走ってくる人影を見て言った。


「ねえねえ! ここ砂漠だよー」


 後方からの声に、ミリアは驚き振り返る。なんと、数メートル先でミオが手を振り立っていたのだ。


「何時の間に……」


 ずっと前を向いて走って来たミリアは、道中誰の姿も確認していない。つまり、自分が先頭を走ってると思っていたのだ。


「あれが、アビリティマスターの実力かー」


 息が整ってきたユーリは言って、ミオの方へと歩き出した。


「ミリア、飛ばし過ぎ」


 遅れてきた皆を引き連れ、サヤがようやく到着する。しかし、ミリアは前を向いたまま特に言葉を返さない。

 それを少し不思議に思ったサヤだが、直後のユーリの言葉でそのままサヤもミリアに何も返さなかった。


「見つけたよー」






 一方、アラタは膝を付くバジルを前に笑みを浮かべていた。


「どうだ? 俺の"音"は」

次回予告


「これが俺の能力だよ」

 遂に研究所を見つけたサヤ達は、地下にある研究所へ入る方法を模索する。一方、アラタはその圧倒的強さを如何なく発揮していた。


次回「能力 -ability name “sound”-」

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