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Lost Story -ロストストーリー-  作者: kii
第5章 日常(10〜11月)
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第57話 浮かぶ幼精

「プールに行こう」

「…………」


 昼休み。リュウの唐突過ぎる発言に、レイタは直ぐに次の言葉を返せなかった。


「プ、ウ、ルに行こう」

「いや、聞こえてるから」


 季節は秋。しかも、もうすぐ冬だ。といっても、学園都市には屋内プールもあるので季節はあまり関係はないが、それでもこの時期にプールに泳ぎに行く生徒は水泳部くらいのものだった。


「なんでプール?」

「気分だよ」

「お前は、気分でプールに行くのかよ……」

「気分が乗らなきゃ、プールに限らず何処か行こうとは思わないだろ」

「……ごもっとも」


 はあ、とレイタはため息をつく。


「で、放課後か?」

「おう、ついでに適当な奴誘って行こうぜ」

「誘って着いて来る奴は少ないだろうな」


 という事で、リュウとレイタは放課後屋内プールへと行く事になった。

 なお、この時点でリュウの頭に女子を誘うという考えは全く無かった。それは、何故かは本人も含めて誰も知らない。






「来たぞお! プール!!」

「おおおう! プール!!」


 屋内プールは、2地区に1つの割合でそれぞれ屋外プールと併用で建って居る。北地区の場合A、D、F地区にそれぞれ建っていた。

 屋内プールには、遊具などは無い大きな円状の流水プールと競技用のプールの2つのプールがある。屋外プールも同じだが、滑り台などの遊具が設置している。

 ちなみに、当然ながらこの時期は屋外プールは開いてない。


「テンション高けえよ」


 帰宅部とは思えない細マッチョなレイタが、先にプールインしたリュウとショウイチに怠そうに言う。


「まあ、いいんじゃない。折角貸し切りみたいなもんなんだしさ」


 レイタの背後から、これぞ帰宅部といった感じの身体つきのキョウが眠そうに言った。


「おおい、2人共早くこいよ」


 そこそこの身体つきだが、肌が白いリュウが手を振る。


「そうだそうだ、暖ったかいぞ」


 まるで温泉に入ってるような顔で、元運動部で肌が焼けているショウイチが言った。

 この時期、屋外プールは温水である。それでも、平日に人は全然来ない為、この時期ならば貸し切り状態に出来た。


「よっしゃ、能力でもっと暖かくしてやる」

「やめんかい」


 レイタは、そこら辺で拾ったビーチボールをリュウに投げつけた。


「なあ、レイタ浮き輪も」

「ねえよ」


 レイタは2つ目をショウイチに投げつける。

 投げ込まれたビーチボールで「おりゃー」「おらー」と、リュウとショウイチが遊び始めたので、レイタとキョウは片付けずに置いてあった椅子に腰を下ろした。


「悪いな、リュウの思い付きに付き合わせて」

「別にいいよ。昨日だったかも言ったろ? 暇潰しを探してるって」


 「そんな事言ったかな?」とレイタ。だが、こんな事でもキョウの求める暇潰しになるのだろうか。と、ちょっと考えるも、直ぐにレイタは考えるのをやめた。


「先客?」


 唐突に、後ろから女子の声がする。2人は、その小さな声のした方に顔を向けた。そこには、スク水のような薄い青色の水着を来たショートカットの少女がボーッと立っていた。


「ああ、悪いな。騒がしいだろ?」

「別に気にしない」


 そうあっさりと言って、少女はペタペタとリュウとショウイチが遊んでいるプールへと向かった。


「なんか見たことあるんだよな」


 少女の小さな後ろ姿を見ながら、ボソリとレイタ呟いた。


「ん? 誰だ?」


 リュウとショウイチの方へと向かってくる少女に気付き、リュウが言う。


「……あれは、プールの妖精だな」

「何!?」


 彼女をボーッと見つめるショウイチの呟きに、リュウはワザとらしく驚く。


「しっかし、生気の無い目だなあ」

「妖精だからな。普段はあんな感じなんだよ」


 リュウの言う通り、彼女の目に生気は無い。そして、ショウイチの言う通り肌が白く、小顔で身長も小さく、まるで水着を着た妖精の様な見た目だ。

 そんな、ショウイチから妖精扱いをされた少女は、特に彼らに反応せずプール内に入る。そして……。


「浮いた?」

「浮いてる」


 人が水に浮く事はそれほどおかしな話では無い。だが、何故か浮けない彼らにとって、目の前の少女がプカプカと自然に浮いている状況は神秘的に見えていた。


「なんであんなに簡単に浮けるんだろ?」

「あれだろ、胸に余計な脂肪が無いから」

「そんなの俺だってそうだよ」

「ショウイチは余計な胸筋があるだろよ」

「胸筋は余計じゃねえよ。つか、胸筋は脂肪じゃねえ」


 そう2人が言い合ってる傍ら、少女は寝てるようにプカプカと浮かんでいる。


「いいよな、俺も浮きたい」

「よし、やってみるか」


 と、ショウイチは彼女と同じ様に背を水につけるようにし浮こうとする。


「っぐ!」


 だが、そのまま沈み水が鼻に入ってしまった。


「ぷぷぷ、ショウイチはカナヅチか」

「っうぅ……じゃあ、お前がやってみろよ」


 鼻に水が入り涙目のショウイチの挑発を受け、今度はリュウが挑戦する。


「ぶはっ」


 しかし、やはりショウイチと同じ様に沈んでしまった。鼻の奥がチーンとする痛みに襲われ、リュウも涙目になる。

 そんな2人を見て、少女が2人の元に浮きながら移動して来た。


「浮きたい?」


 少女の予想外の、しかし少し期待していた発言に2人は強く頷いた。

 「わかった」と少女が言った瞬間、2人は身体が軽くなった感覚を得た。軽くなったというよりは、水に下から押される感覚といった方がよいか。


「浮いてみて」


 少女に言われ、2人は先ほどと同じ様にして身体を浮かせようとする。すると、今度は沈まずに身体が浮いた。


「おお……」

「あまり動かないで」


 少女に言われ、2人は身体を硬直させ水に浮く感覚に浸った。

 暫くその感覚に浸った後、リュウは少女に質問する。


「もしかして、能力か?」


 少女は静かに頷いた。と、そのやり取りを見て、ようやくレイタが少女の事を思い出す。


「お前、水野丹野か!」

「ん? 知り合いか?」

「SCMのチームAに所属してんだよ。つか、なんでA地区の水野がD地区に」


 レイタの問いに「人が多かったから」と短くニノは答える。


「いや、人が多かったから、つまりどういう」

「普段行くA地区のプールには何故か人が多かった、だからここに来たと」


 キョウの言に、うん、と子どもの様にニノは頷いた。


「へえ、じゃあプールにはよく来るのか?」


 リュウの問いにも、うん、とニノは頷く。


「そうなんだ……しかし、こんな偶然もあるんだな」


 先ほどから、ずっとプカプカと浮き続けているショウイチが言った。


「ならさ、俺の事知ってる?」


 リュウは文化祭での、SCMに会うたびに「君がリュウか」という言葉を思い出しニノに訊いた。だが、それに対する答えは「うん」ではなく無言で首を横に振るものだった。


「そっか……じゃあ、慶島っていう苗字は?」


 リュウの両親は、SCMにて働いている。という事で、苗字である慶島について知ってるかどうか訊くもニノの答えはやはり首を横に振るだった。


「そっか。一応、俺の両親がSCMで働いてんだけどな」

「えっ、マジで!?」


 プカプカと浮くショウイチが驚いた表情を見せる。ちなみに、この事を知っているのはSCMに所属している生徒とレイタだけだ。


「うん。一応、どっちも能力研究の分野で功績とか上げててさ。それで、SCMから声がかかったって感じ」


 凄えな、とショウイチは感心する。

 「まあ、こんな事はいいとして」とリュウはそこら辺をプカプカ浮いていたビーチボールを取りに行く。


「折角だし、ニノちゃんも遊ぼうぜ」


 そう言って、リュウはビーチボールをニノに向かって投げた。ビーチボールはふわふわとニノの手に収まる。


「何して?」

「鬼ごっこ」


 スタート! という声と同時にリュウは水流に沿って逃げ始める。「あっ、待てよ」とショウイチも続いた。


「いや、悪いな。めんどくさくなったら勝手にやめてもいいから」


 ボーッと逃げたリュウ達を見るニノにそう言って、レイタは再び「レイタも来いよ!」というリュウの言葉を無視し椅子に座った。


「じゃあ、僕は暇だから参戦しようかな」


 入れ替わる形で、キョウは立ち上がり少し身体を動かしてからプールへと入って行った。


「元気だねえ」


 そんなジジくさい事を呟き、レイタは自身の『水』の能力を使いもの凄いスピードで泳ぐニノに、追いかけられるリュウ達を見ていた。

次回予告


「もう、忘れちゃった?」

 カナエの忘れ物を届ける為、久しぶりにSCM本部へと来たリュウ。そこで、リュウは久し振りに母親と出会い……。


次回「幸せだっただろう?」

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