第56話 それもただの暇潰し
ルミナス・レイオート。眼鏡で金髪という日本ではあまり見ない組み合わせを持つ女子。名前がカタカナだが別に外人というわけではなく、『異界』と呼ばれるところの出身であった。
そんな彼女の趣味は、『強い能力者と戦う』こと。というわけで今回は、タッグトーナメントを制覇した覇道リュウヤと牢月ミズヤに決闘を申し込もうとしたのだが……。
「喧嘩?」
「らしいね」
昼休み。
2人の居場所を聞く為に、ショウイチの元を訪れたルミナス。しかし、そこで聞いたのは2人が現在喧嘩中という情報だった。
「なんでですか?」
「理由は知らないけどさ……本人に聞いてみれば?」
「さすがに、聞き辛いですよ」
「ですよねー」
ルミナスは今回タッグでの戦いを望んでいた為、彼女にとって喧嘩はあまり望まない展開だった。
もし、本当に2人が喧嘩中だとしてどうやって仲直りさせるか、という決闘の為の障害が発生したが、それでもルミナスはこういった状況をむしろ楽しむタイプであり、今回もいかにして仲直りさせてやろうか、と早速色々と思考を巡らしていた。
「取り敢えず、原因調査ですね」
そう言い残し、ルミナスはA組へと向かった。理由は通称「情報屋」レイタだ。
「へえ、そうなのか?」
「…………」
A組にて。レイタから発せられた言葉は、ルミナスが聴きたいものとは真反対の言葉だった。
「知らなかったんですか!?」
「ああ、初耳だ」
「……私はあなたのことを少し買いかぶりていたのかもしれません」
「……そうか」
「情報屋は自称だったんですね」
「なんでそうなる」
「情報屋というキャラ付けですか、いやしい人です」
「違う、『情報屋』は周りが勝手に」
「嘘ですね」
「断言かよ」
はあ、とレイタは一つため息をつく。本心は「早く帰ってくれ」だが、ここまで言われるとそのプライドも反応するというものだった。
「話を戻そう、ルミナスはなんでそんな事俺に聞いたんだ?」
「2人と戦いたいだからですよ」
「ああ」とレイタは納得する。決闘大好きルミナスが、何をしたいのかおおよそ想像がついたからだ。
「つまり2人の喧嘩の原因を調べて、仲直りさせたいと」
「はい……。あれ、私理由言いましたっけ」
「いや、予想した」
「おお、さすがレイタさん。もうこれからは『情報屋』ではなく『透視屋』と名乗られた方が」
「いや、だから俺が名乗ってるんじゃなくてさ……」
「まあいいや」とレイタは、教室内の時計を見る。昼休みの終わりまでおよそ10分程度あった。
「5分で情報取ってくる」
「早いですね」
「あてがあるからな」
「流石ですね。これなら、もう『情報屋』はやめて」
「行ってくる」
ルミナスの次の言葉を遮り、レイタは足早に教室を後にした。
数分後。
レイタの席にて、足をぷらぷらさせながらルミナスは待っていた。
「(5分過ぎたら、何て言ってやろうかな)」
そうこう考えているうちに、レイタが涼しげな表情で教室に戻ってきた。時間はおよそ4分といったところだ。
「宣言通りですね」
「宣言? ……ああ、そうだな」
「で、肝心の情報はどうなんです?」
「それも大丈夫だよ」
そう言って、レイタは自分の机の前でしゃがみ込んだ。
「まず喧嘩の原因だが、これはリュウヤ側にある。なんでも、リュウヤが後輩の女の子と交流があったとかなんとかで、そういうのが嫌いなミズヤが一方的に縁を切ったと」
「それは意外ですね。リュウヤさんもそういうの嫌いなんでしょ?」
「ああ。まあ、何か本人の中で変化でもあったんだろう」
「そういうものですか……」
「で、それを助長した奴がいるらしい」
「ほほう」
「崩山キョウだ」
「キョウ……、ああ、あの、確か、ええっと、あれですよね、あれ」
「ああ、それだ」
「その……、あっ! 『負荷』の能力者だ」
「能力で人を覚えてるのか」
「ええ、外見の印象より覚えやすいです」
「へえ……、まあいいか。で、どうする?」
「まずはキョウさん? に会って話をします」
そう言って、ルミナスは立ち上がり「ありがとうございます!」とレイタに丁寧にお辞儀をしてから教室を後にした。
放課後。
そもそも、ルミナスはキョウの事を全然知らないんじゃ、ということでレイタはルミナスのいるB組へと来ていた。
「ありゃ、迎えにきてくれたんですか?」
「ああ、つかお前キョウがどこのクラスか知ってんのかよ」
「そういえば、知らないですね」
「無計画だな」
「それが私ですから」
「それは直した方がいい」
そう言って、レイタはキョウの居るC組を指差す。
「折角だから、俺も付いてくよ」
「! 私を子ども扱いですか!?」
「そういうニュアンスは含んでない」
「ということは大人に見られてる!?」
「ああ……それでいいや」
レイタは、この上なく面倒くさそうな表情で答えた。
「そういえば、どういった方でしたっけ?」
「ん?」
「キョウさんですよ」
「ああ……まあ、会ったらわかるよ」
「でもですね、会う前に性格を知っておく事で」
「あれっ? レイタにルミナスじゃん」
と、先ほどまでA組に居たリュウが2人の方に向かって来る。
「リュウさんですか。タイミングの悪さにびっくりしました」
「えっ、今ダメだったのか」
「ええ、ダメダメですね」
「ダメダメなのか……」
何がダメなのかはわかっていないが、リュウはしょんぼりする。
と、そうこういっている内にC組のホームルームが終わって生徒が教室から出始めた。
「キョウー」
そんな人たちに入れ替わる形で、リュウを含めた3人は教室内へと入る。
「ん? 久しぶりな顔ぶれだね」
窓側の一番後ろの席、A組なら蓮野アイの席の場所にてキョウは帰り支度をしていた。
「キョウさんて友達いないんですか」
「いきなり、何を言い出すんだ」
「そうだよ、相手が僕だからいいけど、他の人だったら喧嘩になってたかも」
「キョウも、もっと怒っていいぞ」
「そうですね。で、お友達は」
「キョウ、こいつを殴っていい。俺が許す」
ルミナスのいきなりな発言に、レイタがもう扱いに馴れたように返す。ちなみに、ルミナスも悪気があるわけじゃなくただキョウが一人で居たから率直に思った事を言ったのである。
「で、何か用かい? 金髪メガネちゃん」
「私、こいつ嫌いです」
「それで嫌いになるなよ……つか、今回はお前が悪い」
「取り敢えず謝っとけ」というレイタの言葉に「すみません」とルミナスはキョウに頭を下げた。
「さて、本題だな」
「……ああ、そうでしたね」
「忘れてたな」
「いやだな〜、忘れてませんよ」
「お前の今の状態を『目が泳ぐ』て表すんだよ」
「? 目は泳ぎませんよ」
「…………」
ごほん、と1つ咳払いをし、レイタは本題に戻る。
「でだな、今回ここに来たのはある事を訊きにきたからなんだが」
「リュウヤさんとミズヤさんの喧嘩について教えてください」
「えっ!? あいつら喧嘩してたの」
レイタは、驚くリュウを廊下に連れ出し説明を始めた。
一方、残されたキョウはそんな事かといった具合にルミナスに説明を始める。
「あれだよね、僕が喧嘩の原因を作った的なあれでのその質問だよね」
「そうです。まったく、あなたのお陰で私は大迷惑中ですよ」
「それは悪いね。さて、取り敢えず理由について話せばいいのかな?」
「いえ、理由はもう知ってます。だから、あなたがどうして2人をこんな状態にしたか聞きたいんです」
「理由なんて聞いてどうすんのさ」
「先ず最初に気になった事ですからね」
へえ、と興味なさげのキョウ。そして、説明を始めようとした時リュウとレイタが廊下から帰ってきた。
「暇潰しだよ」
「……はい?」
「暇潰し。暇だったから、2人の関係を壊した」
「なんで、暇潰しなんかで……」
「その時、暇だったから。トーナメントも1回戦で負けちゃったし」
トーナメントも暇潰しで出たのかよ、というリュウの問いにキョウは頷く。
「ちょっと理解できません」
「そう? まあ、別にいいけどね」
他に聞く事は? と、キョウは鞄を持ちルミナスに訊いた。それに、ルミナスは首を横に振るも、レイタは帰ろうとした彼を制止する。
「本当に暇潰しか?」
「嘘じゃないよ」
そう言って、手を振りキョウは教室を出て行った。
「変な人ですね」
「まあ……なんとも言えんな」
「さて、次はミズヤさんですか」
「先ずミズヤなのか?」
「ミズヤさんの説得に成功すれば全てが上手くいくでしょう?」
「……まあ、そうか」
そう言って、2人はミズヤ、そしてリュウヤもいるE組に行こうとするが、後ろからリュウが思っていた事を口にする。
「つかさ、キョウに会った意味無くね」
2人は一瞬足を止めるも、再びE組に向かって歩き出した。
E組は、既にホームルームが終わっており教室をパッと見渡してもリュウヤとミズヤの姿は無かった。
「友達いないんですかね」
「俺は、少なくともリュウヤとは友達のつもりなんだけどな」
律儀に返すリュウ。一方のレイタは、適当な知り合いを見つけ2人がもう帰ったかどうかを訊いたがその答えは「さあ、知らねえな」と素っ気なかった。
「いま気付いたんですけど、ショウイチと同じクラスなんですね」
「そうだな」
レイタは素っ気なく答える。
「仕方ない、友達に頼んで探知してもらいますか」
「別に、また明日来ればいいだろ」
「いや、善は急げ的なやつですよ」
そう言って、タタタッとルミナスはB組へと戻っていった。
「なんつうかさ、忙しい子だよな」
「疲れた……」
人とぶつかりそうになりながらクラスに入るルミナスを見ながら、レイタはその顔にドッと疲れを表した。
数分後。
「場所、分かりましたよ」
「何処だ?」
「リュウヤさんは学校に、ミズヤさんも学校に居ます」
「もう少し詳しく頼む」
「リュウさ、じゃなくてリュウヤさんはB棟一階の新聞部? の部室に。ミズヤさんはA棟屋上にいます」
「……じゃあ、屋上だな」
「はい!」
今レイタ達がいるのは、3年の教室や特別教室などがあるB棟。A棟へは、1階と2階にある渡り廊下を渡って行く。ちなみに、3年の教室があるのは1階だ。
そして、数分後。リュウヤの元へ向かったリュウ以外の2人は屋上へと来ていた。
屋上ではルミナスの言った通り、ミズヤが落下防止の網を掴み外、運動部がちょこちょこ出て来始めている運動場の様子を見ていた。
「黄昏中?」
「そんな感じだな」
「これは、話し掛けづらいですね……」
「それは意外な発言だな」
「私は、空気は読める人です」
「今は読まなくていいぞ」
屋上に時折吹く冷たい風。日は出ているので、暖かいがその風のせいでさっさと要件を済ませたいと2人は思っていた。
先に動いたのはルミナスだった。彼女はドカドカとミズヤに近づく。
「牢月ミズヤさんですよね」
「なんや?」
一瞬「関西弁だあ」と感想を漏らしそうになるが、彼女は言葉を飲み込んだ。
「リュウヤさんと喧嘩中だそうで」
「…………」
「仲直りしてくれませんか」
「なんで、見ず知らずの奴にそんな事言われなあかんねん」
「タッグトーナメントを制したあなた方に、決闘を申し込みたいからですよ」
「そなら、リュウヤだけでええやろ」
「いやー、タッグトーナメント"の"制覇者ですからねえ。タッグで勝負して欲しいんですよ」
「断る」
即答のミズヤに、ルミナスはムッとするも抑えた。
「なら、私が仲直りさせますから、原因を教えてもらえません?」
「なんで、そないな事せなあかんねん」
「なんでって、私が戦いたいからですよ」
「えらい自己チューな奴やな」
「自己チュー? 自分でチュウ?」
「…………」
「まあ、ともかく。私は引き下がるつもりはないですよ」
そこまで言った所で、ドア越しに状況を見守っていたレイタが出てくる。
「なんや、お前もおったんか」
「なんだ、俺のこと知ってたのか」
「リュウとよく一緒におるやろ」
「ああ、それでか」
と、ここでレイタは話を戻す。
「ルミナスは本当に折れねえからさ、潔く仲直りした方がいいぞ」
「そうだそうだ、私は折れないタイプだぞー」
「正味、めっちゃウザイな……おたくら」
低い声で言い、ミズヤは作り出した剣をその手に持った。
「だーかーら、私はタッグを希望するって言ってます!」
「こうでもせな、おたくら引かんやろ」
「ああ、そっちの意味ですか」
「ルミナス、今は空気を読め」
着実に怒りの炎のその身に貯めていっているミズヤ。最早、いつ切りかかっても不思議ではなかった。
そんな彼に対し、レイタは何時でも行動出来るよう構えるが、ルミナスは特に何もせず表情も変化がない。
「うーむ、どうするべきでしょうかね」
「帰れ」
「それは、イヤです」
ルミナスの一言一言が、ミズヤの勘に触る。感情を出来る限り顔に出さないようにするのも限界が来ていた。
「ええ加減にせえよ」
「折角仲直りさせようと言ってるのに、何を切れて」
瞬間、ミズヤは剣を最小限の溜めでルミナスに向けて振る。しかし、彼女はそれをあっさりとかわし、そして一瞬でミズヤの背後へと回った。それを、ミズヤもレイタも目で追う事は出来なかった。
「カルシウムだったかが足りてないですよ」
「!?」
ルミナスは、ミズヤの肩に手をポンと置いて直ぐに元の位置へと戻った。
「なにしたんや」
「大した事じゃないですよ。ただ、貴方に誓いを立てさせただけです」
ルミナスの能力『誓い』は、自分または対象に誓いを立てさせ能力を強化する能力である。しかし、この誓いを破れば罰として何らかの枷が掛かってしまう。
「貴方には人に攻撃してはいけない、とちう誓いを立たさせました。破れば、数時間くらい能力が使えなくなりますよ」
ルミナスの説明に、ミズヤは舌打ちし能力を解除した。
「……さて、行きましょうかレイタさん」
「ん? いいのか?」
「なんか……失望したんでいいです」
目に見えて落胆の表情で、ルミナスは出口に向かう。レイタも、その感情の変移にため息を付きルミナスに付いていった。
「そうだ、誓いの能力は後で解除しときますから」
そう捨てゼリフを吐き、ルミナスはレイタ共に屋上を出て行った。
――なんなんや……。
それを黙って、ミズヤは見送った。
屋上を降り、教室に戻ろうと廊下を歩いていた所で2人はリュウと会った。
「そっちはどうだった?」
「ダメだな。つか、意外とリュウヤって頑固だわ」
結局、今回2人の仲を元に戻すことは出来なかった。しかし、ルミナスはまだ諦めてはいなかった……。
次回予告
「プールは浮かぶもの」
リュウの思い付きで学園都市内の屋内プールへとやってきた一行は、そこでSCMチームA所属の水野ニノと出会う。
次回「浮かぶ幼精」




