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Lost Story -ロストストーリー-  作者: kii
第5章 日常(10〜11月)
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第54話 最強の最弱 前編

 学園内のシステムとして『決闘』というものがある。これは学生内で『学園公認の喧嘩』とされており(当然、力試しというのが学園側の名目)、教員が1人審判としてトーナメントのようにつくようになっていた。




 昼休み。リュウとレイタは、いつものように教室内でダラけていた。


「そういえば」


 唐突に何かを思い出したように、机に寝そべっていたレイタが切り出す。


「最近、ある能力者がちょっとした話題になってるんだよな」

「能力者?」

「ああ、決闘において負け無しの能力者」

「……はあ」


 確かに、決闘において負け無しというのは凄い事ではある。だが、リュウにとってはあまり興味をそそる話題ではなかった。


「そういうのはさ、ええと……ルミナスちゃん? だったかに言った方がいいんじゃないか」

「ルミナスも既に負けてるよ」


 へえ、とリュウはこれまた興味なさげに返した。


「まあ、どういう能力者かは知らないが。何でも、そいつに攻撃が当たらないとかなんとか」

「動体視力をどうのこうのした能力なんじゃね?」

「でも、攻撃を見切れても身体がついてこなくちゃなぁ」

「鍛えてるんだよ、きっと」

「面白そうな話をしているね」


 凛々しい声と共に、2人の横に現れたのは神無月(かんなつき)ユミだった。

 

「いや、なんか強い能力者がいるんだってさ」

「正確には決闘において17戦17勝の能力者、だな」


 レイタの言葉に、「へえ」とユミは興味深そうに腕を組んだ。


「それは、うちの学校の生徒かい?」

「いや、南だよ……確かC地区だったったかな」

「ユミちゃん、まさか決闘を申し込む気じゃ」


 リュウの言葉にユミは頬を緩める。そのまさかだった。


「まあ、もし戦うならちゃんと地区の方は調べとくよ」

「いいよ、それくらい自分で調べられる」

「いや、個人的に興味が湧いてきたからさ、俺が調べとくよ」

「そうか、悪いね」


 そう言って、もうすぐ昼休みも終わるのでユミは自分のクラスに戻って行った。


「意外だな、ユミちゃんから決闘なんて」

「まあ、あまり自分からは戦わないしな」

「何か心境の変化かねえ……」

「さあな。ちなみに、当然リュウも来るだろ?」

「……暇だしな」


 こうして、ユミ、リュウ、レイタの3人は南地区の通称『最強の最弱』の元へ向かうこととなった。






 そして、週末。昼過ぎ。

 南C地区へと、リュウ、レイタ、ユミ、そして誘われたので付いて来た双葉(ふたば)ヤヨイを合わせた4人は来ていた。

 南地区の地理は、北地区と殆ど変わりはない。なので、北地区と同じかんじに進んでも大体目的地には着ける。


「ほんとに変わんないね」


 C地区の校舎を前に、ヤヨイが呟いた。まあ、どの学校も大体似たような外見なのだが。


「さて、土日でも決闘を申し込むらしいが、本当にアポなしでも大丈夫かね」

「まあ、いないなら日を改めるさ」


 校舎。下駄箱にて、来客用のスリッパに履き替え4人は能力専用体育館、通称闘技場へと向かった。

 レイタが調べた前情報によると、『最強の最弱』名前は見圏(みけん)弥生(やよい)は休日は闘技場にて挑戦者を待っているらしかった。


「『最強の最弱』てどういう意味なんだろうな」

「それよりも、私と同じ名前の方が気になるよ」

「漢字も同じだからね」

「俺は、それよりも見圏が決闘の時に行っている事の方が気になるな」

「何か気になる事でも?」

「ああ、まあ対した事はないんだろうけどな」


 レイタの言葉が引っかかりながらも、4人は闘技場へと足を踏み入れた。


「おう、今日は多いな」


 闘技場に入るなり、前方から何者かの声がする。


「で、誰がやるんだ?」


 闘技場の真ん中に腕を組み仁王立ちする、見圏ヤヨイ。その風貌は4人がそれぞれ想像していたのとは180度違うものだった。

 まず、幼い顔立ち。それは、中学生でも通用できる顔立ちだ。そして身長。160前半、共に170を超えているリュウとレイタと比べると彼は酷く小さな印象を受けた。

 先ほどの声を踏まえて、4人が見圏ヤヨイに抱いた第一印象は悪ガキ。少なくとも、彼が負け無しの能力者と言われても信じづらい印象だった。


「私だ!」


 イメージと違う見圏ヤヨイに、少し遅れてユミが声高らかに宣言する。


「ふーん……いいね。カッコいい女は嫌いじゃない」


 ユミを下から上へ舐めるように見て、見圏は言う。そして、彼はブレザーのポケットから財布を取り出した。


「俺の決闘は、毎回何かをかけるんだが……その決定権はそれぞれ相手にあるんだ」


 彼は、言ってニヤリと頬を緩める。


「俺は、そこのもう1人の女を指定する!」

「えっ、私!?」


 見圏に指を指されたヤヨイは、予想外のことに困惑する。


「? それは、私が負けたらヤヨイをどうするということだ?」

「それは決まってるだろ。お前が負けたら彼女を、俺の彼女にする、て事だよ」


 えっ、とユミとヤヨイは絶句する。本来、決闘で賭け事をする学生は少ない。それに、学生達の間でも賭け事はどこか印象が悪い、というのがあり暗黙の了解で賭け事を決闘に絡める生徒はいなかった。

 しかし、校則にはそれを禁止する事項は無い。


「さあ、お前の番だぜ。俺から何を指定する?」

「…………」


 それが、見圏のルールなら仕方が無い。それに、ユミ自身も負けるつもりは全く無いのだ。

 ユミは、賭け物を探すため見圏の周りを見る。


「財布を出したということは、基本的に私が選択するべきは金か?」

「そうだな、まあでも、常識の範囲内の金額にしてくれよ」


 その言葉に、腕を組んで考えるユミ。それを見て、レイタはユミに助言する。


「多分、何も選ばなくてもいいぞ」

「いや、何かは選んでもらう」


 ピシャリと見圏は言った。


「何かを賭ける事で、より本気が出てくるからな」

「……わかった」


 ユミは見圏の財布を指差した。


「これで本気が出るんだろ? なら、今その財布の中に入っている金全部だ」


 ユミの悪魔のような言葉に、見圏は目を丸くした。なんだかんだで、今まで全額を要求した生徒はいないからだ。


「ったく……まあ、いいさ。どうせ、俺が勝つんだからな」

「良い自身だな。やはり、そうでなくては」


 ユミも、金目当てだとか、ヤヨイを指定された腹いせだとかで、見圏が今持っている金全部を指定したわけではない。あくまでも、彼の本気度を出来る限り上げるためのものだった。それ程までに、見圏の外見もあるのだろう、ユミは全く負ける気がしなかったのだ。


「じゃあ、ギャラリーは客席の方へ行ってくれ」


 そう言って見圏は、着ていたブレザーを脱ぐ。


「お前は着替えなくても平気か?」

「私は別に構わないよ」


 そう言って、ユミは準備体操を始めた。

 「絶対に負けるなよ」、「負けないでね」。客席に向かう途中レイタとヤヨイが言った言葉に、ユミは強く頷いた。


 ブレザーを、リュウ達とは逆の方の客席に置いてから、見圏は指をパキパキと鳴らす素振りを見せる。


「さて、始めようか」

「ああ」


 何時の間にか、闘技場内に居た教師を確認しユミは見圏に向かって構えた。


「先手はやるよ」

「余裕だな」

「まあ、後手でも勝てるからな」

「そうか、なら一撃で決めようか」


 ユミは、右手に力『衝撃』を集める。それは、やがて球状となり静かに重く響きながら、より『丸』に近づこうとした。


衝撃弾(しょうげきだん)


 人造能力者戦でも見せた、ユミの必殺技『衝撃弾』。自身の能力『衝撃波(burst)』の発展技であり、その手に能力によって作り出した衝撃を維持、加えて円形にすることにより『弾』としての効力を得る。そして、それは自らぶつけることも、発射することも可能にした。


「ほほう、カッコいい能力じゃん」


 その、まるで漫画等に出てくるエネルギー弾のような形状のものを見ても、見圏は眉1つ動かさなかった。

 ここに至るまで18戦。当然、その中にはこれよりも不可思議な、また派手な能力があった。それらに、比べるとカッコいいが普通、というのが見圏の感想だった。


「これは、防御に集中した方がいい。でなければ、吹っ飛ぶぞ」

「忠告かい? まあ、あいにく俺の基礎能力は実践で使えるレベルに達していないんだよな」


 動こうとしたが、ユミはその足を止めた。


「どういう事だ?」

「どうもこうも……数字で言うなら、俺の基礎能力は上から4、2、3って話だよ」

「えっ……」


 上から攻撃、守備、速度を示す。3年ならば、この3つの平均が4.5辺りなのが普通だ。故に、見圏の基礎能力は3年レベルに達してないという事になる。


「まあ、大丈夫。基礎能力は俺の場合はそこまで重要じゃないからな」


 そう言って、見圏は両手を広げた。


「さあ、俺は最初の一撃は逃げも隠れも避けもしないぜ。遠慮せずに、これで決める気持ちできな」


 ユミは一瞬、思考した。だが、彼が未だ無敗であるなら特殊能力の方に何かあると踏み、勢いよく土を蹴り見圏に向かって彼女は走り出した。

 見圏は、先ほどの言葉通り迫り来るユミに対して全くの無反応。防御の姿勢すら取らず、ただ両腕を広げ攻撃を待っていた。


「はあああぁぁぁぁ!!」


 見圏の手前で、ユミは勢いよく前に向かって飛び上がり、その右手の衝撃弾を見圏の右肩狙ってぶつけようとする。

 その瞬間、見圏はニヤリと笑った。


「何っ!?」


 衝撃弾が当たる寸前、見圏は無駄の無いしなやかな動きでユミの攻撃を避けてしまった。

 ユミの攻撃は、特に何の工夫も無い攻撃であり避けるのはさほど難しくはない。しかし、今回見圏はその攻撃をギリギリで避けてみせたのだ。何かを間違えれば確実に当たっていた距離で、見圏は表情変えずに簡単にそれを避けてしまったのだ。


「くそっ!」


 このままでは、衝撃弾を維持したまま右手を地面に付いてしまう。ユミは、咄嗟に身体を捻り衝撃弾を斜め上、闘技場の壁に発射した。


「上手い、上手い」


 パチパチと手を叩き見圏はあざ笑い、発射した勢いで地面に激突したユミを讃えた。


「さて、最初の一撃は終わりだ。次からは、俺も攻撃するからな」


 攻撃する体制を取った見圏に対し、ユミは即座に立ち上がり一旦彼と距離を取った。


「次は当てる」


 ユミは深呼吸をし、心身を整えた。


「行くぞ!!」


 ユミは強く地面を蹴り上げ、見圏に向かっていった。




「なあ、あいつ今能力使ったのかな?」


 観客席にて、リュウは心配そうな表情で見つめるレイタとヤヨイに訊く。


「まだ、わからない。でも、基礎能力値があいつの言うとおりなら、もしかしたら使ったのかもな」

「でも、だったらどんな能力なんだろうね」


 見圏に攻撃をしかけるユミを見たまま2人は言った。


「避ける能力か?」

「それなら、聞いたことが無い能力だな」

「『完全回避』だよ」


 背後から、幼いかんじの女性の声が割って入る。

 レイタ以外の2人が声の方を向くと、そこには声の通り幼い顔立ちのショートヘアーの女子生徒が場内を見ながら立っていた。


「誰?」

「私は、午前中に見圏に負けた人」


 そう言って、彼女はリュウの横に座る。


「『完全回避』ってのは?」

「文字通りの能力だよ。目で見た攻撃に限定されるけど、目で見た能力なら全て無条件で避けてしまう」


 「それは、高範囲攻撃の場合はどうなんだ?」と、見圏に連続した打撃を加えるも、全て無駄の無い動きで避けられ続けているユミを見ながら、レイタが訊く。


「そういうのは、範囲外まで逃げるんだよ」

「なら、今までそういった攻撃を扱う奴はいなかったのか?」

「当然いたよ。でも、そういう人はもう1つの能力で負かされた」

「もう1つ?」

「『安全地帯』範囲攻撃に安全地帯を作り出す能力」


 「へえ……そりゃ、また」と、レイタはここでようやく見圏の無敗の理由を理解した。


「でも、それで無敗なんてなあ」


 と、逆にリュウは首を傾げる。確かに、攻撃を当てなければ勝ちようがないが、それだけでここまで無敗というのも不思議な話だった。


「まあ、見てればわかるよ。攻撃が当たらないという事がどういう事か」


 彼女は、何かを思い出すようにそう言った。




「くそっ!!」


 全く当たる気配の無い攻撃に、ユミは柄にも無く苛立ちを感じていた。


「へいへ〜い、どうしたよ? 負けたら俺と同じ名前のヤヨイちゃん取られるぜえ。俺と同じ苗字になっちゃうぜえ」

「えっ、そこまでいくの!?」


 観客席からヤヨイのツッコミが入る。


「大丈夫。それは、私がさせない」


 ヤヨイの声で正気に戻ったユミは、冷静に、そして強くそう言った。


「へえ、じゃあやってみなよ」


 ユミの強気の言葉に、見圏は余裕の表情だ。

 ユミは再び右手に衝撃弾を作り出す。


「それは、効かないってしってるだろよ」


 見圏の言葉を無視し、ユミは衝撃弾を完成させる。そして、初回と同じように地面を強く蹴って見圏の方へと走り出した。


――何が狙いだ?


 見圏は、カウンターを当てるべく構える。

 しかし、見圏の予想に反してユミは先ほどと比べて遥か手前で飛んだ。


「何を?」


 飛び上がったまま、ユミは衝撃弾を見圏の前、地面に向かって発射したのだ。


「!?」


 爆発に似た音共に吹き上がる土埃、石に、見圏は一旦後退する。瞬間、砂埃が立つ前方から2発の衝撃弾が彼を襲った。

 しかし、目に見える、つまり自覚した攻撃であり同じように、見圏はそれを軽々と避けてしまう。


――甘いな。寸前の攻撃でも避けれることは、1回目の攻撃で既にわかってるだろうに。


「甘いな」


 直後、後方からの凛々しい女子の声と共に、強い痛みが見圏の背を襲った。

 吹き飛び、頭から地面に激突する見圏。


――当たった。


 ニヤリと笑みを浮かべるユミ。

 そして、その光景に観客席の4人全員が口を開け呆気に取られた。

次回予告


「まだ、終わってねえぞ」

 『完全回避』見圏に、遂に攻撃を当てることに成功したユミ。状況は、ユミの優勢になったと思われたが……。


次回「最強の最弱 後編」

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