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Lost Story -ロストストーリー-  作者: kii
第4章 氷の復讐者
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第48話 暖かい心、冷たい心

 氷界ハジメを捜す為に公園を出た直後、押重マドカと別れた如月ミオは身体全体で風を感じながらハジメの居場所を探っていた。

 属性能力者、それでいてアビリティマスターが扱える探知能力。探知精度は専門には勝てないが、例えばミオなら風を使って数100メートル先までにいる、ある程度の大きさ以上の生物を探知する事が出来た。


「何処……」


 今のハジメの状態を考えれば、人混みに居るとは考えにくい。そう考えたミオは、建物の屋上から屋上へと移り探知を続けていた。


「…………」


 ひんやりとした冷たい風がミオを襲う。


――大丈夫……今度こそ。


 ミオは、今現在受けている風とは明らかに温度の違う風を感じとった。




「これは……また」


 公園。救急車が到着して直ぐ、アルス・デュノアも公園に到着した。


「また、派手にやってくれたもんだな」


 既に、公園に到着していた風神レイジが呟く。目の前で呻き倒れている、血に塗れたその身を震わす男子生徒達。自然と、その身に焦りを感じる。


「早く、終わらせないとな」


 レイジの言葉に、アルスも静かに頷いた。

 と、ここでアルスが見覚えのある人物を視界に捉えた。


「慶島リュウ?」

「ああ、何か巻き込まれたらしい」


 それに、「そうか」と少し笑みを零すアルス。

 リュウの黒い炎については、既にSCM全員が確認している。

 それを初めて聞いた時、アルスはカナエの件といいリュウは何か持っている、と感じていた。

 「しかし」と、アルスは改めて土に汚れ、腹の辺りが破けているリュウの服を見る。


「ボロボロだな」

「ミオとやり合ったそうだ」

「なら……仕方ない」


 そして、2人は再び男子生徒に視線を戻す。


「さて、そろそろ動こうか」

「ああ」


 2人は公園を後にした。




 冷たい風が吹き抜ける。

 その身をブルっと震わし、ミオはフェンスを掴み下、道を歩く人達を何を考えるでも無く見つめるハジメを見ていた。


「ハジメ君……捜したよ」


 数メートル下からの雑音。それ以外風の音くらいしか聞こえない場所で、ミオの言葉をハジメが聞き取れないという事はない。しかし、彼はそれに特にこれといって反応しなかった。


「さっきは、ゴメンね。マドカ君を止められなくて」


 本来、ここではミオを含めて見境無く襲ったハジメが謝るべきなのだろう。しかし、それをミオは望んではいない。


 求めるのは対話。


 ミオは、ジッとハジメが此方を向くのを待った。


 何回目かの北からの風が、ミオとハジメの居る屋上を吹き抜ける。それにつられるように、俯きながらハジメもミオの方に身体を返した。

 暗く確認しずらいが、ハジメの制服は土で汚れている。しかし、それ以外の目立った箇所はなかった。

 ミオは少し思考する。言葉の選択。自分に正直に、間違う訳にはいかない。

 しかし、口を開けようとしたミオよりも先にハジメが言葉を発した。


「ミオちゃんも、あいつのように裏切るの?」


 何に? ミオは先日のハジメの言葉を思い返す。しかし、ハジメがそんな事を言っていた憶えはその記憶には無い。


「あいつって……」

「もう1人の、いじめられっ子」


 おかしい。ミオの中で言葉が回る。ハジメともう1人の彼は友人では無かったのか。

 困惑するミオにハジメは話を続ける。


「あいつは、俺よりよくいじめられていた。でも事が発覚して、担任から転校を進められて、あいつは転校していったんだ」


——………………。


「それから暫くして、再びいじめは始まった。いままでの倍以上、俺はいじめを受けた。でも、反応が薄いのがつまらなかったのか、いじめはすぐに終わったけどね」


——そうか、だから……。


「昨日言った事は、ほぼ本当」


——友達は嘘、友達の為も嘘。


「だから、私も裏切るかもしれないと?」


 ミオの言葉に、暗く表情の確認が出来ないハジメは軽く頷く。

 それに、ミオは息を吐く。


「私が裏切らないっていう証拠は無い、だけど私は裏切らない」


 ミオは、ゆっくりとハジメに向かって歩を進めだす。


「少なくとも、私は勝手に目の前から消えたりしない」


 前方から刺すような冷気がミオに当たるも、彼女は歩を止めない。

 

「大丈夫……」


 縮まった距離。手を出せば触れられる距離。


 ミオはぎゅっと、ハジメを抱きしめた。

 確かに感じる温もり。確かに感じる鼓動。


「私は裏切らない」


 ミオの小さな、しかし力強い言葉に、ハジメの目からは自然と涙が零れていた。











 事件から1週間後、10月28日、時刻は午後4時半。

 学校が終わり、ミオは足早に、何時ものように寒空の下SCM本部へと向かっていた。


 事件のあったあの日、あの後ミオとハジメは2人でSCMへと向かった。元々、ハジメは全てを終えたらSCMへ行くつもりだったが、いざその時がくると怖くなっていた。しかし、ミオの存在が彼の中の恐怖を払拭したのだ。


 A地区とB地区の間にあるSCM本部には、D地区からバスに乗り数10分、更に徒歩数分で着く。

 学校を出てから約40分後、ミオは見慣れた風景を通り抜けSCM本部へと到着した。


 見た目は、地上6階の普通の建物であるSCM本部。そんな巨大な施設であるここには、能力研究の為の研究室や会議室、各研究員やSCMに所属する人の寝床、様々な資料などが保管されている保管庫などがある。

 つまり、学生代表(SCM)の為の施設である一方、全国にある能力関係の施設の中心でもあった。


 入って直ぐの受付嬢に軽く会釈し、ミオは真っ直ぐ、白く綺麗な廊下を歩いて行く。

 適度に、何回か曲がった先にある鉄の扉。それを開いた先の鉄の螺旋階段を、下って行く。


――今日は何を話そうか。


 2階分降りた所で、ミオは先ほどの様な鉄の扉を開き、地上1階とはまるで雰囲気の違うコンクリート壁の廊下へと出た。


 地下2階、牢獄階。何故、SCMに牢獄か? 能力者を閉じ込めて為には、それなりの牢が必要になる。加えて、もし脱走した時に周りが能力者だと、安全だからだ。


 扉を開けた先、暫く歩いて最初の突き当たりを右に曲がった先に面会部屋があった。

 その部屋の扉を間髪いれずに開け、ミオは勢いよく、笑顔で中に入る。


「ハジメ君!!」


 既に、パイプ椅子に座って待っていたハジメは、それに笑顔で返した。

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