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Lost Story -ロストストーリー-  作者: kii
第4章 氷の復讐者
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第41話 秋空の下

 10月15日、火曜日。

 人造能力者の襲撃から、生徒の心身ケアのための休みを挟んで以来の登校日。

 昼休み。慶島リュウと添木レイタは、いつも通り教室内で椅子に座り(しかしその表情は疲労感に満ち)駄弁っていた。


「しかし、今日は大変だったな……」

「ああ、そうだな……」


 まるで、魂が抜けたかの様に机に突っ伏すリュウ。

 それもそのはず、人造能力者から生徒達を救った7人は、勝っていても、負けていても英雄扱い。体育館に常時映されていた映像からも、彼等がどれだけ頑張ったかが全校生徒らに知れ渡っていた。

 スキルバースト、また黒い炎を使用したリュウ。熱く、属性能力者と互角以上に戦った分杯ショウ。相手の圧倒的攻撃を前に、全く臆しなかった神無月ユミ。最後の最後まで諦めなかった八重隈ユイ。人造能力者に圧勝した札切アンズ。SCMとして、その実力を見せつけた風神レイジ。

 皆、それだけの、生徒達を惹きつけるだけの戦いをしたのだ……ある1人を除いて。


「なあ、リュウ」

「うん? どうした?」

「俺は、どう思われてるんだろうな」

「…………」


 初めて見る、少なくともリュウは初めて見る、不安に溢れた表情を見せ弱々しく言葉を出すレイタ。

 学校に来てから昼休みまでの間、後輩も含めて、他人から知人まで様々な人たちがリュウの元を訪れた。

 しかし、不思議な事に……いや、考えれば当然とも言えるが、その中にレイタに会いに来た人は1人もいなかった。知人は除くが、少なくともリュウもレイタも知らない人でレイタに会いに来た人はいなかったのだ。


「1年の頃と同じだよ……せっかく風化したと思ったのにな」

「レイタ……」


 先日のあの戦いから、"ある噂"が学校内に流れていた。

 レイタが1年の時に起こした事件。

 クラスメイトの手を、その槌で砕いた事件……。


「暗いわね」


 先ほどから、レイタの後ろの席に座って本を読んでいた女子、黒く長い綺麗な髪が特徴の蓮野(れんの)(あい)が唐突にレイタに話しかけた。


「ああ、そうだな……」


 レイタは、後ろを向かずに静かにそう答えた。その言葉に、アイは読んでいた本をパタンと机に置く。


「あんたのせいで今日は朝から大変だったのよ」

「ん? 蓮野さんが?」


 その言葉に、ギロっと無言の圧力をかけるようにアイはリュウを睨みつける。そして、低い声でリュウにそれを言葉にして投げつける。


「あんたは黙ってなさいよ」


 その言葉に、「……はい」とリュウは答えるしかなかった。


「で、何か言う事は?」


 再びアイは、まだ背を向けるレイタの方を向き上から言葉を放った。


「悪い……」


 そう、ボソッとレイタは口にする。


「ふん、張り合いのない……」


 依然として何か怒ってるような口振りのアイだが、その目は何処か寂しそうでもあった。

 その言葉を最後に、再びアイは本の世界へと戻る。


「なあ、そんな気にするなよ……時間が経てばまた」

「そうだな、卒業したら忘れるよな」


 明らかに、いつもと違う雰囲気のレイタ。

 その様子に、リュウは唸りながら席を立ち上がる。そして「ちょっと、トイレ」と言い、教室を後にした。勿論、トイレに行くわけではなく、レイタを元気づける為にはどうしたら良いかアドバイスを貰いに行くためだった。

 今まで、幾度となくレイタにアドバイスを貰ってきたリュウ。最近では、『トーナメント出場』が1番レイタに感謝している事だった。あれをきっかけに、180度リュウ自身の世界は変わったからだ。

 今まで、ずっと助けられてきた。友人の少ない自分に、いつだって手を差し伸べてくれた。なら、「今度は俺が助ける番」だとリュウは強く思ったのだ。


 とはいったものの、リュウは具体的に何をすればいいのかがわからなかった。

 そもそも、誰かが落ち込んでる時、悩みを抱えている時に、手を差し伸べた事などあっただろうか。リュウは、いままでの記憶を呼び起こす。


――ハヅキちゃん……は違うか。


 夏休みにあった、ハヅキちゃんの異性に対する耐性をつけよう作戦。確かに、これはリュウ1人の力で解決した例だった。しかし、それとこのレイタに関する事とは根っこは同じでも外見が違う。

 と、何処に向かう訳でもなく廊下を歩きながら思考するリュウは、ここである事に気づく。


――俺って、今は1人じゃないじゃん。


 かつては、夏休み前までは、リュウの友人知人は数える程度しかいなかった。しかし、今は違う。トーナメントを通し、夏休みを通し、文化祭を通し、先日の戦いを通し、リュウの友人も知人も、あの頃とは比較にならない程多くなっていた。


 リュウの足は、自然と如月ミオの居るF組へと向かっていた。






 一方その頃、生徒会室には、ここD地区の生徒会長でありSCMでもある二年、形並(かたなみ)(しゅん)と元会長海堂(かいどう)彰一(しょういち)、シュンと同じSCMである堂巳(どうみ)紗綾(さや)と腕を完治させた風神(かぜかみ)礼司(れいじ)が、縦に長い会議用の机を前に椅子に座っていた。


「で、今回の事件についてだけど……」


 静寂を切り裂くように、静かにサヤが話し始める。


「C地区、三年氷界(ひょうかい)(はじめ)でほぼ確定ね」


 その言葉に対し、他の2人は特にこれといって驚いた反応を見せない。寧ろ、わかっていたかのような表情だ。


「じゃあ、後は現行犯逮捕するだけっすね」


 シュンが、ワクワクするような目で言う。


「そうね……まあ、それが難しいんだけど」


 その反応に対しても、サヤは先ほどと同じ様に話した。


「まあでも、これ以上野放しにも出来ないしな」


 目を瞑り、何かを考えていたレイジが口を開く。


「文化祭から始まって、昨日までで被害者は6人。何が目的か知らないけど、これ以上は好き勝手させない」


 サヤは、そう力強く言った。その言葉にシュンも力強く頷く。


 『氷結魔』今回の事件の犯人に付けられた名だ。彼は、人に恐怖を与えてから凍らせ傷つける。そのせいで、被害に合った者も犯人を実際に見ているのにその犯人の名前を言えずにいた。

 しかし、この恐怖を与える方法がより今回の事件の犯人がハジメだと決定付けていた。何故なら、ハジメの能力は『氷使い(ice master)』と『恐怖の枷(terror)』だからだ。しかし、協力者がいる可能性も十分ある。だが、アリバイ的なものもあり、彼が犯人でSCMとしては"ほぼ"確定したのだった。

 そして、この恐怖を振りかざしやりたい放題の犯人にSCMの中でも、特にサヤは強い怒りを感じていた。


――必ず捕まえる。


 それは、サヤ自身の過去の出来事から生じている絶対的な正義感からくる率直な言葉だった。






 一方その頃、昼休みも終わりに近づく中F組にて、リュウはミオと一緒に居たハヅキにレイタについて話し終えていた。


「うーん……時間に任せる、ていうのはどうなのかな?」


 その反応に少し驚くリュウ。ミオならば、進んで昼休みも終わりそうなのに今からA組に行く、と言い出すと思っていたからだ。


「レイタ君だしさ……。そうだな、あんまり治るの遅かったら何処かに遊びに行くとか」


 そのごくごく普通の意見に、若干拍子抜けするリュウだが、とにかく感謝の意を伝えてF組を後にした。




 A組に入ったリュウの視界に先ず入ったのは、レイタと話すクラスメイト双葉(ふたば)弥生(やよい)の姿だった。

 その光景自体は対して珍しいものでは無い。だが、リュウは自分以外にもレイタを心配している人が当然ながら居ると今更ながら知ったのだった。


「長いトイレだったな」


 授業のチャイムが鳴り、ヤヨイが自分の席に戻って行った所で、レイタはリュウの存在に気づき言う。


「ああ、途中ミオちゃんに会ってて」




 …………結局、この後特に何かリュウがレイタにしてやれた事は何も無かった。











 10月18日、金曜日。時刻は午後7時。C地区にて。

 科学部に所属する山神(やまかみ)利多(りた)及び南風(みなみかぜ)(ゆう)は、暗い夜道を照らす街灯の下を談笑しながら歩いていた。

 もう10月も中旬という事もあってか、2人以外誰もいない夜道を吹き抜ける風は肌寒い。しかし、ユウはその体型のせいかブレザーを手に持ち時折手でその汗が滴る体を仰いでいた。

 

 尽きぬ話題に笑いあう2人に、その皮膚を突き刺すような冷気が、前方から突如吹き抜ける。


「さむっ!」


 思わず声に出すほどの冷たい風。その風が吹いた方、前方に2人は再び目を向けた。


「誰?」


 自分たちと同じく、制服に身を包んだ男子学生。その口からは白い息を吐いているのがよくわかる。それを見て、瞬間的に2人は彼が『氷結魔』だと直感した。


 「『氷結魔』は復讐者。」


 2人が『氷結魔』について知っている事の1つだ。

 2人は、特にユウはグッと息を呑む。全身からは先ほどまでとは違う汗が吹き出していた。


「南風ユウ?」


 硬直する2人を視界に捉え『氷結魔』が口を開く。

 その言葉に、ユウは瞬間的に身体を捻じり後方へと走り出した。


「南風君!?」


 ユウの後を追おうと、リタも後ろへ身体を向けようとするが。


「氷壁」


 フラフラと肉を揺らし走るユウの前に突如として、巨大な氷の壁が出現する。それに走る自分を止めきれず、ユウは勢いよくぶつかってしまった。


「ははっ、酷いな……久々の再開なのに」


 そう呟き『氷結魔』は歩き出す。そして、街灯に照らされた『氷結魔』の顔を見るなり、「あっ!」とリタは彼を指を指す。


「ハジメ君!?」


 その言葉に、氷界ハジメは黙ったままだ。

 そのリタの言葉に、顔をさするユウも同様に驚き指差した。


「ハジメ!?」


 そのユウの言葉に顔をしかめるハジメ。そして、ゆっくりと右手を前に出す。


凍てつく愚者ジャッジメント・ブリザード


 その右手から解き放たれた冷気が、一瞬にして数メートル先のユウの居る場所に到達する。と同時に、その巨体を凍りつかせた。

 その一瞬の出来事に、リタは思考が止まってしまう。

 綺麗に凍りついたユウが立つ一帯。綺麗、だがしかしそれは刺々しさも同時に併せ持っていた。


「……お前もだよ」

「!?」


 ハジメの言葉に、リタは視線を氷漬けのユウからハジメへと移す。


「いっつもいっつも一緒に居るから……」


 何処か後ろめたさを感じさせる表情でハジメはそう言った。


「……そう」


 低い声でリタは呟く。ハジメは、何も理由なんてあるはずが無いのに友達であるユウを襲った。


――能力。


 リタの周りを強い光が包む。


――作成


 その光景にハジメは一つ息を吐く。


「抵抗するのか……」

「当然!」


 力強く言ったリタの両手には短剣が握られていた。

 相手はアビリティマスター。普通なら逃げる方法を考えるものだが、彼女は、リタは違った。


 SCMから勧誘された事がある。


 たったそれだけで、リタはアビリティマスターにも引けを取る事はないと思ったのだ。

 しかし、そんな彼女の心の内を知ってか否か、ハジメは不気味にニヤリと笑う。


「氷漬けにはしない」











 数分後、近くを通りかかった学生によって、リタ、ユウの2名は病院へと搬送された。

次回予告


「この想いは……」

 夢の中で大切であろう人と出会った。あの選択は間違いだったのだろうか。少年が動く時、再び止まっていた時間が動き出す。


次回「大切な人」

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