表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Lost Story -ロストストーリー-  作者: kii
第3章 異界からの挑戦者
33/156

第35話 第2戦 夢幻の波

 ランダムに選ばれた生徒VS異界の能力者。その第2戦。分杯(ふはい)ショウの相手は、クロウ・レイジンと名乗る金髪で短髪の目つきの悪い男性だった。


「試合開始!」


 初戦と同じように会場に響く主審の声。その声と同時にショウは剣を具現し、クロウは火を纏った。




「もう、大丈夫」


 観客席にて、レイジとユミに見守られながら、リュウの治療を終えた保険医である和田(わだ)が言った。


「よかった……」


 と、ユミは胸を撫で下ろす。レイタも頬の緊張が取れた。


「それにしても、あの黒い炎はいったい何だったんでしょうね」


 和田が思い出すように呟く。漆黒の炎がリュウを包み込む、あの光景を。


「まあ何でもいいですよ、今は特にどこか悪いって事もないでしょ」

「ええ、今はだいぶ安定してる」


 目を瞑っているリュウの顔はとても穏やかだ。


「問題はそれよりもリュウが負けたということ……」


 そう言って、レイタは会場内を見る。クロウの火の攻撃にシュウは防戦一方だった。


――あまりそう思いたくはないが、この勝負が異界側の勝ちだとすると……俺はおそらく勝てないし、リアルと当たる奴もおそらく勝てない……まあでもリアルはおそらく最後だろうから……、でもどのみち3戦目以降は1回も負けれないのか。


 負け運が強いショウ。しかし、今回ばかりはその運命をも打ち破って欲しいと、いや打ち破れる、とレイタは思った。




 火の攻撃に加え、目くらまし用に水の攻撃も足し、水蒸気が舞う中、クロウのショウに対する一方的な攻撃は続く。


「おらおら、どうしたっ!!」


 早々と剣を捨て、壁を具現し防戦一方のショウにクロウは怒鳴りつける。


「そんなもんかよ! ああ!!」


 その一言一言にビクつきながらも、ショウは丁寧にクロウの火炎放射攻撃に対し土の壁を出現させていく。

 一方的な攻撃の筈なのに、敵にはその攻撃が擦りもしない。その試合開始からの状況に、クロウは苛立ち始めていた。攻撃は完璧、相手の行動を先読みしての攻撃。なのに全てをまるで"分かってる"かのように防いでいく。


――なら……更に範囲を広げるまでだろ!


 クロウは火炎放射、目くらましの水蒸気の攻撃に加えて、電撃を攻撃に足した。


――やっぱり。


 先ほどのリュウの試合から、ショウは敵が5つの能力を使ってくる事は容易に予想できていた。そして、最初にクロウが火の能力を使った時点で、5つの属性能力を使えるのでは、という"最悪の仮説"がショウの中に立っていた。

 しかし、"最悪の仮説"といえど、それを防ぐ手段も同時にショウは考えていたのだ。


 クロウの手から、ショウに向かって伸びる雷。それに対しショウは、それに驚く事なく冷静に、かつ迅速に土の壁を具現しそれと火炎放射との同時攻撃を見事に防いでみせた。


「はあっ!?」


 突然の、攻撃速度の早い電気による攻撃。それをいとも簡単に防がれ、クロウは一旦攻撃を止めた。


――クソ調子に乗りやがって。


 再びクロウは火、水、雷による攻撃を開始する。しかし、それを先ほどよりも上手くショウは、華麗に動きつつ防いでいく。


――出し惜しみはしねえ!


 突如、ショウの地面が盛り上がり、それに足を取られふらつく。


「疾風迅雷!」


 一瞬にして縮まる2人の距離。壁を具現させる間も無く、クロウの電気を纏った一撃がショウを襲った。

 そこから、更に連続してクロウの拳が5発入る。ここまで僅か3秒。ショウの体は吹き飛び、勢いよく壁に激突した。

 意識が揺れるショウ。前にも後ろにも来る激痛、それも少しずつ薄らいでいく。


――まだ……。


 ゆっくりと、ショウは前のめりに倒れ込んだ。

 揺らぐ意識の中、ショウの中に試合前、他の皆から受けた言葉が思い返されていく。


――負けない……。


 ユミと約束した「自分との戦いに勝て」と。


――大丈夫……。


 今日始めて会ったユイから受けた「頑張りなさいよ」という一言。


――……。


 ちゃんと聞こえたよ。札切さん「頑張れ」て言ったんだよね。


――頼まれたよ。


 レイジ君。初めてかもしれない、他の人から「頼むぞ」なんて言われたのは。


――俺は……まだ負けてない!!


『お前は本当に強いんだよ、だからここらで見せ付けてやろうぜ』


 フラフラと立ち上がるショウ。その光景に体育館で見守る生徒達は、割れんばかりの歓声を上げた。


「まだ、やれるんだな」


 クロウはニヤリと笑う。この5つの属性能力を、早く試したいと思っていた。それを、待ち望んだ戦いを、こんなに早く終わらすわけにはいかない。


「ようやく……使い方を知った気がするよ」


 ショウは意識を集中する。全身に走る激痛。しかし、痛みには慣れる事が出来る。


具現されし(デス・)悪夢の遊園地(カーニバル)


 ゆっくりと、目を開けるショウ。イメージは整った。そして、薄っすらと具現されて行く、頭の中のイメージ。それと同時に揺らぐ意識……。


「想像具現か」


 クロウはここで、ようやくショウの能力を理解する。今まで剣と壁しか出してなかったので、『sword』と『wall』だと思っていたのだ。

 

「にしても、何だ……これ」


 戦闘をより楽しむ為に、それが完全に具現化されるまで待っていたクロウ。しかし、そんな事を、戦ってる事を瞬間的に忘れる程に、具現化されたそれは幻想的で独創的で不可思議だった。

 例えるならサーカス用の用具だろうか。例えるなら遊園地の遊具だろうか。例えるなら拷問器具だろうか。それらは動かずとも、圧倒的な存在感でそこかしこに無造作に配置されていた。


「さて、パレードの始まりだにょ」


 ただのピエロという性格の具現。

 高く、しかし不気味な声で、ショウの背後に何時の間にか居た、体が玉のピエロが言った。その言葉をスイッチに、其処彼処に配置された器具たちが一斉に、そして静かに動き出す。

 その動作に身構えるクロウ。手には電気を、体には風を纏う。


「震え震え惑え惑え……バン!」


 ピエロのその言葉と同時にクロウの体に、何処からとも無く飛んできた、幾つもの紅きナイフが突き刺さった。それにクロウは、ナイフが自分の体に刺さってから気がついた。故に、避ける事が出来なかった。


「???」

「俯瞰する者からの贈り物だにょ」


 クロウの、ナイフが突き刺さった箇所から血が溢れ出る。熱く突き刺す痛みが、彼を襲う。


「次は、みんな大好き……たまたまたまたまたまたまたまたまたま!」


 サッカーボール程度の大きさの紅い球が、その言葉と同時に縦横無尽に場内を駆け巡る。


――!?


 その球のスピードに、怪我を負っているとはいえ、先程発動した疾風迅雷を持ってしても避けきれなかった。

 一度球に当たれば最後、更に連続して他の球に当たり、鈍い痛みが蓄積されていく。

 

 16回目の球との衝突に、遂にクロウは膝をつく。それを確認しピエロが指を鳴らすと、球が一斉に消滅した。


 全身には、鋭い痛みと鈍い痛み。苦しく、呼吸もクロウは苦しくなってきていた。しかし、そんな状況でも彼の口元は緩んでいた。

 絶対的な力を手に入れた。誰もが自分より下だった。つまらない。誰か俺を倒せる奴はいないのか。


「まだマ、だ、だにョ」

「そうこなくちゃな……」


クロウは、一旦息を吐く。


「スキルバースト五色陣」


 クロウの背に浮かび上がる5色の球体。赤、青、黄、緑、茶。その球体に、エネルギーを貯めて行く。


「ダメだ……時カン切、レダニョ」


 割れて行く物、空間。それと同時に、クロウの感じていた痛みも消えて行く。


「クロウ!!」


 リアルの声を聞き、クロウは観客席の方に目をやる。


「どうした?」

「それはこっちの質問、どうしたんだ?」


 リアルの質問の意図が読めないクロウ。


「さっきからずっと動かないで」

「はあっ?」


 どういう意味だ、と言いかけクロウはようやくリアルの質問の意味を理解する。消えた怪我、痛みそして想像具現。先程までクロウが見ていた物は、感じていた事は全て幻想だったのだ。


「おーい」

「後で話すから黙ってろ!」


 その怒鳴り声に、リアルはシュンとする。

 その光景を、定まらぬ視界でショウは見ていた。物質具現に比べると、体力の消費は少ない。しかし『未完成』であり、日頃トレーニングをしてないショウは、反動でかなりの体力を消費していた。


――あと、1回くらいはいけるかな……。


 クロウを視界に捉えつつ、記憶を辿るショウ。タッグトーナメント第2回戦、リュウとカナエに使ったあの空間を。

 しかし、今回ばかりはクロウもそれを待ってはくれなかった。


「属性の名は『火』、赤く燃えあがれ!」


 クロウの背後に浮かぶ球のうち、赤い球が光りだす。


極炎の道(ブレイズ・ロード)!」


 クロウの足下から、炎が真っ直ぐショウに向かって燃え上がる。それはさながら地獄への道のようだ。

 しかながら直線的、かつ速度もそれ程なので避けるのは容易だったが……。


「えっ」


 ある程度余裕を持って避けたショウの次なる進路を防ぐかのように、突如分離する炎の道。それによって、ショウは炎に囲まれてしまった。

 四方を炎に囲まれ、全身を焼け焦げるような熱さがショウを襲う。熱さで目が開けない、意識を集中出来ない。


「属性の名は『風』、強く吹き荒れろ!」


 先程と同じようにクロウの背後に浮かぶ球のうち、今度は緑の球が光りだす。


軽き重り(ウインド・プレス)


 何の音も無く、何の前触れも無く、熱さに喘ぐショウの真上から、突如押し潰すような風が一気に吹き荒れる。それに、勢いよく燃えていた炎も消し飛んでしまう。

 そして、その場に前のめりに倒れるショウ。風に吹かれただけなのに、その体はミシミシと悲鳴を上げた。


「まだ2回しかやってねえぞ!!」


 そのクロウの言葉すら届かず、ショウの視界は暗くなって行く……。


――ダメだ……やっぱり俺は。


「…………ウ」


――今回ばかりは、勝たなきゃいけなかったのに……。


「…………ショウ」


――辛い、苦しい。ごめん、皆……。


「ショウー!!!」


――!?


 その言葉に、ハッと意識を戻し目を開けるショウ。


「立て! まだ負けてねえぞ!!」


 ゆっくりと、その声の方に目をやるショウ。そこに立っていたのは……。


「リュウ!?」

「あと一押しだろ!!!」

「リュウあんま声出すな! 傷に響くだろ!!」


 観客席から身を乗り出すようにして、リュウは大きな口を開け怒鳴っていた。それを、今にも落ちそうになっているリュウを抑えるレイタとレイジ。


「ショウ! まだ終わってないぞ!!」

「あんたが負けたら、私たちがキツくなるでしょ!!」


 ユミとユイも同じように身を乗り出し、大きな声を上げている。

 そしてそれは、体育館でも同じだった。割れんばかりの歓声。生徒、教師達が同じ気持ちで声を出していた。


「うるせえな……属性の名は」

「うおおおおおお!!!!!」


 その気の入った声に、圧倒されるクロウ。


「お前もかよ、うるせえよ!!」


 そんなクロウなどお構い無しに、ショウは目を瞑る。鈍い痛みを感じる、しかしそれでもショウはこの上無く集中できた。


「名は『夢幻』」


――やばい!


 徐々に変わりゆく、クロウの視界。先程のような明るさでは無く、暗い、薄暗い光景。

 そして何も無くなった。




――ここは……。


 音が聞こえない、先程まで聞こえていた耳障りな応援が。何も感じない、先程まで感じていた熱さが、風が。体が動かない、先程まで動かしていた自分の身体が。




――深く深く……。


 ぼとっ。


 ぐちゃ。


 べちょ。


――トけるトける……トけてオちる。ぐちゃぐちゃ、ぐちゃぐちゃ、ぐっちゃぐちゃ。


 どろっ。


 ぐちゃ。


 ぼとっ。


――トロけるトロける。トロけてクズれる。べちゃべちゃ、べちゃべちゃ、べっちゃべちゃ。


――そシて再び時ハ戻る。











「!?」


 クロウの視界に光が差し込む。酷く久々に感じる、明るさ。しかしそれが、何なのか思考することをクロウはできなかった。心に、大きな、大きな穴が空いたような。


「勝者……クロウ!」


 主審のその声にも、ショウを案ずる声にもクロウは反応を示さない。その虚ろな目は、どこを見るでもなくただ真っ直ぐを向いていた。

 こうして、第2試合は第1試合と同じく、異界側の勝利となった。

次回予告


「何なんだ、この女は!?」

 生徒側の2敗で迎えた第3戦。ユミの相手は、爆破を中心に扱う能力者だった。その容赦ない怒涛の攻撃を受けるも、ユミは必殺技を発動し……。


次回「歩く戦車」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ