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Lost Story -ロストストーリー-  作者: kii
第2章 日常(8月〜9月)
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第32話 文化祭 後編

 9月29日、日曜日。北地区文化祭2日目。

 慶島リュウ、添木レイタ、双葉ヤヨイ、喜界島レナ、蓮野アイが所属するA組では、お好み焼きとたこ焼きの模擬店を開いていた。

 教室内では、既にソースの香ばしい香りが漂っている。

 上記の5人は、アイがレジ係、レイタとヤヨイが他の生徒とたこ焼き作り、レナは他の生徒とお好み焼き作りをそれぞれ担当していた。ちなみにリュウはというと……。


「開始早々、戦力外通告を受けましたとさ」


 廊下にて、午前は特にやる事がない2年の一二三カナエに愚痴っていた。


「何でですか……て、リュウ先輩料理得意なんじゃ」

「残念、お好み焼きとたこ焼きは不得意です。というか、ひっくり返す系全部不得意です」


 はあ、とリュウは溜息を1つつく。


「最初は期待されてたんだよ、レイタが無駄に推すからさ……それでこれですよ。なんだよ、遠回しに言いやがってさ、優しくされると泣きそうになるだろ……」

「…………」


 暫く黙って聞いてあげよう、カナエはそう思った。






 長い愚痴の後、リュウとカナエは『ミニゲーム』をやっている3ーCに来ていた。ちなみにここには崩山キョウ、分杯ショウ、船木リョウ、古場リオが所属している。

 

「ミニゲーム?」

「うん。能力使ったりしてゲームすんだよ。しかも、参加でお菓子、ハイスコアでお菓子セットが貰える」


 と、クラス委員のリョウが答える。

 教室内は、まだ文化祭が始まったばかりのせいもあって人は少ない。


「やってくか? ワンプレイ100円」

「ああ、やっぱ金取るんだ」

「そりゃ、参加賞出るしな」


 じゃあいいや、とリュウ。


「じゃあ、カナエちゃんは?」

「私は、財布持ってないですから」

「文化祭だぜ? 財布くらい持っとけよ」

「いや見てるだけで、十分なんで」


 ここで、「そういえば」とリュウは教室内を見渡す。


「キョウとリオちゃんが居ないな」

「ああ、2人は確か午後からだからな」


 ふーん、とリュウ。

 特にここでやる事も無いので、2人は教室を後にした。


「次はD組か」

「D組は何でしたっけ?」


 と、リュウとカナエがC組のお隣のD組を見ると喫茶店を開いていた。


「うん? リュウとカナエじゃないか」


 2人が声のする方に目をやると、手に黒い服を持った風神レイジがこちらに向かって歩いて来ていた。


「なあ、ここってメイド喫茶か?」

「いや、本当はメイドの予定だったんだが、お隣と被るからな」


 と、レイジは隣のE組の教室の上の方に、派手な装飾で飾っている「メイド喫茶」と書かれた看板を示す。


「でも、喫茶店は被りますよね」

「そうだな。でも、あっちは主に『萌え』に特化してるらしい。でも、俺らのクラスは『普通』の喫茶店だ」


 入りやすいだろ、とレイジは付け加える。

 外見だけ見ても、E組に比べてD組はモノクロ調でシンプルな外見だった。

 と、3人が廊下で話してるとD組内から彼らも見知った人物が出てきた。


「あれ? リュウ君にカナエちゃんじゃないか」


 出てきた女子を見てリュウとカナエは驚く。何故なら、出てきたのがタキシード姿に身を包んだ神無月ユミだったからだ。


「えらく、カッコ良くなって……」

「よしてくれよ。これ結構恥ずかしいんだよ」


 いつも通りの凛々しい声で、ユミは言った。しかし、その表情から恥ずかしさはあまり感じられない。

 と、その姿を見たレイジは手に持つ服の事を思い出す。


「じゃあ、俺も着替えなくちゃだから、暇だったらまた来てくれよ。出来れば午後がオススメだ」


 と言って、レイジは教室内に入って行く。続けて「じゃあ私も準備があるから」とユミも教室内に入って行った。


「じゃあ、次はそのメイド喫茶でも覗いてみましょうか」


 リュウとカナエは、隣のE組へと入って行く。


「よく考えたら、俺このクラス女子の知り合い居ねえじゃん!」

「そうか、ならこの機会に親しくなっちえ!」


 教室に入ると同時にリュウはその事を思い出し、それに対して入って直ぐの所に居たレジ係の海堂ショウイチはツッコんだ。


「可愛い子いっぱい居るよ〜」

「なんか誘い方があれだ!」

「疚しいですね」

「カナエちゃん無表情!?」


 と、そんなレジでのやり取りを聞きつけ、奥から覇道リュウヤが出てくる。


「おお、リュウヤ……あれ? ミズヤは?」


 クラス内をパッと見渡しても、牢月ミズヤの姿は見えない。


「いや、今日は来てへん。一昨日来い言うたんやけどな」

「そうか……」


 リュウとミズヤは、トーナメント以来一度も会っていなかった。同じ学校に通っている以上、適当に校内をぶらついてても会えるものだが何故か会えずにいた。


「で? で? メイドちゃんと遊んでくの? どうするの?」

「いやいいや。それより、ここってマドカ居なかったっけ?」


 えぇ遊んできなよ、と愚痴るショウイチを横目にリュウヤが答える。


「今はおらんな。確か午後からちゃうか」


 そっか、とリュウは横でメイドの良さを力説するショウイチを無視しE組を出た。


「男子って、メイドが好きなんですね」

「ああいう奴も居るだけで、全員がそういうわけじゃないぞ」

「そりゃそうですよ、もしそうならとても生きにくい世の中になります」


 確かに、とリュウはF組の上に配置されている看板を見る。


「『お化け屋敷』ですか。無料なら入ってみます?」

「俺は外から見てるから、カナエちゃん1人で入ってきなよ」

「それじゃ、意味無いですよ」


 さあ、行きますよ、とリュウを引っ張るカナエ。そんな2人の前に教室内から何かが出てきた。


「お化け!?」


 そのリュウの言葉に驚き、教室から出てきた落ち武者の格好をした堂巳サヤは辺りをキョロキョロと見渡す。


「サヤ先輩?」

「えっ? うん? ああ、カナエちゃんか〜」


 びっくりした〜、とサヤは胸を撫で下ろす。


「どうしたんですか?」

「いや、ちょっと準備をね」


 と、サヤはリュウを見て何か考え事を始めた。


「リュウ君、今暇?」

「えっ? 暇だけど……」

「よしっ、じゃあ手伝って! 後カナエちゃんも」

「???」


 訳もわからないまま、2人はサヤに引っ張られお化け屋敷内へと入っていった。


「お化けええぇぇぇえ!!!」


 その後、男子生徒の悲鳴が断続的に廊下中に響いていた。






 同刻、C地区学校屋上。

 普段は、ましてや文化祭中には誰も来る理由の無い場所に男子学生が2人来ていた。

 2人のうち片方は、目が隠れるくらいの長髪が特徴の男子。もう片方は、短髪のいかにもスポーツマンな男子だ。


「んだよ、誰もいねえじゃねえか」


 当然彼らは、なんとなくこの場所に来たわけではない。短髪の方の下駄箱に入っていた手紙を読んで来たのだった。ちなみにラブレターでは無い。


「もう帰ろうぜ、誰かのイタズラだろ」


 長髪の男子が言う。しかし、言った本人もこれがイタズラだとは思ってはいなかった。しかし、早く他の学校の文化祭に参加したいために言ったのだった。

 数分待ち、長髪の言う通りに屋上を後にしようとする2人だったが、突如彼らが入ってきた扉が開いた。


「うん? 誰だ?」


 彼らは、その扉を開け屋上に来た人物に見憶えはなかった。


「お前か? 手紙なんて入れたのは」


 短髪が少しイラつきながら言う。内心もしかしたら女子からの告白、だと思っていたのだ。念の為、友人である長髪の男子を連れてきたのだが、残念ながら今その求めてない展開になっていた。


「おいっ、聞いてんのか!」


 彼らの、言葉に一切反応しない屋上に来た男子。それに、短髪の方の男子もそろそろ限界のようだ。


「憶えて無いのか……」


 男子はボソッと呟き、手を前に出す。


「でも俺には、用が、ある、あるんだよ」


 その小さな声を震わす彼の手から、冷気がこぼれだす。


「ああっ!? 聞こえねえよ!!」


 イライラが頂点に達した短髪の男子は、鉄槌を具現化し彼に特攻する。


凍てつく愚者ジャッジメント・ブリザード


 彼の手から、放たれた冷気。その冷気に触れた物は、一気に凍りついていく。当然、彼に特攻した短髪の男子の体も一瞬で凍りついた。その光景に唖然とする長髪の男子にも冷気は到達し、その体を凍らせた。

 一瞬のやり取りの後、凍りついた屋上を背に彼はその場を後にした。






 リュウとカナエがF組に入って、およそ2時間後。如月ミオと入れ替わる形で2人はサヤから開放された。


「もう、お化けなんて怖くない」

「なんか、変な趣味に目覚めそうです……」


 2人は虚ろな目で、ミオから聞いた白土ハヅキの居る家庭科室へと歩を進めた。


 家庭科室へと近づくにつれ、香ばしい匂いが漂ってくる。

 

「お腹空きましたね……」

「ああ、いい匂いだ……」


 2人は虚ろな目のまま、家庭科室へと入った。

 教室内では、主に女子が机に置かれた焼きたてのクッキーを食べていた。その顔、リアクションを見れば、クッキーがどれだけ美味しいかがよくわかる。


「あっ……リュウ君……」


 リュウの姿を見つけ、頭に頭巾を被ったハヅキが消え入りそうな声で近づく。


「お久しぶりです、ハヅキ先輩」


 と、カナエは会釈する。それにつられてハヅキも軽く頭を下げる。


「うん? ハヅキちゃんの友達?」


 ハヅキと同じように頭に頭巾を被った男子が3人に近づく。


「うん、トーナメントで戦った」


 リュウ達と話す時より少しトーンを上げて、ハヅキが男子に答えた。


「ああ、あの」


 と、彼は2人の方を向く。


「俺は部長の(まさる)です」


 どうも、とリュウとカナエは共に会釈する。


「折角なんで、どう? 焼きたてだよ」


 その言葉に2人は即答した。






「ふー、お腹一杯」

「美味しかったな」


 時刻は12時過ぎ。リュウとカナエは、満足顏で家庭科室から出てきた。


「さて、そろそろA組に戻るか」

「そうですね、私もそろそろ自分のクラスに戻らないと」


 階段口にて、カナエは笑顔で続ける。


「今日は楽しかったです、クッキーありがとうございました」


 それじゃ、と手を降ってカナエは階段を降りていった。

 その笑顔に、リュウの口元も綻んだ。


――つか、今考えるとデートみたいじゃん!


 リュウは暫く、にやけが止まるまでトイレに篭っていた。






「という感じで、うろちょろしてました」

「ふーん、そうか」


 C組喫茶店にて、リュウはレイタに先ほどまでの経緯を話していた。


「そういや、レイジどこ行ったんだろ」


 と、リュウは教室内を見渡してみるもレイジの姿は見えない。


「そういや、さっきサヤと一緒に出て行ったな」

「何かあったのかな?」

「さあな、単に他のSCMらの所に行ったんじゃね」


 そっか、とリュウ。そして、改めて教室内(喫茶店内)を見渡す。


「女子のタキシード姿って新鮮だよな」


 当然ながらユミ以外にも、タキシード姿の女子はいる。男子と大体、半々くらいだろうか。


「そうだな……さて、そろそろ戻るか」

「午後もやんのかよ」


 ああ、とレイタは席を立つ。


「つかお前もだよ」

「えっ!?」

「接客係だ」

「ああ……それならやれるか」


 と、リュウも続けて席を立った。






 同刻、C地区の学校屋上にて。

 レイジ、サヤ、一二三マモル。また金髪のアルス・デュノア、背中に剣を背負ったSCMチームC所属の女子、ミリア・ラドルフ。他、私服のSCM関係の人達数人が屋上に集まっていた。

 屋上には今の季節じゃ……今の季節に限らず、そうそう見る事の出来ない幻想的な光景が広がっていた。


「で、やられた学生は大丈夫なのか?」


 太陽の光が反射してキラキラ光る氷を見ながら、レイジが訊く。


「ああ、大丈夫だ」


 レイジと同じく、その光景に座り目を向けているマモルが答えた。

 最初にこの光景を発見したのは、C地区の学生だった。屋上から冷気が溢れているのが気になり、屋上に来たのだという。そして、ここに居る者達と同じように、その光景に暫し見惚れたのち、職員室に走った、という事だった。

 

「氷の能力者なら、直ぐ見つかるわね」


 と、ミリアが言う。この現場を見れば、氷の能力者がやったと直ぐに断定できた。また、氷などの属性系能力なら数が少なく、直ぐに絞り込める。


「アビリティマスターの仕業じゃないだろうね……」

「可能性はあるな」


 腕を組むアルスの言葉に、レイジが頷く。


「取り敢えず、被害者が犯人を見てくれてるかどうかだな」


 そう言い、マモルは立ち上がった。






 時刻は午後6時。後片付けも終わり、学生達は各々打ち上げの準備なり、帰る準備なりをしていた。

 当然A組でも打ち上げが行われるようで、リュウとレイタも誘われたが、2人はそれを断り帰る事にした。


「めんどい、疲れた、眠たい」


 自転車に跨り、1つ欠伸をし、2人は帰路につく。

 楽しかった日々もひとまず終わり。リュウにとっては、初めてのことばかりの文化祭で酷く疲れたようだが、それなりにこの祭を楽しめたようだ。


「後悔? いやいやねえよ。そもそも去年はトーナメント出てねえし」


 去年も出とけばって後悔してるか? とレイタが訊くとリュウはそう答えた。


「去年の後悔より、今年の満足の方がデカイから、それでいいんだよ」


 リュウは、満足気な表情でそう言った。

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