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Lost Story -ロストストーリー-  作者: kii
第2章 日常(8月〜9月)
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第31話 文化祭 前編

 今年の学園都市の文化祭は9月28日(土曜日)、29日(日曜日)に行われる。

 さて、文化祭というものは本来1つの学校で一行事として行われるものである(例外も有るだろうが)。しかし、ここでは学園都市内(北地区、南地区は別れる)で一斉に行われるという特徴があった。といっても、2日あるので1日目で半分、2日目で半分といった感じの開催となる。今年の場合、1日目がA〜C地区が開催、2日目がD〜G地区が開催、といった感じになる。






 日付は9月28日。時刻は午前9時。

 レイタが住むマンションの前で、リュウとレイタは自分達の所属するクラスの出し物の準備も既に昨日の時点で終えていたため、A〜C地区の何処を回るかの計画を当日になってから立ていた。


「取り敢えず、C地区から回ってくか?」

「知り合い居ねえよ」

「じゃあ、B地区」

「居ねえな」

「じゃあ、Aだな」

「居ねえ……」


 ここで、一旦レイタは息を吐いた。


「さて、つっこむぞ……お前は、D地区以外に知り合い居ねえだろ」

「おう!」


 自信満々に答えるリュウ。


「まあ、取り敢えず1番近いC地区から回ってこうぜ」

「おう……」


 こうして2人は、文化祭1日目はC地区から順にB、Aと回る事にしたのだった。






 それから、約30分後。C地区学校校内にて。

 リュウとレイタは、適当にぶらぶらと廊下を歩いていた。校内では学生達が、大きな声で客引きを行っている。お馴染みの? 喫茶店やお化け屋敷、普通の飲食店etc……。しかし、そのようなものは目も暮れず、のらりくらりと2人は歩いて行く。


「D地区の奴居ねえな……」

「だな……」


 そんな事をお互い呟きながら歩いていると、いつしか怪し気な教室の前に来ていた。看板には『疑似VRMMO体験会』と書かれている。


「ここは辞めといた方がいいな……」


 レイタの呟きなどお構いなしに、リュウは勢いよく引き戸を開ける。


「ウェルカーム!!」

「!?」


 引き戸を開けると同時に、数人の男子の声がリュウとレイタを迎える。リュウはその声に驚きつつも、教室の中へと入って行く。


「いやいや、今日初めてのお客さんだよ」


 少しぽっちゃりとした男子が、入ってすぐ目の前の黒い布で覆ってある空間から布を掻き分け、リュウとレイタの前に現れた。


「さあさあ、中に入って」


 ぽっちゃり男子は、リュウとレイタの背中を押し中に招き入れた。


 黒い布で仕切られた先には、まるで研究室のように謎の機械やパソコンが無造作に置いてあった。それを数人の男女が弄っていた。


「ん? 見ない人だね」


 そのうちの1人の女子が、リュウとレイタの方を向く。


「俺らD地区から来たんだよ」

「D地区!?」


 レイタの言葉に、その女子は何故か驚く。


「? D地区がどうかしたのか?」

「えっ、いや、知り合いがD地区に居るから……」


 レイタの問いに、何故か下を向いて答える彼女。


「へえ、誰々?」


 ぽっちゃり男子が話にのってくる。


「押重マドカて言うんだけど……て、この話は別にいいでしょ!」


 と彼女は立ち上がった。


「私は、山神(やまかみ)利多(りた)。この研究部で部長してます」

「兼ボランティア部でもあるよ」


 と、ぽっちゃりが補足し自身も自己紹介を始める。


「僕は、南風(みなみかぜ)(ゆう)、もちろん研究部所属だよ」


 折角なので、リュウとレイタも自己紹介をした。


「リュウ君にレイタ君か……」

「で、君達はそのマドカ君の友達なの?」

「ちょっとその話はもういいって」


 ええだって気になるじゃん、とユウ。それには、リュウとレイタも同意だった。マドカについてはあまり知らないが、2人共何となくマドカにD地区以外の知り合いが居るとは思えなかったのだ。


「ただ中3の時、一緒だっただけだよ」

「それだけ?」

「ほんとだって」


 ふーん、とレイタ。レイタは、この話題にはあまり興味は無かった。一方、リュウは興味津々な目をしている。


「はいっ、もうこの話はお終い、それより擬似体感ゲームをプレイしに来たんでしょ」


 と、リタは無造作に置いてある機械の中から1つを取り出しリュウとレイタに渡す。それは、頭に取り付けるような形をしている。


「これを、頭に取り付ける事によってなんと! RPGを体験出来るのです!」


 リタの言葉にイマイチ実感が湧かず、ポカーんとする2人。


「まあ、取り敢えず体験してみなよ」


 と、ぽっちゃりは2人にその得体のしれない機械を頭に装着するよう促す。


「大丈夫なのか? これ」


 あっさりと装着したリュウと違い、レイタは慎重だ。


「大丈夫、大丈夫。何回か成功してるし」

「それって、何回か失敗してる……」


 気にしない、と無理矢理ぽっちゃりに装着させられたレイタ。


「よしっ、準備オッケー?」


 リタの言葉に、その場のレイタを除いた全員が「オッケー!」と返す。


「よしっ、能力発動!」


 と、リタの周りを青白い光が包み込む……。






 同時刻、C地区3―A教室。

 海堂ショウイチと船木リョウに連れられ押重マドカは、学生メイド喫茶に来ていた。


「お前は、もっと異性を知るべきだな」


 俗に言う「絶対領域」をガン見しながらショウイチとリョウは彼に言う。


「しかし、楽園かここは?」

「美女揃いだし、文句なしだな」


 にやける2人に対し、マドカは心中穏やかでは無かった。


――リタに会わなきゃいいけど……いや会いたいけど……でもなあ……。


 マドカは1人、メイド喫茶で溜め息ばかりついていた。






「うーん、機械の故障かな……」


 リタは他の部員と共に、パソコンやら不思議な見た目の機械やらを弄っていた。青白い光に包まれ、それが引いて行った後も、リュウとレイタの視界に変化は無かった。


「御免ね、また今度遊びに来てよ、何時でも歓迎するからさ」


 うん分かった、と言うリュウに対してレイタは出来ればこれっきりにと思った。

 研究部の皆に見送られ、教室を出た2人はまたぶらぶらと当ても無く歩き出した。


 暫く歩いていると、折り紙教室と書かれた看板を発見するも……2人は素通りしようとするが。


「こらこら、折角だから見てきなよ」


 長い金髪が特徴的な男子に声をかけられた。


「久々だなアルス」

「うん? 知り合い?」

「ああ一応な、こいつはSCMチームCの……」


 レイタの言葉を遮り、アルスが自己紹介する。


「アルス・デュノアだ、時に君はリュウ、じゃないかね?」


 まるで貴族のような雰囲気を持つ……学生服を来ていなければ、なアルスがリュウに訊いた。


「あれ? 何処かであったっけ?」

「いや、カナエからよく話を聞くものでね」


 リュウはアルスが"カナエ"と呼び捨てで呼んだのが少し気になったが、ああと納得する。


「にしても、こんなポツンと何してんだよ」


 廊下の教室と教室の間、壁を背にダンボール箱で作った看板に、ダンボールの机。金髪ロン毛には似合わない光景だ。


「皆が折り紙の良さを理解してくれなくてね……まあ美しくはないが、こうして折り紙の良さを伝えてる所だよ」

「伝えてるって、誰も居ねえだろ……」

「さっき水野(みずの)丹野(にの)が来たぞ」

「SCMのか……冷やかしだな」

「全く……さっきから聞いてれば、君は貶す事しか出来ないのかね」


 もう、行こうぜ、とアルスの愚痴を流し、レイタはまた歩き出す。机の上の綺麗な折り紙が気になったが、リュウもレイタの後をついて行った。


「あれが、マモルも一押しのねえ……」


 リュウの背を見つつ、アルスは呟いた。






「なあ、水野ニノて誰だよ」


 リュウは歩きながら、先ほどの会話で気になった事を訊く。


「SCMチームA所属の女子だよ、いつも何考えてんだか分かんねえ奴だけどな」

「ふーん、つか意外とSCMの奴等と親しいのな」

「1年の頃に知り合ってから、ちょくちょく交流が有ったからな……」


 レイタは1年の頃、ある事件をきっかけにSCMの世話になっていた。その事件は、特に今は関係無いので割愛させてもらう。


「さて、そろそろB地区にでも行くか?」

「面倒い……つか歩きたく無い」


 2人の足は、気付けば最初に見た模擬店の方へと向かっていた……。






 一方、ショウイチチームはヤヨイ、ユミ、レナと出会っていた。


「そうそう、メイド喫茶良かったぜ、メイドさんめちゃくちゃ可愛くてさあ」

「そうか、まあここのメイド喫茶は美女揃いと文化祭前から有名だったからね」


 ショウイチの熱いメイド喫茶押しに少し引きつつも、ヤヨイとレナはオススメの場所をマドカとリョウに訊く。


「この中だとA組じゃね? プラネタリウムやってたし、なあマドカ」

「うん」

「じゃあ、次の行き先はA組にしよっかな」


 ショウイチの熱いメイド談義に対し、丁寧に受け答えているユミを腕を引っ張りヤヨイ達はA組の方へと向かっていった。


「くっ、同志が増えると思ったのに」

「異性の同志増やしてどうするんだよ」

「まずメイド服を着せます → 萌える仕草や言葉を徹底的に教えます」

「ユミは執事の方が似合って……」

「カッコいいメイドも有りだと思います!」


 そんな、『ユミはメイドか執事か』談義をしながら2人は歩いて行く。それに溜息をつきながらマドカもついて行った。






「マズイな」

「直球だな」


 模擬店で昼食を済ませ、リュウとレイタはまたそこら辺をぶらぶらしていた。


「もう片っ端から回って見るか?」

「研究部のインパクトにやられて、全部しょぼく見える気がする」

「それはねえ、てか頭に変なの着けただけだし」


 と、ああだこうだ言いながら廊下を歩いていると、ミオとハヅキを発見した。


「おっ、リュウアンドレイタ君ー!」


 ミオはリュウとレイタに気付くと、少々疲れてる様子のハヅキを引っ張り、手を降りながら向かって来た。


「偶然だねえ、今2人?」

「ナンパ!? まあいいや、2人共何してたの?」


 ミオの、ボケたのかボケてないのか分からない発言にツッコミつつリュウが訊く。


「ぶらぶら〜てね、そういえばC地区にはアビリティマスターが居たよね?」

「氷界ハジメだな、あとこの前気になったから調べたんだけど、B地区に彩張(さいばり)鈴蘭(すずら)てのも居る」

「そっかあ……まあ今回は普通に文化祭を楽しむよ」


 と、ミオは少し残念そうな顔をするも直ぐに何時もの笑顔に戻り。


「そうだ! まだ家庭部行ってなかった!!」

「えっ!?」


 レッツゴー、とミオはハヅキを引っ張って何処かに走り去っていった。


「大変だな、ハヅキちゃんも」

「ああ……」


 走り去った彼女等を見送り、2人はまた歩き出した。


「おお、そこの2人、筋トレしないか?」

「はいっ?」


 2人が振り向くとそこには、ガタイのいい坊主の制服を着てなければ男子高校生とは思えない男子が立っていた。


「なんだ、レイタじゃないか」


 たくましい声で彼は言う。


「なあ……レイタ、この人」

「察しの通りSCMだ」

「SCMチームC、筒川(つつかわ)雄子(ゆうじ)だ。……君は、もしかしてリュウ君かい?」

「それ、さっきも聞かれたな」


 そのリュウの反応に、高らかに笑うユウジ。


「カナエが誰彼構わず言ってるんだよ、凄い先輩が居るって」

「凄い先輩……」


 その情報に、悪い気はしなかったが、少し恥ずかしくなったリュウ。


「それにしても、印象とはだいぶ違うな、レイジとトレーニングしてるんだろ? 筋肉が足りてないんじゃないか?」

「筋肉……」

「リュウ気にするな、こいつは筋肉バカだ」

「筋肉バカとは失礼だな、まあ筋肉は好きだが」


 と、ユウジは自慢の上腕二頭筋を見せる。凸凹だ。


「さあ、一緒にトレーニングしよう」

「いやいいわ、リュウ行くぞ」


 そんな事言わずに、と勧誘するユウジを振り切り、また当ても無く2人は歩き出した。


「しっかし、今日はよく知人と会う日だな……」

「トーナメント前じゃ、考えられないだろ」


 確かに、とリュウは去年の文化祭を思い出す……。


「そもそも、去年はD地区から出てねえな」


 去年のリュウは、初日は家でテレビを見て、2日目は今みたいに廊下をぶらぶらしていた。


「そうか……なら、やっぱりトーナメント出て良かったろ?」

「ああ、そうだな、じゃなきゃ今年も家でごろごろしてたろうよ」


 それが悪いことでは無い。しかし、せっかくの人生1度きり……3度ある学校行事、1回くらい楽しむのも有りなのではないだろうか。


「楽しいな……くそっ」


 リュウはふっ、と笑った。

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