第23話 強者を求めて
ルミナス・レイオート。
タッグトーナメント準決勝にてリュウ、カナエと戦った、眼鏡で金髪という日本の学校ではあまり見かけない組み合わせを持つ女子生徒。
名前がカタカナだが別に外人というわけではなく、『異界』と呼ばれるところの出身だった。
そんな彼女の趣味は、『強い能力者と戦う』。
というわけで今回、風の能力者であるミオと同じ『アビリティマスター』である『押重円』と戦うことにしたのだった。
とはいえ、元々は同じクラスでありシングルトーナメント制覇者の『札切杏子』と戦うつもりだったのだが、アンズはトーナメントの後から学校に来ていないので誘えずにいた。
しかし、ルミナスはアンズが恥ずかしがり屋だと知ってるので、誘っても断られるだろうな、と半ば諦めてはいるのだが。
とにかく、その代わりとして今回マドカが選ばれたのだった。
同じアビリティマスターならミオでもよかったのだが、トーナメント戦を見る限り本気になってくれそうになかったためマドカにしたのだった。
「で、マドカ君の居場所を聞きたいんですけど」
8月13日火曜日。時刻は午前10時30分。
知らない男子に勉強を教えている、海堂彰一にルミナスは唐突に話しかける。
別に目に留まったから話しかけた、というわけではなくショウイチはマドカと仲がいい、ならマドカの居場所も知ってる、と彼女は思ったのだ。
「知らないな……てか、終業式から会ってないな」
「アンズと同じパターンですか……」
恥ずかしがり屋。なんで、強い人はそんな人ばっかなんだろう、と2人しか例を知らないのにルミナスは思った。
「ミオちゃんなら何か知ってるかもな……」
「ミオちゃんですか……」
それを聞いたルミナスは、少し考える素振りを見せた後に「ありがとうございます」と丁寧に言い、ミオの所属する3―Fへと向かうためドアの方へと走って行く。
――行っちゃった……ほんと行動力早いよなあ。
ドア付近で人にぶつかりそうになったルミナスを見て、ショウイチはそう思った。
場所は変わって3―F……では無く3―A。
先ず、F組に行ったルミナスだったが、お目当てのミオは居なかった。なので、近くに居た女子にミオの事を聞くと、A組に行ったとのことだったので彼女はA組に来ていた。
教室に入るなり、ルミナスはミオを発見する。
「ミーオちゃん!」
その声に振り返るミオ。
そばには、ルミナスの知らない男子がいる。
「ルミナちゃん!」
と、既にルミナスとは友人だったミオはいつもの笑顔で答えた。
「どうしたの?」
「押重マドカの居場所を知らないですか?」
うーん、とミオは考え込む。
「ごめん、わかんないや」
「そうですか……」
と、ルミナスはミオの横にいる男子、レイタに話しかける。
「一応聞きますけど、知ってます?」
「知ってるけどさ、その前になんで居場所を知りたいんだ?」
ルミナスにとって、予期せぬ答えが帰ってきた。理由を聞きたいの方では無く、知っているという答えの方だ。
「そうですねー、うーん、まあ、大した理由では無いんですけどね」
「さすがに、俺もあまり親しく無い奴に簡単に協力はしない主義だからさ」
「固いですねー。嫌われますよ?」
「そうだな。でも、曲げるつもりはねーよ」
「まあ、私も隠すほどの理由では無いですし必要なら言いますけどね。……実は、マドカ君と戦いたいんですよ」
「戦う?」
ルミナスは、レイタに自分の趣味の事を話し出す。
「そうか……、まあ、それならいいか」
と、レイタは携帯を取り出し立ち上がる。
「電話で聞いてみるよ」
と、レイタは教室を出て行った。
……数分後。
「いいってさ」
「ほんとですか!?」
ルミナスは、飛び上がりそうなくらいに喜んだ。静かな教室に、彼女の声が響く。
「闘技場で待ってるってさ」
「分かりました! 有難うございます!!」
丁寧に頭を下げてから、ルミナスは教室を飛び出して行った。
「元気な奴だな……」
レイタの呟きに、教室に居る全員が声無く同意した。
場所はトーナメント会場としても使われた闘技場。
ルミナスは途中、すれ違ったリュウの事を思い返しつつマドカの到着を待っていた。
――弱かったなあ……負けたけど。
タッグトーナメント準決勝。ルミナスはリュウの一撃を受け負けた。しかし、本人は何故自分が負けたのが分からないでいた。
――1対1ならどうなってたかな。
ルミナスは、シングルには予定が悪く出られていない。当然、タッグと同じ様にシングルでも出たら優勝する自身はあった。
――取り敢えず、アンズに当たるまでは無難に勝てただろうな。
いくら予定が合わなかったとはいえ、無理してでも出たかったというのがルミナスの本音だった。それ程までの戦闘好き。といっても、相手は自分より強い者に限る、が。
と、ここでようやく、ルミナスが入った北口とは反対の南口から1人の男子と主審用に先ほどルミナスが呼んだ教員が入ってきた。
「すみません、急に呼びだしたりして」
言葉だけ聞けば今から告白でもするような感じだが、今からこの2人が行うのは決闘である。
「じゃあ、さっさと始めるぞ」
ボサボサ頭の教員は面倒くさそうに頭をかきながら、2人に決闘の説明をする。決闘のルールはトーナメント戦のそれと同じである。
「一応言っときますけど、手抜きは無しでお願いします」
ルミナスの言葉に、マドカは小さく頷く。
ルミナスとマドカだが、実はこれが初対面だった。それでルミナスが抱いたマドカの第一印象は"とにかく強そうに見えない"。この上無く普通なのだ。特にこれと言って特徴も無ければ、覇気も無い。とても、彼が『アビリティマスター』だと彼女は信じられなかった。
――うーん、大丈夫かな……。
力の無い目のマドカを見ていて、ルミナスは内心不安になってきていた。本当にアビリティマスターなのだろうか、何かの間違いじゃないのか、と。
「じゃあ、お互い少し下がって」
審判のやる気の無い声に、2人は位置につく。
ふと、ルミナスが観客席の方に目をやると疎らだが人が集まってきていた。
「んじゃ、試合開始」
そして、教員のだらしない声と共に試合は始まった。
静かな空間で始まった試合。そんな中、観客席には2人が戦うという噂を聞きつけ、リュウとユミが駆けつけて来ていた。
「静かだなー」
「この試合、注目度はあると思うんだけどね……」
観客席は、2人が予想していた程は盛り上がってはいない。とはいえ、本来決闘に観客がいること自体は普通では無い。なので、数は少ないが観客がいるだけ他の決闘に比べれば注目度はあるということになる。
そんな、多少の注目度の中、特に動きを見せないマドカにルミナスは声をかける。
「そっちから来ていいですよ」
兎に角、最初は様子見。ルミナスの基本スタイルである。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
そう小さな声で言ったマドカは、全身にバチバチと音をたて電気を纏う。
――あれ?
次の瞬間、目で捉えていたマドカが消える。ルミナスは、慌てて辺りを見渡すがマドカは何処にもいない。
――早過ぎる……。
目でマドカを捉える事は出来ない。しかし、ルミナスはマドカの纏っている電気だけは微かに捉える事が出来た。
そのスピードを目で追えている者は、この会場には1人もいなかった。誰もがルミナスと同じように、薄っすらと黄色い線を確認出来るだけである。
――!?
突如、さっきまで捉えていた電気の帯さえも見えなくなった。
――何処に……!?
ルミナスは咄嗟に顔を上に上げる。上を見た彼女の目が捉えたのは、空中で手を前に突き出すマドカだった。
マドカの手から、4本の雷がルミナスに当たらない程度に前後左右に落ちる。その一瞬の出来事に、ルミナスは自分の体のどの部分も反応させることが出来なかった。
――??
そのあまりに突然の出来事に、暫く思考が停止するルミナス。
「ギブアップ?」
最初の位置に立っているマドカのその言葉に、ルミナスは我に返る。
――ギブアップ? 何が? 誰が!
ルミナスは、既に能力を解いているマドカに突撃する。
――雷を纏っていない今なら!
空を切るルミナスの一撃。次の瞬間、首に痺れを感じ、ルミナスの視界は暗くなっていく。
――えっ……。
薄れいく意識の中で、ルミナスはマドカとの圧倒的な実力差を感じていた。それでも、彼女が諦める事は無い。
地面に倒れるルミナス。それを見て主審が様子を見に近づく。
「……マドカの勝ちだな」
その主審の言葉を聞き、マドカはゆっくりと歩いて、ざわつく闘技場を後にした。
その光景に、リュウもユミも空いた口がふさがらない。
「マドカがトーナメント出てたら、どうなってたかな」
「それでも、アンズちゃんがいるからね……まあ、それを除けば敵なしだったろう……」
その衝撃的な光景に、リュウとユミは暫く動けないでいた。
次回ですが24〜29話を飛ばして30話です。




