第2話 勝つために
シングルトーナメントの概要は以下の通り。
本トーナメントの参加方法は、開催日(7月20日)の5日前までにトーナメント管理委員会に必要事項を記入した用紙を提出する事で参加できる。
本トーナメントに1年は参加出来ない。2年または3年で、怪我などの参加が困難な理由がない限りは特に条件無しで誰でも参加できる。しかし、定数に達している場合は参加が出来ない可能性もある。
シングルトーナメントは、7月20日から27日にかけて参加人数32人による全32試合を行う。人数の加減で試合数が上下する可能性もあるが、基本的には32人に調整し行う。
シングルトーナメントは、各地区で予選を行った後、各地区上位3名を選出し本選を行い更に学園都市No.1を決める。
「そのほかのルールは、試合前に審判が説明してくれるよ」
レイタの懇切丁寧な説明を流し聞き、リュウはその最後の言葉に適当に相槌を打った。
7月19日、金曜日。時刻は昼過ぎ。
リュウとレイタは、昼食も兼ねて作戦会議のために学校近くのファミレスに来ていた。
「で、その予選で優勝したら何か貰えんのか?」
「賞状とトロフィーだな」
リュウは、その予想通りの言葉に少し気を落とす。
これは、普通の人によって行われるトーナメントでは無く能力者によって行われるトーナメントである。ならば、賞品もなかなか良い物だと、彼は心の何処かで勝手に思っていたのだ。
「本選でも同じ?」
それでも、それは予選だからその程度なのであって、本選ならばきっと良い物だろうと期待を含ませ、彼は似たような質問をぶつける。
しかし、レイタから返ってきた答えは先ほどと全く同じものだった。
「つか、お前はそれよりも確実に1つ1つ勝ち進む事を大事にした方がいいだろ」
「まあ、そりゃそうだけどさ」
今回、リュウがトーナメントに参加する理由は異性からモテたいため。
その為には、優勝も勿論大事だが1勝1勝を確実に余裕を持って勝ち取っていくのも充分大事な事である。特に、戦闘経験の無いリュウなら尚更そうだろう。
それでも、参加するからには優勝を目指したい。だが、彼もレイタの言い分は充分に理解していた。
当然、レイタもリュウを優勝させたいと思っている。
友の過去を知ってるからこそ。それが理由で、今まで意識的に人と余り関わってこなかったことを知ってるからこそ、レイタはリュウをトーナメントで1つでも多く勝たせ対戦相手やその取り巻きとつながりを持たせたいと考えていた。
そんな思いを持ちつつ、レイタは窓際に置いてあるスティックシュガーを1つ取り「さて」と話を戻す。
「その為に、今回ここに来たわけだが……」
口を開け、目の前に置いてあるまだ口の付けていないコーヒーにそれを注いだ。
「先ず何から考えるかだが……」
中身を全部入れ、レイタは次に同じく窓際に置いてあるコーヒーミルクに手を延ばす。
「勝つ方法」
リュウは、目の前に置かれたオレンジジュースの入ったグラスに手を延ばし即答した。
「まあ、先ずそれか」
中身を全部入れ、レイタはグラスの中のコーヒーをかき混ぜ始める。
「つまり、戦いの基本」
「戦いか……そういうの経験無いからなあ」
「でも、お前には他の奴には無い力があるだろ?」
「まあ、そうだけどさ」
あまり自信を持たずに彼は言う。
他の奴に無い力。レイタが言うこの力とは先ずリュウの持つ能力の数を言う。
本来、能力者は基本的には2つの能力を持っている。ちなみに、最大は3つでありこれは限りなく稀である。4つ以上は、今の所公式には存在しない。
では、その数はどの様にして決められるか。
1つは、運。
能力の数の決まり方は完全に運であり、遺伝や(といっても、能力がこの世界の人々に発現してからまだそこまで時間が経っていないが)環境、その他諸々の対外的影響により数が決まる事はない。環境に関しては、あくまでこの世界での話だが。
2つ目に、所持する能力の種類が挙げられる。
能力には大きく7つの種類に分けられ、その中の『属性系』『複合系』及びこれら以外の種類である一部の能力を所持する能力者は基本的には2つ目の能力を所持する事はない。
リュウの場合下のタイプで、属性系の能力を持ちかつ2つの能力を持ち、更にそのどちらの能力も属性系というかなり珍しいタイプの能力者だった。
そんな、珍しいタイプにも関わらず彼は知り合いが少ない。その理由に、先述した少ない彼の友人であるレイタも知るある過去の出来事が関わってくる。
「今回、この珍しい組み合わせの能力を中心に戦っていく」
トーナメントで発表される情報に敵の能力についての情報は無い。まして、対戦相手すらトーナメント初日に発表されるため敵の情報を収集する時間はない。
1回戦の2日目なら別だが、トーナメント期間中は在学生がどの様な能力を持っているか載っている名簿は閲覧出来ないし、クラスメイトも基本的には対戦相手に教えない。
そもそも、リュウの事が話題になったのは1年の頃であり、今はクラス内でも酷く空気である。故に、対戦前にリュウの情報を取得するのは困難だろう。
だが、今はインターネットというものがあるので、あまり意味をなさないかもしれないが。
それでも、対策を練るのは困難だろう。ただでさえ、対戦相手として避けたい属性能力者にも関わらず、それが2種類ともなれば簡単には対策できない。
「つまり、『炎』を軸にして『氷』を奥の手にすると」
「そんな感じだな」
そう言って、レイタは渇いた喉をアイスコーヒーで潤した。
リュウの持つ属性能力は『炎』と『氷』。文字通り、炎を操る能力と氷を操る能力だ。
ちなみに、属性能力者は何もない所でも対応する現象を発生させられる。
例えば、火の能力なら火の無い所に火を発生させられるし、燃やす物がなくても発生させた火を維持できる。なお、氷の様に溶ければ水となる現象の場合、水になった時点で操る事は出来なくなる。
「対戦相手の対策については、初戦は戦いの中で敵の扱う能力の対抗策を練るしかねえな」
「つまり、序盤は様子見を徹底すると」
そうだな、とレイタは手に持ったグラスを揺らしながら答えた。
「あと、優勝候補と言われる奴なんかと当たった時は能力を知っててもそれを徹底した方がいい」
「へえ、やっぱそういうのっているんだ」
「まあ、そりゃな」
「ちなみに、どんな奴なんだ? その優勝候補は」
「全部は把握してないが、今の所は一二三マモルの妹の"一二三カナエ"と通称『弾丸の波』の"札切アンズ"てのがいるな」
「ガンアンドウェーブ? 通り名?」
「そんな感じだろうな」
へえ、とリュウはグラスに口を付ける。
「勝ち上がっていけば、自然と周りが名前を付けてくれるよ」
「そうかあ……俺もそんなカッコいい通り名がいいな」
「リュウなら『炎氷』か?」
「うーん……微妙」
「なら、どんなのがいいんだよ」
「燃ゆる氷解とか」
「……小学生が考えそうな通り名だな」
「遠回しに思考が小学生と同レベルって言われた」
がっくりと肩を落とすリュウ。
「まあ、名付けるのはリュウじゃないし、いいじゃないか」
「俺って、そんなに名付けのセンス無いかな……」
「誰もそんな事言ってねえ」
はあ、とため息をつきレイタは残りのグラスの中身を飲み干した。
「取り敢えず、先ずは初戦。確実に勝っていくぞ」
その言葉に、なんともレイタを不安にさせる様な「お~」と力の抜けた声でリュウは返した。
次回予告
「これが、トーナメント……」
トーナメント初戦。緊張に押しつぶされそうになるリュウの対戦相手は、ちょっと変わった能力を扱う能力者で……。
次回「シングルトーナメント①」




