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Lost Story -ロストストーリー-  作者: kii
第2章 日常(8月〜9月)
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第18話 変わる者、変わらない者

「というわけで、昨日からスキルバーストのトレーニングをしてるんだよ」

「へえ」


 時刻は午前11時。

 リュウとレイタは、昨日に引き続き勉強のため教室にいた。

 昨日と同じように、教室にはリュウたちの他にも疎らだが生徒はいる。他にも勉強できるところはいくらでもある中、わざわざ教室を選ぶ人は多くはない。


「でもさ、午後から3時間以上も拘束するのはどうかと思うわけでね」

「教えてもらってる側がそんな事言っちゃだめだろう」


 うーん、とそれでもリュウは不満顔だ。


「気持ちも分かるけどな……じゃあ、相手が女子ならどうだ?」

「女子でも変わら……いや、どうだろう」


――昨日はたまたま、レイジだったが。もしサヤちゃんだったら?


 堂巳(どうみ)紗綾(さや)。レイジと同じくSCMで、トーナメントでは副審を務めていた。知人からは「サヤ姉」と呼ばれている。


「まあ、サヤ姉は勉強の方頑張ってるから無いだろうけど、ルナなら」


 と、ここでレイタは口を噤んだ。


「ルナ……誰だ? SCMか?」

「うん? ああ、『ルナ・セシリア』。B地区の生徒だけど、数合わせでチームDに所属してるんだよ」


 SCMは、通っている地区毎にチーム分けされている。1チーム原則3人だが、D地区では3年はレイジとサヤしかSCMに入っていないためB地区からルナがチームに入っている。


「ふーん、でどんな人なんだよルナちゃんて」

「それは……まあ、性格は悪い」


 レイタは、何かを思い出すように口を開く。何か、嫌な思い出でもあるような口振りだ。


「性格ねえ……どんな感じに悪いんだよ」


 そんなレイタなどお構いなしに、リュウはレイタに訊く。


「うーん……とにかく高飛車、いやツンデレて奴か?」

「ツンデレだと」


 リュウの言葉は、まさかリアルでそんな奴がいるとは、といった感じの物言いだった。


「レイジに対してはツンデレ、他は基本ツンだな」

「うーん、興味本位で見てみたい気もする……」


 と、ここでレイタは参考書に視線を戻す。


「まあ、カナエちゃん居るしいいんじゃないか」

「そりゃ、そうだけどさ」


 レイジと男2人っきりでトレーニング、に比べたら女子であるカナエがいるだけでも十分ではあった。

 と、ここでこの話題が終わり、リュウがそろそろ勉強に戻ろうかな、と思った矢先、静かに教室の扉が開く。その扉が開く音を聞きリュウがその方に目をやると、そこにはリュウヤが立っていた。


 覇道(はどう)龍弥(りゅうや)。タッグトーナメントで、リュウの決勝の相手だった生徒だ。


 リュウヤは、リュウを確認すると静かにリュウに向かって歩いて来る。


「悪い、勉強中やったか」


 リュウヤは、リュウの机の上に無造作に置いてある参考書を見て言った。


「いや、てかなんか用か?」

「ああ、ちょっとな……今ええか?」

「大丈夫だけど」

「そうか、まあここじゃ周りに邪魔やし」


 そう言って、リュウヤは廊下を示した。






 場所は校舎の外。

 一階渡り廊下から外に出た所で、リュウは前にミオに連れられてきた自販機のある所に来ていた。


「で、なんだよ用て」

「この前の決勝の事でな……怪我はもうええんか」


 リュウがトーナメントにて、リュウヤとタッグを組んでいた牢月(ろうげつ)水哉(みずや)に負わされた怪我。

 トーナメントから3日経ったが、既に痛みも違和感も無くなっていた。


「ああ、跡形も無いぜ」

「そうか、良かった」


 と、急にリュウヤは頭を下げる。


「ほんま、悪かった!」


 その大きな声と、いきなりの事にリュウは困惑する。


「ほんまはミズヤと謝るべきやけど、なんでかあれから連絡が取れへん。やから、俺だけでもと思って!」


 はあ、とリュウ。

 リュウにとっては過ぎた事で、今更この件について掘り返そうとも思えなかった。それに、謝るにしてもリュウヤはそもそも何もしていない。


「いや、いいよ別にさ」

「いや、それじゃ俺の気がすまん、なんなら殴ってもらってもかまわん!」


 と、リュウヤは頭を上げる。

 それに、「うーん」とリュウは考える。さすがに殴るわけにはいかない。だからといって、それで納得してくれるかというとそうもいかない。


「うーん……じゃあさ1つ頼みを聞いてくれね」

「何や? 何でも聞いたる」


 と、言ったもののリュウも思いつきで言ったのであって、何か頼みがあるわけでは無かった。

 そして、暫くどうしようかな……と思考を巡らしていたリュウは、ある人物を思い出す。


「ある人の話を聞いて欲しいんだ」


 「今いるかな……」とリュウは、2年の教室に向かって歩き出す。それに、リュウヤも少し疑問に思いながらも黙ってついて行った。






「おお! ほんとにいいんですか!」


 場所は新聞部部室。たまたま2年の教室に居たカナエに聞き、リュウとリュウヤはここに来ていた。

 先ほど思いついたリュウの頼み。それは、ミエにタッグトーナメントを制覇したリュウヤを取材させるというものだった。当然、ミエがリュウヤを取材したいと言ったのを聞いた訳ではない。ただ、リュウヤの性格上もし取材したいと頼んでいても断られていると思ったのだった。

 そして、このリュウの予想は大当たり。ミエは、子どものように(子どもだが)はしゃいでいる。


「……まあ、リュウの頼みやからな」


 と、少し嫌そうな表情を見せるリュウヤ。異性だから以前に、性格の問題が大きかった。


「じゃあ頼んだぜ」


 そう言って、リュウは2人を置いて教室を出ようと扉を開ける。すると、そこにキョウが立っていた。

 崩山(ほうやま)(きょう)。リュウのシングルトーナメント初戦の相手であり、リュウにとってはそれ以来の顔合わせとなった。


「やあ、久し振り」

「ああ、トーナメント以来だな」


 で、何か用か? とリュウ。


「いや、たまたまリュウが入ってくのを見てね」


 と、キョウは踵を返す。そして「じゃあ」と言って、てくてくと廊下を歩いていった。


――久々に会ったのにな……。


 と、リュウは少し残念がるも改めて自分の教室へと歩を進め始めた。






 学校の屋上。太陽の光が照りつけ、風がさらさらと吹く中、無表情で運動場を見る男子生徒がいた。


「暇やな」


 ボソッと彼は呟く。

 落ちないように設置された鉄網越しに見える運動場では、元気に運動部が練習していた。

 と、どこを見るわけでもなく見る男子生徒に近づく男子生徒が1人……キョウだった。彼に気づいているのか、気づいてて気づかないふりをしているのか、彼の登場にも男子生徒は動く素振りを見せない。


「牢月ミズヤ?」


 キョウは彼に訊くも、彼は振り向かない。


「そうか、どうかくらい言ってくれてもいいのに……」

「今は気分が悪いんや、用なら後にしてくれ」


 ミズヤはそう返す。


「ほほう、リュウかい? それともリュウヤ?」

「ええ加減にせいよ」


 と、低い声でミズヤはキョウの方を振り向く。

 その顔は、トーナメントでリュウを切った時に似ていた。しかし、それに対しキョウは笑顔で答える。


「いやだな、そんな怖い顔しないでよ」


 その言葉を言い終わると共に、ミズヤは剣を具現しキョウに切りかかる。だが、キョウはそれを素手で掴み防いだ。


「!?」

能力崩しスキル・デテリオレイト


 キョウの触れている部分から、剣がボロボロと崩れ出す。


「なんや……これ」


 その光景に、ミズヤもさすがに驚きの表情を見せる。

 暫くすると、彼のその手に持っている剣はボロボロになってしまう。それはまるで、酸で溶かされたようだった。


「さて、冷めた所で本題と行こうか」


 キョウはハンカチを出し、血だらけの剣を掴んだ手のひらを拭う。


「今回、ミズヤに会いに来たのはとある報告をするためでね」


 と、剣を掴んだ方の手をさするキョウ。さすがに痛かったようで、目には少し涙が溜まっている。


「実は、リュウヤがね……」


 と、キョウは先ほど見たものを笑顔でミズヤに語り出した。






「ほほー、そうですか」


 リュウが、教室を去ってからはや30分。

 ミエの怒涛の質問攻めに、リュウヤは疲弊の色を隠せない。一体どこからそんなに訊く事が出てくるのだろう、いやそれよりも、初対面の人間にここまでペラペラ喋れるものだろうか、とリュウヤは不思議に思っていた。


「じゃあですね、次は能力について訊いちゃおうかな」


 まだ続くんか、とリュウヤは心の中で溜息をつく。


「ずばり、リュウヤ先輩の能力は!」


 トーナメントに参加している能力者にもっている能力を訊く、なんてのは普通は無いだろう。しかし、リュウヤは今回タッグトーナメントで能力を一回も使っていなかった。いや、厳密には"特殊"能力を一回も使っていなかった。


「にしても、何で能力を使わなかったんですか?」

「基礎能力で、何処までやれるか試すためやな」

「ほほう、じゃあ負けそうになったら、特殊能力も使ったかもしれないと?」

「そうやろな。シングルやったらともかく、自分のエゴでミズヤまで巻き添えには出来ん」


 だったらシングルでいいですよね、と言いながらミエはメモを取る。


「あと能力は『鉄(toughened)』や」

「対象を硬くしたりするやつですね」


 意外と普通です、とミエはメモを取る。さっきから一言多いが、リュウヤは特に気にしない。


「こんなもんですかね」


 ふう、とミエは一つ息を吐く。


「今回はありがとうございました!」


 と、ミエは頭を下げた。


――やっと終わった……。


 と、教室を出ようと立ち上がるリュウヤ。

 

「あっ、ちょっと待ってくださいね」


 と、リュウヤの手を唐突に掴むミエ。


「うん? なんや?」

「感謝の気持ちですよ」


 リュウヤの手に飴玉を渡す。りんご味だ。


「マネーじゃなくて申し訳ないですけど……」


 と、ミエは視線を下げる。


「別にええよ」


 リュウヤは、その飴玉をポケットに突っ込んだ。

 ミエの「取材受けてくれて、ありがとうございます」という言葉を背にリュウヤは教室を出る。その顔から既に疲れは感じられなかった。


――こういうのも、悪ないな。


 しかし、30分の問答は流石に疲れたのか、リュウヤは自分の教室へフラフラと歩き出した。

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