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Lost Story -ロストストーリー-  作者: kii
第1章 出会いと戦いとトーナメント
14/156

第14話 タッグトーナメント ③

 8月4日。時刻は昼1時前。

 トーナメント準決勝まで、あと数分。

 会場前にて、リュウは例によって膝を抱えていた。

 今回は普通に腹痛だった。


「大丈夫ですか……」


 カナエの問いに手を上げ答えるリュウ。

 早く抑えなくては、腹痛では勝負に集中出来ない。


「大丈夫か?」


 聞いたことの無い声にリュウは顔を上げた。

 そこには、知らない男子が立っている。

 その男子に対し、不思議そうな顔をするリュウを見て彼は自己紹介を始める。


「リュウ……だよな? 俺、次の対戦相手の彰一(しょういち)


 よろしく、とショウイチは手を差し出す。

 リュウも慌てて、それに答えた。


「じゃあ、お互い頑張ろうな」


 カナエにも自己紹介を済ませ、ショウイチは好青年な笑顔を振りまいて行った。


「イケメンですね……」


 そのカナエの呟きに、ピクッと反応するリュウ。


「さあ、そろそろ時間だよ」


 サヤのいつもの言葉に、リュウは立ち上がる。

 何時の間にか腹痛も引いていたようだ。






 会場内の熱気は昼ということもあってかなり高い。とはいえ、この2人の出る試合はいつもこうだが。

 今回の2人の対戦相手は美男美女チーム呼ばれていた。

 美男はさっき会ったので知っていたが、美女とは……とリュウは同じく入場してきた対戦相手の方を見る。

 そこには、金色の髪が目を引く眼鏡をかけた美女が歩いていた。ちなみに、異界出身者は大抵黒髪以外だったりする。別に髪色の校則も無いので、黒に染める人は少ない。

 そして、近くで見ると金髪にジャージの似合わないこと似合わないこと。髪の長さは肩くらい、加えて眼鏡なので黒髪にすれば運動部のマネージャーぽくなるな……などとリュウが妄想していると、急にカナエに腕を引っ張られた。

 ルール説明が終わったのだった。


 そして、お互いに定位置に付く。


「それでは、試合開始!」


 その言葉と同時に過去2戦と同じように、ショウイチとルミナスはリュウ達から一定の距離を取る。

 そして、ルミナスを前にしショウイチはその場に座り込んだ。


「誓いは……」


 ルミナスは手のひらをショウイチの頭に当てる。すると、手首辺りから何本かの鉄の鎖がショウイチに向かって伸びていき彼の体に無造作に巻きついた。

 ここまで、数秒間の出来事。

 そこで邪魔をする手もあったのだろうが、その神秘的な鎖を見れば、それに見入ってしまうのも仕方がないだろう。

 それに、予想以上に能力発動時間が短いのだ。邪魔出来るとは、2人とも思えなかった。


「さて、今から約3分……」


 ルミナスはリュウ達の方を向く。

 今回、ショウイチが立てた誓いは以下の3つ。

 ・動かない

 ・目を開けない

 ・上記を3分間行う。

 それによって発動する強化が『抑視』の効力時間の増加。 本来の発動時間の2倍程度。約6分だった。


「さてと……」


 本来なら、リュウとカナエはショウイチに特攻すべきだろう。しかし、基礎能力だけでルミナスとやり合うのは正直キツい事は分かっていた。

 何故なら、ルミナス自身も『誓い』で基礎能力を強化しているからだ。まして、カウンターで『誓い』を発動される可能性もある。

 しかし、特殊能力を使えばショウイチを盾にされる可能性もある。それが、過去2戦のルミナスとショウイチの戦い方だった。


 しかし、そうは言っても攻撃しなければ意味がない。

 リュウとカナエはルミナスに突進する。しかし、2人の攻撃は軽く流されてしまった。

 手で触れられば簡単に発動できる『誓い』。だが、このやり取りでは発動されなかった。


「予想通り……いや予想以上だな」


 リュウが呟く。

 スキルバーストなら突破出来るだろうが、いくらなんでも使うのが早すぎる。


「どうします? やっぱり待ちましょうか?」


 『抑視』の方は目を合わせなければ良い。難しいが、足元を見て戦うという対策をとることができる。


「ゼロ距離での能力を使った攻撃だな」


 それならショウイチを盾に使われない。とはいえ、それが出来れば苦労はしないのだが。


「ルミナス先輩の『誓い』さえ分かればいいんですけどね」


 『誓い』さえ破れば基礎能力値は元に戻り、かつ『罰』が生じる。

 と、ここで「そうだ」とリュウはある案を思いつき、カナエを手招きし耳打ちした。


「うーん、博打ですね」

「でも、他に方法は思いつかないしな」

「そうですね、わかりました」


 と、カナエはその案に賛成する。

 そして、リュウは再びルミナスの方に目をやった。


「まあ、その前にもう1回だな」


 リュウとカナエは、再びルミナスに突撃する。しかし、やはりルミナスはそれを軽くあしらった。

 攻撃が当たらない。かといって、ルミナスは攻撃を当てる気が無い。避ける事に集中している相手に攻撃を当てるのは難しい。

 リュウとカナエは一旦後退した。


「やっぱ駄目だな」

「全然当たりませんね」


 リュウとカナエは肩で息をしているのに、ルミナスは表情一つ変えていなかった。


「さて……もういいかな」


 ショウイチが立ち上がる。3分経ったのだ。


「さて、最初はどちらから?」


 ショウイチは2人を見る。と、同時に2人は目線を下にやった。


「じゃあ、俺からだな」

「お願いします」


 リュウはショウイチを見る。すると、みるみる視界が暗くなっていった。


――氷華。


 完全に視界が見えなくなったところで、リュウは能力を発動する。


「頼んだぜ」

「了解です」


 それに、カナエは声をもって答えた。

 そして、カナエは改めて2人を見る。


――これで1対2か。


 しかし、そんなカナエの予想とは裏腹にショウイチは再び座り込んだ。


「ルミナス頼んだ」


 『誓い』を受け、再び目を瞑るショウイチ。


「さて、これで1対1ですね」


 ルミナスはカナエの方を向く。


「一二三マモル君の妹さんの実力、見せて貰いますよ」


――妹?


「あのマモル君の妹ですからね、失望させないでくださいよ」


――お前もそうなのか? ……そうか!


 カナエはルミナスに向かって突進する。しかし、ルミナスはそれを軽く迎え撃った。

 2対1で攻撃1つ当てられないのだ。1対1でもそれは同じである。


「くそっ!!」


 それでも2人よりは、仲間の事を考えなくていい分やり易いのかもしれない。それでも、カナエの攻撃は連続して空を切った。


――弱い。


 ルミナスのカウンターにカナエは吹き飛ばされる。と同時に、ルミナスの手首から攻撃を受けたカナエの頬に鎖が突き刺さる。


――!! やられた。誓いの鎖。恐らくは「能力を使わない」という『誓い』だろう。これじゃ特殊能力以前に基礎能力が使えない。


 しかし、ここでカナエはある事に気づく。


――いや「対象(ルミナス先輩)に攻撃する」という『誓い』の可能性も……。


 カナエは、その場にぺたんと座り込んだ。


――私のせいで負ける。私が挑発に乗ったから……。何やってんだ私は……。


 涙を浮かべるカナエ。『誓い』を受けた時点で彼女にもう一度立って戦う気力は無かった。






 それを観客席のマモルは黙って見ていた。


「終わったかな……」


 隣のレイタが呟いた。






 その彼女の様子に、ルミナスは少し考えてから口を開く。


「あ〜あ、ほんと期待外れですね」


――……。


「妹がこれでは、マモル君も対した事無いんでしょう」


――……?


「それにしても、よくここまで勝ち上がってきたもんですよね。ああ、あれですか。リュウ君のスキルバーストのおかげですか?」


――黙って聞いてれば……言いたい放題……。


「よしっ、じゃあ次はリュウ君のスキルバーストと戦ってみましょう」

「待てっ!!!」


 声を張り上げ、カナエは勢いよく立ち上がる。


「まだ終わってないぞ! 私はまだ戦える!!」


 兄と比較されるのが嫌いで、負けず嫌いで……そんなカナエに、先ほどの言葉は深く突き刺さった。


「ほう、じゃあいいですよ。先に、一二三妹さんを倒します」


 ルミナスは口元を緩める。


――うまくいったのかな?


 先ほどの鎖は、カナエをより本気にさせる為のフェイク。

 少し遠回りしたが思惑通り上手くいった。


「いちいち一二三妹て言うなあああ!!!」


 カナエは先ほどよりも更にスピードを上げ、ルミナスに突っ込む。


――ポテンシャルはある。あの一二三マモルと同じ血が流れているのだから。問題は、マモルほど使いこなせていない事と、志が低い事……でしょうか?


 ルミナスは、カナエの攻撃を紙一重で避けながら考える。


――一二三兄妹には、忌まわしき過去がある。強さを、努力や才能以外の方法で上げている過去が。それは、歴代の強者達にも共通する事。


 そして、ついにカナエの攻撃がルミナスの頬をかする。


――それは、親しき者の死。


 ルミナスは、カナエの怒涛の攻撃に一旦後退する。しかし、それが致命的な判断ミスとなる。何時の間にか、ルミナスはショウイチから離れ過ぎていたのだ。


「やばっ……」


 カナエの標的はショウイチへと変わる。


「ショウイチ!!」


 カナエの一撃が、ショウイチの顔面を直撃し吹き飛ばした。


「よしっ!!」


 その瞬間会場が沸いた。

 始めて、ルミナスとショウイチのコンビを打ち崩したカナエ。

 しかし、ショウイチを殴ってもそれで勝ちでは無い。再び、カナエはルミナスを標的に合わせる。


「能力発動!!」


 この瞬間、ルミナスは1つ後悔をするも直ぐに考えを改めた。

 悔しくは無い、むしろ嬉しい。それに、まだ負けたわけでは無いのだ。


「誓いは何がいいですか?」


――カウンターで『誓い』を発動する。大丈夫、やれる。


 4つの属性をフルに使うカナエ。右手には岩を纏い、左手には風を纏い、全身には火を纏っている。そして体の周りには火から離れて水玉が浮かんでいる。


「行くぞ!!」


 カナエは再びルミナスに突撃する。

 カナエによる怒涛の攻撃。

 しかし、ルミナスも引かない。攻撃を避け、カウンターのタイミングを探す。


――一発でいい、強く無くてもいい。


 それでも、浮かぶ水に一瞬目を瞑ってしまう。

 生じた隙を突き、カナエの体から離れた火の一撃がルミナスをかする。


火炎の絆(フレイムリンク)


 次の瞬間、炎を拳に纏ったリュウの一撃がルミナスに決まる。その渾身の一撃に、ルミナスの体は宙を舞った。

 当然ながら、リュウの視界はまだ戻っていない。

 『火炎の絆(フレイムリンク)』。片方の火また炎の攻撃に対応する追撃技。目以外の感覚で追う技。先ほど思いついた、2人の絆に賭けた技だった。

 吹き飛ばされたルミナスに、主審は走って彼女の元に向かう。

 そして、暫く様子を見て立ち上がり、リュウとカナエの元に向かう。


「勝者、リュウ、カナエチーム!」


 ワッと沸く場内。

 ふう、と緊張の糸が切れる様にその場に座り込んだリュウとカナエの元にショウイチが向かって来て、リュウの目に手をかざす。


「おめでとう。さすがは、今大会の注目チームだ」


 彼が手を離すと、リュウの視界が戻っていった。


「正直、ちょっと諦めぎみだったけどな」

「べ、別にいいじゃないですか、勝ったんだから」


 と、リュウの言葉に恥ずかしそうにカナエは視線を下げた。






 まだ収まらない歓声の中、マモルは席を立つ。


「じゃあレイタ、俺は決勝は見れないから、カナエの事よろしく頼むわ」


 おお、とレイタは手を上げる。

 マモルは、ユミとヤヨイに会釈し会場を後にした。






「あれが、決勝の相手か……」


 関西風の喋り方で、歓声に包まれるリュウとカナエを男子が見る。


「ええ度胸してますわ、こんな場所で男女頑張って……」


 もう一人、横に立つ口元をニヤニヤさせている男子が言う。


「こんな奴なら負ける気せいへん」


 彼らは、覇道(はどう)龍弥(りゅうや)牢月(ろうげつ)水哉(みずや)。次の準決勝で勝てば、リュウとカナエの対戦相手となる能力者だった。


――()ったろか……。

次回予告


「手も足も出ねえ……」

 遂に決勝戦。リュウとカナエの次の対戦相手は、SCMに勧誘されるほどの実力者だった。


次回「タッグトーナメント ④」

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