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Lost Story -ロストストーリー-  作者: kii
第14章 日常(12月〜3月)
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第126話 ある日のチームA 〜1+1+1という唯一無二〜

 3月2日、日曜日。A地区内。

 たまたま、予定が空いている日が重なったという事でSCMチームA、一二三マモル、音有アラタ、水野ニノの3人はチームAとして久しぶりに何処かに遊びに行くことにしたのだが……。


「プールに行きたい」

「俺は家電量販店に行きたい」


 ニノとアラタで意見が分かれ、かつ2人とも譲る気は無い、という状況に陥っていた。


「プール」

「家電量販店!」


 無表情で単語を言うニノに対し、アラタも出来るだけ声を抑えている。

 一方、その状況をマモルは申し訳なさを感じながらも呆れ顔で見守っていた。


「プール」

「家電量販店だ!」

「プール」

「家電量販店!」

「プール」

「家電!」

「プール」

「家」

「はいはい、そこまで」


 ふう、と息を吐きマモルは2人の間に割って入る。


「あのな、お前ら2人とも来月から社会人だろ? だからこそ譲り合いの精神をだな……」

「だったら、家電量販店だろ。プールとか時間を考えりゃ無理」

「無理じゃない。そもそも、家電量販店に行っても楽しくない」

「こいつナチュラルに俺の意見を否定しやがった」

「はいはい。まあ、そりゃ時間ないのは俺のせいでもあるけどさ……」


 というのも、午前中は3人とも都合が付かず現在時刻は16時。

 加えて、18時からマモルは彼自身の卒業祝いも兼ねて、カナエと外食する予定があった。


「そもそも、2時間で何を遊べっていうんだよ」

「それは一理ある」

「つか、何で急に遊ぼうなんて言い出したんだよ」

「気になる」

「いや……だって」


 いつものSCM隊長としての威厳は何処へやら。2人に言い寄られ、マモルは目線をちらつかせている。


「サヤたちも、アルスたちも暇を見つけてチームで遊んだって言ってたから……」

「ああ、あの話か」


 アラタとニノは思い出す様に目線を上げた。

 つい先日のこと、SCMの会議が終わった後で3人はサヤとアルスからチームで遊んだ事を聞いていたのだ。と言っても、チームCに関してはただ晩飯を共に食べただけではあるが。


「だからさ、俺らも卒業前に何かやらねえかなって」

「まあ、気持ちは分かるけどな。でも、別に卒業前に拘る必要もねえだろうよ」

「寧ろ、卒業後の方が時間はある」

「そりゃ、そうなんだろうけどさ……」


 SCMとしての仕事は卒業後も暫くはある。しかし、さすがにギリギリまで仕事があるわけではない。そもそも、既にSCMとして世代交代自体は完了しているため、今の期間はいわば次世代がちゃんとやれてるかアドバイスをする期間なのだ。

 SCM隊長であるマモルとしては、それ以外でまだやる事が残っているといえば残ってはいるが、それも大した量ではない。


「でも、何というか嫌な予感がな……」

「嫌な予感?」


 アラタは訊き返す。


「うん。何とも言えないんだけど、それでも卒業前後辺りに何かよからぬ事が起きるんじゃないかって」

「それは、考え過ぎ」


 そう、バッサリと切ったのはニノだった。


「いや、でも」

「ニノの言うとおりだな。考え過ぎ」


 だけど、とアラタは続ける。


「そんなに気になるのか?」


 マモルがネガティブな考えを出すことは、そこまで珍しい事でもない。また、そのネガティブな考えが実際に起こった事は少なかった。

 そう、"少なかった"だけで全く無い訳ではないのだ。

 アラタは、それが気になっていた。


「ああ。今までとは違う。それに、どんな事が起こるか全く想像がつかない」


 2人は、自分たちの周りだけ時が遅くなったような感覚を得た。


「……分かった。で、何処に行く?」

「何処に行く?」


 アラタ、続いてニノの質問にマモルは首を傾げる。


「いや、今回はお前が誘ったんだぜ? なら、行き先はお前が決めるべきだろ」

「私も珍しくアラタと同意見」

「俺が……」


 なら、と答えようとした瞬間、マモルは何者かの視線を察知する。

 それも、ただの視線ではない。暗く、しかし広さを感じる様な、とにかく普通ではない視線だ。


「マモル?」


 口を閉じたマモルにアラタが声をかけた瞬間、彼は謎の視線を感じた方向へと走り出す。

 その行動に一瞬困惑した後、2人も直様マモルの後を追って行った。






「…………」


 とあるデパートの屋上。

 誰もいない、自販機とベンチしかない殺風景な場所に3人は来ていた。


 風の音だけが鳴る、空間。


 青い空から、茶のフェンスへ、そして灰の地面へ。


 全てが拒絶された様な空間で、彼らは背後に這う様な視線を感じる。


「!?」


 ほぼ同時に、彼らは後ろに立つ青年を視界に捉えた。

 銀髪の手入れのされてないボサボサの髪に隠れた目から放たれる威圧。

 白衣を身を纏った青年は、薄っすらと笑みを浮かべて口を開いた。


「君たちが、学生の中でも最強と言われる3人か……」

「お前は誰だ?」


 間髪入れず、マモルが訊く。

 SCMにも白衣に身を包んだ研究員は多々いるが、少なくとも彼らの記憶の中に目の前の青年の姿はなかった。


「エグシス・クルーム」


 構えろよ一二三マモル。彼が言い終わると同時に、エグシスは彼らの視界から消える。

 次の瞬間、マモルの前に現れたエグシスからの右ストレートが放たれるが、彼は辛うじてそれを両腕を交差し防いだ。


「やはり、いい動きだな」


 突然の出来事に一瞬、アラタとニノは呆気に取られるが直様臨戦態勢を取った。

 そんな2人の動きをあざ笑うかのように、エグシスは笑みを浮かべた後、その場から一瞬にして消えてしまった。


 突然の出来事。

 唐突な日現実の来襲により、少しの間、続いた静寂はマモルによって解かれた。


「……さて、俺が選ぶんだったな」

「いや、それよりも……」

「SCMに連絡は?」


 ニノの言葉に、彼は片腕をさすりながら返した。


「いいよ電話で。あいつも俺らが目的な事言ってたろ?」

「いや、でもよ……」


 先ほどのマモルの嫌な予感。そして、エグシスと名乗る謎の青年の登場。

 アラタ、そしてニノもこれに全く関係性がないとは思えなかった。


「……はあ。で、何処に行くんだ?」


 しかし、同時にマモルが大丈夫と言えば大抵は大丈夫だとも2人は分かっていた。


「実は、カナエの誕生日は3月でな。プレゼント選びを手伝って欲しいんだよ」

「それって……まあ、別に何でもいいけどな」

「カナエが喜びそうなもの……」

「何かあるか? ニノ」

「……なにあげても喜びそう」

「あいつは、ブラコンだしなー」

「兄の前で実の妹をブラコン呼ばわりとは、いい度胸だなあ」


 ま、まあ、それ抜きにしても、とアラタは続ける。


「あいつはそういうタイプだろ?」

「まあ、そうなんだが……だからこそ、あいつが貰って嬉しい物を上げたいんだ。副隊長記念も兼ねてな」

「……なら、あいつとの時間をもっと作ってやりゃいいんじゃないか?」

「…………ん?」

「だから、もっとあいつに構ってやれってこと。卒業したら、そう簡単には会えなくなるだろ?」

「……そりゃ、そうだけど」

「なら、そうしろ。それプラス、あいつと買い物にでも行って何か買ってやればいい。なあ、ニノ」

「うん」


 イマイチ納得出来ない表情のマモルだったが、2人が言うならと素直にその意見を採用することにした。

 そもそも、マモル自身も別にそこまでカナエとの時間が作れていない訳ではなかった。といっても、その殆どがトレーニングによるものなので、それ以外でと彼は解釈していた。


「……なら、今から行かなくてもいいのか」

「そうなるな」

「うん」

「となると、最初に戻っちゃうな。別に、他に行きたい所もないし」

「なら、家電量販店にでも行くか」

「いや、プールに行く」

「いーや、家電量販店だ」

「プール」

「家電量販店!」

「プール」

「家電……って、もうどっちにしろあんま時間ねえか」

「時間が経つのが早い」

「なら、また日を改めますか」


 そう言い、夕陽を前に彼は伸びをする。

 ニノも軽く手で抑えあくびをするが、やはりマモルは残念な表情を浮かべていた。


「マモル。もし、何か悪いことが起こっても何時ものように乗り越えればいい話だろ?」

「何事も予測が大事。加えて、準備も大事」

「ニノの言う通り、だろ?」


 2人の言葉に、マモルは暗い表情を振り払った。

 いつもとは違う予感。だからこそ、彼にいつも以上に不安を与え、彼に考える余裕を与えなかったのだろう。


「ありがとう。やっぱり、お前ら最高だ」


 包み隠さず、真っ直ぐと言われた言葉に逆に2人が恥ずかしさを憶えていた。

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