第13話 異界出身者
『炎氷、四属性』対『風、巨人』の激闘から一夜明けた8月3日。
タッグトーナメントでは、2回戦と準決勝の間と、準決勝と決勝の間に、休息日が設けられている。
昨日の試合後、リュウのスキルバーストによる一撃を受けたハヅキは応急処置を受けた後に保健室へと直行した。結局、あの一撃を受けた事で骨が何本かやられてしまっていたのだ。
とはいえ、医療能力に不可能は無く暫く安静にしていれば問題ないレベルまで回復していた。
時刻は午前10時。リュウは、そんな大変な目にあったハヅキのお見舞いに来ていた。
「…………」
「…………」
ベッドにて上体を起こしたまま、また椅子に座ったまま視線をあちらこちらに揺らす両者。お互いに言葉が見つからないのだ。
リュウは昨日、トーナメント後保健室に着いて行き、諸々の処置が終わった後でハヅキにこれでもかというほど謝っている。これ以上謝罪しても、相手からすれば鬱陶しいだけだろう。
お互い、脳みそをフル回転させ言葉を探すも見つからない。
そんな、時間だけが過ぎていくなか、お互いにとっての一筋の光が保健室に差し込んだ。
「やっほー」という目が覚める声と共にドアが開いたのだ。
「おお、リュウ君来てたんだ」
部屋内の、どんよりしていた空気が一気に軽くなったように2人は感じた。
「どう調子は?」
「うん、大丈夫……」
静かな声でハヅキは返す。これが彼女にとっては、リュウとの挨拶以来の言葉になった。
「リュウ君明日も試合でしょ? いいの? こんなとこに居て」
早々に退場を進められたリュウ。当然ながら、ミオ本人はそんな意味で言ったわけではない。
「ああ、昼ぐらいにカナエが来るんだよ……」
リュウは声のトーンを落とし答えた。
「ふーん……あっ、そうだ」
そう言って、ミオはリュウの手を掴み誰もいない静かな廊下へと連れ出した。どうでもよいことだが、リュウにとって異性に触れられるのは中学生以来だったりする。
「いやー、ほんとは昨日言おうと思ってたんだけどさ」
「何が?」
「試合中にハヅキちゃんと友達になってって私言ったじゃん?」
ああ、とリュウはそれを思い返した。
「で、それが?」
「うん……そうだね、まずはハヅキちゃんのことからかな」
と、ミオはゆっくりと歩きだした。当然、リュウもミオについて行く。
「ハヅキちゃんね、家庭部なんだよね」
ふーん、とリュウ。
「で今、家庭部の部長は男子なんだけど」
今度はへえ、とリュウ。これは、少し意外だった。
「でね、ハヅキちゃん元々内向的なんだけど、男子が相手だと更に内向的になるんだよね」
次は「はあ」と相槌を打つリュウ。彼は、話が飛んだような気がした。
「でも、部長とは問題無く喋れるんだよ」
ほお、とリュウ。ミオの言いたい事がわかってきていた。
「でもさ、将来的にもどんな男子ともある程度は喋れるべきじゃん」
確かに、とリュウ。でも内心は『静かな女子の何処が悪いんだ』だった。
「つまり、ハヅキちゃんの異性に対する恥ずかしがり屋な性格を治すのを手伝って欲しいと?」
うん、とミオは頷いた。
リュウは今日保健室に来てから、さっきまでの状況を思い返した。もともと、異性との会話が得意でないのもあってか、先ほどもハヅキと挨拶以外の会話が無かった。
――よしっ、レイタに手伝ってもらおう……。
「分かった、手伝うよ」
その言葉に、ミオはニコッと笑う。
「ありがとう。よしっ、じゃあ取り敢えずトーナメント終わるまではそっちに専念して貰って……」
と、リュウとミオは何時の間にか自販機の前に来ていた。とはいえ、ジュースを買うためにミオが意図的にここまで来たのだが。
「よし、じゃあ今日はカナエちゃんが来るまで、私が一緒に次の対戦相手の対策を練ってあげよう」
ミオは、硬貨を入れボタンを押し、自販機から出てきた缶ジュースを取り出し言った。
時刻は10時30分。トーナメント管理員として学校に来ていたレイタに次の対戦相手について聞いてから、2人は保健室に戻っていた。
「うーん、簡単といえば簡単だけどね」
レイタから聞いた情報をメモした紙を見ながらミオが呟いた。
次の対戦相手は『解析と抑視(analysis&repression)』の海堂彰一と、『誓い、詠唱(promise&aria)』のルミナス・レイオート。どちらの能力もシンプルで対策がしやすいのだが……。
「まあ、ショウイチの方は楽だろな」
「そうだよね、で問題はルミナスちゃんか……」
ルミナス・レイオート。外国人かと思われるが、それはある意味では正解である。何故なら、彼女は通称『異界』と呼ばれている、"地球とは違う別世界"に住んでいた能力者だからだ。
『異界』についての詳しい情報は、今はあまり必要ないので割愛する。取り敢えず、今回は"異界は能力の始祖であるため、異界出身者は強い"という認識だけで良い。
「ルミナスちゃんは、まだ使ってない能力があるんだよな……」
異界出身者の殆どが、2つの能力を持っている。しかし属性能力ならば、リュウの様な例外はあれど、異界でも1つが普通だ。
そして、トーナメントでは対戦相手の名前やクラスなどは分かるが能力はわからない。ただ、タッグトーナメントに参加する能力者は、大抵シングルにも参加しているので、能力がわからないということはあまり無い。しかしルミナスは、(ショウイチもだが)シングルには参加してなかった。対戦相手の能力については、クラスメイトに聞くなり、知る方法は幾らでもあるが、ここでの問題はどこまでその能力を使えるか、そしてどんな使い方をするかである。
「ルミナスは後回しにして、取り敢えずはショウイチ対策だな」
リュウはミオの持つメモを覗き込む。
『解析(analysis)』
自分の目で見た対象の特殊能力を、自分に対してのみ無効にする能力。しかし対象の無効にしたい能力を、一度くらわなければならない。
『抑視(repression)』
対象の視界を、自分が目を閉じていた時間だけ閉ざす能力。発動方法は、対象と目を合わせる。
「『抑視』は何とかなるけど、問題は『解析』だよね……」
ミオの言葉にハヅキも頷く。さっきから黙りなハヅキだが、ちゃんと話は聞いていた。
「まあ、基礎能力だけで攻めるしかないか……」
『解析』は、基礎能力『攻』『守』『速』に対しては発動する事が出来ない。
「となると、属性を4つ使えるカナエちゃんがショウイチ君の相手だね」
4回の攻撃で『解析』を使われても、カナエだけで4つの属性攻撃が通る。1回1回全力でいけば、3、4回目で倒せるだろう。
「まあ、カナエちゃんなら隙を付いた攻撃も出来るだろうしな」
「カナエちゃんの基礎能力て、3年並みだもんね」
『解析』は自動発動ではない。 発動する為には、相手の能力を"目"で見ている必要がある。当然1回見ただけでは駄目で、解析する度に見る必要がある。
「うーん、やっぱ問題はルミナスちゃんか……」
リュウは再びメモを見た。
『誓い(promise)』
自分または対象に誓いの鎖を巻きつけ、能力などを強化または抑制する能力。
『詠唱(aria)』
詠唱により、対象に様々な効果を与える能力。
「アリアはともかく、問題はプロミスだよな」
「うん、取り敢えず過去2戦のデータを元にして対策を練らなきゃね」
この後、カナエも加えて夕方まで対策を練っていた。
次回予告
「まだ……やれる!」
対戦相手のショウイチ&ルミナスのコンビネーションに徐々に押されていくリュウとカナエ……。
次回「タッグトーナメント ③」