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Lost Story -ロストストーリー-  作者: kii
第14章 日常(12月〜3月)
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第125話 ある日のチームB 〜(1+1+1)+αという間柄〜

 SCMチームBに所属するユーリ・クライム、アイリス・クライム、湧流鈴に課せられた今回の任務。それは、現在学園都市内に8人居るアビリティマスターの1人、彩張(さいばり)鈴蘭(すずら)に会い勧誘する、という内容だった。


「で、彩張スズラってどんな奴なんだ?」

「いや、それよりも君らは何でここにいるのかな?」


 2月28日、金曜日。B地区内。

 時刻は昼前。

 呆れ顔で、ユーリは目の前を歩く鍵原(かぎはら)リュウイチ、そして紫雲(むらくも)アカネに言った。


「いや、だって俺ら問題解決屋だし」

「いやいや、僕らは君らに何も頼んでないよね……ていうか、スズ?」


 ユーリの言葉に、ギクッとスズは身体を震わす。


「い、いやー。だって、私たちだけで行ってもまた失敗するかなーって。えへへ」

「えへへ、じゃない。まあ、そりゃ前回も前々回も結局会えず仕舞いだったけどさ」


 会えず仕舞いだった? と、ポニーテールを揺らしながら歩くアカネが訊く。


「そっ。彼は恥ずかしがり屋でね、俺らの存在を察知すると逃げちゃうんだよ」

「お前らでも捕まえられないのかよ」

「そりゃ、アビリティマスター内で最速とか言われてるし」

「アビリティマスター内というか今の所、マモルとどっこいだって言われてるけどねー」


 そう答えたのは、赤髪のアイリスだ。

 彼女の言うように、スズラは現在学園都市に在籍する生徒の中ではマモルに次ぐ基礎能力『速』の持ち主だった。


「つか、そんなに拒否られるなら諦めればいいのに」

「スピードスターでアビリティマスターだからねー。そりゃ、SCMも喉から手が出るほど仲間に引き入れたいだろうさ」


 今回チームBに課せられた任務。それは、スズラに会い更に勧誘までするという一見楽そうな、しかし高度な任務だった。


「ほら、だから人が多い方がいいかなって」

「そりゃ、リュウイチの能力は都合がいいだろうけどね」

「でも、私たちに黙って問題解決屋に依頼したのはいただけないなー」


 ごめん、としょんぼりなスズの頭を撫でつつアイリスは目の前のアパートに目をやった。


「じゃあ、私たちは外で待機してるから。今回は問題解決屋の2人が勧誘に行ってきて」


 アイリスの言葉に、「了解」と返した2人は早速スズラの部屋へと向かって歩き出した。


「にしても、意外とダメージ少なめなのかな?」


 2人の背を見送りながら、ユーリが呟く。


「そんな事は無いと思うけどね。でも、時間も経ったし何より立ち止まっても仕方ないって思ってんじゃない?」

「そんなものなのかな。まあ、いくら友達の死であっても時間が経てば案外立ち直れたりするものだけどさ……」


 遠い記憶を思い出すように、ユーリはそう返した。






「おーい、スズラー」


 場所は、スズラが住んでいる部屋の前。

 何回目かのチャイムを押し、リュウイチは続ける。


「問題解決屋のリュウイチだけどさー。ちょっと話があんだけどー」


 彼の言葉にも、部屋の中から反応は無い。


「やはり、留守なんじゃ」

「いや、それはねえよ」


 そう答えたリュウイチの手から、青く淡く光る鎖が目の前の扉を通り抜けていた。


「捕縛の鎖か」


 リュウイチの能力は『抑制』。対象の力を封じる能力だが、この他にも単純に動きを封じる力もあった。

 リュウイチは、これらを『青の捕縛の鎖』、『黄の抑制の鎖』と使い分けていた。

 なお、『赤の制限の鎖』と呼ばれる技も彼は持っている。


「鎖が一瞬反応したんだよ。まあ、捕らえる事は出来なかったけどさ」

「でも、それなら逃げたって事じゃ……」

「…………あっ!」


 言われて気付き、彼は慌ててズボンのポケットから携帯を取り出した。


「いやー。マジでそこまで考えてなかったっす」

「…………」


 呆れ顔のアカネに対し、リュウイチはただ苦笑いするしかなかった。






「逃げたってさ」

「うーん、やっぱダメだったかー」


 リュウイチから電話で事情を聴き終え、ユーリは通話を切った。


「さて、どうしますかね」

「正直、めんどくさいよね……スズはどうする?」

「えっ? 私は……でも、やらなきゃSCMに怒られるでしょ?」

「「そうなんだよねー」」


 はあ、と2人は同時にため息をつく。

 これで、勧誘は6回目。ユーリたちは、本人が嫌なら仕方ない、という考えなのだが、SCM本部としてはスズラ程の実力者をそうそう簡単に諦める気はなかった。


「しゃあない。縛ってSCMに連れてこっかー」

「それが一番か。それで、上に直接説得してもらおう」

「ちょっと、可哀想だけどね」

「「仕方ない」」


 スズの言葉に、半ばやけくそ気味に2人は答えた。

 そう、悪いのは自分達でなく、ましてスズラでもない。諦めの悪いSCMなのだ。

 そのような考えの元、早速3人はバラバラにスズラ捕獲の為に動き出した。






 屋上。

 冬晴れの下。冷たい風が吹く中、1人の男子が空を仰いだ。

 ボサボサの髪に、今にも閉じそうな眼そうにする瞼。

 このまま寝ていきそうに、フェンスを背に首をフラフラとさせる彼こそ彩張スズラである。彼はアビリティマスターの中で唯一通り名が無く、またアビリティマスターの中で1番知名度が低い能力者だった。


「不思議だよね。目立ちたくない、地味に生きていたいと思っている人が、気づけばアビリティマスターという強い能力者になってるんだ」


 その声に、スズラは閉じそうになっていた目を大きく見開く

 その視線の先に立っていたのは、彼も顔を知るユーリだった。


「何故? 何故、君はそこまで強いんだい?」

「…………」

「まあ、別になんでもいいけどさ。ていうか、逃げないんだね」

「…………眠いからね」

「そういや、学校でもよく寝てるそうで。だから、『sleeping』の能力者なのかな」

「…………」

「寝たら捕まえるよ」

「……遂に実力行使?」

「うん。僕らも上からガミガミ言われててね。めんどいけど、やらなきゃだから」

「……不思議だよ。俺なんかより、強くてやる気のある人はいっぱいいるだろうに」

「それがいないんだよ。やる気のある人ならともかく、君より強い人は少なくとも学園都市内にはマモルだけだ」


 「過大評価だよ」。スズラは、大きなあくびを1つし答える。


「そうかもね。誰も君と戦った事ないから。でも、数値としては君はアビリティマスターであり『速』が6に到達している」

「SCMには頭の固い人が多いんだね」

「そうだろうね。そもそも、SCMに必要なのは正義、人を引っ張る能力、落ち着き対処する能力、とかで実力は二の次だと僕は思ってるし」

「なのに、お前は俺を捕まえようとしている」

「組織とはそういうものさ。特に僕らはまだまだガキだからね。まあ、だとしても上の言いなりってのも気分がいいものではないな」


 笑みをこぼし、ユーリは剣を精製した。


「こういうのはどうだろう? 実力行使したら返り討ちにあいました」

「??」

「君の能力は『missiles』だけじゃないだろ?」


 その言葉を聞き、彼の言いたい事を察したスズラは一瞬にしてユーリの背後に立ちポンと彼の肩を叩いた。

 次の瞬間、ユーリは力が抜けるようにその場に座り込み、気を失い地面に伏せた。






「よかったのかよ、これで」


 スズラの住むアパートからの帰り道、先を歩くユーリにリュウイチは話し掛ける。


「よかったんだよ。SCMには僕の力では無理ですって伝えればいいし」

「でも、それだと信用云々が……」

「まあ、確かにそうだけどね。でも、もう直ぐ卒業だし。マモルも何かしらフォローしてくれるだろう」


 でも、とここで何かを思いついたようにリュウイチの横を歩くアカネが口を開く。


「なら余計にスズラの評価が上がって、更にSCMが躍起になるんじゃないか?」

「…………まあ、それは彼に頑張ってもらえばいいさ」

「それでいいのか……」

「それでいいんだよ」


 それよりも、とここで口を開いたのはリュウイチの横を歩くスズだった。


「ご飯でも食べに行かない?」


 その言葉に他の4人は頷き返した。

 時刻は、12時を回った所。ちょうど、腹の虫が鳴き始める時間だった。






 適当なファミレスに入ったユーリたち5人は、会話を弾ませつつ昼食を食べ終わっていた。


「でもさ、そんなにスズラって凄いのかよ」


 水の入ったコップを片手に、アカネとスズに挟まれ座っえいるリュウイチが何気無く他の3人に訊いた。

 スズラは、アビリティマスターとはいえそのキャラクターから校内での知名度は低い。加えて、1、2年ならともかく3年ですら彼がアビリティマスターだと知っている者はいないほどだった。


「そりゃ、SCM内ではアビリティマスターの中じゃマモルに次ぐ実力者って言われてるぐらいだし」


 そうなの!? とユーリの言葉に目に見えて驚きの表情を見せたのはスズだった。


「あれっ? でも、マモル君の次に強いのは……えっと……」

「D地区の押重マドカだろ? でも、それはあくまで学園都市内の生徒やらなんやらが評価したもの。それだったら、空気キャラのスズラの評価が低くなるのは当然だろ?」


 ユーリの説明に、スズとリュウイチはへえと感想を漏らす。


「でも、なら何で空気キャラのスズラがそのマドカより強いって分かるんだ?」

「それは、マモルが押してるからだよ」

「一二三マモルが? って事は、マモルはスズラと戦ったことがあるのかよ」

「いや、そういう訳じゃなくてね。マモルは、アビリティマスター認定試験の監視役を務めててさ。そこで、今年のアビリティマスター全員の試験を見たうえで、そう思ったんだって」

「ふーん。強い奴ってのは、人の強さとか見抜けるものなのか」

「そうなんだろうね。まあ、マモルが言ってるから100%そうだ、とは言わないけどさ」

「だから、もしかしたらスズラは過大評価を受けているだけかもしれないってこと」


 そう、口を挟んだのはユーリの横に座るアイリスだった。彼女は、そのまま目の前にある食後のデザートのフルーツパフェを口に運び続ける。


「結局さ、SCMもマモルの何気ない一言と数値だけ見て判断してるだけだからねー。そりゃ、成績良い人材を取るのは普通だよ。でも、今年は特にアビリティマスターとか多いんだし、もうちょっと他の人に目を向けてもいいと思うんだよね」

「確かに、キャラクター的にはスズラは正直言ってSCMには向かないよね。対能力者としてのみ使うなら別だけど」

「ふーん。だとすると、何でそこまでSCMはスズラに拘るんだ?」

「それは、私たちには分からない。あくまで、私たちはSCMの下でこの学園のために頑張ってるだけだからねー」

「まあ、あるとすれば"あの"一二三マモルが押したからってとこだろうね。まあ、マモルとしてはそんなつもりで言ったんじゃないだろうけど」

「単純だな」

「単純さ。なんせ、この世界に能力者が現れて、まだ50年も経ってないんだぜ?」

「でも、お前らの世界では能力者が現れて数100年経過してるんだろ? なら……」


 それは関係ないよ、とユーリは返す。


「いつだって上に立つ人はバカ……いや、学ばない人間しかいないってこと」

「つまり、数値が高いから、強いからSCMとして戦力になる、ぐらいにしか上は考えてないんだよ」

「いやいや。そんな単細胞しかいねえのかよ」

「悲しいかな、これは僕らの世界でも地域によってはそうだったりするね」


 で、君らはこの話についていけてる?

 ここで、唐突にユーリは先ほどから黙りなスズとアカネに振る。

 アカネに関しては分かっているようだったが、スズに関していえば頭上にクエスチョンマークが目に見えるような表情だった。


「……あのさ。質問なんだけど、何でSCMに強い人が必要なの? 何か問題が発生しても私たちみたいな学生のSCMがいるじゃん」


 会話の中に出てくる単語のみは辛うじて理解していたスズが2人に訊いた。

 それに答えたのは、最初はそのテーブルに座る誰もが1人での完食が出来ないと思っていたフルーツパフェをあっさりと食べ終わったアイリスだった。


「そりゃ、SCMは警察やらなんやらが出来ない仕事をするからね。しかも、結構危険な事とかさ。さすがにそんな事を私ら学生に押し付けたら問題になるでしょ?」

「後は、僕ら異界側が世界中のSCMに強い能力者を引き入れてくれって頼んでるのもあるかな」


 それに「何で?」と訊いたのはリュウイチだった。


「……まあ、そこら辺は企業秘密ってやつだよ」

「んだよ、教えてくれたっていいじゃん」

「これに関しては殆どの異界出身者と一部のSCMしか知らないからね。僕もさすがにこれは言えないよ。だからって、マリアスに訊いちゃダメだよ」


 さて、とここでユーリは席を立った。


「姉さんが食べ切ったところで、そろそろ僕らはSCMに戻りますか」

「ん? なんか、やる事があるのか?」

「もうそろそろ卒業だからね。色々と、この時期は忙しいんだよ」


 含みのある笑みを返し、ユーリは財布を片手に歩いて行く。

 そして、彼に続いて歩いて行こうとするリュウイチとアカネをスズは呼び止めた。


「今日はありがと。別に報酬っていうか、そういうんじゃないけど今日は私たちが奢るよ」


 スズはニコッと笑い、先に歩いて行ったユーリとアイリスの後を追って行った。


「別にいいんだけどな」

「まあ、せっかく奢ってくれると言ってるんだ。ご好意に甘えようじゃないか」


 フッと笑ったアカネ、そしてリュウイチも3人の後へ歩いて行った。

次回予告


「お前ら来月から社外人だろ」

 卒業を前に、SCMチームAとして共に遊ぶ事になったマモル、アラタ、ニノの3人。しかし、アラタとニノで意見が分かれてしまい……。


次回「ある日のチームA」

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