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Lost Story -ロストストーリー-  作者: kii
第14章 日常(12月〜3月)
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第122話 リフレクションレター

 この世界は本当につまらない。

 何故なら、私の望み通りに事が運ばないから。

 ワガママ?

 でも、皆もそう思ってるんでしょ?

 それに、私の望みはそんなに難しいものじゃない。

 何も、この世界を手に入れたいとか、大富豪になりたいとか、そんな無茶苦茶な望みじゃない。

 みんなが普通に出来ること。

 でも、何故か私には出来ないこと。


 何で、みんなは他の誰かと居るの?

 何で、楽しそうに笑っているの?




 何で、私の周りには誰もいないの?

 私は何か悪いことでもしたの?






 2月18日、火曜日。時刻は昼の12時。

 八重隈ユイは、特に意味もなく人通りの少ない街中を歩いていた。


 よく、1年や2年の頃はこうして歩いてたっけ……。


 ゆらゆらと舞う風は、彼女の綺麗に手入れされた髪を撫でていく。

 彼女は、そんな自身に気持ち良く吹く風が好きだった。


 いつから、こうして歩かなくなったのだろう?

 どうして、こうして歩かなくなったのだろう?


 丁度よい冷たい風が、そんな疑問を優しく消していく。

 暖かな日差しが、空になった心を暖めていく。

 深く深く夢心地。

 白昼夢。否、これは紛れもない現実。

 かつて彼女が願っていた、彼女だけの理想の空間。

 そんな人のいない開けた空間は、彼女にとっては酷く心地の良いものだった。


 こんな時間が、ずっと続けばいいのに。


 しかし、あっさりと願った時間は終わりを告げる。

 ユイの目の前に立って、彼女の方へ手を振っていたのは、あの人造能力者戦以降、親交のあるユミだった。


 不思議だった。

 何故、目の前に自身の空間を犯す者が現れたにも関わらず、不愉快な気持ちにならないのか。寧ろ、多少の嬉しさを感じたのが、彼女は不思議でならなかった。


「久々だね」

「そうね。えっと、ユミも散歩?」

「ああ。ふと、たまにこうして行く当てもなく歩きたくなるんだよ」

「ふーん。まあ、私も似たようなもんだし。気持ちは分かるわ」

「そうか。なら、邪魔したかな?」


 ユイは、慌てて首を横に振る。


「べ、別にそんなことないわよ」

「そうか。なら、良かった」

「それより、ユミこそ、折角の散歩なのに私と出会って……」

「ん? いや、私もユイと同じだよ。寧ろ、嬉しいくらいだ。折角の休日に友人と会えたんだからね」


 友人。

 その響きが何より彼女の心を満たしていく。

 ずっと、欲しかったもの。しかし、手に入れられなかったもの。手に入れる方法が分からなかったもの。

 昔から何でも不都合なく出来たユイ。勉強もスポーツも、難なくこなして居た。他者から見れば、彼女に苦手なものは無いように見えただろう。

 しかし、そんな彼女にも、どうしても出来ない事があった。

 それは、友人を作ること。

 小学校高学年頃から、ユイはプライドというものを持ち始める。自分にとっては特に問題なく出来る事でも、他者にとっては全く出来ない。それが、次第に集団活動において彼女に苛立ちを憶えさせる。

 苛立ちを隠せる程、彼女は器用ではない。

 次第に、友達と思われていた者たちは彼女の周りから離れていった。


 意味が分からない。


 それは、初めて彼女が分からなかったものだった。


 そして、それは能力者となっても続いてしまう。

 悪いのは自分ではない。そんな、プライドが彼女に壁を作らせた。それは、環境が変わっても崩れることはなかった。


 私が悪いのだろうか。


 年月が彼女の考えを変えていく。しかし、壁は頑丈で最早、彼女に壊せる代物ではなくなっていた。

 心と壁の間で、彼女は悩みに悩んだ。

 結果として、彼女は思考を退化させた。

 後悔しないために。






 D地区内のとある公園。

 他に誰もいない、その場所で、2人はベンチに座っていた。


 人造能力者戦を境に、彼女を囲んでいた壁はボロボロと崩れ去っていく。

 最初で最後。いや、何回目かで最後のチャンスを掴むために、彼女はようやく立ち上がったのだ。


「ねえ」

「なんだい?」

「……変な事聞くけど、笑わないでよ」

「ああ、分かった。笑わない」

「友達って、どうやれば作れる思う?」


 そうだな……。と、ユミは視線を上げ考え始める。

 しかし、彼女にとってはさほど難しい問題でもなかったのか、答えは直ぐに彼女の口から出てきた。


「取り敢えず、コミュニケーションを取ったらいいんじゃないかな」

「コミュニケーション?」

「会話とか、スポーツとか」

「それで、なれるものなの?」

「それは、分からない。でも、少なくとも、そうしないと始まらないとは思うかな」


 当然といえば当然。友達というものの定義付けによって、いくらでも展開できる話題とはいえ、ユイとしてもそこまで難しい問題にはしたくはなかった。


 そんな、シンプルな事がどうして難しいのだろうか。

 何故、自分は出来なかったのだろうか。

 疑問は、彼女の奥底から止めどなく溢れ出てくる。


 でも、今更、考えて何になる?


 止めどなく溢れ出る疑問を吐き出すように、ユイはため息をつく。

 本当にどうしようもない。

 今更、そのような事を考えるのに意味はあるのだろうか?

 一度崩れた壁は、そう簡単には立て直される事はない。


 しかし、不安は付いて回る。

 今は、大丈夫。しかし、これは彼女自身の手で掴んだものではない。

 最後のチャンスは贈り物。

 そう都合良くチャンスは何度も来るはずも無い。


 しかし…………。


「おーい、ユミちゃん、ユイちゃーん」


 不意の声に、ユイはいつの間にか下がっていた目線を上げる。

 目の前には、数ヶ月前に知り合ったサイドテールのリオと、見たことの無い男子生徒がこちらに向かって手を振っていた。


「誰?」


 疑問符を並べるユイとユミの前に、2人は走ってくる。

 途中、こけそうになったリオにユイは思わず笑みをこぼした。


「あっ、思い出した」


 2人が到着し、ようやくユイはリオの隣の男子生徒について思い出す。


「えっ、もしかして忘れてた?」


 ユミ、ユイと同じく人造能力者と戦ったショウは気落ちした。

 仮にも共に戦った仲間であり、少なくともショウの方は彼女のことを憶えていた。


「もう、一緒に私たちのために戦ってくれたじゃん」

「ごめんごめん。だって、地味だし」

「それは、小声で言うことじゃないかなー……」


 苦笑するショウ。笑顔のリオ。ショウをなだめるユミ。

 ユイの求めた空間が、確かにそこに存在していた。

 彼女自身も含まれた、確かな空間が。


「凄く、幸せ」


 何? というリオの言葉にユイは何でもないと返す。

 このなんでもない、しかし彼女にとっては求め続けた日常は暫くの間、続いていた。

次回予告


「これって、私邪魔だよね」

 卒業を前に、SCMチームDとして共に遊ぶ事になったサヤ、ルナ、レイジの3人。しかし、レイジとルナの関係を知っているサヤは2人を前にいつも通りに接する事が出来ず……。


次回「ある日のチームD」

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