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Lost Story -ロストストーリー-  作者: kii
第14章 日常(12月〜3月)
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第121話 ねこにねこられねこねここ

 2月16日、日曜日。昼過ぎ。

 海堂ショウイチは、本日も日曜日に決まって行っている気分に行き先を任せた散歩に出かけていた。

 しかし、数ヶ月前の様に1人で散歩を行っているわけではない。


「今日は何処に行くの?」


 彼の横を歩く"ねここ"は、楽しそうに彼に訊いた。

 数ヶ月前に、ショウイチと運命的な出会いをした少女。擬人化の能力を持つねこ、ねここ(命名、ルミナス)。

 かなり珍しい"能力を持つ動物"である彼女は、数ヶ月前に散歩中だったショウイチと運命的に出会い、彼と彼の友人であるルミナスに助けられた経緯を持っていた。

 そんな事もあり、彼女は今ではショウイチの住むアパートに居候している状態だった。


「……まあ、適当に歩くさ」


 暖かな日差しの中、ショウイチは猫耳型の帽子の中で耳をピクピクさせるねここに答えた。

 ねここを狙っている研究員は数知れず。しかし、常に室内に居ては色々腐ってしまう。ということで、定期的にショウイチが週1の散歩に彼女を付き合わせてる、といった具合だった。


「いい天気だね〜」

「そうだなー」


 こんな日は身体から尻尾からピンと伸ばして地面に寝そべりたいところ。だが、周りに人が多い今の状況でそんな事をやったらどうなるかわかっているので、ねここは何とか欲求を抑えた。

 そんな行く当てもなく歩く彼と1匹の前に、見知った顔の人物が現れた。

 その姿に、ショウイチは思わず目に見えて嫌な顔をする。


「出会って早々、そんな顔をされたのは初めてですよ」


 彼らの前に立った金髪で眼鏡な女子、ルミナスは不満そうな表情を見せた。


「悪い悪い。で、今日は1人でどうしたんだよ?」

「恐らく、今のショウイチさんとねここさんと同じ理由ですよ」


 暇潰しのための散歩。

 ルミナスも、彼らと同じく予定が無いため行く当てもなくフラフラとしていたのだった。


「お久しぶりです、ルミナスさん」

「お久しぶりです、ねここさん。今日も、また可愛らしい帽子で」

「えへへ、ショウイチからのプレゼントです」

「ほほう、呼び捨てですか。いつの間にそんな関係になってたんですかねー」

「そんな関係って……。別に、俺が敬語だと壁を感じるかなと思ってだな」

「そうですよ。今や私とショウイチの関係は切っても切り離せぬ深いものです」

「ねここ!?」

「ねここさん、ネット……いや、パソコンか何か見てます?」

「はい、言葉の勉強に。テレビも見てますよ」

「うーん、まあ入ってくる情報の取捨選択は難しいですからね」

「……なんだろう。これが親の心境って奴なのか?」


 難しい顔をするショウイチに、ねここも腕を組み難しい顔をして見せた。


「まあ、せっかくこうして偶然出会ったんですから……と言いたいところですが、私は今日は1人で歩きたい気分なのでこれで失礼しますね」


 では、とルミナスは返答を聞かずに再び歩を進めだした。


「ルミナスさんって自由気ままだよね」

「マイペース選手権があれば優勝間違いなしだろうな」

「そんな大会があるの!?」

「いや、"あれば"だよ」


 ふう、と息を吐きショウイチは再び行く当てのない散歩を再開しようとする。


「ショウイチー」


 だが、背後からの聞いたことのある声に彼は再び歩を止めた。


「なんだ、リュウか」

「なんだとはなんだよ……うん?」


 ショウイチたちの方へと走ってきたリュウは、彼の背に隠れる見知らぬ美少女に目をやる。


「えっと、そちらは……」

「ん? ああ、えっとな…………」

「ああ……いや、うん、言えない関係ってあるよな」

「えっ! いやいや、断じてそういう関係じゃねえよ!?」


 焦りつつも、ショウイチは「まあ、リュウなら」と呟き、ねここの了承を得た後、彼を手招きした。


「ちょっと、見せたいもんがあるんだ」






「へえ、猫だったのかー」

「リアクションが薄くね?」

「いや、多分、最初に猫耳の帽子を見てたから」

「それで、リアクションが薄められるとは思えん」


 場所は、とある雑貨店。

 そこで、周りの目を気にしつつショウイチはリュウに彼女のぴょこぴょこ動く猫耳を見せていた。


「つか、同居してるんだな」

「ん? ふふふ、いいだろう。……いや、つか、これで信じるんだな」

「そりゃ、信じるぜ? だって、そういう能力ですって言われりゃ納得するしかないじゃん」

「そうだよなあ。ルミナスが性格悪いだけだよなあ……」


 初めて、ねここの正体をルミナスに明かした時のことを彼は思い出す。その時は、散々な言われようだったのだ。


「まあ、取り敢えず……ねここちゃん宜しく。リュウです」

「あ、えっと、ねここです」


 少々顔を赤らめながら、ねここはリュウから差し出された手に応えた。

 実は、研究所の人間を除くと彼女にとってはショウイチ、ルミナス以外で始めて出来た知り合いだった。


「にしても、猫が擬人化するこうなるのか……」


 リュウは、チラチラと彼女の全身を見渡す。

 見た目は女子中学生くらいの身体つき。それに、猫耳型の帽子から肩まで伸びた薄茶色の髪。目に関しては人間と大差ないが多少黄色が混じっており、ヒゲに関しても生えてはいない。


「は、恥ずかしいです……」

「え、ああ、ごめん!」

「リュウ、お前……」

「いやいや、違うよ! 猫の擬人化なんてリアルじゃ初めて見たからさ!」


 顔を真っ赤に染め、ショウイチの背に隠れてしまったねここ。

 それに、リュウはあたふたと弁明を述べるしかなかった。

 ねここが改めて彼の前に出てくるまで弁明を述べ続けたあと、リュウはふとここで思いついた事を口にする。


「そういや、ショウイチが卒業したらねここちゃんはどうなるんだ?」

「えっ……」


 リュウの予想だにしない発言に、ショウイチは言葉を詰まらせる。

 現在、ねここはショウイチの部屋に居候している状態である。ならば、ショウイチが卒業し学園都市を出て行った時、誰が彼女の面倒を見るのだろうか?

 飼い猫のように、共に連れて行くことも可能だろう。

 しかし、ねここはただの猫ではない。その存在を狙う者がいる、いわば貴重な存在だ。

 ならば、下手にSCMの手の届かない範囲に移動させるのはあまり良い事ではない。


「ショウイチ……」


 しかし、様々な考えが彼の頭の中で渦巻く中、ねここの不安な表情を見た彼は直ぐにそのような考えをかき消した。


「俺が面倒見るよ」


 率直に出たその言葉は、決してその場しのぎのものではない。

 彼にとって、それくらいに彼女の存在は、彼女との出会いは大切なものだった。


「そっか。まあ、なんか困った事があったら言えよ。"一般人"の俺が出来るだけサポートしてやるからさ」

「ああ、頼りにしてるぜ」

「私も頼りにします」

「おう。……つか、ねここの存在ってあんまバラさない方がいいよな」

「そうだな。何処で情報が漏れるかわからん時代だし」

「そっか。まあ、だからって特にこのこと話したい相手もいないけどさ」


 そう言って、リュウは「じゃあ、俺はそろそろ行くわ」と2人に手を振り店を出て行った。


「もしかして、あいつ何か用事があったのかな……」

「そうだったら、悪いことしたよね……」


 ……さて、俺らも散歩に戻りますか。

 1人と1匹は、再びゆったりとした時間が流れ出した休日へと足を踏み出して行った。

次回予告


「この世界はつまらない」

 久々に散歩に出かけたユイは、人造能力者戦を境に変わった自信を見つめ直していた。


次回「リフレクションレター」

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