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Lost Story -ロストストーリー-  作者: kii
第14章 日常(12月〜3月)
124/156

第120話 スイートメカニックアロー

 2月15日、土曜日。

 寒空の下、膝を丸めしゃがみ込んでいるリュウ、レイタ、ヤヨイ、ユミの視線の先には、公園内の時計をチラチラと何度も確認するリョウの姿があった。


「ふむ。やはり、こういうのはあまり気分がいいものではないな」

「でも、ユミちゃんだって気になるでしょ?」


 ニヤニヤとした表情のヤヨイに、ユミは悩ましい表情で返す。

 今回、リュウたちは既に数回のデートを重ねているにも関わらず、あまり関係が進展していない、というリョウの悩みを解決するため、リョウとレナのデートを観察しようとここに集まっていたのだった。

 なお、この事をリョウは知らない。

 なら、どうやってリョウのデートの待ち合わせ場所が分かったかというと、毎回待ち合わせ場所が同じため知ってる人は知っているからだった。


「ヤヨイちゃんって意外とこういう悪い感じの好きなんだね」

「そりゃ、女子だもん」


 リュウの言葉に即答するヤヨイ。


「同じ女子でも、ユミちゃんは乗り気じゃないようだけどな」

「えー、そんな事ないよー。ねっ、ユミちゃん」

「いや、まあ、うん……」


 返す言葉に迷う、珍しく調子を崩されているユミをリュウとレイタはこの時初めて見たのだった。

 そもそも、今回ユミはヤヨイに半ば強引に誘われて付いてきたのであり、本来ならこのようなコソコソと何かをすることは嫌いだった。

 しかし、レイタに想いを打ち明けて以降、毎日が幸せそうなヤヨイの誘いともあれば中々断ることも出来ないというものであった。


「お前ら、そろそろトーンを落とせよ」


 そう言ったレイタの指が指す方向には、レナの姿があった。


「レナちゃん私服可愛い」

「意外だ。意外だけどなんか予想通りだ」


 どっちだよ。と小声でツッコむレイタ。

 そんな4人の視線の先。いつも通りの怒り顔のレナと後ろ姿から分かるほどに緊張しているリョウがいくつか言葉を交えている。


「レナちゃん、いつも通りだね」

「表情とか? ……つか、俺レナちゃんが笑ってるの見たことないな」

「そうなの? レナちゃんの笑った時の顔って凄く可愛いんだよ。ねえ、ユミちゃん」

「……ん? ああ、えっと、ごめん。聞いてなかった」

「あれ〜、ユミちゃん意外と興味津々?」

「いや、えっと、……こういうのは見慣れてなくてね」

「分かるよ。私も最初は何だが恥ずかしかったもん」

「……つまり、ヤヨイはこれが初めてじゃないということか」

「えへへー」


 そう小声で談笑していると、いつの間にかリョウとレナが移動し始めていた。


「ヤヨイ。今回の目的を忘れるなよ」

「はーい。分かってまーす」


 レイタに手を上げ答え、2人が公園から出て行ったところでヤヨイは立ち上がった……が。


「うお?」

「魚?」

「さかなじゃくて〜」


 フラフラしながら、ヤヨイは足をさする。


「うぅ……足がああ……」


 暫く、彼女は痺れる両足に歩けずじまいだった。






 場所は、映画館。

 リョウとレナの数列後ろの席に座ったリュウ、レイタ、ヤヨイ、ユミは上映される映画のパンフレットを見ながら、やはり談笑していた。


「なあ、この位置からだとバレるかな?」


 レイタは右隣のユミに訊く。それに、「多分、大丈夫だろう」と彼女は答えた。

 ちなみに、ユミの隣にはリュウ、ヤヨイの順に座っている。なお、席順に特に意味はない。


「『夢喰い……ないとめあいーたー?』」

「聞いたことないタイトルだな」

「どんな映画なんだろうね」

「恋人同士で見る映画だろ? なら、純愛映画じゃね?」

「純愛で夢喰い、か。内容が想像出来ないなあ」

「まあ、面白けりゃなんでもいいや。折角、お金払ったんだし」


 横で盛り上がる2人などほっとき、レイタとユミはリョウとレナの方を見ていた。


「恋人同士には見えんな」

「確かに、私が想像していた恋人とは違うな」

「会話が少ないんだよ。もっと、リョウ側から話しかけりゃいいのに」

「付き合って間もないならともかく、既に数ヶ月が経過している、だったか。なら、緊張感なども無いはず……」

「レナちゃんのキャラ的に、中々ぐいぐい行けないんだろうな」


 多分、とレイタは付け加える。

 実際、今のリョウはレナに対して目を見て話すくらいは造作もなかった。

 しかし、話題を提供するとなると話は別。レナの不満顔を見ると、そういうタイプだと分かっていても話すことを躊躇してしまっていた。


 そんなリョウの心の内など知らず思考していたレイタだったが、不意に場内が暗くなったので一旦思考を止めたのだった。






 場所は映画館近くの喫茶店。

 映画の感想を言い合うにはもってこいのこの場所で、リョウとレナの座る席から少し離れた所、変装用の帽子や眼鏡をかけた4人は各々飲み物を飲んでいた。


「しっかし、純愛でもなんでもなかったな」

「でも、感動しちゃったよ。私、久々に映画で泣いちゃったもん」

「確かに、いい話だったなあ。リョウって結構映画とかよく見るタイプなのか?」

「この日のために頑張って調べてきたとか?」

「そういうタイプか」

「リョウ君らしいよね」


 マスクにサングラスのリュウ、そして赤い縁の伊達眼鏡をかけているヤヨイが返す。その横では、同じく眼鏡をかけたレイタと帽子を被っていたが外したユミがリョウとレナの方を見ていた。


「そういや、それって伊達?」

「うん。ちなみに、レイタのは本物だよ」

「へえ。意外と視力ないんだな」

「ほんと。いっつも、スマホ弄ってるもん」

「それは、ダメだな」

「ダメだよね」

「ああ、ダメだ」


 横でダメだしされてるぞ、というユミの指摘にもレイタは「ほっとけ」とぶっきらぼうに返した。

 喫茶店に入ってから早10分。しかし、レイタが見ている限りはリョウとレナの間に言葉が交わされたのは数回と少なめだった。

 なお、レイタ側からはリョウの顔しか確認は出来ない。


「……仕方ない。メールで指摘するか」

「隠れて監視するのはやめかい?」

「いや、あくまで『こういうのはどうだろう』って意見を送るんだよ。監視は続行する」


 そう返し、伊達眼鏡の是非について盛り上がる横でレイタは携帯を弄り出した。






「……メール? ……あっ、遂にレイタからだ」


 呟き、リョウはメール本文を確認する。内容は、とにかく会話を増やせばどうだろう、というものだった。


「もっとガツガツ行け……か。そりゃ、いつもならもうちょっと話しかけたりするよ」

「どうしたの?」

「いや、遂にレイタからメールがきてさ」


 ああ、とレナは後ろを振り向こうとするが止める。

 実は、リョウとレナは公園での待ち合わせの段階からレイタ達の存在に気付いていたのだ。

 そんな、見られている、ため、レナは恥ずかしさからいつも以上に会話少なめの状態に陥っていた。

 なお、本来の2人のデートは他と比べれば表情の変化は少なめだろうが、少なくとも今よりはずっと会話も弾んでいた。


「どうする? このままじゃ、なんつうか……」

「まあ、折角だしヤヨイ達と一緒に……」


 ほんとは嫌だけど。

 小声での言葉にリョウは聞き返すも、レナは恥ずかしそうに顔を下げ「なんでもない!」と返した。

 そんな彼女の心中を察し、リョウは手に持っていた携帯をパパッと操作し、レイタにあるメールを送った。






「…………帰るぞ」

「「えっ?」」


 リュウ、ヤヨイの反応にレイタは再度、はっきりと「帰るぞ」と返した。


「いや、帰るぞってレイタよ。リョウ云々はいいのかよ」

「そのリョウから、もういいってメールが来たんだよ。多分、俺らのことが鬱陶しくてデートに集中出来ないんだろう」

「んな、えらく勝手な」

「まあ、リョウ君の言いたいことも分かるけどね」

「ユミちゃん?」


 不思議そうな顔をするリュウとヤヨイを置き、レイタとユミは立ち上がった。それに、若干の不満を感じながらもリュウとヤヨイも従ったのだった。






「あれ? ヤヨイたち帰っちゃうじゃん」

「多分、あいつらはあいつらで目的を達したんだろ?」

「そうなのかな……」

「そうなんだよ。で、これからどうする? 次は何処に行きたい?」

「別に何処でもいいけど……」

「じゃあ、ゲーセン行こうぜ」

「えっ?」

「うん?」

「いや、何でもない」


 不思議そうな顔をしながら、レナは目の前のジュースに口をつけた。

 リョウも、ただ個人的に行きたいからゲームセンターを選んだわけではない。少し前に、レナがヤヨイの持っていたレイタに取ってもらったというぬいぐるみを可愛いと言っていたのを思い出したからだ。

 レナが少し驚いたのは、ゲームセンターに丁度行きたかったのをリョウが見抜いた事と、彼が自分から行き場所を選択したところにあった。

 前までなら、リョウが自分からこうもあっさり行き先を選択することなどなかったのだ。


――『もっとガツガツと』とは言ったもんだな。


 少し嬉しそうな表情を見せるレナに、リョウも思わず頬が緩んでいた。

次回予告


「恥ずかしいです……」

 何時ものように日曜の散歩を行うショウイチとねここ。そんな2人は、道中ある人物に出会い……。


次回「ねこにねこられねこねここ」

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