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Lost Story -ロストストーリー-  作者: kii
第14章 日常(12月〜3月)
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第118話 無能力者

 この世界において、一般的に無能力者といえば基礎能力、特殊能力どちらも使えない人の事を指す。しかし、近年では特殊能力のみ使えない能力者も無能力者のカテゴリーに入るようになってきていた。

 そもそも、基礎能力しか使えない状態といえば『能力覚醒』つまり12〜16歳までの間が能力に目覚める期間があり、また目覚める順番は基礎から特殊であるため基礎能力のみという期間は存在することは存在する。この期間は、いわば能力者に成長するための期間であり、能力者側からすれば未完成の能力者といえるため、そういった基礎能力のみの状態でも無能力者と呼ばれるようになってきていた。


 しかし、これ以外にも基礎能力のみの状態になってしまうケースがある。

 1つは、スキルアウトと呼ばれる能力暴走による消失。『スキルアウト』とは、激しい感情の起伏により能力が暴走してしまうことをいい、この状態になると一定時間暴れたのち昏睡状態に陥ってしまう。また、その時能力を消失する場合もあった。

 しかしながら、この状態に陥ると高確率で死ぬ危険性も出てくるためこの状態によって基礎能力のみの能力者になることは数少ない。


 そして、もう1つが何らかの外的、また内的要因による能力の消失、つまりスキルイーターにより能力を取られた、などの他の能力によって消失する場合と、先日のリュウが体験した消失(こちらは原因不明)といったものがあった。






 1月7日、火曜日。

 始業式終了後の暖房の効いた教室にて、リュウはクリスマスイブに経験した出来事をレイタとヤヨイに告白していた。


「…………えっ?」


 忌まわしい過去との決着がついたこと、その代償に炎と氷の能力を消失してしまったこと。

 どちらも2人にとっては、特に能力消失の方が巨大なインパクトを、そしてあまりの非現実さに言葉を失うほかなかった。


「……って事は、今は能力者じゃないってことか?」

「そうなるな。でも、基礎能力は使えるけどな。スキルバーストは使えなくなったけど」

「そ、そうか……」


 返す言葉が見つからない。

 彼の言葉が本当かも分からない。

 終業式以来の再会というのも原因として上げられるのだろう。

 あまりに聞きなれない言葉に、彼の脳内は今はその話題を飛ばそうと必死だった。


「……つか、なんでそんな事」

「いや、だって冬休みの間は会わなかったろ?」

「そりゃそうだけど……」

「まあ、そんな感じだからさ。もう、寒いからって俺を頼んなよ」


 そう言い残し、リュウは廊下の方へ走って行った。


「ほんと、なのかな……」

「あいつは、こんな冗談言うような奴じゃねえよ」


 教室を出て行くいつも通りのリュウの背を見ながら、レイタはそうヤヨイに返した。

 微かな引っかかりを、その内に感じながら。






「……はあ?」


 場所はC組。

 リュウから能力消失について聞いた、リョウ、ショウ、リオの3人は、やはり先ほどのレイタやヤヨイとは打って変わって目に見えて驚きの表情を見せていた。


「それって本当なの?」


 沈黙がその場を支配しかけたところでショウは彼に訊く。

 だが、当のリュウはまるで大した事じゃないように「ああ、本当だよ」と答えた。


「つか、いや、……なんともリアクションに困るな」

「そ、そうだよね。あの、大丈夫なの?」


 リョウに続き、リオが彼に訊く。


「ああ、つかあれから結構経ったしな」

「いや、でもさ……」


 能力が消失する。そんな非現実的な事をこうもあっさりと、表面上は受け入れているリュウがリオは不思議だった。

 時間の経過もあるだろう。しかし、それにしてもあっさりとしすぎているのだ。

 そんな人間らしくない彼にどう言葉をかけるべきか。そんな次の言葉を探すリオを遮り、リョウが口を開いた。


「じゃあ、今は能力使えないのか」

「今じゃなくてずっとだけどな」

「じゃあ、今年の冬は久々に寒さに震えるわけだ」

「そうなんだよなあ」


 はあ、とワザとらしくリュウはため息をつく。

 リョウの言葉によって、再び戻された日常。

 非現実さは何処へやら、その場はリオ以外いつものように笑顔で包まれていた。


――大丈夫?


 リオは、喉の奥から出かかった言葉を飲み込んだ。






 暫くリョウたちと談笑を楽しんだ後、D組を経由しつつリュウはE組に来ていた。

 そんな彼から例の話を聞いた、マドカ、ユイ、ショウイチ、リュウヤ、ルミナスは、やはりこれまで話を聞かされてきた者たちと同じように驚きの表情を見せていた。ある1人を除いて。


「所謂、無能力者というやつですね」


 ルミナスである。

 彼女の変化なき表情は、リュウからの衝撃の告白を受けても崩れなかった。


「でも、基礎能力は使えるぜ」

「特殊能力は使えんのに、基礎能力は使えるんか?」


 彼からの意外な補足に返したのはリュウヤだった。


「基礎能力は人が本来もっている力を強化する、いわば特殊能力のついでの機能ですからね。言い換えるなら能力者にとっての普通ですから、そうそう消えませんよ。というか、これくらい常識でしょうに」

「いや、それは知っとる」

「ほんまですかー?」

「……ほんまや!」


 ルミナスの期待通りの言葉を持ってリュウヤは返した。

 そんないつも通りのルミナスに、他の者もリュウの能力が消えたことがそれほど重要ではないと感じ始める。


「で、これからどうするの? あんたの進路が何かは知らないけどさ。能力が消えて、いろいろ計画も狂ったんでしょ?」

「いや、実はそうでもなくてさ。俺って、SCMのサポート系にに就職予定だったから」

「ってことは……能力消えたのって結構ダメージなんじゃ」

「うん。でも、基礎能力は使えるしスキルバーストも修得したし。だから、大丈夫だってさ」


 「つか、SCM経験無しで入れるのかよ」

 そう訊いたのはショウイチだ。

 SCMにて働いている者、特に学生チームの補佐や指導を行う者は、学生の頃SCMだった者が大半を占めている。


「そこらへんは……まあ、コネとか、コネとか、コネとか……」

「…………」


 徐々に小声になるリュウに、一同は呆れ顔を見せる。

 そんな面々も、やはり自然と笑みがこぼれ出していた。

 重苦しい雰囲気など今の彼らには無い。


 リュウがいいのなら、それでいいのだろう。


 そういった考えを持つ面々だったが、ルミナスだけは違っていた。

 例によって表情を崩さぬ彼女は、その内も崩さずにいた。


 しかし、だからといって彼女がその内をさらけ出すことはない。

 それが、ルミナスである。


「んじゃあ、そろそろ予鈴鳴るだろうし行くわ」


 何時ものように教室を出て行くリュウ。

 その背を彼らは様々な思いを持って見送った。






 放課後。

 下駄箱から出て直ぐ、正面玄関の前にてリュウは人を待っていた。


――今日は、やけに冷えるな……。


 雪でも降ってきそうな灰色の空の下、リュウは白い息を吐き手をさする。

 周囲では、マフラーや手袋をした生徒達が足早に自転車置き場に向かっていた。


――レイタには、勘ずかれたかもしれないな。


 能力を消失してから数週間。冬休みを経て、彼の中で能力消失に対する考えが少しずつ変化していた。

 当初、仕方のない事と割り切っていたつもりだった。しかし、やはり時間が経つにつれ能力に対し、後悔の念が彼の中で強くなってきていた。

 能力者だっからこそ、みんなと出会えた。みんなと知り合えた。みんなと仲良くなれた。

 そんな事はあり得ないと分かっていても、リュウは能力という繋がりが無くなった事で、みんなとの繋がりが消えてしまうのではないかと怖くて仕方がなかったのだ。

 今日、能力消失を告白したのは、そんな事は無いと、その程度で繋がりが消える事はないと確認したかったからだった。

 当然、周りの反応は彼が思い描いていたものと同じだった。だからこそ、変に壁を作られるのが怖かったから、彼は無理に笑顔を見せたのだ。大した事ないと、思わせるために。

 一方で、そのような友人を信用出来ない自分自身に彼は腹を立てていた。

 恐怖と苛立ちとの間で、彼は揺れていた。


「すいません!! 待ちましたか?」


 不意の後ろからの声に、リュウは「いや」と振り返る。

 そこには、黒いマフラーに紺の手袋をはめたカナエが立っていた。

 彼女は、「よかった」と笑顔で返しリュウの横に立ち空を見上げる。


「雪でも降るんですかね」

「どうだろうな」

「ちなみに、リュウ先輩はマフラーとかしない派ですか?」

「そんな事はないけど……でも、あんましないかな」

「そうですか……」


 だったら、とカナエは手袋をはめた両手でリュウの両手を包んだ。


「リュウ先輩、手袋はしない派ですか?」

「いや、する派だけどさ。去年まで使ってたの無くしちゃって」

「……じゃあ、今から買いに行きましょうか」


 少し嬉しそうに言い、カナエは両手を広げ前に一歩出て、彼の方へと振り返った。


「私は気にしませんから」


 彼女の言葉は、彼の胸に突き刺さる。

 恐らく、彼はそう言って欲しかったのだろう。


 ありがとう。


 リュウは呟き、再び歩き出した彼女の元へと歩いて行った。

次回予告


「これでいい」

 ミズヤとの有耶無耶な関係に決着を着けるため、リュウヤが動き出す。


次回「鉄の魂、柔軟に」

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