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Lost Story -ロストストーリー-  作者: kii
第13章 ロストクリスマス
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第114話 25日―②

 今回の慶島カズオの計画は成功を収めたように見えた。しかし、実際は成功してはいなかった。


 リュウの能力が、赤から黒になった時点で計画を止めていればよかったのだ。しかし、慶島は更なる能力の強化、また進化を求めて更に強い感情をリュウに作り出してもらうため神谷を彼を会わせた。

 これが、結果として裏目に出る。

 強すぎる感情は、自己を否定する。

 黒き炎は氷を溶かし、自信をも燃え尽かせた。






 リュウ、加賀、慶島の3人を交えての原因調査の結果、リュウの特殊能力が消失した理由は神谷との接触が原因だということで決着が着いた。


「しかし、スキルアウト以外で能力を失った能力者に会ったのは始めてだな」


 加賀は、壁に寄りかかりイマイチ現状を理解していないリュウと冷静さを装っている慶島を交互に見て言った。

 しかし、問題は能力が消えたという事よりも、ならどうすべきかの方が大事である。

 だが、消えた能力を元に戻す方法は数少なく、またその確率もかなり低かった。


「で、どうする? 原因は分かった。結論として、能力は消えた。それで、リュウ君はどうしたい?」

「俺は……」


 「方法はある」と、リュウの言葉を慶島が遮る。


「能力を元に戻す方法だ。あまり、勧めはしないがな」

「どんな、方法なんだ?」

「ヘタすりゃ、精神を、肉体を壊すことになる方法だ」


 リュウは、目を伏せる。

 彼は、ようやく能力が消失した事実を自覚し始めていた。


「今すぐに答えを出せとは言わん。だが、やるなら若いうちがいい。成功率が多少上がるからな」


 慶島が、真剣な眼差しで発するその言葉を加賀は黙って見ていた。

 自分の息子が能力を消失した。だから、消失した能力を元に戻す方法を提示する事はそこまでおかしな事ではない。

 慶島が普通の親ならば。

 しかし、慶島はSCMの研究員であり、その方法がどういうものかよく知っている。

 同じく、どんな方法か知っている加賀からすれば例え相手が息子だとしても、その方法があるという事を教える事はしない、と断言できた。それほどまでに、その方法はキツいものなのだ。

 とは言え、加賀としても慶島には慶島の考えがあると、その考えに疑問を呈する事はあれど否定する気は無かった。


「いくら、能力社会だと言っても非能力者もまだまだ数は多い。だから、別に無理して能力者である意味も無い」


 それでも、と慶島は続ける。


「お前がやると言うなら、俺は出来る限り協力はする」


 表情変えずに言い終え、彼は部屋を出て行った。


「僕も勧めはしないけどね。まあ、ゆっくり考えるといいよ」


 「後悔しない答えが出るまでね」。変わらぬ安心させるような笑顔で言い、彼も部屋を出て行った。


「…………」


 部屋に1人残されたリュウは、顔を伏せ自身の手の平に意識を集中させる。しかし、やはり炎も氷も発生しない。


――やっぱ、ダメか……。


 分かっていた事とはいえ、能力が発動出来なかった事はより一層彼に事実を突きつけた。


――方法はあるんだ。


 しかし、慶島の表情から見ても、彼がそれが茨の道である事は容易に想像が出来た。


――俺は、どうすりゃいい?


 博打を打って再び能力者となるか、このまま非能力者として生きるか。

 2つに1つ。しかし、現状、能力者となる為のデメリットが大き過ぎるためリュウとしても殆ど答えは決まりかけていた。

 また、彼の中では能力が消えたのも仕方の無い事と多少は考えていた。炎も氷も姉から引き継いだ能力だと思っており、『仇を取る』という目的が達成されたから能力が消えたと彼なりに無理矢理理由付けていた。

 そのような考えの中、彼が一番気にしていた事は非能力者となる事でカナエやレイタらと疎遠になるのでは無いかという不安だった。だが……。


――そのくらいで壁が出来たりしないよな。


 カナエにしろレイタにしろ、そういう人柄で無い事を彼はよく知っている。故に、彼は直様その不安を取り消した。

 彼は、ベッドから降り軽く伸びをしてからカナエの待つ廊下へと歩いて行った。






「そうでしたか……」


 場所はSCM内の食堂。

 昼時ということもあり白衣に身を包んだ人が多い食堂にて、リュウは自身の能力について、また能力を戻す方法についてカナエに話し終えていた。

 それについて話すリュウは、あまり深刻な顔をしてはいない。逆に、カナエの方はまるで自分の事のように真剣な眼差しだった。


「それで、その、どうするんですか? 能力を戻すかどうか」

「うん、断ろうかなって思ってる」


 即答だった。

 その、あまりにあっさりとした答えに少し間を置いてからカナエは言葉の意味を理解する。


「そ、そうですか……」

「まあ、父さんも言ってたけど今の時代、まだまだ能力無くても生きてはいけるからさ」

「確かにそうですけど……ちょっと意外でした」

「そうか? まあ、そりゃ能力あった方が色々便利ではあるけどさ、でも戻すの相当難しいらしいし、なら無理してやる必要も無いかなって」


 そう、リュウは何処か後悔の念を滲ませ言った。

 もし、神谷と決着が着いていなかったら、彼は無理してでも能力を戻そうとしただろう。しかし、ちょうど決着が着いた後だったため、彼は少しヤケになっている所もあった。


「まあ、基礎能力は健在だしな」


 そう明るく言って、リュウは立ち上がった。


「それより、飯食いに行こうぜ。腹減ったよ」


 何処までも暗さを見せない。そもそも、あまり気に留めてないのかもしれない。

 それでも、カナエは彼にもう少し素直になって欲しいと願ったが、それがリュウ先輩だと彼女は結論付け、真剣な表情を奥底へと閉まった。


「それなら、いい所知ってますよ」


 いつか、本音で語り合える間柄に。

 それが、作り笑顔かどうか見抜ける仲に。


 カナエは、笑顔を作りリュウと共に食堂を出て行った。

次回は、115話を飛ばして116話です。

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