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Lost Story -ロストストーリー-  作者: kii
第12章 存在消失
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第108話 消えた存在

 12月16日、月曜日。

 寒空の下をいつものように登校したリュウは、暖房のかかった教室にて冷えた身体を暖めリラックスしていた。


「おっす」


 朝の早い時間。暖かな教室で眠気と再開していたリュウに声がかかる。彼は、まぶたを擦りながらそれに軽く手を上げ答えた。


「眠そうだな」

「当然だろ。こんなところで元気いっぱいの方がおかしいだろよ」


 声の主であるレイタに答え、彼は1つ大きなあくびをかます。

 まだまだ、完全に脳が起ききっていない時間帯。この暖かさでは、逆に再度眠くなって当然だった。

 そして、それは彼に限らず、今日もだが、いつもなら騒がしい教室内もここ最近は静けさに包まれている場合が多かった。


「そういやさ、俺金曜にカナエちゃんとトレーニングしたんだぜ」


 後ろの席に座ったレイタに、彼は金曜の出来事を話す。

 特に意味も無く、いつものように彼に話しかける。

 しかし、彼から返ってきた言葉はリュウが予想しない言葉だった。


「カナエ? ……えっと、誰だっけ?」


 一瞬、悩む素振りを見せてから不思議そうな顔をし、彼はそう返した。

 その反応に、リュウは一瞬、その意図の分からない冗談に面食らうも、あえて普通に返す。


「いや、後輩の一二三カナエだよ」

「一二三? いや……悪い、知らねえ」


 この時点で、リュウはそれが冗談で無いことを悟る。しかし、違和感を抱えながらも彼は冷静さを装い続けた。


「トーナメントで知り合ってタッグで一緒に戦った女子だよ。ほら、一二三マモルの妹のさ」

「いや、マモルに妹はいねえし。トーナメントでタッグ組んだのは双葉(ふたば)ミエだろ?」

「双葉……」


 リュウの記憶に、ミエとトーナメントで知り合った記憶はあれど共に戦った記憶は無い。

 しかし、リュウはレイタがそんなつまらない冗談を言う人間では無いことを知っている。だからこそ、彼の記憶からカナエという存在が消えていることに疑問しか感じていなかった。


「そ、そうか……。うん、多分、今日見た夢と勘違いしてたのかもな」


 その言い訳に、レイタは首を傾つつも無理矢理納得する。

 彼の記憶に"一二三カナエ"という人物は欠片もおらず、違和感はあるものの本人が納得した以上、無理に話を追求する意味もないと判断したからだ。


 しかし、当のリュウはレイタとのズレを、違和感を抱えながら記憶を整理していた。

 本当に、一二三カナエという人物はいないのか。

 友人であるレイタにそこまでハッキリといないと言われれば、彼も自分の記憶を疑う他なかった。


――でも、ありえねえよ。


 トーナメント3回戦で出会い。

 共にタッグトーナメントに参加し、決勝で辛くも敗れてしまう。

 夏休みには、スキルバーストのトレーニングをしたり、共に夏を満喫したりした。

 病院での戦いでは、生死の境を彷徨っている中、カナエの声が心の支えとなった。

 そして、ほんの数日前の出来事。


 彼女のいる光景が、クリアに彼の頭の中に浮かび上がる。

 その光景に、嘘、偽りは無い。

 一二三カナエは、確かに存在していた。


「捜さなきゃ」


 不意に、リュウは立ち上がりレイタの声を無視して教室を勢いよく出て行った。






 リュウは、2年の教室前、冷んやりとした空気が漂う静かな廊下に来ていた。


――居る。居ないわけが無い。


 レイタの記憶に居ないだけ。

 そんな都合の良い解釈を持ちながら、しかしその心音を大きく鳴らしながら、彼はカナエの所属している筈の2年D組の教室の扉を開け中に目をやる。


 D組の教室内は、先ほどまでリュウが居た教室と何ら変わらない静かな、そして暖かなものだった。

 その中を、リュウはザッと見渡すも、そこに彼の知っている人物の姿は見られない。

 何処にも、何度見渡しても、いない。


「あれ? リュウ先輩?」


 背後からかけられた憶えのある声に、彼はハッと振り向く。

 そこに立っていたのは、カナエの友人である双葉ミエと羽風(はかぜ)ユウだった。


「どうしたんですか? あっ! 誰か探してるんですか?」

「いや……そうだ、ちょっと訊きたい事があるんだけど」


 彼は、扉を閉め2人の方に身体を向けた。

 1人はニコニコ笑顔のミエ。1人は掴みどころが無さそうなクールな雰囲気を持つユウ。

 2人とも、リュウの見知った顔だ。

 しかし、レイタの言うことが正しいなら、その関係は少なくともミエは彼の記憶の中と違うものとなっている。

 リュウは、期待を半分持ちながら2人にシンプルに訊いた。


「一二三カナエって子を知ってるか?」


 その言葉に対する2人の反応は、残念ながらリュウの期待するものとは違った。

 聞いたことの無い単語を聞いた時の顔。

 人の名前だと理解できても、それが誰なのかは分からない、聞いたことも無い。


「えっと、2年ですよね。私は聞いたこと無いです」


 続く、「ユウは?」という言葉にユウは首を横に振った。

 期待半分。ショックではないとは言えないが、それでも一番信用のある友人に知らないと言われた時点で、リュウもある程度この結果は予測していた。


「そうか。なら、いいんだ」


 俯き、2人に礼を言ってからリュウは力無く自分の教室に戻るべく人の居ない廊下を歩き出す。

 そんな彼の背に後輩から言葉が投げかけられるが、今の彼に背後からの声に答える気力は無かった。






 その日1日中、彼は魂が抜けたように授業を過ごしていた。

 受験前ということで自習が多い中、机に広げられたワークを意味も無く捲り、じっと見て、気づけば窓の外を見ている。

 最近、1人で食べることが多くなっていた昼飯も今日は喉を通らなかった。

 そして、気づいた時には彼は放課後を迎えていた。


「リュウ、大丈夫か?」

「リュウ君、大丈夫?」


 背後からの2つの声に、彼は軽く手を上げ答える。

 そして、鞄を持ちフラフラと教室を出て行った。






 それは、まるで大切な人が死んだような。

 心にぽっかりと穴が空いたような。


 空虚の中、彼は思考を止める。

 自分と他者とのズレ。

 これは、悪い夢だと。

 明日になれば、また視界には一二三カナエの笑顔があると。

 しっかりとした、しかし実は脆い少女の姿があると。


 目を閉じれば、鮮明に映し出される彼女の姿。

 肩くらいまで伸びた黒く綺麗な髪。

 真っ直ぐに事を見つめる素直な目。

 何者にも染まっていない純粋な表情。

 時折見せる美しく煌めく笑顔。


 リュウは、ようやく理解した。


 自分の中で、一二三カナエがどういう存在なのか。そして、どのぐらい大切なのか。


――なに沈んでんだ。


 夕陽に染まる寒空の下、リュウの目は再び輝きを取り戻す。

 この世界で、たった一人の大切な存在と再び出会うため。そして、再びかけがえの無い彼女との日常を過ごすために。






 12月17日、火曜日。

 放課後、リュウは開放されているパソコン室に来ていた。

 今回のように、カナエの存在が消えた実例があるのか、人の存在が記憶から、歴史から消えることがあり得るのか。

 先ず、そこから彼は調べていた。


 そして、彼が求めていた情報は直ぐに見つかった。


――『存在否定(limpidity)』または『透化(stealth)』のアビリティマスターは、自分も含め人をこの世から半永久的に抹消することが可能である。


 ヒットしたページは、日本語で書かれた質素なデザインの個人ブログだった。

 リュウは、存在抹消とタイトルに書かれたページを下にスクロールしていく。


――詳しくは伏せるが、とある学園のとある部活内にて存在抹消絡みの事件が発生する。俺は、その部活にある理由から関わり、そしてこの存在抹消という能力の存在を知った。


 以下、適度に改行しながらも画面一杯に事件内容が詳細に、しかし身元が判明されないように所々、代名詞が使われながら文書が綴られていく。

 それらを、彼はゆっくりと、しかし集中して読み進めていく。

 そして、最後まで読み進め、彼は事件内容から数行開けて綴られた最後の文に目を向けた。


――俺は、この事件に関わり深い悲しみに似た感情をその身に刻んだ。だから、もうこの事件には関わりたくない。


 それまでの、ブログ主の体験談を読んでいれば、その締めに行き着くことは彼も容易に想像が出来た。


――なら、何故、この人はそういう選択をしたのだろう。


 直後、彼は頭を左右に振った。

 今、大切なのはそこでは無い。


 彼は、再び文中の存在否定による人の存在の抹消について書かれた箇所を見た。


 書かれている内容を要約すると、『透化』も『存在否定』も使える技自体は使用者又対象を見えなくなることである。ただ、存在否定はそこに『存在』するのに、脳が認識出来ない状態。透化は文字通り『透明人間』。

 つまり、存在抹消によって消えた人間はこの世から完全に消失したわけでは無く単純に透明人間状態にあるということになる。


――大丈夫。まだ、助けられる。


 存在抹消が死亡ならば、彼にカナエを助ける手段は無い。

 万能と呼ばれている、不可能を可能にすると言われている昨今では当たり前になった能力ですら、蘇生の力を使える能力は無い。例え、代償を払ったとしてもだ。


――なら、どうやれば助けられる。


 彼は続きを読む。


――存在が消えた者を再びこの世に戻す方法は至極簡単だ。その存在を消した能力者に(恐らく消した本人で無いといけない)戻してもらえばいい。


 今回の事に当てはめると、カナエを消した能力者に戻してもらえばいい。

 つまり、それは犯人を捜せという事であり、この上無くシンプルなものだった。


――なら、俺が取るべき行動は。


 彼は、コンピュータを落とし鞄を持って静かに、しかし足早にコンピュータ教室を後にした。






 場所は変わって職員室。

 リュウは、たまたま職員室にいた担任を伝い誰がどんな能力を持っているか書いてある生徒名簿を借りていた。


――他の地区の奴かもだけど……。


 冷んやりとした空気が漂う廊下にて、彼は壁を背に名簿を捲り出す。

 先ずは1年。しかし、条件がアビリティマスターなので可能性はゼロに近い。


――さすがにいないか。


 早々と確認を終え、2年のページを開ける。

 可能性としては一番高いように思えるが、やはり2年でアビリティマスターとなると可能性は低かった。


――やっぱ、書いてないか。


 先ず、彼が確認したのはD組の名簿だった。

 そこに、彼の予想通り『一二三佳苗(かなえ)』の文字は無かった。


――『透化』なら居るんだけどな。


 アビリティマスターならアビリティマスターで、その旨が備考として書かれている。

 しかし、2年に1人だけいた透化を持つ生徒にそういった記述は無い。


 リュウは、ため息をつきながら次に3年のページを捲る。

 A組から見知った名前が並び、そしてアビリティマスターである押重マドカと如月ミオの名を通る。

 結果に、透化1人、存在否定なしというものになった。


 しかし、まだ始まり。

 彼も、この程度で犯人が分かるとは思ってはいなかった。


――さて、次は……。


 名簿を閉じ、リュウは再び職員室へと足を向けた。





 リュウは、アビリティマスターについて詳しい情報を得るため堂巳(どうみ)サヤの所属する3年F組に来ていた。


「あ、リュウ君じゃん」


 教室内、少ない人影の中、窓際に座るサヤはリュウを確認するなり手を振り答える。

 そんな、彼女の前には如月(きさらぎ)ミオと白土(はくど)ハヅキの姿があり、また机の上には参考書が広げられていた。


 サヤの反応に、同じくミオも笑顔で手を振り、ハヅキは軽く会釈した。


「悪い、勉強中だったか」

「大丈夫。それより、何か用?」


 その言葉に、「ああ」とリュウは机の前まで来て要件を話し始める。

 話しながら、彼はミオの方に自然に目をやった。。

 例の事件において、渦中にいたミオ。

 レイタから又聞きし、彼は彼女がどういった経験をこの事件の中でしたのか知っていた。


 しかしながら、彼女の様子にこれといった変化は無い。日が経っている事を考慮しても、リュウはそれを不思議に感じていた。

 言葉でその場面を知っただけで、実際に見たわけでも体験したわけでも無い。だが耳で聞いた限りでは、その体験は少なくとも彼自身は衝撃を受けるものであり、実際に体験したらとてもじゃないが立ち直れる気が彼はしなかった。


 そういった思いを、グニャグニャと頭の中で巡らせていたリュウは過去、また現在『存在否定』、『透化』のアビリティマスターがいるかどうかを言い終える。

 その質問に、彼女は首を傾げ少し考えてから答えた。


「多分、ネットとかで調べられるんじゃないかな」

「ネットとかで!?」


 彼らの世代は8人もいるため印象的に価値が下がってはいるが、本来アビリティマスターとは年に0〜3人程度しか出ない。故に、アビリティマスターの情報についてはネットなどに出回っていてもおかしな話では無い。

 例えるなら、スポーツなどで優秀な成績を収めた者と同じ扱いである。


「まあ、過去の異界出身者のアビリティマスターとなると、ちょっと難しいかもだけどね」

「そっか。でも、そういうの以外のアビリティマスターなら探せば見つかるんだな?」


 うん、と頷いたサヤの後、ミオが「ちなみに、何でそんなこと調べてるの?」と彼に訊く。


「いや、大した理由じゃないんだけどさ。なんと無く気になって……」


 その曖昧な答えに、彼女は「ふーん」と返しそれ以上は追求しなかった。


 会話が途切れた所で、リュウは「ありがとう」と礼を言い教室を後にする。暖かい教室から、再び寒い廊下に出た彼はパソコン室に向かって歩き出した。






 先ほどもいった通り、アビリティマスターになることはスポーツなどで優秀な成績を収めたようなものなので、ネット上で検索しても直ぐに出てくる。


 再び、暖かいパソコン室にて画面を熱心に見つめるリュウは、あっさりとお目当てのページを見つけた。

 歴代、かつ国内のアビリティマスターをまとめたページである。


――えっと、存在否定と透化…………あった。


 学園都市自体、いやこの世界に能力が出現して自体まだ日は浅いのでアビリティマスターに該当する能力者は数少ない。

 故に、異界の能力者や記録外のアビリティマスターならともかく、見つけること自体は難しい事でもなかった。


――……存在否定。野賀原(やがはら)眞一(しんいち)。男性。25歳。


 その野賀原という苗字に、彼は既視感を覚える。

 そう、ほんの少し前に見たような朧気な記憶が一瞬、浮かび上がり消えた。


――何処で見たんだ?


 彼は、今日のこれまでの記憶を遡る。

 朝から昼、そして今。

 そして、1つの危うい答えに辿り着く。


――名簿……。


 彼は、残りのアビリティマスターをザッと見て目当ての能力が無いことを確認し、電源を切って足早にコンピュータ教室を出て行った。






 やや興奮気味に早く歩いたこともあり息を切らしたリュウは、ある教室の前で息を整えてからノックをし、その教室の扉を静かに開けた。


「あれ? リュウ先輩じゃないですか」


 椅子に座り、作業をしていたミエが驚いた顔で彼を出迎える。現在、彼女以外に人影は無い。


「悪い、作業中だったか」

「いえ。でも、どうしたんです? あっ、まさか何かネタを持って来てくれたとか?」


 新聞部であるミエの期待を込めた質問に、「いや、そうじゃなくて」と彼は首を横に振る。


「ミエは、新聞部だし2年の奴らの名前とか大体把握してるよな」

「当然ですよ。まあ、暗記はして無いですけど、そういうのを纏めたファイルならここにあります」


 そう言って彼女は机の上、中央に綺麗に並べられているカラフルな6つのファイルを示す。


「なら、『野賀原』って苗字の奴はいないか?」

「野賀原……」


 えっと、とミエはファイルの中から緑色のファイルを取り出し、パラパラと捲り始める。

 先ほど、リュウが感じた既視感は名簿で能力を確認している時だった。『野賀原』という特徴的な苗字だったこともあり、彼の記憶に微かながら留まっていたのだ。

 そして、もし彼の記憶が確かで野賀原という人物がこの学校に居るのなら、兄か知り合いであろうアビリティマスターである野賀原シンイチの協力を得てカナエを消したという仮説が立てられる。

 ならば、大きな前進になる。彼は、期待を込めながらページをパラパラと捲るミエを見守った。


「やっぱり。何処かで聞いたことある苗字だなと思ったんですよ」


 あるページを開いたファイルを机の上に広げ、彼女はそのページを指差す。

 彼も、それに目をやると、そこには野賀原佑磨(ゆうま)と書かれていた。


「同級生ですよ。で、D組に所属してますね」


 2年D組、野賀原ユウマ。

 何度、彼が見返しても、そこには野賀原佑磨と書かれていた。

 少々、拍子抜けしながらも彼はその横に書かれた備考の方に目をやる。


「何も書いてないな」

「そうですね。まあ、苗字のわりに地味ですから」


 そう、彼女は何処か不機嫌そうに返す。しかし、何故そういった感情を野賀原という人物から感じるのか、彼女自身もよく分かってはいなかった。


「野賀原と何かあった?」

「いえ……、特に接点も無いんですけどね」


 不思議そうな顔をして返したミエは、会話が途切れた所で「そういえば」とリュウの方を向く。


「リュウ先輩は、クリスマスに何か予定とかあります?」


 先ほどまで、一人の元気な娘だった彼女が落ち着きのある高校生となり彼に訊く。

 その、初めてされた内容の質問に彼は戸惑いつつも答えた。


「いや、特に用は無いけど」

「そうですか! なら、えっと、何処か行きましょう!!」


 答えを聞くなり、間髪いれずに彼女が答える。

 クリスマスに何処かに行く。これが、どういう事を意味するか少なくともリュウは知っている。しかし、知っているからこそ、何故彼女からそのような誘いを受けるのか分からなかった。


 カナエが居なくなった事が影響しているのだろうか。

 歴史が変わった事が影響しているのだろうか。


 その本来、飛んで喜ぶべきことにリュウは素直に喜べないでいた。

 対象的に、まだ「いいよ」と返されていないにも関わらず、ミエは身体を震わせ喜びをどうにか堪えている。


「うん、いいよ」

「ほんとですか!?」

「う、うん。特に用も無いしね」


 やったー!! と、ミエは堪えていた感情を爆発させ喜びを全身で表現する。

 しかし、やはりリュウは素直に喜べない。


「あれ? リュウ先輩どうしました?」

「ん? いや、嬉しそうだなって」

「え? い、いや、別にそんな事ないですよ!」


 そう言って、目を逸らすミエ。

 そんな彼女の横顔を見るリュウの頭には、カナエの事が浮かんでいた。


――本当は……。


 自分の気持ちに素直になれない自分に腹立ちながら、彼は開かれていたファイルを静かに閉じた。

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