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Lost Story -ロストストーリー-  作者: kii
第12章 存在消失
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第107話 この想いは何処に

 12月13日、金曜日。

 暴走者が出た加減で、本日は3年に限り休校になっていた。


「では、もう一回行きますよリュウ先輩!」

「おう、加減すんなよ!」


 時刻は12時40分。

 ジャージ姿の3年の慶島(けいしま)リュウと同じくジャージ姿の2年の一二三(ひふみ)カナエは、運動場にて模擬戦を行っていた。


 本来、学校に来る必要のないリュウと、カナエが何故こんな事をしているのかというと、それは先日の事件が理由だった。


 先日の暴走者絡みの事件。

 実は、SCMであるカナエは、少なく本人からすれば全くという程、先輩らの力になれてはいない。

 カナエは、2年であるため別に力になれなかったからどうという事は無い。少なくとも、彼女は最低限の役割は果たせているし、それについてどうこう言う先輩はいないだろう。

 しかし、SCM総隊長である最強の兄を持つ彼女は、周りからの期待の声に応えなければと、このような結果に満足はしていなかった。


 そこで、彼女は早速トレーニングをしようと早朝から学校に出て来たのだが、そこで同じく今回の事件で自身の無力を痛感したリュウと出会い、今に至るということだった。




 トーナメントや人造能力者との戦いで何かと目立っているリュウと、SCM総隊長の妹であるカナエの戦い。

 教室から、昼休みを通してスポーツに興じる者からの視線の中、リュウの一撃にカナエの身体は宙を舞い吹き飛んだ。


「やばっ、大丈夫か!?」


 能力強化のスキルバーストを発動しているリュウの一撃は重いが、同じくスキルバーストを発動しているカナエからすれば、そこまでダメージは無い。

 だが、彼はそんな当たり前なことなど頭の片隅に放り込み、彼女の元に駆け寄った。

 しかし、ノーダメージのカナエは「大丈夫です」と手を上げながら悔しそうに土を払ながら立ち上がる。


「そういや、この程度じゃ効かないか」

「当然ですよ。まあ、でも、この場合は避けられるかどうかの方が重要ですけどね」


 大事なのは直撃を避けること。

 防御は、本当に避けられない時とワザと当たる時以外はしてはならない。

 カナエが、兄から教わってきたことだった。


「避ける、か……だから、俺は」

「えっ? リュウ先輩何か言いましたか?」


 少し俯き気味に言った彼は、「いや、何でもない」と頭を上げ、ふと取り出した携帯で時間を確認する。


「そろそろ授業始まるし、昼はここまでにしようか」

「あれ? もう、そんな時間でしたか」


 そう呟き、カナエは土の能力を発動し地面から手頃な椅子を作り出す。


「リュウ先輩もどうぞ」


 まだ、少し時間があるため休憩も兼ねて彼女は椅子に腰を下ろした。

 そして、額の汗を拭いながら歩いてきたリュウに、彼女は自分の横の砂の椅子を示す。


「座り心地には自信がありますよ」

「へえ……確かに気持ちふわふわしてるな」


 腰を下ろし、リュウは土の椅子に手を触れた。それに、土の硬さは無く、砂のようなふわふわとした、しかししっかりとした作りとなっていた。


 その椅子に座り、2人は息を吐く。

 授業開始まで、あと8分程度。

 誰もいない運動場。

 2人の前で冷たい風が吹くそこは、酷く寂しさを感じられた。


「リュウ先輩」


 不意にカナエが呟く。


「リュウ先輩は、何でたまに悲しそうな顔をするんですか?」


 静かに吹く風に、カナエは揺らめく前髪を押さえリュウに訊くも、少しの間を置き慌てて言い直す。


「いや、すみません。何か、変なこと訊いちゃいましたね」

「いいよ。つか、そうか顔に出てたのか」


 はあ、とため息をつくリュウ。

 その想いは恥ずかしさで溢れていく。


「でも、何でまた急に?」


 シンプルに、『気になったから』という答えが返ってくるのだろう。

 しかし、そう考えつつもリュウはあえて彼女に理由を訊いた。理由も無く訊いた。

 それに、カナエも少し言葉を濁しつつも、観念したかのように話し始める。


「そりゃ、気になりますよ。だって、そんな隠すように、たまに沈んだ顔されたら……」


 彼女は口を閉じる。

 彼女も本心としては、大事な人が何かを抱えている。なら、どういった形でも力になりたいと思っていた。

 しかし、その大事な人というのが彼女の中では、まだどういった類のものか彼女自身分かりかねていた。


 そういった、予想通りの言葉に彼は少し考える。

 話したくない理由は無い。

 しかし、話して気を遣ってもらうのも、彼としては申し訳ないと思っていた。

 特に、この問題は出来るだけ自分の中で決着を着けたいと思っていたため余計にそう考えていた。


「そうか、悪い。でも、理由とかは、また全部解決した後に話すよ」

「そう、ですか」


 その言葉に、彼女は内心落ち込む。

 頼られてない。

 頼る程の存在になれていない。

 先輩後輩の差はあるだろう。それでも、カナエはこの場面、理由を話して欲しかった、相談して欲しかったと思う。

 だが、それは仕方が無い。

 カナエは、そう自分に言い聞かせた。


「そろそろ、授業だな」


 リュウが立ち上がったのを見て、カナエも立ち上がり能力を解除する。

 ボロボロと土に還る椅子から、視線を歩き出したリュウに移し、彼女はその後を着いて行った。

 心の端に、少しの悲しみを感じながら。

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