第11話 風に舞う
『アビリティマスター』
アビリティマスター(スキルマスターとも呼ばれる)とは、能力者が自身の能力を完璧に使いこなしている状態である。 使いこなせているかどうかの判断は、学期末に行われる実技試験にて判断される。
ちなみに、アビリティマスターは毎年北、南地区合わせて2、3人程度しか出てこない。それ程、学生の間にアビリティマスターの境地に達するのは難しいのである。
「ちなみに、今年はたしか8人がアビリティマスターになってるな」
「8人て……」
時刻は19時。
リュウとカナエの次の対戦相手は、風のアビリティマスター『如月美緒』。ということで、学校近くのファミレスにて晩飯を取りつつアビリティマスターについて名前すら知らないリュウにレイタとカナエは説明をしてあげていた。
「ちなみに、D地区にはミオ先輩以外にもう1人アビリティマスターが居るんですよ」
その言葉にリュウは驚く。
毎年、といっても今年は8人だが北と南それぞれA〜F地区まであり、その中から8人しかアビリティマスターはいないのだ。1つの地区に2人もいるなんて事は確立的にかなり低い。
「誰だよ、その2人目のアビリティマスターって」
「E組の押重円だな。ちなみに、雷のアビリティマスターだ」
雷の能力者。
その言葉に、リュウはロマンを感じた。
リュウも炎と氷の属性能力者だが、それでも雷の能力の方がカッコいいなとこの時彼は思った。
自分が持っていない、人が持っているおもちゃが魅力的に見えるのと同じことだが。
「マドカはトーナメントには出てないのか?」
「出てないな」
そうか、とリュウは言う。
もし、トーナメントに出ていたら優勝していただろう。アビリティマスター、雷の能力、これだけで十分彼にそう思わせた。
「まあ、とにかくこれでアビリティマスターの凄さは伝わったろ」
「おう、とにかく強いんだな」
まあ……そうですね、とカナエ。
「じゃあ、次はその対策についてだな」
結局、この後1時間ほど彼らはファミレスで駄弁ることとなった。
翌日、時刻は8時。
「ミオ……ちゃん?」
日が昇ってきたものの、まだまだ暑くはない時間帯。
教室にて、白く透き通るような肌が印象的な白土葉月は、ボーッと窓の外を見つめるミオに話しかけた。
その声に、ミオは慌ててハヅキの方を向く。
「あぁ、ごめんごめん、何? どうしたの?」
「ミオちゃん、ボーッとしてたから大丈夫かなって……」
眠気も覚めるような声で訊くミオに、ハヅキは消え入りそうな声で答えた。
「そっか……私は大丈夫だよ。うん、大丈夫」
ミオは自分自身にも言い聞かせるように答えた。だが、その目はやはり遠くを見つめたままだった。
ハヅキは、昨日の試合を思い出していた。
僅か、5分での決着となったあの試合。ハヅキはボーッと立っていただけで、ミオの怒涛の攻撃に対戦相手の1人が早々と倒れたのだ。
――血が出ていた。痛い。
ミオはいつも明るく、ハヅキは今までこのような暗い顔など見たことが無かった。それゆえに、今のミオの表情にハヅキはひどく驚いていた。
――ミオちゃんから笑顔が消えたら、私の所為だ。
暫くの間、彼女ら以外誰もいない教室に沈黙が続いた。
次回予告
「これが、アビリティマスターの実力……」
激戦開始! しかし、対戦相手であるミオの様子がおかしく……。
次回「タッグトーナメント ②」