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Lost Story -ロストストーリー-  作者: kii
第10章 key and three doors(memories of the past)
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第99話 ナニヲスクイタイ?

 翌日の放課後、リュウイチとマリアスは前回暴走した女子、藍森(あいもり)カズハが入院しているB地区内の病院にアパート経由で来ていた。

 ちなみに、今回も彼女が入院している病院、また病室をスズから教えてもらっていた。


 カズハが入院している病室は3階。

 エレベーターで昇った2人は、メモを片手に目的の部屋を探す。


「藍森カズハ、ここだな」


 扉の名札を確認し、リュウイチはノックをしてから中に入る。

 室内にはベッド1つが置かれおり、その横にはテレビも置いてある。

 だが、肝心のカズハはいなかった。


「いないな」


 開かれていた窓に目をやりつつ彼は呟く。

 外からは、暖かい風が流れてきていた。


「どこにいったんだろう……」

「多分、トイレとかだろ?」


 そのうち帰ってくるだろ、とリュウイチはベッドに腰を降ろした。


「どんな人なんだろう」


 リュウイチに促され、同じくベッドに腰を降ろしたマリアスが呟く。


「スズが言うには、明るいタイプだって言ってたな」

「明るい……」

「ちなみに、頭もいいんだとか」

「そうなんだ……」

「ちなみに、スズはSCMで……て知ってるか」


 今はリュウイチがその役目を担っているが、前までプリントを届けに来ていたのはスズだった。

 なので、マリアスはスズとは面識がある。


 そんな、たわいも無い話をしていると扉の向こう、廊下の方から女性の声が聞こえてくる。

 そして、「わかったって」という声と共に扉が開かれた。


「あれ?」

「……カズハさん?」

「ナースさん、可愛い女の子と変質者がいるんですけど」


 待て待て待て! と、リュウイチは焦り立ち上がる。


「俺らさ、ほら、お見舞いに来たんだよ」

「という言い訳?」

「いや、ちが……ナースさんもそんな目で見ないで!!」


 その反応に、クスクスと笑いカズハはベッドに座ったままのマリアスの元に歩いて行く。


「まあ、今回はこのお人形さんのように可愛い子に免じて許してあげよう」


 そう言って、彼女はギュッとマリアスに抱きつく。それに、彼女はそういうスキンシップに馴れていないためガチガチに凍ってしまったように動かない。

 その様子に、ナースは怪訝そうな顔をしながらも部屋から出て行った。


「で、私になんの用かな?」


 マリアスに抱きついたまま、カズハは疲れたように息を吐くリュウイチに訊く。


「さっきも言ったろ? お見舞いだよ」

「他人のお見舞いに来るなんて、君やっぱり変質者?」

「ちげえよ」


 つか、マリアスちゃんから離れろよ、とリュウイチはカズハを引き離しにかかる。


「いやだー、つか触るなー変質者が移るー」

「だから、誰が変質者だよ! てか、無駄に力強えし」

「マリアスちゃんぎゅー」

「ぎゅー、じゃねえよ」


 おりゃっ、とリュウイチはカズハを引き離す。だが、マリアスは固まったままだ。


「せっかく、ぷにぷにしてて気持ちよかったのに〜」

「ぷにぷに……」

「あれ? 触りたかった?」

「別に、そんなことは……」


 とにかく、と彼は1つ咳払いをする。

 今回、ここに来た理由はぷにぷにする事ではない。


「今回、俺たちは大事な話があってここに来たんだよ」

「大事な?」

「ああ」


 能力の暴走についてな、という彼の言葉にカズハは表情を変えないが、その顔はどこか自然さが消えていた。


「えっと……先ずは、前回カズハさんと同じように暴走した女子がいるのは知ってるよな」

「うん。確か、1週間くらい前だったよね」

「そう。で、その暴走した子が今そこにいるマリアスちゃんだ」


 えっ? と、その予想だにしない言葉に彼女はマリアスの方に目をやる。その反応に、マリアスは恥ずかしさから顔を俯けた。


「でさ、まだ能力の暴走については解決してないんだよな?」

「えっ? うん、原因不明だし一応様子見だってさ」


 それを聞き、リュウイチは前回浮上した悩みを無理矢理奥に押し込んでから話を続ける。


「……実は、俺の能力で解決できるかもしれないんだ」

「解決? ……暴走を?」

「そう。俺の能力は『抑制』って言ってさ、対象の力とかを抑える能力なんだよ。で、それでカズハさんの能力を抑える」

「抑える……それで、暴走の心配が無くなる?」

「100%じゃない。でも、現状これ以外に方法は無いだろうから」


 リュウイチは保険をかけるように言った。

 と、同時に彼はある事に気づく。それは、カズハはそもそもまだ何か問題を持っていないということ。

 マリアスは、暴走によって周りから避けられ学校へ行きたくないという問題を持っていた。

 今回、それを解決するために彼は能力の抑制という方法をとったが、カズハに関してはまだ暴走してから学校に行っていない。

 確証が無く、非公式の方法。

 本来なら進んで、リュウイチが彼女に言うべきなのではないのだろう。

 まだ、問題を持っていない彼女には。


「その様子じゃ、マリアスちゃんにはもうその抑制をかけた感じみたいだね」

「ああ」

「で、その方法も君が勝手にやったことと」


 ああ、と今度は調子を落として答える。

 善意とはいえ、今回はかなり甘い考えで行動していると彼も少なからずは自覚している。

 故に、彼は誰のために行動しているのかわからなくなってきていた。


「じゃあ、私にもやってもらおうかな」


 そんな悩む彼のことなどいざ知らず、特に考える素振りも見せずにカズハは言った。


「……あっさり、だな」

「まあね。マリアスちゃんが信じたなら、私も信じようかなと」


 デメリットも無いらしいし、と彼女は付け加える。

 そんな、見た目通りの彼女のキャラクターにリュウイチは少し救われた気持ちになっていた。

 悩んでも仕方ない。考えすぎはよくない。

 まして、助ける側が悩んでどうする。


 彼は、自分にため息をついてから笑顔で答えた。


「了解」






 数分後。

 

「特に何か変わった感じは無いんだね」


 先日マリアスにも行った鎖による抑制を終え、彼女はそう感想をこぼした。

 この能力により発現した鎖に実体は無く、また巻き付いた後も特に対象の身体に変化は無い。


「まあ、鎖なんてイメージだからな」

「でもさ、これじゃあ抑制されてんのかわからないじゃん」

「いや、普通に能力発動してみればいいんじゃね?」


 「それもそう、だ」とカズハは手のひらを目の前に突き出す。しかし、何も起こらない。


「確かに抑制されてるね」

「だろ?」

「ちなみにさ、これって君が離れれば離れる程効果が薄れたりするわけ?」

「多少はな。でも、そこまでじゃないよ、慎重にやったし」


 「後、俺の名前はリュウイチ」と彼は付け加える。


「リュウイチか……じゃあ、リュウだね」

「そうだな、周りからもそう呼ばれてる。と、マリアスちゃんも『リュウ』でいいからな」


 そういえば、とここで彼は学校へはいつから行けるのかと彼女に訊いた。

 今日ここに来た目的は、抑制もそうだがマリアスを学校へ行きやすくする、というのも兼ねている。


「明日からだよ」

「……明日!?」

「うん。大体の検査は終わったし」

「そうか……まあ、そんなものか」


 マリアスちゃんも早かったでしょ? という彼女の急な振りにマリアスも慌てて頷く。


「じゃあさ、明日俺たちと一緒に学校行かね?」

「ん? 別にいいけど」


 今日初めて会った異性から一緒に登校しようと誘われる。

 普通なら驚くだろうが、カズハは唐突に登校の話になったことを除けば大して驚いてはいなかった。

 そして、このことに特に理由は無い。


「じゃあ……えっと、カズハさんの」

「カズハ。呼び捨てでいいよ」

「そ、そうか。じゃあ」


 「あの」と、続けようとするリュウイチを遮るようにマリアスの小さい声が飛んだ。


「私も……マリアス、で」


 顔を赤らめ頷き言った彼女の言葉に、リュウイチは何処か嬉しさを感じる。

 知り合いから友人に、ランクアップしたように感じられたから。


「了解。じゃあ、マリアスとカズハと、俺の友人のアカネとで……どこで待ち合わせようか」

「リュウとアカネちゃんは何処に住んでるの?」

「東の第三アパートだ。で、マリアスも東だから」


 学園都市は、基本的には学園を中心に丁度半分に割り東と西地区に分けられる。


「ふう。私だけ仲間外れは避けられたみたいだね」

「てことは、みんな東か」

「じゃあ、第一アパートだね。1番近いし、私そこに住んでるし」


 だな、とリュウイチはマリアスの方を向いた。


「なんか、流れで決めちゃったけどよかったか?」


 その言葉に、彼女は少しの笑みを浮かべて「うん、いいよ」と返した。






 翌日。

 いつもの様に登校を共にするリュウイチとアカネはマリアスの住む第二アパートへと向かっていた。


「しかし、あれだな、少し緊張する」


 黒いポニーテールに結んだ髪を左右に揺らしながら、アカネは言う。

 前日の夜、メールにて2人と一緒に行くと聞いた時はあまり実感がわかなかった彼女だが、当日になって急に緊張に包まれていた。


「そんな構えなくてもいいだろ。別に、2人ともいい奴だし」

「まあ、それはそうだけども……」


 そう言うも、リュウイチの横を歩くアカネは緊張を取ることが上手くできなかった。

 それくらいに、人見知り。

 2人が、こうして登校を共にする様になったのもリュウイチが一方的に歩み寄ったからに過ぎない。

 彼からすれば、それは"いつもの"善意。

 しかし、彼女からすれば、それは"初めての"善意


「一応、玄関前で待ってるって言ってたけど」


 第二アパートが見えてきた所で、彼はそうこぼす。

 しかし、玄関から学生が疎らに出てきてはいるが、そこにマリアスの姿は無い。


「久々なんだろ? なら、出にくいんじゃないか?」

「……それもそうか」


 そう返し、リュウイチはマリアスの部屋に行くためアパートの中に入る。

 すると、見知った子どもの様な見た目の少女が目に留まった。


「おっ、マリアス!」


 暗く俯いていた少女は、その声にぱあっと笑みを咲かせ応えた。


「えっと、こちらが昨日言ってたアカネ」


 マリアスの元に着き、リュウイチは続けて来たアカネを紹介した。


紫雲(むらくも)アカネだ。その、宜しく」


 そう言って差し出された手に、マリアスも慌てて名乗り応えた。


「じゃあ、行きますか」


 まだ表情に固さが残るマリアスを安心させることも兼ねて、彼は笑顔でそう言った。






「アカネちゃんかあ、なんか凄く『和』な名前だね」

「あ、ありがとう」


 数分後、3人はカズハの住む第三アパートに来ていた。


「じゃあ、そろそろ行くか」


 適当にお互いに自己紹介を済ました所で、4人は再び歩き出す。

 その身に、多少の視線を、声を感じながら。

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