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Lost Story -ロストストーリー-  作者: kii
第10章 key and three doors(memories of the past)
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第98話 ウラ

 翌日。時刻は8時10分。

 学校に到着したリュウイチは、鞄を一旦自分の教室に置いてからマリアスの所属するB組へと直行した。


「なあ! マリアスちゃん来てる?」


 扉の近くに居た見知らぬ女子に、彼は勢いよく訊く。

 それに、女子は「えっ?」と少し驚いたような表情を見せた後、首を横に振った。


「そっか。ありがと」


 そう返し、リュウイチはA組へと踵を返す。

 今回、彼女が来てるかどうか確認しにきた理由はマリアスが暴走をきっかけに不登校になっていたことと関係する。

 彼は、それが暴走によってクラスメイトを傷つけるからだと思っていた。

 つまり、一応の解決を経た今なら学校に来ていると思ったのだ。


――やっぱ、まだ怖いのか?


 教室に戻り、彼は机の上の鞄に顔を沈める。

 いくら、『大丈夫』といっても完全に暴走の恐怖が取り除かれるわけがない。


――どうすりゃいい?


 暴走を抑えられたという確証を得るにはどうすればいいか。

 彼は、まだ完全に覚めていない脳をフル回転させた。朝礼のチャイムの音が聞こえるまで。






 放課後。

 リュウイチは、重い足取りで一筋の希望を持ち、先日マリアスの住むアパートを教えてくれたスズの所属するF組に向かっていた。

 結局、授業時間も利用し思考したにもかかわらず、彼の脳に良い案が思い浮かぶことはなかった。

 なので、マリアスの事について何か知っているであろうSCMの中でも一番訊きやすいスズの元に向かっていたのだった。


「スズさーん」


 気の抜けた声で、リュウイチはF組の教室に目を向ける。

 すると、1人の女子が直様彼の元に駆け寄ってきた。


「リュウ君!」


 途中、何もない所で躓きながらもスズは笑顔で彼の元に来た。


「何か御用?」

「ああ、えっと……」


 別に、周りに聞かれてまずい話でもないが、彼は念のためと「マリアスちゃんの事でさ」と小声で言った。


「? 住んでる所は昨日教えたよ?」

「いや、今日はそういうのじゃなくてさ」


 言葉を濁すリュウイチに、スズは察したように手をポンと叩く。


「分かった。じゃあ、場所変えよ」


 そう言って、彼女は笑顔のまま鞄を取りに机に戻って行った。






 場所は、暖かい日差しが射し込む屋上。


「どうすれば、マリアスちゃんの能力の暴走を抑えられたって事になるのかな?」


 リュウイチは、落下防止のフェンスを背に横に立つスズに訊く。

 単刀直入。

 マリアスに対し何かしたとバレる危険性を秘めた言葉で、敢えて彼は訊いた。


「それは、時間だと思う」


 それに、敢えて彼女は深くは言及せずにシンプルに答えた。

 『時』。単純に、暴走しなかった時間がそのまま抑えられたという事実になる。

 しかし、彼が求めている答えはそんな悠長な方法ではない。


「科学的にはわからないのか?」

「暴走の理由すら分からないからね。それは、当然科学的にもそう……」


 もしかしてさ、とスズは彼の方を見る。


「リュウ君は、マリアスちゃんがまた暴走して人を傷つけるかもだから、学校に来てないと思ってる?」

「ん? そうじゃないのか?」

「違うよ。マリアスちゃんは別にそういう理由で学校に来てないわけじゃない」

「……じゃあ、なんで」


 みんなに避けられたから。

 その彼女から発せられた言葉の意味を、彼の脳が理解するまで少しの間を要した。


「つまり、マリアスちゃんがまた暴走するんじゃないかって、クラスメイトも他のクラスの子もマリアスちゃんから距離を取ったんだよ」


 当然、全員じゃないけどね、と彼女は付け加える。その表情は、何処か暗い。

 完全に予想外。思考の外の真実に、リュウイチはただただ自分に失望していた。

 何故、そこに考えが行き着かなかったのか。

 何故、断定したのか。

 何故、もっと相手の立場に立てなかったのか。

 不甲斐なさが、彼の頭をかき乱す。


「ちなみに、マリアスちゃんにどんな事したの?」


 不意の質問に、リュウイチは思考の海から引き戻される。


「いや……俺の能力でさ、マリアスちゃんの能力自体を抑え込んだんだよ」

「ふーん、で、それは上手くいくって確証があったからしたの?」

「ああ。100じゃねえけど、でも90ぐらいは大丈夫だって」

「そっか。まあ、失敗しても問題無いからいいけどさ、でももしこれで失敗だったらマリアスちゃんはどう思うかな?」


 人を信じなくなるだろう。

 リュウイチは、その言葉を喉元で止める。

 唯一の希望を持って、勇気を出して招いたのに。


 嘘だった?

 

 彼自身も当然、マリアスがそういうタイプの人では無いと思っている。だが、それはあくまで表面的な話であり、実際心の中ではどう思ってるかわからない。


「ごめんね。なんか、いじめるようなこと言って」


 でも、と彼女は続ける。


「今度から、もっと相手の事を知ってから行動した方がいいよ」

「……ああ、ありがとう」


 リュウイチは、自分の考えの行き届きなさに気落ちしながら小さく答えた。






 それでも、途中で投げるわけにはいかない。

 リュウイチは、スズと別れた後、真っ直ぐマリアスの住むアパートに向かった。


 先日と同じように階段を昇りきり、彼女の住む部屋の前、今回はインターホン1回で扉が開いた。

 マリアスは、リュウイチの姿を確認した後、小さく安心したように笑みをこぼし彼を招き入れた。


「悪いな、2日連続で来ちゃって」

「別にいいよ」


 その声は小さいままだが、先日の固い表情とは違い、マリアスの表情は警戒心が解かれた動物のように穏やかだった。

 

「で、あれから違和感とかは無いか?」


 彼の問いに、マリアスは首を横に振り「大丈夫」と答える。

 それに、一先ずリュウイチも息を吐いた。


「……そういや、マリアスちゃんの特殊能力って何?」

「えっと……」


 その質問に、彼女は顔を俯ける。

 まるで、それ絡みで何か嫌なことでもあったように。


「あっ、悪い。答えたくなかったら、それでもいいんだ」

「……破壊」

「えっ?」

「私の能力は『破壊(destruction)』」


 聞き慣れない能力に、リュウイチは首を傾げる。と、同時にそれが強い危険性を帯びる能力であることを理解した。


 彼が、この能力の名を聞き慣れないのも当然である。

 能力には、(S)A+, A, B+, B, C+, Cというようにランクがある。その中で、『破壊(destruction)』はランクSというその能力を持った能力者がこの世に1人から3人程度しかいない程に価値が高い能力であり、基本的に一般生徒が知る範囲はAからなので、彼がその能力について知らなくてもなにも不思議ではない。


「うーん……知らない能力だけど、でもなんとなくヤバイのは分かるよ」


 でも、という彼の言葉にマリアスは顔を上げる。


「だからって、俺は気にしないけどな」


 リュウイチは、笑顔で安心させるように言った。

 その頭の中には、先ほどの屋上でのスズの言葉があった。

 故に、彼は少々強引ではあるが、マリアスがその事を気にする素振りを見せたために、こうして『気にしてない』という意味合いでその言葉を発したのだった。


 そして、その行為は上手くいき、マリアスの表情からは既に暗さは無くなっていた。

 彼女が避けられるようになった原因は、当然『暴走』が1番だが、それに加えて彼女の能力である『破壊』も理由の1つだった。

 しかし、これは仕方のないことで『破壊』とはその名の通り、発動者が放つオーラに当てられた物質をノーリスクで破壊するという恐るべき能力であり、そもそも暴走以前から彼女と親しくするクラスメイトは数える程度しかいなかった。

 とはいえ、3年目ともなればクラス内のそういった警戒心も薄れつつあった。だが、そこに今回の事件が起こり、近づきつつあった関係を見事にぶち壊した、といった具合である。


 雰囲気が明るくなった所で、リュウイチは本題に入る前に話しやすい空間を作るために適当に会話を展開させる。

 彼自身、相談事によくのる人柄なので異性だろうと、相手があまり喋らないタイプだろうと会話を繋げるのは得意だった。


 そして、適当に会話を続けた後、リュウイチは思い出したように話を本題に移動させる。


「えっと、今回さ、俺がここに来た理由はマリアスちゃんと一緒に学校に行きたいからなんだよな」

「学校に……」

「そう。さっき話した、アカネにも合わせてやりたいし、それに」


 彼は一瞬迷ってから、次のことばを言った。


「それに、実はこの前もマリアスちゃんと同じように暴走した女子がいるんだ」

「えっ……」

「俺はそいつも助けたいと思ってる。でも、俺1人で行くより、その、マリアスちゃんも一緒の方がさ、いろいろ……」


 言葉がまとまらず、テーブルの上のグラスを手に取るリュウイチ。

 どう言ったら、傷つけることになるか。それを思考しながら話すのは、彼自身実は今回が初めてだった。

 いつもなら、自然と無意識に言葉を選ぶことができる。

 だが、今は変に意識してしまっているために、それが上手くできなくなっていた。


「私と同じ……」

「ああ、同じように暴走した」


 彼女にとって、それは信用するに値する話だった。と、同時に自分でも何か力になれるならと協力も惜しまない気持ちでいた。

 しかし、問題は学校に行くこと。

 マリアスの頭の中には、現在暴走してから初めて学校に登校した時のことを思い返していた。


 どう扱っていいかわからない目。

 人では無く、危険物を見る目。


「マリアスちゃん?」


 リュウイチの声に、彼女は記憶の海から引き戻される。


「ごめん、ちょっと考えてて……」


 その反応を見て、リュウイチは即座に考えの順序を変える。先に学校へ行くのではなく、まず先日暴走した女子を助ける、というプランへの変更。

 しかし、ここで新たな問題が浮かび上がる。

 先日暴走した女子も、マリアスと同じ状況にあるならどうやって2人を学校へ連れていき、また周囲の警戒を解けばいいのか。

 だが、彼は先ず女子を助けることを優先させた。

 現状、この『抑制』による暴走封じが上手くいっているかどうかはわからない。

 しかし、だからといって女子を助けない理由にはならないからだ。

 それに、暴走を抑えるよりも同じ境遇にいるマリアスを合わせ精神的に楽にさせてあげたいと、彼は思っていた。


「やっぱ、学校は後にしよう」

「えっ?」

「先ずは、暴走した女子の所。学校はそれからだ」


 出来るかわからないことは、取り敢えず後回し。

 先ずは、出来ることをする。

 リュウイチは、極めて単純にそう考えた。


「……うん、わかった」

「えっと、それは一緒に行ってくれるという意味で?」


 リュウイチの問いに、静かに彼女は頷く。

 

「よし! じゃあ……取り敢えずメルアド交換しときますか」


 こうして、2人は先ず先日暴走事件を起こした女子の元に行く事になったのだった。

次回予告


「誰のために行動しているのか、わからなくなってきた」

 翌日、マリアスと共にカズハの元を訪れたリュウイチ。その内に、疑問を感じながら……。


次回「ナニヲスクイタイ?」

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