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Lost Story -ロストストーリー-  作者: kii
第10章 key and three doors(memories of the past)
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第96話 ソウグウ

 12月11日、水曜日。

 放課後、問題解決屋の4人(リュウイチ、アカネ、カズハ、マリアス)はすっかり暗くなった冷気漂う帰り道を楽しげに会話を弾ませながら歩いていた。


 彼らが、こうして4人で帰路を歩くことは別に珍しいことではない。4人が問題解決屋の一員ある以上、共に行動することはよくあることであり、また問題解決屋の活動以外、つまり私事でも4人は仲が良く共に行動することが多かった。


 とはいえ、問題解決屋を結成したのは今年に入ってからだが、それ以前から彼ら4人が親しかったわけではない。いや、正しくはリュウイチとアカネは別だが。


 そう、彼らがこうして楽しげに帰り道を歩くのも"ある事件"がキッカケだったのだ。


「じゃ、私はこの辺で」


 別れ道にて、カズハは前に出て手を振る。

 当然、ここでカズハと別れることは彼らも知っているので、いつもの様に「じゃあ」と手を振り返した。


 その時である。カズハの背後、3人の前に人のようなものが唐突に出現したのは。


「カズハ!!」


 リュウイチが叫んだことに特に理由はない。

 ただ、敢えて言うなら「ヤバイと思ったから」。


 彼の言葉に、カズハは素早く前方に動き、そして3人と同じ位置にて振り返った。

 そこに立っていたのは、街灯を背に不気味に佇む男。

 正確には、フードを被った黒のダウンジャケットに身を包んでいる男が立っていた。

 そう、先日闘技場にてヒカリたちの前に現れた男である。


「誰……だ?」


 息を呑み、リュウイチが訊く。

 男の放つ、圧倒されそうな雰囲気に()され、その声はいつもに比べると少し小さい。


「誰? 残念だが、まだ俺は君らに名を教えるわけにはいかない」


 フードに隠れた顔から、若い男の声と共に鋭い目線が4人を襲う。

 その視線に、特にカズハとマリアスは全身に悪寒を感じた。


「じゃあ、質問を変える。何か俺らに用か?」

「ああ、それなら答えよう」


 「俺は、早咲きしたバカどもを見にここに来た」

 フードの中から、怒気を含んだ低い声と共に、より鋭く怒りを帯びた眼光が彼女らに浴びせられる。

 しかし、それに臆せず今度はアカネが男に訊く。


「早咲き?」

「ああ。……折角だ、少し話さないか?」


 怒りを隠し、彼は問いかける。

 それに、断る理由も無いのでリュウイチは「いいぜ」と返す。


「なら、場所を変えよう」


 そう言って、男は彼らに背を向け歩き出した。






 言葉を発することを許さない雰囲気の中、5人は誰もいない公園に辿り着いていた。


「で、暴走を抑えたのは誰だ?」


 公園にあるベンチに座るなり、男は脚を組み彼らに訊く。

 その言葉の意味するところをリュウイチらは知っていたため、その質問に答えること自体は問題がない。しかし、彼らはそれに答えていいものか迷っていた。

 そして、同時にその質問から4人は男が"例の事"に関係しているのではないかという仮説を立てた。


「答えないか。……なら、話を変えるか」


 そう言って、男はフードを取る。

 整った顔立ちに、金色の髪。それは、4人が想像していたものとは違う顔だった。

 男は、4人の反応を見てから悪巧みを思いついた子供のように笑みを浮かべ続ける。


「お前らは、能力がどのようにして決定するか知ってるか?」

「ああ、知ってる。つか、授業で習うからな」


 少し小馬鹿にしたような発言に、リュウイチは即答する。


 個人に発現する能力の種類にはパターンがあり、主に以下の3つが挙げられる。

 1、個人の性格によるもの。

 (例:正義感溢れる性格なら、炎の能力)

 2、それまでの経験によるもの。

 (例:他人に対し自分から距離をおいていたなら、拒絶の能力)

 3、親からの遺伝によるもの。


 こういったことも含めて、学園都市内では1年の内に能力について詳しく学ぶ。


「そうか、それもそうだな。なら、その能力決定の過程において、何か人為的に手を加えることは可能だと思うか?」

「人為的に?」

「つまり、発現前に能力に手を加えるってことだな」


 その説明を聞いても、リュウイチ含め4人は話が理解できない。

 その様子に、ため息をつき男はより詳しく説明を始める。


「例を出そうか。Aという能力発現前の人間に人為的に手を加える。これの理由は、能力を改造し強化したりすることだ。なら、この方法は可能か否か」


 「可能だが、倫理的に無理だな」と答えたのはアカネだった。


「確かに、倫理だとかそういうことを言い出せば無理だ。しかし、このやり方自体はやろうと思えば特に問題なくできる」


 だが、と男は続ける。


「当然、デメリットも存在する。当然だよな。人の遺伝子を弄るわけだから」


 これを踏まえて話を変えるぞ、と男は「何が言いたいんだ」と言いたげな4人を見た。


「ある博士は、好奇心からこの方法に目を付けた。能力者を強くする方法。より確実に強くする方法」


 ニヤリと笑みを浮かべ、男は続ける。


「そこで、博士は何人かの発現前の能力者に気付かれずにこの方法を試した」

「……それって、つまり」


 生唾を飲み込み、アカネは言う。最悪の仮定が頭の中を過る。それは、カズハもマリアスも同じだった。


「そこは、お前らの想像にお任せする」


 そう言って、男は立ち上がる。


「まあ、どのみち真実が"咲く"日は近いよ」


 フードを被った男は、4人を背に立ち去ろうとするも「待て!」とリュウイチが呼び止めた。


「お前が、いや、お前は何を知ってるんだ!」

「焦るなよ。その時はもう目の前まで来ている」


 そう返した男は、次の瞬間4人の目の前から風のように消えた。

 そして、始まる沈黙。

 不安がその場を支配する。

 

 だが、カズハの一声によりその場に流れる不穏な空気は一瞬にして払われた。


「まあ、とにかく、よくわかんないしいいんじゃない? 今は考えても仕方ないし」


 その、いつものカズハらしい言葉に他の3人の不安は薄れていく。


 悪夢のような体験。

 孤独という怖さ。

 大切な者を傷つけてしまう悲しみ。


 かつて、2人が体験した出来事。

 『危険者』と呼ばれる2人が体験した出来事。


「それもそうだな。じゃ、改めて帰りますか」


 リュウイチの言葉に、他の3人も頷き4人は歩き出した。






 悪夢のような体験。

 しかし、それは悪いことばかりでは無かった。


 みんなと出会えたから。

次回予告


「それでも……可能性があるのに何もやらないなんて俺には出来ない」

 そして、時は過去へ。


次回「キオクノハジマリ」

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