第1話 プロローグ
「俺もさ、ハーレム漫画みたいに可愛い女の子達と学園生活を過ごしてみたいと思うわけだよ」
昼休み、学校の屋上にて。
雲一つない青空の下、慶島龍は、友人である添木怜太に唐突に気の抜けた声でそう言った。
「はーれむ??」
「ハーレム。知らねえの? 最近、人気の」
「知らねえから、簡単に説明してくれ」
「ったく、情報屋の名が泣くぜ? ハーレムってのはな、簡単に言えば女の子多数に対して男の子1だ」
「それは、中々難しいんじゃないか?」
「いや、まあ、なんなら適度に女の子と知り合いたいでもいい」
「妥協したな。でも、それでも……」
レイタは、思い返すように目線を上げる。
このリュウの発言は様々な理由から実現は難しかった。
その理由というのが、既に季節は7月の終わりであること。つまり、後8ヶ月程で彼らは卒業するということになる。
そして、極めつけはリュウ自身が異性の知人ゼロだということだった。
しかし、それはリュウ自身もよーく知っていた。
それでもレイタなら、リュウが1年の始めに知り合った通称『情報屋』であるレイタなら、何かいい案の1つでも思いついてくれるんじゃないかと、そんな淡い期待を寄せてのこの発言だった。
そして、この淡い期待にレイタは暫く食べ掛けの昼飯であるサンドイッチを囓りながら考えた後、ぶっきらぼうにこう答えた。
「トーナメントに出ればいいんじゃね」
「トーナメント?」
レイタは、そのリュウの反応に驚くよりも先に呆れた。
一応、学校行事でもあるトーナメント。リュウの、その反応は今年で3年の学生が言う台詞では無かった。
「あのさ……マジで言ってんだよな」
呆れつつも、レイタはリュウに訊く。
「いやマジでさ、何それ? もしかしてあれか、少年漫画におけるテコ入れ的なやつか??」
「な訳ねえだろ。つかなんだよ"テコ入れ"って」
「少年漫画は、ネタに詰まるとトーナメント戦をしだすだろ」
「いや、そういうこと訊いてんじゃなくて……」
はあ、とレイタは一つ息を吐き、何も知らない彼にトーナメントについて説明を始める。
しかし、その前に、この学園がどういうものか説明する必要がある。
『能力』と呼ばれる、科学で説明出来ない力が一般的になった時代。
そんな時代において、リュウたちが住む、過去『能力開発都市』などと言われていたこの地域は、『能力』を持つ者に対し、使い方を正しく育成する学園が多数ある都市、つまり学園都市と呼ばれていた。
これを踏まえて、レイタの説明に戻る。
「トーナメント。正式には『能力バトルトーナメント』か。まあ、簡単に言うと学校の一行事で能力者同士の戦いをするってとこかな」
「学校の行事かよ。いいのか? そんな、簡単に言えば喧嘩みたいの生徒にさせて」
「まあ、この行事の趣旨はスポーツ……いや体育祭と同じ感じだからな。ただ、当然それに比べりゃ危ないから希望者だけしか出れないし、1年は出ることが出来ない」
「へえ……しかし、そんな少年漫画ちっくなものがあったとはなあ」
本当に、今まで知らなかったかのような素ぶりを見せるリュウ。
それもそのはず、夏休み前に担当教員からもトーナメントについては告知がされていたが、全くリュウは話を聞いていなかったのだ。
「で、トーナメントについてはわかったけど……」
ここで、リュウは一番訊きたいことを彼に言う。
「トーナメントに出る事が、モテることとどう関係があるんだ?」
何時の間にか、"女の子と学園生活を楽しむ"から、"モテる"にジャンプアップしていた。とはいえ、リュウにとってこの2つはイコールなのだが。
「そりゃ、トーナメントてのは初戦はともかく勝ち上がればそれだけ注目度が上がるからな」
後は分かるよな、とレイタはめんどくさそうに付け加える。その言葉に、リュウはトーナメントに出る意味は理解した。
「うーん……でもさ、"勝ち上がらなきゃ"なんだろ?」
リュウ自身は、これまで喧嘩とは無縁だった。戦いなど、頭の中でしかしたことが無い。
しかし、"ある理由"から鍛えてはいたのでそれなりには戦えるとリュウは自負していた。
といっても、やはり実際の戦闘となると彼は自身が無かった。
「大丈夫だよ、お前は2つの属性能力を持ってるからな」
「そりゃ、そうだけど……」
「なら、そうと決まれば善は急げだ」
レイタは、残りのサンドイッチを飲み込みドアの方へと向かう。リュウも、余り納得はしてないようだがレイタについて行った。