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14.

 久々の失敗にレムは己の左手を見た。ちょっと触れただけで、辛い記憶を思い起こさせることになるとは。だから、この能力は使いたくないのだ。

 扉を力強く叩く音が聞こえた。通報していた警備隊かもしれない。マレカを残してソファをそっと立ち上がり、レムが扉を開けると案の定、警備隊が二人来てくれていた。事情を話してスキアを引き取ってもらう。


「あれあれあれ? 立て込んでたか?」


 警備隊の後ろからひょっこり顔を表したのは見慣れた情報屋だった。レムはタイミングの悪さに思わず眉間に皺を寄せた。


「……黒猫」

「どーもども」


 ひらひらと手を振り、黒猫は笑っていた。何かを掴んだのか、たまたま通ったのかわからない。こいつは、いつもこうだ。


「大したことじゃない」

「大したことだろ、警備隊が来るなんて。まぁ、解決したみたいだから良さそうだけど」


 相変わらずの観察眼。レムは警備隊に連れていかれるスキアを見送ってから、扉を閉めた。泣いた女が事務所にいるのは外聞が悪いし、黒猫にも知られたくない。

 空を見ると、すっかり夜が更けてしまっていた。生活用品一式を買いに行こうとしていたはずなのに、こんな時間では開いている店もなさそうだ。

 事務所の扉に背中を預けて黒猫に話の続きを促すようにレムは顎をしゃくった。こいつがたまたま現れることはない。何か情報を得てきたのだろう。


「あんたが抱えているの、だいぶ厄介だぞ」

「厄介だと?」


 眉根を寄せると、黒猫はレムの耳に顔を近づけた。


「あのお嬢ちゃん、もしかしたら行方不明になっている王女の可能性がある」


 囁くような声で情報を渡してきた黒猫に、レムは目を瞠った。


「どうして」

「わからないけど、一か月程前から王女含めた王の一族が行方不明となっているらしい」

「何故情報が漏れてない」

「そこは、ほら、国家機密レベルだからな」


 それはそうか。レムは腕を組み、考えを巡らせた。


「いったい何が起きているのかね、あそこは」


 黒猫が指した方には、浮遊している城が見えた。

 国家レベルの機密情報を司るモノは全て飛行城塞に集められている。あそこで何が日々起こっているかはわからない。あそこで働く人も含めて飛行城塞の中は、レムたちが住む城下町と同じように生活できるだけのものが揃っていると聞く。だから、市井の人々と交わることが無い。


 マレカが王女だとすれば、なぜ飛行城塞から出て、どうしてここにいるのか。


 考えたくもない。めんどくさいことは。


 頭を掻きむしって、レムは飛行城塞を見た。今日も昨日と何も変わらず浮かんでいる。外からそう見えるだけだろうか。


「それで、どうするんだい?」


 にんまり笑っている黒猫を見て、レムは眉間の皺を深くした。


「さあな。今俺は助手の世話で精いっぱいなんだよ」

「じゃあ、何かわかったら、また情報を持ってきますねぇ」


 ぽんとレムの肩を叩いてから、黒猫は商店が立ち並ぶ並びの脇道に向かって歩いて行った。

 大きくため息を吐いたレムは、腕を組んで、星が瞬く夜空を建物の隙間からただじっと見ていた。


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