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おっさんジュエルウィッチーズ  作者: めくりの
一章
6/6

災厄の訪れ

 打ち合わせを終えた殊田と田中は取引先の近くの定食屋で昼食を取っていた。殊田は塩さば定食、田中はカツ丼定食を食べていた。


「カツ丼なんてよく食べられるな」


 殊田が眉をひそめながら言うと、田中は笑って返す。


「コト先輩が年取っただけでしょ」


「今年で三十三だぞ?お前も気をつけろよ、いろいろきつくなってくるから」


「いろいろって、俺は大丈夫ですよ。まだ二十五ですし」


 田中はヘラヘラ笑い飛ばしながらカツを頬張る。見ているこっちも思わず笑ってしまうほどのいい食いっぷりだ。


「五年は速いぞ、恐ろしいほどに」


 殊田も味噌汁を啜る。


「あ、そうだ。俺結婚するんすよ」


 田中が何気ない感じでカミングアウトする。


「へー、結婚......結婚!?」


 殊田の頭が真っ白になる。


「企画部の遠山と?」


「付き合って三年経ってるんで、そろそろ潮時だと思って」


 田中が少し恥ずかし気な様子を見せる。


「プロポーズは?」


「観覧車のてっぺんで」


「おぉ......すげーな」


 まさか後輩に先を越されるとは、と殊田が圧倒される。


「もう式場も決めてて。まあ、あんまりお金はかけたくないんで、親族しか呼ばないつもりなんですけど」


「式にウン百万もかけるなら旅行に使ったりした方が建設的だよなぁ」


 殊田がしみじみと語る。何の経験もないが。


 しばらくして食事を終えた殊田たちは定食屋を後にし、大通りを歩いていた。陽射しはややきついが、先ほど聞いたおめでたいニュースの前では気にもならない。田中は会社に戻ったら太田にも結婚することを伝えるらしい。


 このまま何事もなくブラックオパールを手放すことが出来ればよいのだが。いっそのこと田中に結婚祝いでブラックオパールをやるか。売れば一億ちょい、一生安泰とはいかないが、田中なら上手いこと増やせるだろう。


 そんなことを殊田は考えていた。その考えはすぐに実現不可能になってしまうのだが。





 ターブンとラブリーシがビルの屋上から地上を覗いている。


「さーて、どうしたもんかな。ジュエルウィッチーズはどうせすぐにやってくるし」


「考え、イラナイ」


 ターブンが拳を鳴らす。ラブリーシが眉をひそめる。


「どういうことです?多対一なんですから大まかな作戦ぐらいは立てておかないと......」


 ラブリーシが進言するのに目もくれず、ターブンが大口を開けてビームを地上に向けて撃ちこんだ。


 強烈な衝撃がビルを揺らす。


「勝手に行動しないでください!」


 ラブリーシが制止するがターブンは聞く耳を持たない。屋上から飛び降りて拳を地面に振り下ろす。地面が砕け、ビルが倒壊していく。爆発が人々の悲鳴をかき消し、飲み込む。


 ビルの倒壊に巻き込まれたラブリーシが自身の上に崩れてきた瓦礫をどかしていると、ターブンに頭を掴まれてひっぱりあげられる。


「ダイジョウブ?」


「......なんとか」


 逆さまのままで辺りを確認する。たった二発とは思えないほどの被害規模だ。あれだけ建っていたビルのもすべて崩れ、あちこちから炎と煙が立ち上っている。


「久しぶりにタタカッタ、タタカイタノシイ」


「楽しい、じゃないですよ。瓦礫で囲まれちゃったじゃないですか」


 ラブリーシが苦言を呈した瞬間、ターブンが口からビームを放って瓦礫を消し飛ばす。


「これでイイカ?」


 ターブンが満面の笑みでラブリーシに尋ねる。言葉もでないラブリーシはただコクコクと頷く。






 ターブンによる破壊の余波はすぐに各地へ伝わった。自衛隊、公安対石一班が即座に現地へ赴き、またジュエルウィッチーズも各々が現場に向かっていた。


 かなり離れた所にいた殊田たちは、いきなりの爆発と閃光になすすべなく飲み込まれていた。何かが崩れる音、周りの人々の悲鳴が聞こえるが、状況は一切分からない。


 耳鳴りが頭をつんざく。自分がどんな体勢かもわからないままもがいていると、意識が何かにグッと引き寄せられて、鮮明になる。


「えっ」


 誰かが地面に転がった殊田の顔をのぞき込んでいる。一瞬、田中かと思ったが、のぞき込んでいる顔は、彼とは似ても似つかない、成人すらしていないような女の子だった。


 淡い光を纏ったその少女は瞬き一つの間に消えてしまった。急いで身体を起こして先ほどの少女を探す。どれだけ辺りを探しても、あるのは死体ばかり。


 田中も頭から血を流して横たわっている。


「おい、田中、無事か?」


 急いで駆け寄って声を掛けるが、ピクリとも動かない。上空を戦闘機が編隊を組んで飛んでいく。


 殊田が思わず上を見上げる。


「飛行機?なんであんなに低いところを」


 殊田がつぶやきながら田中の脈を図る。そしてポケットからハンカチを取り出して彼の顔にかけてやる。


『太田は無事か?そもそも何が起きたんだ?テロ?』


 あまりの混乱に心臓の鼓動がどんどん速くなっていく。ひとまず来た道を戻ろうと歩こうとするが、その道は大量の瓦礫にふさがれていてどうにも進むことができない。


『前に進むしかないのか』


 ポケットからスマホを取り出す。画面にヒビが入ったようだが、問題なく使えるようだ。


『田中は死んだ。遠山まで死んでねえだろうな』


 無理筋だとわかっていながら殊田は太田に電話をかける。数コールの後、太田が電話に出た。


「コト!無事か?」


 太田の声に殊田の心が少し軽くなる。


「それはこっちのセリフだ。会社はどうなってる?」


「知らん!企画部の連中と飯食ってたところだ!」


『企画部......』


 殊田が震える声で太田に尋ねる。脳裏に食堂での会話がフラッシュバックする。


「と、遠山いないよな......?」


「遠山?すぐ隣だけど代ろうか?」


「いや、いい!直接話す」


 太田が無事だったのは良かったが、なおの事田中が悔やまれる。


「また後でかけなおす!」


 殊田は通話を切ると、会社に向かって走り出した。






『流石にやりすぎだろ.......』


 崩壊したオフィス街を歩きながらラブリーシが独白する。


『何もここまでやらなくてもいいだろ。キョダイ―シ使う暇もなかった。この狂ったパワーが私に向かなければいいけど。あ、こいつをキョダイ―シにして厄介払いするか』


 横目で上機嫌のターブンを見る。ふと、ターブンが足を止めて上を見上げる。


「何かありましたか?」


 ラブリーシが若干距離を取りながら尋ねる。


「何かクル」


 上空から何かが降ってくる。どうやら戦闘機のようだ。






 「目標確認」


 戦闘機から発射されたミサイルがターブンに直撃する。爆発があたり一帯を吹き飛ばす。


「目標に.......」


 煙の中から飛び出してきたターブンが戦闘機を貫く。僚機が急上昇しながら警戒を促す。


「目標健在!やつは空に.......」


 ターブンが撃墜した戦闘機の残骸をその僚機にぶん投げて撃墜した。この事実に作戦本部は恐慌状態に陥った。そんな中、一報が入る。


「ジュエルウィッチーズ、現着しました!」





「過去一でしょ、この被害。災厄の訪れって感じね」


 ダイヤウィッチが呟く。


「ええ、随分派手にやってくれたものですわ」


「我慢できない、私はもう行く!」


 サファイアウィッチとルビーウィッチが駆け出す。


「張り切って行くぞ~」


 エメラルドウィッチも二人に続いて走り出す。


「ああ、ちょっと待って!」


 ダイヤウィッチも慌てて駆け出す。


 地面に着地したターブンはジュエルウィッチーズの気配を察知していた。


「キョダイ―シ、用意シロ」


「キョダイ―シ?あなた一人で十分じゃ.......」


「もっと破壊しタイ!」


 ターブンの物凄い剣幕に気圧されたラブリーシがコクコクと頷いてハートジュエルをターブンの腹に押し込んだ。


「お前の破壊衝動にいちいち付き合うほど暇じゃないんだよ。無駄に人間殺しやがって」


 ターブンが身体に入っていったハートジュエルを取り出そうと腹をかきむしってもがく。


「つーかお前、普通に喋れないの?ま、どうでもいいや」


 ターブンがどんどんキョダイ―シに変貌していく。腕が、脚が、胴体が岩に変貌し、拙い言葉を紡いでいた口も大きく突出し、まさに怪物のような顔になっていく。身体が膨張し、禍々しいオーラが噴き出す。


 ラブリーシがその場から離れる。


「ジュエルウィッチーズを全滅させなさい」


 ラブリーシが命令を下すと、ターブンであったキョダイ―シが雄たけびを上げて命令に服従する。

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