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おっさんジュエルウィッチーズ  作者: めくりの
一章
2/6

そのおっさん、オパールウィッチ

 紅井あかい美和みわ、現役ピチピチJDで、ワルイ―シ団と戦うジュエルウィッチーズのメンバー、ルビーウィッチである。


「今日も疲れたなー」


 彼女は街の復旧作業を手伝い終えてすぐ、帰路に着いているところだった。遠くの方で起きた爆発に紅井が振り返る。石の巨躯が街を破壊して回っているではないか。


「うわ、キョダイ―シじゃん、ダイヤたち気づいてるか?」


 ズボンのポケットからスマホを取り出し、ダイヤウィッチに電話をかける。ダイヤウィッチはすぐに電話に出た。


「ちょっと金剛、キョダイ―シ見えてる⁉」


 紅井の大声にダイヤウィッチこと金剛こんごうはなが驚きながら答える。


「み、見えてますよ!ただ、逃げてきた方達の波に押されて、変身することもままならないんです!」


「後ろでがやがや言ってるのはそれね。取り敢えず私が行ってキョダイ―シ抑えとくから、あんたもほかの二人呼んでこいよ!」


 紅井がまくしたてて通話を終了する。そして首に下げた大粒のルビーのネックレスを外して、握りしめる。


「ジュエルパワー、メイクアーップ!」


 握った拳の隙間から紅い光のベールがスルスルと広がり、紅井の腕、脚、胴に巻き付き、コスチュームに変化していく。


「うっし、やるか」


 深紅の特攻服にはちまきをつけたルビーウィッチが地面を蹴って飛び上がる。目的地はキョダイ―シ。






「ゼエゼエ、ま、まだついてきやがる」


 殊田が全速力で走りながらカーブミラーで後ろを確認する。イシッコ軍団はずっとついてきている。


「む、無理っす~」


「俺たちに構わずにコトは逃げろ!」


 太田と田中がイシッコ軍団に囚われる。


「人間!」


 キョダイ―シの肩に乗っていた紫の髪の女の子が殊田の前に降り立つ。


「急に前に出てくるな!」


 殊田が女の子に激突し、跳ね返される。


『全力疾走してるアラサーのおっさんが弾き飛ばされた?ジュエルウィッチーズはこんな化け物と戦っていたのか』


 朦朧とする意識の中、殊田がもがきながら立ち上がる。


「ぐっ」


「私はワルイ―シ団の戦闘員、アク・ラブリーシ。貴様には実験台としてワルイ―シ団のアジトに来てもらう。そこの人間二人共々、実験台として我々の役に立つことを光栄に思うがいい」


『ワルな感じ出てるかな、ふふふ、この調子でワルイ―シ団の威厳を見せつけて.......』


 ラブリーシの心の内は寡黙な表情とは真逆である。それもそのはず、ラブリーシはペーペーの戦闘員。実戦はこれが初めてで、尋常でないほどに気合が入っている。


「この世はワルイ―シ団の天下である!」


 ラブリーシが決め台詞を(本人曰く)イケイケなポーズと共に決める。ちなみにこんな決め台詞をワルイ―シ団の幹部たちは言ったこともないし、全然天下でもない。ラブリーシがただただ突っ走っただけである。


『決まった.......!人間、恐れおののけ!』


「随分と傲慢だな。ラブ尻さんよ」


 殊田がラブリーシをまっすぐに見据える。


「ラブリーシだ!誰が尻だボケ!」


「どっちも同じだろ」


「同じじゃないわ!」


 ラブリーシが怒鳴り散らしてすぐに呼吸を整える。


『いけないいけない、人間ごときに熱くなってしまったわ』


「ふっ、人間にしては大した度胸ね。私と敵対した人間は皆大便小便漏らして命乞いしたというのに」


 もちろんそんな人間は存在しない。


「なんだお前、トイレ女じゃん」


 「レディーをトイレ呼ばわりすんな!クッソ失礼な奴だな!」


『なんだこいつ、肝が据わりすぎだろ。イシッコ軍団に囲まれ、人質を取られて、その後ろにはキョダイ―シが控えているというのに、全く物怖じしないなんて。私だったら大便小便漏らして命乞いするけど』


「とにかく、二人を解放して俺たちを見逃せ」


「見逃してほしいならキョダイ―シとイシッコ軍団を倒しなさい。どうせ人間のあなたじゃ何もできないでしょうけど!」


 ラブリーシが高笑いする。殊田がラブリーシを呆れながら見つめる。


『.......隙だらけすぎないだろうか。さっさと連れて行けばいいのに、何をちんたら俺に付き合ってるんだ?.......ってあの光.......!』


 殊田がラブリーシの後ろに紅い光を見つける。傲慢なこいつのプライドをへし折るのに協力してもらおう、殊田がスーッと息を吸い込む。


「俺はただの人間だ!何もできない!」


 殊田が大きな声で叫ぶ。


「運命を受け入れたのね、最初から.......」


「だが、あいつはそれができる!」


「あ、あいつ?」


 殊田の言葉にラブリーシが怪訝そうな顔をする。


「そのとうり!いいこと言うね、おっさん!」


 猛スピードで飛んできたルビーウィッチが太田と田中を捕えていたイシッコの顔面を粉砕する。田中と太田が地面に転がる。


「ジュ、ジュエルウィッチーズ.......!」


 ラブリーシが敵対心を燃えがらせる。


 殊田が腰が抜けたように座り込む。


『まじで怖かった~!あいつアホで助かった』


 ジュエルウィッチーズならすぐに来てくれる、そう信じていた殊田の時間稼ぎは見事に成功し、ルビーウィッチが助けに来た。


『あとは任せて逃げるだけだ』


 殊田が力を振り絞って立ち上がり、すでに逃げ出した太田達のあとを追う。


「あ、おっさん、これ!」


 ルビーウィッチが殊田にブラックオパールを投げて寄越す。


「御守り!時間稼ぎのお礼だよ!」


「ありがとう、応援してるぞ!」


 殊田が走り去ったのを確認したルビーウィッチがキョダイ―シのハートジュエルにキックを叩き込む。


 キョダイ―シが強い衝撃を受けてよろける。


「っつ、昼間の奴より硬い.......!」


 ルビーウィッチが驚愕する。昼間に倒したキョダイ―シとは硬さが桁違いだ。


「そのキョダイ―シは強化型、チョー・ワルイ―シ様のお墨付きよ。あなた一人で倒せるかしら」


 ラブリーシが高笑いする。キョダイ―シの剛腕がルビーウィッチを殴り飛ばす。


「うわああああ!」


 ルビーウィッチがビルに突っ込んでいくが、すぐに飛び上がってキョダイ―シのハートジュエルに渾身の一撃を放つ。


「フレイムインパクト!」


 キョダイ―シが苦しそうなうめき声を上げてよろめくが、口を開けてルビーウィッチに狙いを定める。


「くっそ!」


 両腕をメタリックレッドに変化、硬質化させて防御の態勢に入る。


「これで終わりよ!」


 いつの間にかキョダイ―シの肩によじ登ったラブリーシが高らかに宣言するとともに、キョダイ―シの口から光線が放たれ、ルビーウィッチに直撃し飲み込む。


 大爆発が起き、巨大な煙が立ち上る。


 煙が晴れると、クレーターの中心にボロボロになったルビーウィッチが立っている。


「はあ、はあ、そう.......簡単に.......やられるかよ.......げほっ」


 ルビーウィッチが膝をつく。口から血がしたたり落ちている。


『ヤバーい!ジュエルウィッチ倒しちゃった!大戦果じゃん!幹部でも成し得なかったことじゃん!』


 ラブリーシがはやる気持ちを抑えきれずに、命令を下す。


「キョダイ―シ、やーっておしまい!」


 キョダイ―シが腕を振り上げる。


『ごめん、みんな。私......』


 ルビーウィッチが覚悟を決める。





 突然の爆風に吹っ飛ばされた殊田は瓦礫の山に突っ込んでしまった。


「いってぇ、なんだよいきなり!」


 取り敢えず悪態をつきながら起き上がり後ろを振り返る。


 煙の中にルビーウィッチが膝をついているではないか。殊田が青ざめる。


「ルビーウィッチが負けた?」


『他のジュエルウィッチーズは何をしてるんだ?死んじまうぞ』


 殊田が無意識にブラックオパールを握りしめる。俺が女だったら変身してルビーウィッチを助けにいけるのに、そんなたらればが脳内を逡巡する。


「......でも一般人は黙って逃げるしかないんだよな、足引っ張っちまうから」


 殊田が強く握りしめたブラックオパールが光り輝く。そんなことない、と否定するように、まばゆく輝く。


「え、な、なんだこれ」


 殊田が困惑しているうちに、握った拳の隙間から黒を基調に赤や青、緑のソリッドが見える光のベールが殊田の全身にまとわりつき、ドレスへと変貌していく。





「キョダイ―シ、やーっておしまい!」


 キョダイ―シが腕を振り上げる。


『ごめん、みんな。私......』


 ルビーウィッチが覚悟を決める。


 振り下ろされた腕が風をきる。だがその腕はルビーウィッチに届くことはなかった。


 一瞬の刹那、キョダイ―シの腕が木端微塵に吹っ飛ぶ。


「え......」


 ルビーウィッチが信じられないようなものを見る目で天を仰ぐ。黒いドレスに身を包んだ何者かが剛腕をたった一蹴りで粉砕したのだ。


「な、何者だ」


 ラブリーシが唐突に出てきた強者にうろたえる。


『新手のジュエルウィッチか?女にしては腕も足も肩幅もゴツすぎないか?』


 黒いドレスの女がルビーウィッチの前に降り立つ。


「あ、あんたは......?」


「あいつの弱点は?」


「お、男の声、まさかさっきのおっさんか」


 ルビーウィッチがニヤッと笑う。


「胸のとこに付いてる黒い奴。あれをぶっ壊せば勝てる.......」


 ルビーウィッチが意識を失って倒れる。


「分かった、後は任せろ!」


 ラブリーシが激昂して叫ぶ。


「所詮仲間が一人増えたところで何も変わらない!二人まとめて消し飛ばせ、キョダイ―シ!」


 キョダイ―シがまた光線を放とうとする。


「ジュエルウィッチのパワー、試させてもらうぞ!」


 瞬間移動の如きスピードでハートジュエルの前に飛び上がった殊田は、ただただ力を最大限込めた拳を突き出した。世界から色が消えていく。拳から放たれた衝撃波はキョダイ―シを完全粉砕し、余波だけでラブリーシの意識を奪い、ルビーウィッチを吹き飛ばした。


 半径500メートルの施設は全て壊滅、現場に向かって下降していたダイヤウィッチ、サファイアウィッチ、エメラルドウィッチを彼方へ吹き飛ばすほどの威力。有り余るエネルギーが稲妻となって地面を走る。


 これが殊田貴弘ことオパールウィッチの初陣であり、彼の人生の分岐点となる出来事となった。


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