ジュエルウィッチーズ
「はああああ!」
四人の魔法少女たちの気合の入った声がオフィス街に響く。彼女らはジュエルウィッチーズ。
宝石の力をその身に宿し、悪の組織ワルイ―シ団と戦い、日々平和を守っている。
ダイヤウィッチ、ルビーウィッチ、サファイアウィッチ、エメラルドウィッチの四人が、ワルイ―シ団が人の負の感情から作り出す、全長三十メートルの石の怪物キョダイ―シと対峙している。
「ルビー、私がキョダイ―シの攻撃を引き付ける、その隙にハートジュエルを破壊して」
ダイヤウィッチの指示にルビーウィッチが頷く。
「任せときな!」
「サファイアはルビーの、エメラルドは私の援護を。これで決めるわよ!」
「了解ですわ!」
「わかったよー!」
サファイアウィッチとエメラルドウィッチも了解する。
その様子を見て、キョダイ―シの肩に乗ったワルイ―シ団の幹部、メチャ―・ワルイ―シが高らかに笑う。
「おーほっほっほ!あなた達クソッタレクソガキ小娘が勝てるわけないでしょーが!やーっておしまい、キョダイ―シ!」
「ダイ―シ!」
メチャーの命を受けたキョダイ―シが頑強で巨大な腕をウィッチたちに振り下ろす。強烈な衝撃と共に周囲の建物のガラスが割れ、キラキラと陽光を反射する。
ダイヤウィッチがバリアを張ってキョダイ―シの豪腕を受け止めている。
「ルビー!」
ダイヤウィッチがルビーウィッチの名前を呼ぶ。
「サンキュー、ダイヤ!」
右腕をメタリックレッドに変化させたルビーウィッチがキョダイ―シの腕を駆け上る。するとキョダイ―シがルビーウィッチの方を向いて口を開く。
「サファイア!」
「あなたの相手はこちらですわ!」
高く飛び上がったサファイアウィッチが遠距離攻撃をキョダイ―シの顔面に浴びせる。
「ちょっと、あたしまでくらっちゃうじゃない」
メチャーが空中に退避する。
「ナイスアシスト、サファイア!」
ルビーウィッチが腕を蹴って胸の黒いハートジュエルに向かって飛び上がる。強く握った拳が燃え上がる。
「往生しな、石くず野郎!フレイムインパクト!」
ルビーウィッチの必殺技がキョダイ―シのハートジュエルを打ち砕き、炎が巨躯を貫通する。
「イダイーシー.......」
ハートジュエルを破壊されたキョダイ―シが力なく倒れる。
「くっ、今日はこのくらいで見逃してあげるわ」
メチャーが捨て台詞を吐いて、後ろに現れたワープホールに逃げ込む。
ルビーウィッチが地面に着地する。キョダイ―シの亡骸はキラキラ光る宝石に姿を変え、地面に溶けていった。
「ふー、今日も勝てて良かったわ」
ルビーウィッチが額の汗をぬぐいながら呟く。そんな彼女の周りに光がの粒が渦を巻く。
光の粒は次第に集まり、一つの宝石を形作る。
「これ、ブラックオパールじゃん!」
宝石を手に取ったルビーウィッチが驚きの声を上げる。その声を聞いたダイヤウィッチたちもやってくる。
「あら、ハートジュエルが宝石に変わったんですの?ずいぶん珍しいこと」
サファイアウィッチが興味深そうにルビーウィッチの手にあるブラックオパールを覗き込む。
「どれどれ、見してみんしゃい」
エメラルドウィッチがブラックオパールをつまんで色んな角度から眺める。
「むむー、黒を基調にソリッドが綺麗に入ってる、ブラックオパールだよ、良かったねぇ」
エメラルドウィッチがにこやかに笑いながらルビーウィッチの頭を撫でる。
「綺麗.......」
ルビーウィッチが呟く。
「さ、休憩はここまで、瓦礫をある程度撤去して、復旧作業をスムーズに行えるようにお手伝いするわよ」
ダイヤウィッチが言うと、他のウィッチも頷く。ルビーウィッチがブラックオパールを懐に入れる。
彼女たちは知る由もない。このブラックオパールがとあるアラサーおっさんの人生を一変させてしまうことを。
午後八時、とある都会の飲み屋街にある居酒屋。カウンター席に三人掛けで座る男たちがいる。
「商談成立を祝って.......」
「「「カンパーイ!」」」
三人の男がキンッキンに冷えたジョッキを打ち鳴らして、生ビールを喉に流し込む。
どこにでもいそうな見た目のサラリーマン、殊田貴弘が焼き鳥に手を伸ばす。
「しかも今日は華の金曜日!飲んで飲んで飲みまくるぞ!」
殊田の同僚の太田人志が、二人の後輩である田中勇太の肩をグイっと引き寄せる。
「ワーッと、こぼれるっすよ、ヒトさん!」
田中が慌ててジョッキに口をつける。
「あんまり店で騒ぐな」
殊田が苦笑いしながら居酒屋の大将を見て、軽く会釈する。
「いいさ、どうせ客は来ないし」
大将はそうぼやいてテレビの方を顎でしゃくる。
テレビでは今日のお昼頃に起きたキョダイ―シ襲撃事件をけたたましく放映している。テレビだけではなく、ネットでもキョダイ―シ、そしてそれを退けたジュエルウィッチーズについて発信されている。
「あー、そういえばなんかやってたな。それで部署のほかの奴らは飲みに行かずにさっさと帰ったんだな」
「あんなことがあったのに飲みに行こう!なんて言われて行く人なんてあんまりいないですよ」
田中が呆れて言う。
「お前に付き合うの、俺たちだけだってわかって誘ったんだろ?」
殊田が笑いながら言う。
「ったりめぇよ、お前ら二人なら信頼できるからな」
「はは、そりゃどうも」
太田がテレビに意識を向ける。ちょうどジュエルウィッチーズが映っている。
「話は変わるけど、こいつら魔法少女なんだろうけど、格好がそんな感じしないよな」
「ああ、ダイヤウィッチは外国のマーチングバンド、ルビーウィッチは深紅の特攻服にはちまき、サファイアウィッチは裾の広いカジュアルドレス、エメラルドウィッチは羽織に袴、ベルトで締めちゃう和洋折衷」
殊田がつらつらと説明する。
「や、やけに詳しいっすね、コト先輩」
「当然、三歳からずっとジュエルウィッチーズにあこがれてたからな」
「三歳ってことは、三十年は追っかけてるのか」
太田が感嘆のため息を漏らす。
「今の今まで飽きなかったのか、たまげたなぁ」
「女に生まれてたら俺はジュエルウィッチーズになってたと思うぞ」
「無理でしょ」
田中が無慈悲に切り捨てる。
「趣味を否定するつもりはありませんけど、そろそろ卒業した方がいいんじゃないすか?彼女相手にジュエルウィッチーズを推してます、なんて言えます?」
「はは、それはきついな」
太田が笑って同意する。
「彼女いねぇから心配ござぁせん」
殊田がおどけて言った時、大きな音が鳴って、店が大きく揺れる。
「な、何だ?」
殊田たちが店の外に出る。
「おいおい、キョダイ―シじゃねえか」
太田が口をあんぐり開けて硬直する。
キョダイ―シが、建物をなぎ倒しながらこちらに向かって歩いてきている。
「チョー・ワルイ―シ様から頂いた初仕事、絶対に成功させなければ.......!」
キョダイ―シの肩に座り込んでいる紫色の髪の女の子が気合十分でキョダイ―シに命令を下す。
「キョダイ―シ、ここら一帯を焼け野原にしてしまいなさい!」
キョダイ―シが口から光線を撃って、街を破壊していく。
「その調子よ、次はイシッコ軍団よ、イシッコ軍団発射!」
キョダイ―シの頭部から、人間と同サイズのイシッコ軍団が射出される。射出されたイシッコ軍団はあちこちにばらまかれた。殊田たちのいる場所にも。
「イッシー!」
イシッコ軍団を見た殊田たちが全力で駆け出す。
「ジュエルウィッチーズが到着するまで捕まるんじゃないぞ!」