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おっさんジュエルウィッチーズ  作者: めくりの
一章
1/6

ジュエルウィッチーズ

「はああああ!」


 四人の魔法少女たちの気合の入った声がオフィス街に響く。彼女らはジュエルウィッチーズ。


 宝石の力をその身に宿し、悪の組織ワルイ―シ団と戦い、日々平和を守っている。


 ダイヤウィッチ、ルビーウィッチ、サファイアウィッチ、エメラルドウィッチの四人が、ワルイ―シ団が人の負の感情から作り出す、全長三十メートルの石の怪物キョダイ―シと対峙している。


「ルビー、私がキョダイ―シの攻撃を引き付ける、その隙にハートジュエルを破壊して」


 ダイヤウィッチの指示にルビーウィッチが頷く。


「任せときな!」


「サファイアはルビーの、エメラルドは私の援護を。これで決めるわよ!」


「了解ですわ!」


「わかったよー!」


 サファイアウィッチとエメラルドウィッチも了解する。


 その様子を見て、キョダイ―シの肩に乗ったワルイ―シ団の幹部、メチャ―・ワルイ―シが高らかに笑う。


「おーほっほっほ!あなた達クソッタレクソガキ小娘が勝てるわけないでしょーが!やーっておしまい、キョダイ―シ!」


 「ダイ―シ!」


 メチャーの命を受けたキョダイ―シが頑強で巨大な腕をウィッチたちに振り下ろす。強烈な衝撃と共に周囲の建物のガラスが割れ、キラキラと陽光を反射する。


 ダイヤウィッチがバリアを張ってキョダイ―シの豪腕を受け止めている。


「ルビー!」


 ダイヤウィッチがルビーウィッチの名前を呼ぶ。


「サンキュー、ダイヤ!」


 右腕をメタリックレッドに変化させたルビーウィッチがキョダイ―シの腕を駆け上る。するとキョダイ―シがルビーウィッチの方を向いて口を開く。


「サファイア!」


「あなたの相手はこちらですわ!」


 高く飛び上がったサファイアウィッチが遠距離攻撃をキョダイ―シの顔面に浴びせる。


「ちょっと、あたしまでくらっちゃうじゃない」


 メチャーが空中に退避する。


「ナイスアシスト、サファイア!」


 ルビーウィッチが腕を蹴って胸の黒いハートジュエルに向かって飛び上がる。強く握った拳が燃え上がる。


「往生しな、石くず野郎!フレイムインパクト!」


 ルビーウィッチの必殺技がキョダイ―シのハートジュエルを打ち砕き、炎が巨躯を貫通する。


「イダイーシー.......」


 ハートジュエルを破壊されたキョダイ―シが力なく倒れる。


「くっ、今日はこのくらいで見逃してあげるわ」


 メチャーが捨て台詞を吐いて、後ろに現れたワープホールに逃げ込む。


 ルビーウィッチが地面に着地する。キョダイ―シの亡骸はキラキラ光る宝石に姿を変え、地面に溶けていった。


「ふー、今日も勝てて良かったわ」


 ルビーウィッチが額の汗をぬぐいながら呟く。そんな彼女の周りに光がの粒が渦を巻く。


 光の粒は次第に集まり、一つの宝石を形作る。


「これ、ブラックオパールじゃん!」


 宝石を手に取ったルビーウィッチが驚きの声を上げる。その声を聞いたダイヤウィッチたちもやってくる。


「あら、ハートジュエルが宝石に変わったんですの?ずいぶん珍しいこと」


 サファイアウィッチが興味深そうにルビーウィッチの手にあるブラックオパールを覗き込む。


「どれどれ、見してみんしゃい」


 エメラルドウィッチがブラックオパールをつまんで色んな角度から眺める。


「むむー、黒を基調にソリッドが綺麗に入ってる、ブラックオパールだよ、良かったねぇ」


 エメラルドウィッチがにこやかに笑いながらルビーウィッチの頭を撫でる。


「綺麗.......」


 ルビーウィッチが呟く。


「さ、休憩はここまで、瓦礫をある程度撤去して、復旧作業をスムーズに行えるようにお手伝いするわよ」


 ダイヤウィッチが言うと、他のウィッチも頷く。ルビーウィッチがブラックオパールを懐に入れる。


 彼女たちは知る由もない。このブラックオパールがとあるアラサーおっさんの人生を一変させてしまうことを。






 午後八時、とある都会の飲み屋街にある居酒屋。カウンター席に三人掛けで座る男たちがいる。


「商談成立を祝って.......」


「「「カンパーイ!」」」


 三人の男がキンッキンに冷えたジョッキを打ち鳴らして、生ビールを喉に流し込む。


 どこにでもいそうな見た目のサラリーマン、殊田ことだ貴弘たかひろが焼き鳥に手を伸ばす。


「しかも今日は華の金曜日!飲んで飲んで飲みまくるぞ!」


 殊田の同僚の太田おおた人志ひとしが、二人の後輩である田中たなか勇太ゆうたの肩をグイっと引き寄せる。


「ワーッと、こぼれるっすよ、ヒトさん!」


 田中が慌ててジョッキに口をつける。


「あんまり店で騒ぐな」


 殊田が苦笑いしながら居酒屋の大将を見て、軽く会釈する。


「いいさ、どうせ客は来ないし」


 大将はそうぼやいてテレビの方を顎でしゃくる。


 テレビでは今日のお昼頃に起きたキョダイ―シ襲撃事件をけたたましく放映している。テレビだけではなく、ネットでもキョダイ―シ、そしてそれを退けたジュエルウィッチーズについて発信されている。


「あー、そういえばなんかやってたな。それで部署のほかの奴らは飲みに行かずにさっさと帰ったんだな」


「あんなことがあったのに飲みに行こう!なんて言われて行く人なんてあんまりいないですよ」


 田中が呆れて言う。


「お前に付き合うの、俺たちだけだってわかって誘ったんだろ?」


 殊田が笑いながら言う。


「ったりめぇよ、お前ら二人なら信頼できるからな」


「はは、そりゃどうも」


 太田がテレビに意識を向ける。ちょうどジュエルウィッチーズが映っている。


「話は変わるけど、こいつら魔法少女なんだろうけど、格好がそんな感じしないよな」


「ああ、ダイヤウィッチは外国のマーチングバンド、ルビーウィッチは深紅の特攻服にはちまき、サファイアウィッチは裾の広いカジュアルドレス、エメラルドウィッチは羽織に袴、ベルトで締めちゃう和洋折衷」


 殊田がつらつらと説明する。


「や、やけに詳しいっすね、コト先輩」


「当然、三歳からずっとジュエルウィッチーズにあこがれてたからな」


「三歳ってことは、三十年は追っかけてるのか」


 太田が感嘆のため息を漏らす。


「今の今まで飽きなかったのか、たまげたなぁ」


「女に生まれてたら俺はジュエルウィッチーズになってたと思うぞ」


「無理でしょ」


 田中が無慈悲に切り捨てる。


「趣味を否定するつもりはありませんけど、そろそろ卒業した方がいいんじゃないすか?彼女相手にジュエルウィッチーズを推してます、なんて言えます?」


「はは、それはきついな」


 太田が笑って同意する。


「彼女いねぇから心配ござぁせん」


 殊田がおどけて言った時、大きな音が鳴って、店が大きく揺れる。


「な、何だ?」


 殊田たちが店の外に出る。


「おいおい、キョダイ―シじゃねえか」


 太田が口をあんぐり開けて硬直する。


 キョダイ―シが、建物をなぎ倒しながらこちらに向かって歩いてきている。


「チョー・ワルイ―シ様から頂いた初仕事、絶対に成功させなければ.......!」


 キョダイ―シの肩に座り込んでいる紫色の髪の女の子が気合十分でキョダイ―シに命令を下す。


「キョダイ―シ、ここら一帯を焼け野原にしてしまいなさい!」


 キョダイ―シが口から光線を撃って、街を破壊していく。


「その調子よ、次はイシッコ軍団よ、イシッコ軍団発射!」


 キョダイ―シの頭部から、人間と同サイズのイシッコ軍団が射出される。射出されたイシッコ軍団はあちこちにばらまかれた。殊田たちのいる場所にも。


「イッシー!」


 イシッコ軍団を見た殊田たちが全力で駆け出す。


「ジュエルウィッチーズが到着するまで捕まるんじゃないぞ!」

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