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デンキ

 父から聞いた話では、昔は誰もがスマートフォンとやらを持って、誰でも、どこにいてもネットができて、政府から許可を得なくても、資格なんか持ってなくても、みんなが平等に、動画サイトやSNSで情報を発信できていたらしい。


「だが、今からちょうど8年前、地球を大規模な災害が襲ったんだ。先生も覚えてるよ、あれは大みそかの夜で……」


 学校の授業はアタリとハズレの落差が大きすぎるな、とぼくは感じた。こんな話はいつまでも聞いていられた。近過去。まだぼくの両親が生まれてすらいない遠い時代の戦争話より、こっちのほうがずっと興味を惹かれた。無理して頭を働かせなくても、自然と聞き入ってしまう。


「強力な太陽フレアが、ありとあらゆる電子機器を焼き尽くした。交通網も電力網もマヒして、数か月の間、まるで世界は石器時代に戻ったかのようだった」


 ただ、この話はすでに、大まかなところまでは知っていた。


「その後、世界中の政府が協力して、たった半年で、元通りとはいかないまでも、半分以上のインフラは復興できたんだが。あちこちで略奪、暴動、紛争が起きた。数千万から数億の人間が餓死し、いくつかの国は政府機能が消滅して国ごとなくなってしまった」


 誰でも知っている、常識レベルの話だ、ここまでは。

 ぼくだって、この時代、すでにこの世に生まれていたし、物心はつくかつかないか、といった程度でうろ覚えではあるけど、その代わり、両親から当時の大変だった思い出を何度も聞かされてもいた。


 オーロラの日。Dooms Day of Aurora-DDoA。

 厄災は、そう呼ばれていた。



   ◆ ◆ ◆ ◆



「あこがれるな、実にうらやましい」


「何が」


 休み時間、急に肩を叩かれ、振り返ると十郎太がいた。わざとらしく顔をそらし、視線だけを向けてからメガネをくいっと持ち上げ。彼は言った。


「ヴィデオ・ゲームだ! どうやらその宝物を持ってるやつが、うちの学校にいるらしい」


 うらやましい、なんて言い回しから連想して、てっきりまた終との仲を揶揄されるものと思っていたけど。でも、たしかに、うらやましかった。コンピュータを使った娯楽らしいそいつの素晴らしさについて、両親から――特に親父から――何度も聞かされる経験は、きっと僕と同世代の子供なら相当な人数が身に覚えのあるはずだ。テーブルトークRPGのゲームマスターを、機械が代わりにやってくれるようなものらしい。


「噂でしょ。みんな憧れてるみたいだからねえ」


「ククク。そう思うだろう。たしかに噂は立っている。そしてオレの計算では、伝播速度と発生時期から推定して、これは事実の可能性が90パーセントを超えていると判断した」


「へえ、すごいね」


「すごいだろう。数秘術・ベイズ=ステイを使ったのさ」


ベイズ推定のことだろうか。


「すごいね、ステイじゃないと思うけど」


「まだ話は終わっちゃいない。これを見ろ」


 恩田は回り込んでぼくの机の向かいに腰かけ、手にしていた紙を僕のノートや教科書の上に遠慮なくたたきつけてくれた。


「部活を始めるのさ! 俺たちでゲームの持ち主を見つけ出してやろう! 転売行為で一攫千金だ! こんな辺鄙な田舎中学の、大自然の恵みとはこれで永久におさらばできるぜ!」


 確かに、それは部活動の申請書のようだった。資格で囲われた空欄のひとつ、おそらく部の名前を書くであろう箇所にはこうあった。


『捜査本部』


 ふざけるにもほどがあるだろ。

 ぼくは沈黙を守った。わざわざ先生に頼まなければ手に入らない申請書を繰り出した十郎太の渾身のギャグだか、それとも本当に彼が狂人なのかは知らないが、それで笑ってやるつもりはなかった。


「それさ、アタシだよ。アタシが持ってる」


 なんてこった。捜査本部を立ち上げる前に犯人が自首してきたぞ。そう耳打ちすると、十郎太はちっ、と舌打ちした。

 目をやると、窓際に腰かけた女子がこっちを見ている。

 背は低く、少し色の薄い髪を両サイドで縛っていた。

 クラスメイトの……えっと、確か……


寒川(さがわ)早梨香(さりか)だな」


ぼくを盾にするように身をひそめて、十郎太は言った。

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