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 木漏れ日が流れ、目がくらむ。日差しが照り付け、遮られ。

 また照り付けて。

 サリカに手を引かれるまま、ぼくらは海岸へとつながる細いアスファルトの壁を越えた。


「わァっ」


 白い砂浜に、波が打ち寄せる。

 

「青い……」


 水平線まで広がる水面のその下に広がる滲んだ色を見て、思わずぼくはそう言った。まるでテレビ画面でも見ているかのような気分だ。ぼくらは、今まで過ごしてきた日常からはるかに遠い所へやってきたのだと実感する。


「あちち、あっちイ!」


 見るとサリカがいきなりスニーカーを脱いでいて、その場で足踏みしていた。陽光をため込んだ細かい砂が舞っている。


「あははは」


 何がおかしいのか、笑いだして、そのまま海の方へ走り出した。その光景もまた、どこか浮世離れしていた。ぼくは仕方なく靴のまま砂の上を走る。サリカを追いかけた。横目に海岸線を見ると、まばらに人影がある。海の家だろうか、派手な看板の小さな小屋がぽつりぽつりと見える。

 サリカに目をやると。


「うわっちょ、ちょっと! 泳ぐつもりかよ!」


 口に手を当てて、少し距離のあるサリカにそう言う。彼女はデニムパンツを脱ぎはじめていた。幸い丈の長いTシャツが腰まで覆ってはいるけれど、白い太腿が露になる。


「足だけ! せっかくだしサ!」


 確かに、暑いけどさ……。

 下を脱ぎ切って、勢いよくまた駆け出し、波を割って、サリカは膝まで海に漬かってしまう。いつものようにくしゃっと笑いながら、手招きしている。気後れしたけど、ぼくもズボンの裾をまくり上げ、靴を脱ぎ捨て、思い切って走り出した。

 痛いほど熱い砂が、ぬめり、流れ。足首まで、柔らかな水の流れが包む。足元が不安定になるにつれ、ぼくの気持ちも浮足立つ。

 ようやく、サリカに追い付いた。


「服のまま泳ぎ出しそうな勢いだね」


 ふふっ、と笑って、両手の指を絡ませ、それから遠くを眺めるサリカ。


「あの人たちカップルかな」


 指さした先には、一組の男女。二人とも水着姿で、ぼくらのように波打ち際で、水をかけあっている。


「ねえ、水着を着るっていうけどサ、アレちょっとおかしいよネ」


「……え?」


「だって、肌が出てるとこのほうが多いし、体の線が全部出るし、ほとんど裸見せてるみたいなもんじゃん、ビキニだよね、あの子が着てるの」


 よく目を凝らすと、たしかに女の方は、赤のセパレート型らしかった。


「公共の場でほとんどハダカみたいになるの、凄いよネ、よく考えたらサ」


 両手の人差し指と親指でフレームを作って、覗き込むサリカ。なんの話をしているのかぼくにはイマイチ掴めなかった。横目で僕の方をチラチラと見て、少し緊張気味になっている様子だった。


「そうだね、男のぼくでも、見てるだけでちょっと恥ずかしいよ。大人になったらああいうの着るのかな、サリカも」


「……あの、ネ。えっと……」


 なにやらもぞもぞと、Tシャツの長い裾をつまんでいる。


「ああいうの好き? かナ、露出多すぎて、下品だとか、思わない?」


 上目遣いになり、すぐに視線を落とす。なんだか妙な予感がして、ぼくはちょっとだけ、逃げ出したくなった。


「そ……そろそろ、みんなのとこに戻らなきゃ、ほら、夕食の支度とか……」


「……うん……」


 あからさまに気を落としているのが分かる。申し訳ない気持ちを振り切って、踵を返し、ぼくは歩き出す。その直後だった。


「わっあっ」


 バシャン。


 振り返ると、サリカが尻もちをついていた。肩まで海に漬かっている。慌てて駆け寄ろうとしても、うまく歩けない。寄せては返す波が、思ったより力強い。ようやく近づいて手を取るころには、サリカは立ち上がり。

 そして。


「わわっ」


 今度はぼくの方が驚かされる羽目になる。サリカはTシャツをまくり上げ……すっかり脱ぎ去ってしまった。

 シャツの下は、水着だった。下腹部と胸の部分だけを――申し訳程度に――覆った、いわゆる三角ビキニというやつだ。ぼくは呆気に取られて、思わずすぐに目を逸らした。


「ほんとは、あたしも着てまシた……」


 ぼくは何も言えない。心拍が上がる。


「どーお? 似合うかナ」


 恐る恐る目をやると、サリカは両手で髪をかき上げるポーズをとっていた。ウィンクをしているその顔から、勝手に視線が下へ落ちる。両胸の間と、腰の両サイドの紐が、リボン状に結ばれている。耐えられず、再び目を逸らした。


「ちょっと、恥ずかしがるナ! 彼氏でしょ!」


 ふざけ気味にそう言って、バシャバシャと音を立てて、ぼくに近づき……。


「逃がさなイっ!」


 何故か距離を取ろうと歩き出すぼくを、少し強めに押した。バランスを崩して……


 バシャ、バシャ。


 ぼくも、尻もちを着く。二人して、ずぶ濡れだ。あはは、と肩を揺らして笑うサリカが、まぶしかった。頭を冷やされたぼくの視界に映った、彼女の体を改めて眺める。

 ぼくの中に、異性を意識するのとは別の気持ちが生まれる。

 サリカと出会ってから、見て見ぬふりをしてきたことが、確かにあった。その現実を、ぼくはいま、突きつけられている。そんな気がした。


 彼女は、あまりにも……痩せていた。

 同い年の少女には似つかわしくない、その少し浮いたあばら骨を、あまりに細い腕を、見せつけられて。ぼくの心は冷や水をかけられたように、鈍く軋んでいった。

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