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ベッドルーム・シェイク・サマー

 額にあたたかな感触を覚え、ぼくの意識が地に足をつけた。目を開けると、サリカが傍らに座っていた。


「おはよーっ!」


 元気のいい、それでいて柔らかな声が下りてくる。


「おはよう、サリカ」


 身を起こし、窓へと目をやる。まだ空が明るくなってきたばかりで、日の入り前だった。


「昨日はごめん、なんかずっと、ほったらかしで」


 それを聴くと、サリカは少し頬を膨らませた。悪戯っぽく首を傾けて。


「いいヨ、べつに。たしかにお昼はとっても寂しかったけど、でも、そのあとサ、夜はちゃんと……」


 ええっ。そんな展開は記憶にないぞ。たしか昨日部屋に戻ったときは、2段ベッドの上段でサリカが寝息を立てていて、それを少し眺めてから、ぼくもすぐに下のベッドに入り、眠りに落ちてしまった。


「ちょっと激しすぎたかな! 腰がやられちゃったみたいだよ」


 ぼくはわざとらしく大げさに、天井を向いてそう言った。


「あははは。紅世、だいぶノリがよくなったネー」


 ネー、と軽い感じで顔を近づけて、ぼくの頬に口づけるサリカ。唇は少し乾いていたけど、気分的にはベタベタだ。そう。

 付き合いはじめて以来、学校以外ではサリカはベタベタの甘々、バカップルの片割れみたいだった。例えるなら、今にも『ダーリンっ』とか言い出しそうな雰囲気だ。


「いや……今の会話、さすがにひどい気がするよ。誰かに聞かれてたらどうしよう」


「いいじゃン、聞かれたって!」


 ぱんぱん、と毛布越しにぼくを叩くサリカ。少し照れ気味になっている。繰り返し強調させてもらうが、ぼくらの間は未だプラトニックなままだ。まったくもって。念のため。

 だが、次の瞬間。


 ガタッ タタタタ


 船室の扉の前で明らかに物音がした。足音もした。

 あーあ。誰に聴かれたのだろう。



   ◆ ◆ ◆ ◆



 ぼくは顔を洗って部屋を出て、飲み物でも買おうかと自動販売機を探して船内をうろつき、昨夜に終と話をしたカフェテリアを覗く。窓から見える日の光に吸い寄せられるように店内に忍び込み、ひとり朝焼けの海を眺めていると、小さな音で、ピンポンパンと、船内放送のチャイムが流れた。


「本船はまもなく、二条市(にじょうし)島、北港に入港いたします。皆さま大変長らくのご乗船、お疲れさまでした」


 ぼくら捜査本部の初合宿、その目的地がこの島だ。ちょうど船の反対側の窓からは、島がすぐそこに見えている事だろう。カフェを出て、再び自販機を探す。ロビーの隅の小部屋にようやく小さなコーナーを見つけて、先客と目が合った。


「ひっ」


 こみちだった。


「あっあっあの、私、私」


 ひどい動揺ぶりだった。


「着いたみたいだね。君だったよね、たしか合宿の目的地、指定したのは」


「へっ……あ、ああ、はいそうです! あの島は、実質協会の領地みたいなもので……」


 案の定というか、やっぱりだ。ぼくらは今から――ふたたび――協会の懐に潜り込むのだ。今更それを知ったぼくが間抜けなのかもしれないけど、こみちとこうして少し気楽に話せるようになった今でも、やはり不安な気持ちが襲う。


「こみちちゃんは、来たことあるの、この島?」


「ええ、はい。一度だけ。小さかったので、あまり覚えていませんが……きれいな所でした。基本的に、保養地として使われてるんです」


 基本的に、かあ。


「ぼくらは、なんで来たんだろう、今回」


「えっ……合宿ですよ」


「そりゃ知ってるけどさ、なんか目的というか、意図があるでしょ」


「ありませんよ、そんなもの」


「本当に?」


「みなさん、完全に遊びに来ているつもりでしたよ。終が荷物空けてるとこ見ましたけど、観光ガイドとか、水着とかありましたし」


 水着だと……!?

 こみちと終は、そういえば同室だった。ちなみに十郎太は雑魚寝部屋で、船内にまばらに見かけるその他のお客さんと一緒だ。

 不意にこみちの口から漏れ出たその単語に意識を持っていかれそうになるが、努めて冷静に、ぼくは聴き返す。


「協会に協力するって話、あれの説明だとか、ひょっとしたら訓練だとか、そういうの絶対やらされる気がしてるんだけど」


 こみちはしばらく黙って、ぼくの目を見てから、言う。


「無理強いしたりはしません」


 それを聴いてますます不安になるぼくの視界に、見慣れた顔が映る。


「んー……おは……よー」


 とろんとした目をこすりながら、とぼとぼと終が歩いてくる。いかにも寝起きといった感じで、気だるげだった。低血圧そうだもんな……。


「サリカは……まだかな」


「結構早起きしたんだけど、二度寝しちゃってさ」


「そっか……二人そろって、早起きしたんだね」


 握った手を口元に当てながら、流し目で少しにやにやと、終はそう言った。からかわないでよ、と、ぼくはすぐさま言葉を返そうとするが。


「いっ」


 横で少女がびくついている。終の言葉に対する、こみちのその反応を見て、ぼくは確信を持った。

 ああ、やっぱり。

 今朝ぼくらの部屋の前で、聞き耳立ててたんだな、この子。

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