小さきものたち
それってつまり、フラレてしまったって事だろうか。
終にはすでに、好きな相手がいた。
誰だろう。どんな奴だ。想像して……みたくはなかった。
「紅世くんには、教える。ううん、知っててもらわなきゃって、気がするんだ」
ぼくがその言葉を遮る間もなく、終はこう続けた。
「わたしが好きな相手、恋している相手。片思いの相手。それは、ね」
耳を塞ぎたかった。
「世界。この世界そのもの」
え。
「え」
思考と言葉がシンクロしてしまった。
「ごめんね、ヘンだよね、ヘンだと思うんだよ、自分でもさ」
「いや、いやそんなことない」
反射的に口をついた言葉は、しかしまるきり嘘というわけでもない気がした。
要するに……彼女は。
僕は少しばかり混とんとした頭の中を整理する。
彼女は、幸せなやつなのだ。
「わかるよ、そういうの」
「ほんとに!?」
そのリアクションの大きさに気後れしつつも、僕はなんとなく、思いついたままを口にしてみる。
「でもさ、ああ、それってぼくのことも含むよね」
卑しい奴め、この期に及んで。己に心でそう突っ込みを入れてみる。打算に満ちた、卑怯なレトリック。実にああ、ぼくらしい。
「ぼくも、この世界の住人だからね」
終はにやり、と不敵な笑みを浮かべ、両手を腰に当てて、こういった。
「気づいてしまいましたか! そう! そこが問題なんだよ!」
人差し指を、ぼくの鼻先に突き立てる。初めて見た、こんなことする奴を。
「正直言うとね、紅世くんの存在、めちゃくちゃ大きいんだよ、今のわたしにとって、わたしの目から見えてるこの世界の、結構な……うーん、割合なんだよ……ねえ」
握りこぶしを両手に、それを縦にぶんぶん降って、彼女は一人でじたばたした。
「くやしいけど! こんな出会ったばっかりで、ほとんど何にも知らないはずなんだけど!」
ああーっ! 小さく叫ぶ。怖いよ。
冬部終。君はいったい、何者なんだ。何物でも、まあいいけどさ。
「お前が好きだ、内海紅世! 一番じゃないけど! この世界の、次ぐらいに! お前が気になる!」
咳き込むように、その場にかがんで、終は顔を覆って、震えていた。
「ううっ」
「えっちょ、ちょっと、泣いてるのか、終」
「ごめんね……ごめん」
「あやまるなよ! わけがわからないよ!」
「きみに謝ってんじゃない、世界に謝ってるの」
赤く充血した瞳に、にらまれた。ころころと表情が変わる、忙しい奴。
「わたし……あーっ わたしの浮気者!」
とんでもない夜になった。ぼくは多分、顎がはずれたように口をぱくぱくさせ。それから大きくため息をついて。
「ぷっふふふ」
笑いが込み上げてきた。ああ、電車の音がする。行っちまった、次のは90分後かな。何して、過ごそう。
「ふふ……なに、笑ってるんだよ」
「終だって笑ってる!」
この、つかみどころのない、愛すべき、幸せなやつと一緒に。




