表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/43

小さきものたち

 それってつまり、フラレてしまったって事だろうか。

 終にはすでに、好きな相手がいた。

 誰だろう。どんな奴だ。想像して……みたくはなかった。


「紅世くんには、教える。ううん、知っててもらわなきゃって、気がするんだ」


 ぼくがその言葉を遮る間もなく、終はこう続けた。


「わたしが好きな相手、恋している相手。片思いの相手。それは、ね」


 耳を塞ぎたかった。


「世界。この世界そのもの」


 え。


「え」


 思考と言葉がシンクロしてしまった。


「ごめんね、ヘンだよね、ヘンだと思うんだよ、自分でもさ」


「いや、いやそんなことない」


 反射的に口をついた言葉は、しかしまるきり嘘というわけでもない気がした。

 要するに……彼女は。

 僕は少しばかり混とんとした頭の中を整理する。

 彼女は、幸せなやつなのだ。


「わかるよ、そういうの」


「ほんとに!?」


 そのリアクションの大きさに気後れしつつも、僕はなんとなく、思いついたままを口にしてみる。


「でもさ、ああ、それってぼくのことも含むよね」


 卑しい奴め、この期に及んで。己に心でそう突っ込みを入れてみる。打算に満ちた、卑怯なレトリック。実にああ、ぼくらしい。


「ぼくも、この世界の住人だからね」


 終はにやり、と不敵な笑みを浮かべ、両手を腰に当てて、こういった。


「気づいてしまいましたか! そう! そこが問題なんだよ!」


 人差し指を、ぼくの鼻先に突き立てる。初めて見た、こんなことする奴を。


「正直言うとね、紅世くんの存在、めちゃくちゃ大きいんだよ、今のわたしにとって、わたしの目から見えてるこの世界の、結構な……うーん、割合なんだよ……ねえ」


 握りこぶしを両手に、それを縦にぶんぶん降って、彼女は一人でじたばたした。


「くやしいけど! こんな出会ったばっかりで、ほとんど何にも知らないはずなんだけど!」


 ああーっ! 小さく叫ぶ。怖いよ。

 冬部終。君はいったい、何者なんだ。何物でも、まあいいけどさ。


「お前が好きだ、内海紅世! 一番じゃないけど! この世界の、次ぐらいに! お前が気になる!」


 咳き込むように、その場にかがんで、終は顔を覆って、震えていた。


「ううっ」


「えっちょ、ちょっと、泣いてるのか、終」


「ごめんね……ごめん」


「あやまるなよ! わけがわからないよ!」


「きみに謝ってんじゃない、世界に謝ってるの」


 赤く充血した瞳に、にらまれた。ころころと表情が変わる、忙しい奴。


「わたし……あーっ わたしの浮気者!」


 とんでもない夜になった。ぼくは多分、顎がはずれたように口をぱくぱくさせ。それから大きくため息をついて。


「ぷっふふふ」


 笑いが込み上げてきた。ああ、電車の音がする。行っちまった、次のは90分後かな。何して、過ごそう。


「ふふ……なに、笑ってるんだよ」


「終だって笑ってる!」


 この、つかみどころのない、愛すべき、幸せなやつと一緒に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ