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戦友

 闇の中。急に、ぼそりと。


「ばかだなあたし」


 サリカだった。やがて呼吸が荒くなり……すすり泣く声がした。しばらく声を押し殺すようにした後。


「やっぱり死にたくない」


 洒落になってない。ぼくらは後ろ手に縛られて、椅子に拘束されていた。最初は冗談かと思ったが、どれだけ力を込めても自由にならない。両手の痛みが、恐怖を呼び覚まし、どこまでもリアルなものにした。

 御堂に見つかった直後、彼の背後から、まるで郵便配達員のような恰好をした連中がぞろぞろと現れ。ぼくらは押さえつけられ、拘束され。3人とも椅子に括りつけられた。無言でそれをやってのけた集団はすぐに部屋を去り。

 部屋の明かりが、消された。

 最後に出ていく御堂の足音が消えてから、どれだけの時間が経っただろう。


「ときに紅世よ」


 十郎太が、僕の方を見ず、どこか遠くを見つめていた。


「この協会、本気みたいだな。信者から金を巻き上げて勢力を伸ばすとか、そういうインチキ臭さがどうも感じられない。本気で、信じているんだ。人は死後、奴らの言う、アウフテルガルドに転生するのだと」


「よく覚えられたね。えと……アウフタ……?」


「アウフテルガルド。そこの地図に書いてあっただろう。あの地図は、どうやら転生後の世界の情勢を表しているんだ」


 今は真っ暗で、何も見えない。記憶を頼りにしてみる。


「なんか、王国って書いてあったよね」


「そうだ。王国と書かれた領域は、妙に詳細に地形や都市らしきものが書き込まれていた。おそらく、協会はこの国と大きなつながりがある」


 よく冷静でいられたものだな、と感心する。と同時に、ひょっとしたら、十郎太もサリカを気遣っているのだろうか、なんて考えも浮かんだ。このまま縛られてただ恐怖におびえるよりは、たしかに捜査員ごっこの続きでもやった方がマシなのかもしれない。


「ええ、そのとおりです。あの地図は人類統合王国の周辺地域を記したものです」


 声がして、ぼくの警戒心は最大限に高まる。間髪入れず部屋の明かりがともり、御堂が一人、あの妙にボロボロになった幕を背にして入り口に立っていた。


「あなた方の処遇を話し合っていました。正直、処刑を検討していました」


 その単語を聞いた瞬間、心臓が跳ね上がった。このまま解放してもらえるとは思わない方が良さそうだ。ぼくらは子供だから、向こうだって容赦してくれるだろう、みたいな甘い考えは、完全に消え去ってしまった。ぼくはサリカの方を見る。


「いっ……イヤ!」


 涙目だった。恐怖が昂ぶり過ぎたのか、半笑いで震えている。見ていられない。御堂は容赦なくぼくらへ近づいてくる。


「しかし、あなた方の身に余る好奇心、探究心は、どうやら役に立つかもしれない」


 ぼくの背後で御堂が止まり、肩を叩かれた。


「少なくとも、僕はそういったレトリックで上層部の方々を説得しました。提案があります」


 サリカの顔がわずかに緩んだ。希望にすがっている。ぼくだってそんな気分だ。


「聞こうじゃないか。でもその前に、この縄を解いてくれないか」


 十郎太の言葉を聞き、しばらく御堂は顎に指をやっていた。そして、明らかに作り物の笑いを浮かべながら言った。


「わかりました」



   ◆ ◆ ◆ ◆



 拘束が説かれた瞬間、サリカが大泣きをはじめ、ぼくらは彼女が落ち着くのを待っていた。ぼくは束の間の安堵のすぐ後、終のことが気になりだし、頭が彼女のことでいっぱいになっていった。最初に沈黙を破ったのはぼくだった。


「終は、どこにいるの」


「あのお嬢さんなら、心配ありませんよ、あなた方よりはずっと快適に過ごしていらっしゃいますから」


 曖昧に濁されたような気がして、腹が立ってきた。一発ぶん殴ってやろうか。そんな考えが浮かんだ、次の瞬間。


「面ええええンッ!!」


 面。その言葉とともに、御堂を人影が襲う。十郎太だった。野生動物のように、あまりに俊敏に静寂を切り裂く、敵意をむき出しにした攻撃が、御堂を襲う。

 命中した!


 ギンンッ


 と、思いきや。振り下ろされたパイプ椅子が、床にたたきつけられる音だけが響く。御堂は身をひるがえし、十郎太の一撃をかわしたのだった。


「キサマらと取引する気はない」


 十郎太の眼光は今まで見たことがないほど鋭く別人のようだった。そういえば、剣道部だったんだっけ。御堂は懐に手を伸ばすと、黒い筒を取り出して、一振りする。一瞬で人の腕ほどの長さに伸びたそれは、警棒だった。


「本気で、我々と争いたいんですか」


 二人は得物を構えたまま対峙する。

 ぼくはそれをじっと眺める。そして、考える。これは。


「こっちだ!」


 ぼくはズボンのポケットに手を突っ込んで、そいつを取り出す。視線だけをこちらにやった御堂の目が、見開かれた。

 ミニバンに乗り込む直前、銃撃戦が起こったとき、ぼくはあの宝石のような弾を拾っていた。そのだいぶ前に、御堂はぼくを撃ったあと、弾を回収しようと手袋をはめていた。様子からして、理由はよくわからないが、彼はこれが危険物だと信じていた様子だった。


「くらえ!」


 ぼくは大きく、振りかぶった。

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