ロマンチシズム
あれは、つまりOKって意味なんだろうか。
点数的には100点満点の答えだったとしても、そうとは限らない。
そういえば、好きだとは言ったけれど、付き合ってほしい、みたいな言葉は何一つ言ってないや。
付き合う? ぼくが? 終と? ピンと来ない。
そんなことを考えながら、ぼんやりと、教師たちの言葉が右から左へ抜けていくのを手を振って見送りつつ。気がつくと、校内放送で名前を呼ばれていた。
1年生の内海紅世くん。至急職員室まで来てください。
職員室にたどり着くなり、見知らぬ女子が2名、僕を指差して震えだしながら涙目で、何事かまくし立てていた。
それから後のお説教の内容は、覚えていない。
正確には、思い出したくない。
結論から言うと、警察沙汰にはならないみたいだった。けれど、親の耳に入るのは時間の問題だな。憂鬱が襲う中、街灯もまばらなちょっとした山道を、駅へと向かって歩いていると。
「えっえっ、行っちゃうの?」
「うわああっ」
闇の中から声がして、飛び退くように身を翻してしまう。ちょうど明かりのない場所に古びたベンチがある。今はもう使われていないバス停の待ち合い。そこに、終が腰かけていた。足を揃え、両手に顎を乗せ、微かにどこか、にやにやとしている。
「待ってたんだよ」
「え? ぼくを?」
「そうだよ。お礼、言わなきゃなって、思い出してさ。今朝のこと。わたしが好きだなんて。変わってるよ、きみ。本気なのかどうかはわからないし、正直今でも疑うけど、でもね」
終は立ち上がり、両手を胸に当てて、静かに目を閉じる。
「ちょっとだけうれしかった。だから、ありがとう」
一歩踏み出して、街頭の下に姿を表した彼女は、まるで祈りを捧げる司祭だった。
なんてこった。
目を釘付けにされるとは、この事だろうか。ぼくは気がついた。今さら、気がついた。終は、めちゃくちゃ、物凄く。
容姿端麗だった。
「でもね、気がつかないじゃん、通りすぎていっちゃうじゃん、きみ。こんなに暗くなるまで、待ってたのになあ」
ジト目ってやつだ。こんな半開きの目で睨みをきかせても、彼女はなお愛らしかった。ぼくはきっと照れくささを隠しきれずに、目を剃らしながら、言った。
「さすがに、暗視スキル持ちじゃあ、ないからね」
「ふむ、君ちょっと……アサシンぽいのに」
彼女は空を見上げた。
ぼくも真似をする。もう星がまばらに見えていた。
◆ ◆ ◆ ◆
彼女のすぐ横に腰かけて、ふたりで星を眺める。沈黙のままに。端から見ればそれはそれはロマンチックな出来事に見えたのかもしれない。
しかし、ぼくの感情は地上にへばりついたままだった。
沈黙を破ったのは、彼女のほうから。
「今日ね、一日、ずっと考えていたんだよ。きみの気持ちにどれだけ応えられるだろう、って。今のわたしに出来得る限りの、限界はどこなんだろうって」
それは光栄な話だった。少なくとも、そう受け取ってしかるべきだ。だが、その時のぼくには、大いなる不安が頭をよぎった。終は立ち上がり、ぼくを見下ろして、目を細めて。
静かに、言いはなった。
「わたしには、もう、好きになった相手があるんだよ」




